「ありがとう、玉葉」

「いえ、もったいないお言葉にございます」

衣服の着替えをしてくれた女官―玉葉という年嵩の姿の女性だ―に、陽子は礼を言った。

「ねぇ玉葉。金坡宮にはどれほど襦裙があるのかな? みんな着てみたいんだ」

にこにこと邪気のない笑顔で陽子は言った。
着飾るのが楽しい少女のようにあどけない笑顔で。

「まぁ、全てお着になられたいのですか?」

「ああ」

「主上の前に3代女王が続いたことはご存知でございましょう? その影響もあって衣服はたくさんございますよ」

「そうか。それは楽しみだな」

「主上、お茶のご用意が出来ました」

「ああ、ありがとう。今行くよ」

陽子は別の女官にかけられた声に驚くことなく応えた。
玉葉は衣服の調節が終わり、陽子から手を離した。

「じゃあよろしくね、玉葉」

「かしこまりました」

さっと伏礼をした玉葉のそばを通り抜け、陽子は別室に向かった。

「(さて、どれほどの着衣が資金となるだろうか……)」

歩きながら陽子は内心呟いた。
女王が3代続いたからこそ、金波宮にある女性用の衣類や装飾品の数は莫大なものだろう。
その中には政に向かず、着飾ることに執着した者もいたはずだ。
着飾り美しい姿でありたいと望むことは、女性にはありがちな願望なのだから。

そして、陽子もそのような願望を抱く、普通の少女であると植え付けなければならない。

先ほどの言葉は、部屋の外にいた女官にも聞こえていただろう。
(聞こえるように言ったのだから当然だが)
あの女官は広く浅い交友関係を持っているようだし、聞き手より話し手になることを好んでいるようだから……

「(一両日中には、私も先の王らと変わらぬ可憐な少女というわけだ)」 





目に見えぬ攻防戦



ひとときは好まぬ装いにも我慢しよう。
そしてそれは『始動』の際の元手となる。

長い年月をかけて鍛え抜かれた審美眼の成果、見せてやる!!

陽子は燃えた。
一目見れば衣服の価値を正しく弾き出す自信がある。
女官たちに衣服の逸話を聞きながら、売るに申し分ない衣服や飾りの選別を謀る気満々だった。
こうして、誰にも気付かれぬ小さな戦いの火蓋は切って落とされた。






着飾ることはやっぱり苦手なまま。それでも必要とあらば武器にすることもやぶさかではない。





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