「はぐれた……うっかり楽俊とはぐれてしまった……!!」
ガガーン
そんな言葉を背負いつつ陽子は項垂れていた。
どうしても蠱雕相手に麒麟ごっこがしたかった陽子は、最後の一羽相手にしっかりそれを慣行していた。
蠱雕と戦っている時に冗祐にお願いして許してもらって(本当は許しなんていらない立場だけどね)、どんな名前をつけるか考えて、蠱雕の動きを止めるために生かさず殺さずまでダメージを与える……なんてことをしていたら、すっかり午寮から離れていた。
気づいたら、辺りは見知らぬ森である。
(ちなみに蠱雕には火維と名付けた。愛称はピーちゃんだ!……太郎のように友になってくれるかはまだ分からないが)
とにかく午寮に戻ろうと思い、踵を返して歩き出した。
『止めを刺しに戻るのか〜?』
いきなり響いてきた声に、陽子は驚いて辺りを見渡した。
動く生き物の気配は感じられていなかった。
『お前〜一体ぇ何なんだ〜?』
声とともに目の前に小さな男が降り立った。
卑屈な目と大きな口、大きな耳が特徴的な蒼い髪の男だ。
「ああ、お前随分久しぶりだな。お前は水禺刀の禺だろ?」
『ひゃっひゃっひゃっひゃ。お前〜面白くないなぁースキがないから嗤えないぜぇ〜』
「ん? それは申し訳ない。これからは私が水禺刀の主となるから、よろしくな」
『なぁお前さぁ〜なんでいきなりこんな世界に来てそんな落ち着いているんだ〜?』
蒼猿は、ニヤニヤと醜悪な表情を浮かべながらも、瞳には真剣そうな光を浮かべながら尋ねてきた。
「お前は分かってるんじゃないのか? 私は再びこの世界に降り立った」
『何を言ってるんだぁ?』
「以前は私の弱さのせいでお前を失ってしまった。しかし私は何の因果か、こうして再起の機会が与えられている。今度はお前を失いたくない」
『うっひゃっひゃっひゃ!! こりゃあいい! 本当にスキのないヤツだな〜』
以前、蒼猿には自身の弱いところを執拗に指摘されていたように思う。
それらは陽子の心を、記憶を、読み取ったからだろう。
おそらく今の陽子の2重の記憶すら、目の前の蒼猿は知っているはずだった。
蒼猿は陽子が“記憶”を持つことについて嘘をつくか隠したら、そこを攻撃してくるつもりだったのかもしれない。
「なぁ、私と友になってくれないか。これから共に在ろう」
『んっくっくっくっく。お前、変なヤツだなぁ〜』
「お前にも名を贈らせてくれるか」
『…………いいだろう』
これまでの嘲笑に満ちた顔も人を馬鹿にしたような口調も改め、目の前の男(猿?)は真剣な表情で真剣な声を出して陽子を見た。
陽子はその視線をしっかり受け止め、その水底のような瞳を真摯に見つめた。
「――水申。……その清い水のような瞳が、いつか私を認めてくれることを願っている」
『……クックックックック……アーハッハッハッハッハ!! しばらくは大人しくしといてやるぜぇ!!』
そう言って蒼猿―水申は薄っすらと消えていった。
今までポウっと仄かに輝いていた水禺刀の鞘も、光を消した。
新たな関係を君と共に
『……主上。今のお話は一体どういう……』
「ああ、乙女の秘密だ」
『……』
秘密にしたいのは分かるけど、もっと言い訳の仕方ってもんがあると思う。
←
■
→