「あー、ビックリした」

目を覚ましたら目の前に憤怒の美少女がいるのだ、そりゃー驚くだろう。
胸に手を当てて声をこぼすミオの言葉に、ティルとラズロは苦笑している。
(ルックは腕組んでそっぽを向いてる)
今4人は互いに2人ずつ向かい合って座っていた。
場所はミオとラズロが寝ていたベッドである。
ミオは腰掛けたベッドの端に手をつくと、前屈みでじーっと目の前の2人を見つめた。

「どうしたの?」
「何さ」

「いや、こうして見てみると……なんだか2人って似てる?」

こくんと首を傾げるミオに、ティルはまたしても苦笑し、ルックは嫌〜な顔を隠しもしない。

「コレと似てるなんてどんな拷問だよ」

「酷いなー、ルック。でも、たぶん似てても仕方がないんじゃないかな」

「? どうして?」

「ティルは何か知ってるの?」

同じように首を傾げるミオとラズロの2人に、『そっちこそそっくりだと思うけどね』と思いつつこれ以上脱線すると話が進まないと思ったティルは言わなかった。
そしてこれまでルックと話し合って分かったことを話し出す。
(こういう役、ルックはやりたがらないし)

「まず、この世界は今まで俺たちがいた世界じゃない」

「うん」
「そうだろうね、姿も変わっているし」

ミオもラズロもうんうん、と頷く。
互いの持つ黄金の髪がサラサラと動きに揺れた。

「そして、この世界では紋章の効き目が小さい」

「へーそうなんだ」
「なるほど」

2人は聞き上手なのか、相づちはしっかり動作と一緒だ。
それに気をよくしたティルは、大げさな動作と一緒にサッと立ち上がった。
そして、バッと手を広げて笑顔で言い放つ。

「そしてなにより、ルックが美少女になってしまった!!」

「それは改めて言う必要ないだろ!!?」

「そうだよね、美少女ルックだもんね」
「まるで美少女の変装をしたみたいな言い方だけど、言い得て妙だね」

語りに浸るティルと吠え猛るルックを尻目に、聞き役2人はどこまでも平和だ。
ミオの空の瞳とラズロの海の瞳をキラキラと輝かせながら、楽しそうに会話をしている。

「じゃあなんて言えばいいのかな」
「そうだな……いっそのことニックネームにして『美少女ルゥちゃん★』にすれば……」

「っく……、そこ! 和むな!!」

ルックの声なんて届いちゃいない。
しかし本題から逸れると困るのはみんな一緒なので、ティルはまたしずしずとベッドに腰掛けた。

「まぁ、冗談は置いておいて……」

「冗談なんか今必要ないだろ、さっさと次を話しなよ次を!!」

ちょっとルックは『あれ、これなら自分が話した方がよかったんじゃないのか?』とか思ってる。

「…………」

ティルはしっかりもう一度シリアスな雰囲気を纏った。
(さっきまでシリアスだったかも謎だが)
ティルは一度ミオとラズロと目を合わせると、無言ですーっとある場所を指さした。
2人の視線も、その指を追って目的の場所を映し出す。
その時ティルが下から覗き込むような角度で、ニヤリと笑っているのが目に入った。
(まるで、怪談話をする時のような笑みだ)

指の先には、赤い屋根の家の形をした壁掛け時計。

「? 時計がどうかしたの?」
「あれ、これ……」

「そうなんだ……実は……」


「これ壊れてるじゃん」


「違う!!!」

不思議そうに時計を見て呟くミオを見て、ルックがまたしてもシャウトした。
さっきから叫んでばかりだが、ルックの喉は無事だろうか。

「まぁまぁルック落ち着きなって。……実はね、この家の中にいると、時が止まってるみたいなんだ」

「は?」
「え?」

「時計が壊れてるんじゃなくて、時が進んでいないんだよ」

ティルの言葉を補足したルックの声には疲労の色が濃い。
ここまでもってくるのにかなり英気を失った気がする。
ミオとラズロは驚いた表情で時計を凝視した。
……動いていない。
しかしそう言われてみても、どうも信じられないのが人間というものだ。
ミオは困惑した様子でティルとルックに問いかける。

「え、でも時が止まるって可笑しくない?」

「でもねぇ、実際止まってるし」

「どうやら4人とも家の中にいると止まるみたいだよ」

「確認してみたの?」

「うん。俺たちの片方が外に出ると時計は進んだ。2人同時に出て、時間を空けて戻ってきても進んでた。たぶんミオとラズロも変わりないハズだ」

語るティルの様子を、ミオとラズロは真剣に見つめている。
(途中でチラチラ時計にも目が行くのはしょうがないだろう)
その間に横に座っていたルックが立ち上がり、ドアの方に向かった。

