傍目には老人と少女の緩やかな会話、実情は世界への波乱開始宣言が成されていた同じ時。
少女の影に潜む存在たちは、頭上の会話を聞きながら作戦会議を行っていた。
奇抜な主を持つとお供たちは次第に連携することを覚えるモノだ。
(いわゆる反面教師というやつではなかろうか)
もちろん例に漏れず、表向き賢王・内実悪戯小僧ならぬ悪戯小娘である陽子のお供たちも変わりはなかった。
彼らを代表するように、景麒の使令の中でも筆頭に位置する班渠が声をかけた。
『どうやら主上は、この地でしばしお過ごしになると決められたようです』
それに答えるのは、同じく陽子の影に身を潜めていた火維と太郎である。
『ふーん? 別にオレはどーでもいーケド。かーさまと一緒なら』
『……そうもいくまい。班渠殿、今後の事をしっかりと決めておかねばなりませんな』
軽々しい返事をする火維に対し、太郎は重苦しい声を吐き出した。
闇に隠れたその表情は、眉根が寄って何かを思案している様子である。
班渠は太郎の言葉に一つ頷き、まだ分かっていないらしい火維に声をかける。
『その通りです。火維殿、ここは異界の地。我らが全く知らぬ土地です』
『それが何だってゆーんだよ』
『火維、お主少しは頭を使ってはどうだ。知らぬ土地で過ごすということは、危険も増すということだ』
『えーなんでそうなんだよ。別に、面白そうでイイじゃん』
太郎はプルプル震えながらも、必死に怒りを抑えている様子であった。
今にも怒鳴り出しそうな太郎を見て、班渠が若干心配そうに二匹の様子を見ている。
『……。考えてみろ。我々の知らぬ道から刺客があらわれるやもしれぬし、我々の知らぬ危険な生き物が襲い掛かってくるやもしれぬ』
『うっそ!! ソレって、ちょーアブナイじゃん!!』
『さっきからそう言っているだろうがこの馬鹿者が! いい加減思考を働かせるということを覚えろ!』
『イデッ』
『太郎殿、落ち着いて下さい。今は時間が惜しい』
いつものようにゴヅンと殴られた火維は、ぶつくさ言いながら傍にいた雀胡の後ろに隠れた。
ちょっとした避難行動であり、ただミニチュア仲間の近くに居たかっただけだったりする。
(火維が元の大きさに戻ることは基本的に禁止されています。だってでかいし)
『申し訳ない』
『いえ。さっそくこの地の調査を致しましょう。今後この地に逗留なさる主上の身に、些細な危険すらあっては困りますから』
『そうですな。我が君の護衛に1名残し、まずはこの城の内部の全容の把握を』
『え、一人で大丈夫なのか? かーさま、危なくない??』
『本当は最低でも2名はお付きしておかねばならないのですが……緊急事態なので仕方ありません。調査にも急を要しますし、もしもの時は水申殿にも頑張って頂きましょう』
『ええー!? オレ、アイツ嫌い!!』
『火維!! 今は好き嫌いを申している時では無かろう!!』
『水申殿、聞こえていますか? 水申殿!』
班渠は主の闇を通し、さらには以前のお供会議で開けておいた特殊回線で水申に語りかける。
(この話はまた後ほど?)
しばし後、特徴ある人の神経を逆なでするような声が闇に響いた。
『……なんだよ、うっるせぇなァァ』
『火急の際の主上の護衛、よろしくお願いします』
『……っち、オレがそんなことぉすると思ってんのかァ!? そりゃー随分おめでたい思考してんじゃぁねーか!!』
水申の言葉はあくまで非協力的に尽きるが、しかし彼がそんなこと言っていようが陽子と仲が良いのはみな(お供たち)が知っている。
基本的に天の邪鬼な水申の言葉を『オレに任せろ☆』と受け取った班渠と太郎は満足げな表情を浮かべたのだが。
どこまでも水申のことが嫌いでたまらないお子様が非難の声を上げた。
『何だと、オマエ!! かーさまに何かあってみろ!! オレがギッタンギッタンに――』
ゴヅン
『ピィ!!』
『それではこの場は雀胡殿に任せて、我々は行きましょうか』
太郎の背後に煙を上げて撃沈する火維がいる。
が、それもいつもの光景なので班渠は華麗にスルーすると、小さな同僚に目を向けた。
『そうですね。雀胡、主上の御身を全力でお守り申し上げるのだぞ』
『ジャッコ!』
『え、オレは留守番がイイ! かーさまと離れるのは――』
『ほれ! グズグズ言っていないでさっさと行くぞ! この城中を調べれば、我が君はたいそうお喜びになって、お前のこともこれまでに無いほどお褒め下さるかもしれんぞ』
『え、ホントか!? よーっし!! オレがいっちばーん!!!』
火維は誰よりも先に陽子の影を飛び出した。
すでにその姿は城の何処か(の影の中)を飛び回っていることだろう。
『……お上手ですね、太郎殿』
『全く、お恥ずかしいことですが』
そう言って年長組もこっそりと主の影を離れ、それぞれ違う方向へ影の中を疾走して行った。
こちらのトリップ同行者は使令組からは班渠&雀胡、お供組からは太郎&火維、宝重からは刀です。
こちらの、と言う通り隣の同行者は違う者たちにしようと思っています(余談ですが)
陽子の城内熟知の理由はもちろん彼らの頑張りのおかげ。
その様子をとくとご覧下さい!笑