「心より寿ぎ申し上げ奉ります」

「ありがとう」

陽子は初々しい様子で、伏礼している建州候を見つめながら礼を言った。
そこに威圧的な靖共の声がかかる。

「続いて、和州候呀峰にございます」

「主上の登極を心より寿ぎ申し上げ奉ります。つきましてはこの呀峰、寿ぎの証としまして、僅かばかりではございますが和州自慢の品々を持参致しました」

その言葉を聞いて、陽子は瞳に憂いの光を浮かべた。
そして内心どうすればいいのか分からない、という思いがにじみ出るような困惑の表情をしている。
まさしく、登極直後の女王にありがちな気弱な様子である。
(これまでの景の女王と同じように)

「和州候、献上の儀は後でこの冢宰が承る。今は寿ぎの最中だ」

その言葉を聞いて、呀峰は不満そうに俯いた。
陽子もその様子を見て安堵の溜息を零す。
――しかし、内心は爆笑していた。
この分かり安すぎる小芝居はいったいどちらが言い出したことなのだろう?
まったく『後でこの冢宰が承る』だなんて賄賂はこちらから流せと言っているようなものではないか。
そのうちの何割かは(もしくは大半が?)冢宰である靖共の懐に入るとしたら良く出来た関係である。
しかし陽子は内心を全く表に出さず、どこからみても『新王です。不慣れです。どうしよう?』といった雰囲気を出している。
(誰もそのことに気づいていない)

「続いて、麦州候でございますが……」

「どうした?」

言いよどんだ靖共に、陽子は不思議そうに声をかけた。
ああ、今はまだ浩瀚に会えないなんて寂しいな、と思いながら。

「麦州候は州城にて禁則しております」

そこから官吏たちの言葉の押収が始まったわけだが、裏を知っている自分にしては聞いていて面白いやら悲しいやら、である。
真実国を思う者の言葉は聞いていて心地よいものだが、己の欲にばかり走る者の造言は悲しみを感じさせる。
民が苦しんでいる時にそれをさらに加速させるような行為は、陽子にとって許せないことだ。
たとえその行為を行ったのが、同じく陽子の愛すべき慶の民であっても。
陽子は表面上は悲しそうに目を伏せながらも、彼らの言葉を聞いていた。
ていうか、浩瀚の行動を全否定することは彼らの無知を公にしていることと繋がると思うのだが、それでいいのだろうか。
同じ姓の者が続けて玉座につく事はできないということ、いわゆる易姓革命の制約を知らぬと告げている訳だ。
まぁ確かに自分も蓬莱にいた時は法の全てを知っていたわけではなかったが……官吏の中で浩瀚しか知らなかったのかよそれでもお前ら国を預かる人間か!?と思いたくもなる。
それに王が立った時に現れる吉兆が何もなかったことも、少し調べれば高官になら分かることであろう。
むしろ彼らにこそすぐに偽王に下った理由を聞きたかった。
(民をむやみに傷つけないためならば、仕方のないことかもしれないが)

柴望の寿ぎを聞きながら、これからのことを考えた。





憂いの女王の未来予想図



これから起こる乱を事前に回避することは、今の陽子にならば容易くはないが可能だろう。
しかし高官の一掃のためと民の心を纏めるためには、乱は必要なものであるように思う。
子(民)を安穏と守るだけではダメだ。
民が前向きに歩む意識改革のためには、荒療治も必要だろう。
せめてその中で被害が最小限になるように陽子は暗躍しようと誓ったのだった。
そして大きな結果をもたらすことが出来るように。





←  ■  →