「こちらに郵便番号と住所、電話番号をお書き下さい」

「……」

えーと……もう云百年前のことなんで覚えてませんって言ったら怒られるよね?


とりあえずすぐバレることはないだろうと高をくくって、面白おかしい住所を捏造しておいた。
(いちよう住んでた場所を思い出そうと頑張ってはみた……が自信はまったくない!)
陽子が考え込んでいるので不審そうな目を向けられたが、そこらへんはのらりくらりとかわした。
それくらい出来なくて王など務まらない。
(まー普通なら最初から疑われるようなことはしないんだけど)
とにかく、何とかこの国まで来ることが出来た。
後は延王にお会いすることなんだが……もうちょっと楽俊との旅を楽しんだらダメかなー?





陽子は楽俊に急かされる様にしてある街に訪れていた。

「陽子、ここが芳陵の街だ」

「ここに来たくて急いでいたのか。何があるんだ?」

「今夜話す」

陽子は自信満々に歩く楽俊が可愛くて内心うきうきしていた。
楽俊は陽子の役に立つことが嬉しくて内心うきうきしていた。
お互いのことを思うあまり見事な思考の合致を見せつつ、微妙に一方通行な二人だった。
今夜の宿の話になった時、陽子が一点を見つめて指差した。

「よし、楽俊! 宿はあそこにしよう!」

陽子は、なにやら隠れた人材のにおいを感じた。
実は陽子、無駄に長生きしている間に様々な感覚を磨くことに努めていた。
麒麟ごっこのための気合の込め方だったり(ちなみに講師はもちろん半身の麒麟だった)
亀仙人のように空を飛ぶために、王気をサイヤ人のように輝かせられないか研究することだったり(結果だけ言えば無理だった)
素晴らしい人材を発掘するための嗅覚を鍛えたり(これは多くの人間を見て自然と身についた)
まだまだ他にもあるが、その中の一つ、人材レーダーにピピピと反応がきている。
なので楽俊の答えを聞かずに陽子は走り出した。
楽俊は溜息一つこぼして諦めてついて来る。

そこは、この街の庠序だった。





「何かお悩みのことでもあるのですか?」

壁と楽俊と陽子は、夜の教室に座していた。
日の入り前は里木を見たり、庠序の様子を眺めたりしていたので、本題は夜に回されていたのである。
壁の言葉に陽子ではなく、楽俊が反応した。

「おいらじゃなくて、陽子のことなんです。陽子は海客なのに、最初からこっちの言葉が話せたらしいんです。」

楽俊はさらに続けた。

「そして、旅の途中ずっと妖魔が襲ってきました」

「妖魔が!?」

「しかも……」

驚く壁を尻目に、楽俊は脂汗をかきながら重大そうに次の言葉を吐き出した。

「陽子は、妖魔を折伏?できるらしいんです」

「……は?」

「……ん?」

楽俊の言葉に壁は呆気に取られたように陽子を見つめた。
陽子も吃驚した表情で楽俊を見ている。
楽俊の視線は話す前と変わらず真剣な眼差しで壁に向いている。
視線のトライアングルの完成だった。
……じゃなくて。

「あれ、楽俊。この真剣な雰囲気にその話題を出すのか?」

「だってよく考えたらおかしいだろ! 人が妖魔を使令にするなんて聞いたことねぇぞ」

「中嶋さんは……妖魔を、使令に……しているのですか?」

まさか目の前の少女は海客でも胎果でもなく麒麟なのか!?という壁の疑惑の眼差しが陽子にビシバシと突き刺さった。

「いえ、使令だなんてとんでもない。友になっただけです」

「……では、貴女は麒麟ではないのですね?」

「……それは無いと思います。肉食ってましたし」

とりあえず三人を包んでいた混沌とした空気は落ち着いたようだ。
(しかしよく考えたらそれぞれの返答は突っ込み所満載だ)
まだ壁は疑惑の目で陽子を見つめ、楽俊も呆れたような目で陽子を見ている。
ひとつ吐息をこぼすと、陽子は楽俊に向き直って話し始めた。
これまで黙していたことがあるが、それも潮時だろうと思いながら。

「楽俊。実は楽俊に黙っていたことがあるんだ。聞いて欲しい」

「ん? どうしたんだぁ改まって」

「……」

楽俊はちょっと驚きながらも、話を聞く体勢になり、続きを促している。
壁は陽子の真剣な様子を見て、口を挟むべきではないと判断し、黙していた。


「私は、蓬莱でも妖魔に襲われた」


「!!」
「!?」

ありえない事態に、二人の息を飲む音がする。
二人は驚きに目を丸くして陽子を見つめていた。

「そもそも、私が蓬莱で妖魔に襲われたのは、ある男が私を迎えに来たからだ」

陽子は何かを思い出すように遠い目をしているが、二人の意識は驚愕に満ちそれどころではなかった。
蓬莱まで、ただ普通の少女を迎えに行ったりしない。
そしてそれが妖魔に襲われる原因になるなど、考え付かない。
一体この少女は何者だろうか?という思いに囚われていた。

「その男は、長身で無口で無礼で無表情で仏頂面で……」

次第に顔を歪ませる陽子の言葉は、なんだか愚痴に近くなっていた。
二人は冷や汗をかいた。
微妙に陽子のほうから寒々しい雰囲気が伝わってくるからだ。
とにかく陽子を一度落ち着かせようと楽俊が手を伸ばした時……


「……金髪だった」


「「――!!!」」


「傍に居たものたちは、彼を『台補』と呼んでいた」

「……」
「……ま、さか」

これまでの驚きを凌駕するような事実に、楽俊と壁は限界まで目を見開き陽子を見つめた。
『金髪』『台補』それらが表す者はたった一人しかない。
そして、その人物が迎えに行く者とは?

「男は慶国の麒麟、景麒。そして私はその主なんだ」

驚きに固まる二人の視界の端に収め、陽子はそっと目を伏せた。
そして……





「あの野郎!! 人の話を全っ然聞かないで問答無用で連れて来たと思ったらうっかり敵に捕まりやがった! 人のこと放置プレイしておきながら助けを待つだけってどーゆーことだ!? お姫様役は私がすべきだろう!!」

どう思う!? 楽俊!!
どう思いますか!? 壁先生!!

握りこぶしに怒りの表情、全身から闘気を噴出して陽子は吼えた。





やっぱり怒りはおさまらない!


「……そりゃー……災難だったなぁ」

「……え、ええ。……ヒロインは、中嶋さんが、すべきです……ね」

二人とも、流されてるよ





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