連行された少年ハリー・ポッターは、不安に満たされながらも前を行く教師に必死について行った。
せっかく楽しいと感じ始めていた学校なのに、もしかしたら今すぐに振り返った先生が退学と一言言い捨ててしまうかもしれない。
そんな恐怖に囚われながら、ハリーはついて行く。
まさか同じ時に同じ恐怖を生来の天敵(注:ドラコ)が感じているとはつゆ知らず。
恐怖に満たされた思考に、ふっと浮かんできたのは赤い髪の少女のことだった。
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ハリーはもう駄目だと思った。
何度も何度もネビルの名前を呼び、これ以上出ないというほど大声で注意を投げかけた。
所詮は飛んだこともない自分の言葉なのだが、友だちが危険にあっているのに、ただ静観することなんて出来ない。
視界の端に入った薄笑いを浮かべている集団に心底嫌悪を感じながら、必死にネビルを見つめていた。
その時、一瞬だけ赤い光が横切ったようなような気がしたが、すぐに目の前の恐怖に忘れた。
「ネビル!!」
「危ない!!」
危ないなんてそんなこと分かっている、でも何も出来ない叫ぶことしかできない!!
悲鳴混じりの言葉と共に浮かび上がった想いと、ネビルの味わう痛みを思い、胸が潰れるかと思った。
ネビルが落下していくその下に、気付けば少女が走り寄っていた。
今までに見たこともないくらい素早い走りで、そのまま壁に激突する勢いで突っ込んで行っている。
その時になって驚愕の表情を浮かべるスリザリン生たちを見、そして見慣れない後ろ姿だと思い、彼女がスリザリン生だということが分かった。
何を――!!!???
思うことさえままならぬ脅威のスピードで、そして与えられた衝撃はそれ以上に強大だった。
彼女はそのまま壁に突っ込むと、同じスピードで壁を駆け上がっていた。
そして、気付けば落下してくるネビルに向かって壁を蹴り、上手く彼を受け止めて難なく着地していた。
2人分の体重を受け止めたとは思えない、極小さな着地音が辺りに響いた。
マダム・フーチも生徒たちも、みんなして驚きの表情で少女を見つめていた。
見つめるしか、出来なかった。
ギュッと目を瞑るネビルに、少女は春の木漏れ日のように暖かい声をかけた。
その声を聞くだけで無条件に安心に胸がいっぱいになってしまうような、そんな優しい声音だ。
この声が魔法で出された声だと言われてもたぶん驚かない、そんな不思議な声だった。
少女とネビルは同じくらいの体格に見える。
それなのにネビルを抱える細い腕は小揺るぎもせず、なぜかとても頼りになるように見えたのは今の偉業を見ていたからだろうか?
(ああ、僕も同じようにその腕に包まれたいと思ったのは心の底で母に焦がれているせいなの?)
止まっていたた空気の中に突然響き渡った先生の声に、ハリーはやっとしっかり意識が動き出すのを感じた。
それでも少女と先生の会話は上の空で聞いて、逆に先生の指示と脅しはいきなり鐘を鳴らされたかのように心臓に響いたのだが。
そばにいたハーマイオニーが、震える声でしゃべり出した。
「あ、あの娘……ヨーコ・ナカジマよね?」
「え、噂の東洋人の?」
「それ本当? 東洋人は、みんな髪が黒いって聞いたよ?」
「ええ、私もそう聞いたことがあるけど……」
「もしかして、ウィーズリー家と繋がりがあるんじゃないの?」
「え、そうなのかな……でもそうだったらスリザリンなんかに行くはずないよ!!」
ロンの言葉に、ハリーに閃光のようにある記憶が蘇った。
今まで数々の衝撃のせいで記憶の底に沈んでいた、ある記憶とそれへの想い。
そうだ、彼女は……。僕は、彼女と話がしてみたかったんだ、ずっと。
だって言ってたじゃないか『スリザリンに決めた』って。
きっと、きっと……彼女は僕と同じで、グリフィンドールとスリザリンのどちらがいいか聞かれたんだ。
僕はグリフィンドールにしたけど、彼女はスリザリンにしたんだ。
どうしてなんだろう? なんで、グリフィンドールにしなかったんだろう?