「実際に見てもらうのが早いだろ。時計、見てなよ」

カチャ キィィー バタン

そう言ってルックは外に出て行った。


「「!」」


「と、まぁこういうワケなんだ」

いきなり動き出した時計をミオとラズロは驚きの表情で凝視している。

「ホントだ……なにこれ、どうなってるの??」

「この家自体が特殊ってことなのかな?」

「うーん、そこまではまだ分からないんだけど」

思案気な表情をしているラズロの問いに、ティルも考え深い顔をしながら答える。

「でもそれも一理あるかもしれないね」

そう言って手渡したのは、数個の腕時計。
みな規則正しく針を動かし、時を刻んでいる。

「うっわぁ……なにこれ……」
「すごい。全部、同じ時間を示してる」

「そうなんだよ。もう気持ち悪いくらいに同じ時間。一瞬の違いもなく同じなんだよ」

見てて気持ち悪くなるね〜とミオは笑う。

「しかも……これ、4つあるだろ?」

「うん、そうだね?」

それの何が悪いのか分からないティルは首を傾げる。

「たぶんそれ、俺たちの分なんだ」

「え、俺たち4人の分?」
「そうなの!?」

「これはまだルックにも言ってないんだけど……て、ルック遅いな。外で何やってるんだ??」

さぁここからが本題だ!とばかりに気合いを入れて話し込もうとしてたティルは、訝しげにドアの方を見つめた。


「……」
「……」
「……」


待つ、来ない。


「……」
「……」
「……」


待つ、やっぱり帰ってこない。


「どうしたんだろうね?」

そう言ってミオは立ち上がり、ドアのほうへ歩いていった。
しかしその前にドアは勢いよく開いた。


ガチャ ドガーン バタン!


「っ、はぁ、はぁ、はぁ、」


「どうしたの? ルック、大丈夫?」

目の前で息を切らすルックに、ミオは不思議そうに問いかける。

「ルックー早くしないと話しが進まないだろ!! って、まぁこの家の中にいれば時間止まるけど」

「はぁ、はぁ、……コレ」

「あ」

「あ、子犬だ! 拾ってきたの!?」

ミオはキラキラ嬉しそうに瞳を輝かせながらルックの手の中の子犬に駆け寄った。
(後ろの方でティルが今気づきましたー!みたいな顔をしている)
(その横でラズロは壁と手元の時計を見て厳しい顔つきをしている…冷静なのは彼だけか)
子犬は疲れているのか、ぐっすりと眠っている。

「そーいえば……いたな、子犬」

「さっき野犬に追われててね」

「助けてきたんだ! さっすがルック!」

「……夢見が悪くなるから持ってきただけだよ」

ぷいっと顔をそらすルックの耳は赤い。
ミオはそばでにこにこ笑っているし、遠くの2人は微笑ましそうに見つめてくる。
ルックは隠すことなくイライラしていた(それすら照れ隠しなのだが)
(ていうか今のルックは何をしても可愛く見えるから、何を言っても無駄だ!)
ティルは(ルックに向かっては)滅多に浮かべない慈愛の笑み浮かべてルックを見つめた。

「ルック……残念だけどその物言いじゃ、可愛さに拍車かかってるだけだよ」

「……結局それか、それしかないのか……!! 少しは別の言葉でも使ってみろ単細胞!!」

珍しくルックの嫌みにキレがなかった。
(恐らく野犬との追いかけっこがかなり彼(彼女)の体力を消耗させたせいだろう)
もう一声いこうとルックが息を吸いかけた時、それまで微笑ましそうに見守っていた人間の声がその場に響いた。
声に、微妙に力が籠もっていたのが恐ろしい。

「それで、話の続きをしたいんだけど、いいかな?」

「……ああ」
「うん」

ルックはポイッと(でも手つきは優しげに)子犬を床に下ろすと、またベッドに腰掛けた。
後ろに着いてきていたミオも同様に。
ちなみに彼らがベッドに腰掛けて会話をするのは、木のテーブルには椅子が2つしか無かったからである。
(中途半端に設備の整った家だ)

「これが一番重要なコトなんだけど……」

4人がまた話す体勢になったことを確認したティルは、かなり真剣に話し出した。
(今までのおちゃらけた雰囲気は払拭されている)
ピーンと立てた人差し指に、4人の視線が集まった。


「ここは、牧場物語の世界だ」


「え! そうなの!?」

「……?」

「何その……牧場物語って……」

驚いたのはミオだけで、ラズロとルックはそれぞれ不思議そうな顔、眉根を寄せた顔をしている。

「それはミオのほうが詳しいんじゃない?」

「あ、うん……。名前の通り、牧場を経営するお話なんだけど……でも、それってゲームだよ?」

「はぁ? ゲーム??」

ルックは思いっきり怪訝そうな顔をした。
ゲームの世界に来たってコトか?とかなり胡乱気な目をしている。
そんな目を向けられていようが、ティルはあっけらかんとして話を続けた。

「そうなんだよね〜。でもミオ、よく見てみてよ。この部屋、どこか見覚えがない?」

「……あ……」

辺りを見渡したミオは目を見開いた。
それはよく、画面越しに見ていたような……

「それに僕たちの格好も、君たちの格好も、見たことがある。それに、よく見てみたらお揃いみたいだし」

「お、おそろい……」
「確かにそうだね。特に俺たちとティルたちとでセットになってるみたいだ」

恐れおののくルックに、追い打ちのようにラズロが言葉をかける。
ていうかルックは驚き所が違うし。

「それにね、ミオ。僕たちがここで一番はじめに会った人は……」

「会った人は……?」


ゴクリ


思わせぶりに溜めたティルを、ミオは真剣な瞳で見つめる。






「カイゼル髭と波平カットがふんわりと混在した不思議系幼子老人、赤い情熱のハットとスーツを身に纏った、ミネラルタウンの町長、トーマスさんだったんだ!!!」





「説明が長いんだよ!!!」


バッシーン


ついにとうとう、ルックも手が出た。






ルックはいつもの突っ込みに手は出しません。紋章は使いますが(笑)
こうしてどんどん、話は進まずに狂っていくんですよ……(遠い目)
おそらく進まないのは8割方ティルのせいです(私はティルの性格をどう把握しているのか……自分でも謎)
そして今回だけカラー文字とか使ってみました。なんとなく。





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