とにかく態度を改めるタイミングを失った二人は、その行動を起こす前に陽子に丸め込まれていた。
王としての自分を敬ってくれるのは嬉しいが、それ以外の私的な部分の私と付き合って欲しい云々……
いまだ王ではないのだから、今から堅苦しくされると肩が凝る云々……
今だけでも安らかな気持ちで人と接していたいから云々……
ああ、聞いてくれないなら太郎の餌かもしくは刀のさびに……いや、冗談です☆
など、思いつく限り様々な口説き文句(?)を使用していた。
壁は陽子の気持ちを汲み取り、即座に態度を変えてくれたが、楽俊はまだ戸惑っているようだった。
陽子は楽俊の案内する宿に向かいながら、意を決したように楽俊に話しかけた。
「ねぇ楽俊。私は、私だ」
そう言って不意に楽俊の手を掴んだら、驚いたように手を離された。
そしてそのまま数歩後ろに下がられてしまった。
やはり昨夜どんなに言葉を重ねても、楽俊は心からは納得していなかったようだ。
顔をうつむかせながら、こちらの様子を窺っている。
「私は、いつだって私自身としてここに在る」
こちらを見てくれない楽俊に、それでも慈しむような暖かい視線を向けながら陽子は語る。
昔々、私が彼と出会ったおかげで知ることが出来た、私の心を。
「王とか、海客とか……そんなことはどうでもいいんだ」
楽俊はぴくりと鼻を動かした。
それでも楽俊から視線外さず、見つめ続けた。
楽俊を失いたくない、という本心だけを乗せた真剣な目で。
「楽俊と友だちになれたと思っていた。それなのに、友だちに敬語を使われたり、見捨てられたり……それが玉座のせいなら……」
一度目を閉じ、心を落ち着けて、そしてこの言葉を口にする。
「そんなもの、私はいらない」
民を国を世界を愛した(愛するしかなかった)
その愛(私の全て)を否定する言葉は、口にするだけで心にひびが入りそうだ。
だけど……本心でもあった。
友を失うならば玉座に如何ほどの価値があろうや。
しかし楽俊は戸惑った風情で陽子に言葉を返す。
「……貴女は、遠いお方なのです」
「楽俊は、“海客”である私を差別しなかった。それなのに“王”であると差別するのか」
「陽子……」
「私たちは遠くなんてなっていない。楽俊の気持ちが遠くに行ってしまっただけだ。私と楽俊の間には、たった2歩程の距離しか開いていないじゃないか」
なぁ違うか、楽俊?
陽子の声はいつのまにか震えていた。
己の全てを否定した言葉と、楽俊を失うかもしれないという恐怖は、陽子の心に巨大な負荷となって圧し掛かっていた。
――楽俊はその様子に気づかず、冗祐だけが陽子のその様子を感じていた
「違う……」
「違う……?」
楽俊の呟きに、陽子は不思議そうに聞き返した。
顔を上げた楽俊の目は、今朝のように一歩引いたような眼差しはなかった。
今まで見ていたように暖かい光に満ちていた。
そして目を細めて言った。
「おいらには、3歩だ」
真の友を得た安堵は計り知れず
「――楽俊!! ありがとう!!」
「うわぁあぁぁあ!!」
だから、慎みを持てってぇ!!
主の心の闇が晴れた、もう大丈夫か
そう呟いたのは、第三者としてやきもきしていた冗祐である。
アニメ内の言葉を引用しています、ご了承下さい。
このシーンの2人のやり取りは神だと思う。
そしてうっかり登場出来なかった延主従なのでした。
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