陽子が偽王の乱を制し金波宮に住むようになってからしばらくたった頃、慶より離れた虚海の果てで蝕があった。
陸地よりもかなり離れた場所だったおかげで被害は無く、ただ景麒がそれを感じたので王に報告しただけで終わった。
本来ならそこで終わるはずが、すでにお勉強に対して飽きを見せ始めていた(早すぎ☆)陽子にとっては渡りに船とばかりに良いニュースだったようで。
報告した次の日には、陽子は金波宮を出奔していた。
(どうせ今の政務に私なんか必要ない、という後ろ向きな安心のせいもある)

「ふむ。この先で蝕があったんだな……」

『お分かりになるのですか?』

「もちろんだ。私に不可能はあまり無い!」

『……さようですか』

無い!と言い切るよりも現実的な分、どうも末恐ろしい響きの言葉である。
主のそばに佇んでいた驃騎は遠い目をして答えた。
人気の無い岸壁に立つ陽子の前に、新たな影が現れた。

『主上、このようなものが』

「班渠、ありがとう。どれどれ」

班渠はくわえてきたモノを主の足下に置き、同僚のそばに立った。
本日の陽子の出奔には、景麒の使令の中でも移動に役立つ二匹がお供していた。
つまり、景麒自身が陽子に追いつくには些か不便するだろう。
それを見越しての家出だったりする。

班渠には『何か面白いモノが浮かんでいたら持ってきて☆』とお願いしてあったので、おそらくここら辺一帯をビュンビュン飛び回ったに違いない。
そう言うと陽子が酷い命令を出したように聞こえるが、実は最近飛び回ることが少なくなり鬱憤が溜まっていた班渠のストレス発散のための命も兼ねている。
陽子は面白いモノが手にはいるかもしれないし、班渠は久々に暴走飛行が出来てストレス発散が出来る、まさに両者の旨味たっぷりな命令だった。
ちなみに驃騎はそんなストレス感じたりしていないので留守番&護衛役として陽子のそばにいた。
快速を誇る班渠故の悩みであったのだろう。たぶん。

「お、なになに……「戦闘」もネオロマンス……?」

え、私のこれまでの戦闘にはロマンスの欠片も無かったけど……

水分を吸ってべちゃーっとなった袋から出てきたのは、薄いプラスティックケースだった。
とりあえず目に付いた文字を読んだ陽子は、一瞬これまでの己の長い長い歴史に名を残す名勝負が浮かんできた様な気がした。

ナイナイ。どれもこれも血と熱にまみれた死線ギリギリの決闘ばかりで、ネオもロマもンスも何も無かった。

陽子は思考を止めると、そっと手元のブツを裏返した。
どうやらそちらのほうが表だったようで、そこにはアニメちっくな人間がずらりと並んで決めポーズをしていた。

「これはCDかな? にしては、随分華美な外装だが……いち、に、さん……もしやこの八人の男性のユニットグループなのか? でもなぜアニメ調?」

過去の己に憑依?したおかげで、陽子の中の蓬莱での知識は真新しい。
蓬莱で過ごした年月と、眠りの前の過去の記憶が上手く両立しているのだ。
その中でCDに関する知識を引き出すのだが、基本的に『女の子らしいこと』以外はさせてもらえなかったせいで、こうした流行のものには疎かった。
誰が見てもコレはCDというよりPSのディスクである。

陽子は不思議に思いながらも、優しくふたを開けた。
海水でさび付いた感じはするが壊れることなく開けることが出来た。

「あー……これはもうダメだな。本体がないから聴くことは出来ないが、すでにCDが水分で痛んでいる」

勿体ないな〜と、どんなに王として生きようが変わらない庶民思考である陽子は思った。
袋の中を探ってみると、今度は一冊の本が出てきた。

「こ、これは……!!」

『どうかなさいましたか?』

ある物を持ったままフルフルと震える陽子に、班渠が声をかけた。
彼は今現在、ストレス発散後なのでかなーり機嫌が良い。
声もいつも以上に弾んでいるように聞こえたが、おそらく今の陽子は気付いていないだろう。

「漫画だー☆ あちらでは『そんなもの必要ない』と言って父に禁止されていたんだよな〜! でも漫画くらい、今時の女子高生に限らず老若男女誰しも読んでいるのに! 父だってこっそり書斎に集めていたのに、私には禁止するなんて酷いよな!!」

『はい、そうですね』

『……』

漫画片手に愚痴る陽子に、班渠は元気いっぱいに答えている。
驃騎はそんな主と同僚の姿を見て沈黙を貫いた。
ぶっちゃけ主の言っていることの意味は半分以上も分からないのにどう受け答えしろって言うんだおい班渠お前ノリで答えたダロ、とは思っても表には出さなかった。

「しかし、なぜ漫画だけ密閉保存……?」

その言葉の通り、なぜか漫画だけジップのついた密閉性の高いビニール袋に入れられていた。
(どこの腐女子の犯行ですか!?)
しかしそのおかげで陽子は憧れの漫画を手に入れた。
おそらく後生大事に棚にでも隠しておくに違いない。

「よし! そろそろ景麒も心配するだろうし、面白い物も手に入ったし(コッチが重要)、金波宮に帰るか!!」

『『御意』』

陽子は戦利品を握りしめ立ち上がった。

まさかまさか、これが後に大事件を引き起こすとは、この時は誰も知らなかったのである。










   


はじまりはじまり、です。
こちらは魔法編とは違ってじっくり進めていきます。