「聞いているのか、水申!!」

「んぁぁあああ!? 聞いてねぇに決まってるだろォォ!!」

「なぜ、なぜこのようなものを……!!」

「くっくっくっくっく、イッヒッヒッヒッヒ」



「――!!」

陽子は目を見開き、声にならぬ悲鳴と共に身を起こした。





「また暴れましたか(水禺刀が)」

「……ああ(水申が)」

呆れたような声音で言った冬官長の声に、陽子は沈痛な面持ちで応えた。
両手を組み、机に肘をついて頭を俯かせている。
誰が見ても落ち込んでいる様子であり、事実陽子は落ち込んでいた。
しかし省いてはならない大切な部分が省略されているせいで、互いの危惧するところは似て否なるものだった。

「やはり、鞘を死なせてしまったのが惜しまれます」

そんな陽子の様子を見ても気にとめず、冬官長は嫌み混じりのことを言い連ねた。
陽子がたびたび水禺刀の幻に気を病んでいると知ったある官吏が『主上が鞘を失ったから水禺刀が暴れているのだ』と判断した。
それはいつの間にか高官の知るところとなり、事実として受け止められていた。
しかし、実は陽子は肯定したことは一度もなかった。
ただ問いかけられた時に、申し訳なさそうに質問者の目を見つめただけだ。
(嘘は言ってないよ、本当のことを言ってないだけで。と後々陽子は語る)

陽子は冬官長の言葉には答えず、黙々と俯いたままだ。

「この刀を鞘で封じたのは、達王の代に王宮に仕えていた仙人で、たしか……」

「松伯」

「そうそう、そのような者だったそうで」

語り出した冬官長に、絶妙のタイミングで景麒が合いの手を入れる。
そうしてさらに話を続けようとした冬官長の声は、さらに低い声によって遮られた。

「主上」

視線を巡らせれば、そこには平伏した靖共の姿があった。

「刻限にございます」

「……」

「主上におかれましては、水禺刀の幻を憂いておられるご様子で」

陽子は、憔悴した眼差しを向けたまま無言で靖共を見つめていた。
その様子を見て、冬官長が背後から言葉を添えた。

「恐れながら、今日の所は仮の鞘で」

そう言う靖共にも、陽子は無言で瞳を向けるだけだ。
しかし陽子がいつもとは違う雰囲気を纏っていると感じた靖共は、なぜかざわめく胸の内を無視しつつも言葉を続けた。
(明確化されぬ恐れ――それは第六感だったのか)

「王が宝重を携えている、民にとってはそれが大事でございます。達王が封じられた刀を持つことで慶の王としての意義が整います」

「……懐達か」

陽子は小さな声で一つ呟くと、いつも通りの気弱げな雰囲気を身に纏った。
靖共が感じた違和感ははっきりと自覚されることなく、すぐに消えてしまった。
景麒の寄こした眼差しを感じつつ、陽子はそっと目を瞑った。 





宝重の暴乱という名の対戦記録



「あら陽子、こっちの着物も合いそうね」
「こちらのお召し物は如何でしょうか」
「ねぇ陽子、あれも着てみましょうよ!」
「本日は腕によりをかけてお飾り申し上げます」
「こちらを着て頂くまで、食事は無しでございます」

夢の中に現れた数々の修羅場、それは過去の女王と女官たちの長く険しい戦の記憶だった。
しかも水申は選抜メンバーを組んで登場し、あまり思い出したくない記憶を筆頭にこちらに見せつけてきた。

そう、これは水申の軽い嫌がらせだった。
そして、それは陽子にとってかなり重かった。

今から即位の儀のために着飾らなければいけないというのに、すでに夢のせいで肩も腰も頭も……全身が疲労感でいっぱいだ。
陽子は日頃の新王の擬態に小さなほつれを見せるほど憔悴していた。
(もちろん水申は大喜びだ)


本日の陽子vs水申戦は、水申の華麗な圧勝。


『懐達か、久しぶりに聞いたなぁ……』と感慨深げに瞳を閉じた陽子の姿は、纏う疲労感のせいでまるでその言葉に傷ついているようにも見えた。
そして景麒は、それを静かに見つめていた。
(確実に何かを勘違いしているだろう)






ここまでがアニメ『黄昏』の第一話。 先はまだまだ長い……! 
故意に他2名の娘たちの物語を無視しています。だって変わらないでしょうし。
あ、でもたぶん楽俊が出てくるところは……(強制終了)





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