彼女も……もしかして、マルフォイのような人間なのだろうか?
そうだったら少し悲しい……でも、そんな人間だったらネビルを助けたりはしないよね。
……ああ、話してみたい、彼女と。
ハリーは己の意志が強まるのを感じた。
きっと今日の事件がさらに彼女への興味を強めたせいだった。
少女は先生とネビルが歩き去っていくのを見つめていたが、不意にこちらに目を向けるとギョッとした顔になった。
その視線は僕たちグリフィンドール生の集まる場所ではなく、もう一つの集団に向かっている。
「その顔めっちゃ面白いぞ、みんな」
なんだそりゃ
アリエナイ偉業を成し遂げた少女の第一声としては、なんだが大失敗な気がした。
僕もロンもハーマイオニーも呆気にとられた表情を浮かべていたけど、すぐにスリザリン生たちが叫びながら少女に走り寄っていった。
驚いた。
いつもこっちを見て嫌みばっかり言うドラコが、いつも馬鹿にした表情で見てくるスリザリン生が、みんな心配しきった顔をして口々に少女に語りかけている。
それは、ただの壁が9と3 / 4番線への入り口だと言われた時のような驚きだ。
ただの壁が魔法の出入り口だった時と同じように、嫌みな敵たちが必死な同級生に見えた瞬間だった。
でも、なんで壁を走れるのかは聞かないんだね。
ハリーはそう思いながら視線を動かすと、グリフィンドール生は揃って似たような表情を浮かべていた。
豹変に驚いているか、そのツッコミ所に微妙な表情を浮かべているかのどっちかである。
中には面白そうに見つめている者もいた(大物過ぎる)
そして見せつけられる、少女の笑顔。
きっとこの顔に彼ら(スリザリン生)たちは虜になったんだって、すぐに分かった。
(だってロンがすでに真っ赤になって凝視してる)
ああ、やっぱり話してみたい。
だって僕と彼女は一緒なんだ。
ハリーの心も、期待に揺れていた。
その後は最悪だった。
さっきの様子はどこに捨てたんだと言いたくなるくらいいつも通りに戻ったスリザリン生たちが、ネビルを馬鹿にして笑っていた。
思い出し玉まで奪われて、怒りに我を忘れて空へと飛び立った。
その時感じた爽快感は、何物にも代え難い最高の気分だった。
……でも、今はこうして退学の間際にいる。
ハリーは今まで浮き立つようにざわめいていた心が、突然ずっしりと重くなる感じがした。
それは前を歩く先生の後ろ姿をしっかりと目に入れればますます強くなる。
その背にうっすらと浮かび上がって見えるのは、緋色をまとった少女の姿。
ああ、話してみたいって改めて思ったばかりだったのに。
スリザリンを選んだ人だから、って躊躇しなければよかった。
ネビルを助けてくれた人、あんなに優しく笑ってた人が、マルフォイみたいな人かもって思わなければ。
退学して、また叔父さんたちの所に戻されるのは嫌だ。
ハリーがまたしても後悔と恐怖に満たされた時、マクゴナガル先生の歩みは止まった。
しかしその後の展開には、ハリーのマイナスの期待を裏切るような、嬉しすぎるビックニュースが待っていた。
まさかのハリー独白編入りました。
彼の心の内はこんな感じです。子どもらしい思いこみも多分に入っています(笑)
陽子様の助け方、アリだと思いませんか?
魔女っ子なのに助け方が超物理的なのは、彼女の身に染みついた行動が出た結果でしょう。
だってアニメで壁を駆け上がってましたし、コレはもう使うしかないと思って興奮してましたムッフー☆笑