「……遅かったか……」

その場にはおびただしい血の後が残るだけで、他には何も誰もいなかった。

「これが誰の血か分かるか?」

『申し訳ありません。それは分かりかねます』

「そうか……」

もしかしてまだ間に合うのでは?と思い至った陽子は、最短殴打ルート(恐)を進むためにまず景麒探しを行うことにした。
冗祐に景麒の気配を追ってもらったのだが、一足遅かったようだ。

「……ふぅ……冗祐、この森で安全なところはあるか?」

『この位置からまっすぐ右の方へお行き下さい』

とりあえず夜も更けたので、陽子は近くの野木のもとへ行こうと思った。
しかし見知らぬはずのこの世界のことをこうも詳しく知っているのは可笑しいだろうと思い、冗祐に一声かけた。
冗祐が行った先には野木の気配がする(長生きすると木の気配も分かるようになった)





木の根元に腰掛け、満天の星空(雲海だけど)を見上げながら陽子は物思いに耽った。
事態に流されるようにここまで来たが、一体自分はどうしてまたこの世界に居るのだろう?
これではまるで自分の精神だけが過去に飛ばされたようである。
……事実、そうなのかもしれないが。
この過去?の世界で目が覚めたのは、おそらく神籍に入って直後、景麒の(問答無用の)誓約の後だろう。
もしかして自分の記憶は、瞬きの間に見た夢だったのだろうか?
……いや、それは違う。
いくら夢だとしても、自分は、自分たちはあんなに必死に生きていた。
それを夢と片付けることは出来ない。
では、やはり……?

(らしくないな。思い惑うなど)

陽子は内心苦笑した。
何が起こったのかは分からないが、とにかくこれからのことを考えなくてはならない。
禅譲し世から去った自分ではあるが、このように荒れたまま国を放るつもりは毛頭無い。
まずは景麒を取り戻してから考えよう!ということにした。
そのために以前の記憶は有効活用すべきだろう(依存する気はないが)
自身の登極時ことは今はもう記憶の彼方、朧気な記憶の中にある。
楽俊に出会い、延王がご助力して下さり、なんとか景麒を取り戻せたと記憶している。
それ以外にも色々な人間に騙されたり、裏切られたり、売り飛ばされそうになったり、強盗しそうになったり……
あれ?結構たくさんあるな?……色々あったらしいことは朱旌の旅芸人一座の演目で見た気がする。
(自分のことが劇になるなんて恥ずかしかったが、慣れると面白かった)
自身への戒めとしてたまに見たものだ。
しかし今さらそれと同じことをするわけにはいかないし、いくら神仙の身とはいえ自ら苦しみに身を投じるのはイヤだ。
なので重要なポイントを抑えつつ、新たな道を歩むことにする。

(楽俊に会って、楽俊と話をして、楽俊と旅をして、楽俊と……、……、そして延王にご助力頂いて景麒を助けよう!)

なにやら欲望にまみれた旅になることが今決定されたようである。





二度目の旅は華やかに軽やかに


「冗祐、実は相談があるのだが……」

『なんなりと』

「これからの私の行動や様子は景麒には一っっ言も語るな洩らすな悟らせるな」

『……御意』

またなにかなさるおつもりなのか主上は





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