陽子は暗闇の中、パチリと目を開いた。

「……眠れない……」

ぽつりと溢した言葉は、紛れもなく本心から漏れ出た一言だった。
たとえ戦場であっても『寝る子は育つ!』を信条に持つ陽子は寝ないなんてアリエナイ。
(は?神仙なんだから成長止まってるだろだってそんなの知らん信じる者は救われるんだ!いつかいつかいつかぜえったいあの堅物麒麟を見下ろしてやりたい。目標は大きくね!)
さすがに爆睡はしないが、意識を一部残したまま眠ることも出来るし、ぶっちゃけ爆睡しようが物音一つすればすぐに起きられる自信がある。
それなのに眠れないのは――

「なぜだ……なぜ夢の中でまでため息の嵐を聞かなければならないんだ……!!」

苛立たしげに言葉を吐き出した。
ホント、現実でもお腹一杯のため息の乱舞を、夢の中でまで追体験したいと思わない。

最近、夢の中で誰かのため息を聞くようになった。
そして、その後にしくしくというすすり泣きの声まで聞こえてくるのである。

「ため息は景麒だけで十分だというのに……しかもあの泣き声、聞いているこちらまでつられて泣きそうになるほど悲しい響きだしな。寝ているというのに、精神的にどっと疲れる……」

身体を起こして座っていた陽子は、頭に手を当ててため息を吐き出した。
ここ数日、こうして夜中に起き出して陽子自身がため息をつくことも多くなっていた。

『主上、本日もでございますか?』

「ああ。驃騎も起こしてすまないな」

『いえ』

『主上、お身体を冷やします。何か羽織って下さい』

「心配性だな、冗祐。大丈夫だよ」

本日の護衛役である使令2人が声をかけてきた。
本来なら些末なことを使令から話しかけることは少ない。
しかしそこは陽子のこと『気軽に話しかけてくれた方が私は嬉しい』と言って聞かせてあるのだ。
なのでこうして些細なことであっても話しかけてくれる使令たちへ返す陽子の言葉は暖かく柔らかい。
その声の調子を聞いて、使令たちも『ああ、この主はこうして話しかけた方が喜ばれるのか』と納得するのである。

「しかし、今日はもう眠れないな……もう少しで夜も明けるし」

そう言って立ち上がった陽子は、あるものを手に取って榻に腰掛けた。
ゆったりと座りながら、手に持ったものをパラパラと捲っていく。

「(こうしてなぜかコレを読む機会が多くなるんだよな……確かに、確かに私は漫画をゲット★出来て嬉しかったのは事実だ。でも寝不足になってまで読もうと思っていなかったんだけどな……)」

ぼんやりと遠い目をしながらしかし、高速で捲られる書簡、いや、漫画にもしっかり目を通している。
そして目的の場所を開き終えると、捲る手を止めた。

「(しかもコレ、漫画じゃないんだよな……)」

目は文字を追いしっかりと内容を頭に入れながらも、別の部分で初めてこの漫画モドキを読んだ時のことを思い出した。





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普通の女子高生・あかねは突然、友人の天真・詩紋とともに異世界「京」に召喚されてしまったのでさぁ大変!
実は、あかねは龍神の神力を身に宿した「龍神の神子」だったのです!!
(説明に一部脚色有り)

な、なんですとー!?

意気揚々と1ページ目を開いた陽子は、いきなりあらすじ紹介をされてしまって驚きの声を上げた。
夜中だから、と思い内心で絶叫したにとどめたのがせめてもの救いである。
普通に漫画だと思っていた陽子は、ここにきて初めて手元の漫画?をじっくりと表紙を見回してみた。

【遙かなる時空の中で ファンブック】

……つまり、漫画じゃない?

ちょっぴり落ち込んだって罪はないと思います!と陽子は主張したかった。
しかしまぁ漫画じゃないようだが、読んでいて面白い……ような気がすることには変わりない。
手慰みにパラパラと読んでいて、同じ女子高生として境遇の違いに微妙なもの悲しさを感じた。

あちらは龍神の神子、こちらは一国の王

……うん。責任に大小なんか関係ない。
互いに頑張ろうな。

あちらには龍神に授けられた八葉、こちらには他国の麒麟に使わされた妖魔の数々

……あ、アレ?

あちらには代々続く一族の加護、こちらには数代前から続く女王への不信感

…………。

あちらには……イヤ、もう止めよう。
おそらく私自身、今はマイナス思考に囚われて悲観的になっているだけだ。
私にだって半身の麒麟(今はちょっぴり不仲で相互理解出来ていない)もいるし、慕ってくれるお供(人には話せない秘密の友人で実は妖魔or景麒に従う使令)もいるし……あれ……今の私の味方ってこれだけ!?
頼りになる延主従は思いっきり他国の人間で遠くにいるし、それは楽俊にも言えることだし!?

私の周りには敵しかいないのかー!?
(これぞ被害妄想)

その日、陽子はやさぐれた気分で早々に床に付いたのだった。





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「(フフフ……)」

その時の気分を思い出した陽子は目を光らせながら儚い笑みを溢した。
珍しく弱気な風情である(目の光りはもち涙ダヨ★)

「あ、人物紹介は終わったようだな」

思わず陽子は言葉を溢した。
無意識的に目を通して内容を頭に入れていた人物紹介から、語彙録に変化したからだ。
その内容もサッと頭の中に入れると、後ろのページをパラパラと捲ってみた。

「(あとは娯楽といったところか……しかしファンブックとはこんなに内容が濃いものなのか。物語自体を読んでいないのに、話の流れがだいたい分かったような気がするな)」

陽子は漫画モドキを棚に戻した。
部屋にうっすらと光が差し込み始めたからだ――もう朝だ。
陽子は部屋の窓に近寄ると、ゆっくりと扉を開いた。
そして、すぐに入り込んできた冷涼で爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込んだ。





「私の八葉はどこにいるんだー!!!!」





朝の清々しい空気の中、悲痛な叫び声が響き渡った。
しかしこの声が己がこっそりしっかり張り巡らした結界によって外部に漏れることはなく、結局はこの部屋の中にガンガンと声が反響するだけに終わった。

明らかに、陽子の陽子による陽子だけの泣き言であった。

影の中で使令たちが主の不憫を嘆いている時、あるものにうっすらと光が宿ったことに気付いた者はいなかった。










   


というわけで「遙かなる時空の中で」でした。
なぜいきなりネオロマンス?と聞かれると困るのですが、何にしようか考えている時に二次創作読んじゃったからとしか答えられません!(安直!)
コレを機に、最強陽子様にもLOVEを……む、無理かも……(作者が)
ここらへんが見切り発車☆