「今こそ、これまでの修行の成果を発揮する時!!」
妖魔に周りを囲まれた状況だというのに、陽子は意気揚々と握りこぶしを突き上げ、天に向かって咆哮している。
冗祐は身体を動かして妖魔たちを倒すべきか、このまま諦観しているべきか大いに迷った。
そもそも自分が憑依するよう命じられたのは、主上の御身をその武術でお守りするためである。
しかしこの少女はこちらの予想を遥かに上回り、剣術も武術も体術も飛びぬけた素養を持っており、正直自分の出る幕は無かった。
景麒が延麒から蓬莱の情勢を聞き、御身を守るためには必要かとわざわざ賓満を折伏したのにも関わらず。
『主上、囲まれております』
陽子はいまだにキラキラした目で妖魔たちを見つめるだけ。
冗祐はとりあえず違うことを考えているらしい陽子の気をこちらに戻すことにした。
その声に己を取り戻した陽子は、殊更厳かな声になるように意識しながら声を出した。
「ああ、そうだったな。では……」
カッ!!
「我が前に敵は無し! 強き者に従うべし!! 我が……ああ、もう面倒だ。昨日の敵は今日の友ぉ!!」
と、いうわけで……
「下れ! 太郎! 次郎! 三郎! 四郎! 五郎! 六郎! …! …! …」
『……』
えーと。これはどういうことですか?
言葉も無いとはまさにこのことだ。
冗祐は目の前の光景を呆気に取られて見ていた。
陽子は周りを囲んでいた饑饑を一匹ずつ指差し、名前?を叫んでいる。
それを聞いた饑饑はビクッ!!と身を震わせて硬直してしまっている。
まさか……まさかまさか主上は妖魔を折伏してらっしゃるのか!?
……それにしては聞きなれぬ名前であり、微妙に手抜きのような名前に聞こえるのだが。
すべての饑饑を指差し終えた陽子は(最後は二十四郎だった)何かをやり終えたかのように輝く笑顔を浮かべながら言った。
「さぁ、今日はもう遅いから帰りなさい。いいか、人を襲うんじゃないぞ!」
それを聞いた饑饑たちは何やら釈然としない雰囲気を漂わせながら踵を返してその場から消えていった。
陽子はいまだにふー☆とかいてもいない汗を拭う動作をして、晴れ晴れとした表情だ。
『主上、今のは……』
「ああ。実はいつかしてみたかったんだ。麒麟の折伏ごっこ」
『…………』
だってなんだか☆カッコイイ☆じゃないか!!
「いつかしてみたいと思っていたのだが、やはりその時になると緊張するものだな。考えていた文句の半分も言えなかった。しかも数が多すぎて名前を考える余裕もなかったしな。彼らには申し訳ないことをした」
『……』
とりあえずどこを突っ込めばいいか分からない冗祐は沈黙を守った。
【偏見まみれの妖魔説明☆】
饑饑(キキ)…漆黒の狼のような妖魔。目は青く、鋭い牙を持つ。
つっこみ所?
いつかっていつからですか、折伏するところ見たことあるんですか、あんなにノリノリだったのに緊張してたんですか、
考えた文句って何のことですか、あれで半分も言えてないのですか、名前は自分で考えるのですか、麒麟のように思い浮かんだりしないのにいいのですか、
そもそも数が多いとか関係なく危ないことはしないで下さい、彼らが帰らなかったらどうするつもりだったんですか、申し訳ないってそれ心配した私にこそ言って下さい
…などなど?たくさんありすぎてホントどこ突っ込めばいいか分からなくなった☆笑
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