「そうですか、居ませんでしたか……」

「怪我人の中にも、村にも居なかったから無事だろう」

「そうですね。ありがとうございました」

陽子は旅芸人の一座と共に行動していた。
今は野木の木の下で焚き火を囲み、談笑しているところだった。





午寮に戻った陽子は、街の中に入ろうかどうか迷っていた。
あんな騒動の最中で人を助けるためとはいえ、陽子が妖魔を使役していたことは人々に知れ渡っているだろう。
それは妖魔を倒していたこと以上に厄介な事態だ。
(楽俊が危惧したように)麒麟か、妖魔か、麒麟に使令を預けられるような高貴な人間、ということになる。
咄嗟に口だけを布で覆って少ーしだけ変装したが、あまり意味はない気がする。

「あ、お兄ちゃん!」

そうして途方に暮れていた陽子の前に現れたのが、旅芸人の一座だった。
可愛い女の子に気に入られ、豪快な男に武勇を認められ、妙齢の女性に受け入れられ、座長に妙に引き止められて、なにやらよく分からないうちに、こうして一座とご一緒することになったのである。
陽子は初め、妖魔を倒したことや妖魔を使役したことを色々聞かれるのかと思ったが、そうはならなかった。
一座の者はみな暇さえあれば陽子の傍に行き、他愛のない話をしたがった。
陽子の持つ独特の雰囲気を心地よく思い、一時の間でも共に居たいと思ってくれたようである。





阿岸に着くと、陽子は一座のみんなを見渡せる場所に立った。
陽子の異様な雰囲気に気づいたのか、みんな陽子を見つめた。
陽子は彼らを見渡し、ゆったりと微笑んだ。

「私の愛しき民よ、このまま心安らかに暖かに暮らしてくれることを願っているよ」

また、劇を見に来る
今度は私を劇の題材にしてくれ

そう言って髪を纏めて包んでいた布を取った。
慈愛に満ちた微笑を浮かべた顔を覆うように、鮮やかな緋色の髪が舞い落ちる。
母のように暖かで、父のように威厳に満ち、神が天上から見守るような視線を人々に向け、陽子は旅芸人の一座から離れた。

そこには呆然とその後姿を見やり固まった一団ができた。





母の愛は止まりません


「よし、冗祐。身体を動かして髪を纏めてくれないか」

『……ご自分でもお出来になるではありませんか』

「冗祐が纏めてくれた髪のほうが好きなんだ」

『それでは、お身体を動かしますよ』

冗祐はちょっぴり満更でもない嬉しげな表情をしていた。
(つまり陽子がそんな顔をしながら髪を結っていた)
てかさっき髪解いたのは演出ですか?






この回だけはどうにも収まりが悪いですが、ビビッとこないのでそのままです。
いつか書き直したいとは思います。(思うだけ?)





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