突然だがドラコ・マルフォイという人物は、大嫌いな人間への対応は徹底して最悪で、ひん曲がった意地悪が大好きだった。
(ドラコファンの方、すみません)
しかしどんなに本性は性悪で根性が曲がっていようと、ドラコはイギリス紳士の卵だ。
話しかけてきた相手が同寮の生徒で、しかも女性とあっては無下に扱ったりしない。
「さぁドラ! 早く教室に行こう!!」
こうして、入学翌日にしてなぜか己によくよく話しかけてくる東洋人の少女であってもそれは変わらなかった。
「そうだね」
頷くドラコに、目の前の東洋人は嬉しそうな笑みを浮かべた。
ドラコはそれに対していつものように得意のアルカイックスマイルを浮かべているのだが、内心ではある企みを企てていた。
今日こそ、この少女の驚く表情を見よう!!
ドラコは入学直後のことを結構根に持っていた。
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「ほらドラ! 早くしないと置いて行くぞ!?」
「くっ……、この……!」
プライドの高いドラコは、思っても絶対に『待ってくれ』とは言えなかった。
根性で陽子の俊足について行こうとするが、今まで屋敷に悠々と住んでいたおぼっちゃまについて行けるはずもなく。
陽子との差は開けていくばかりだった。
(なぜこんなにも急いで教室に向かうのかという疑問すら感じる隙がないほど、ドラコ少年は一生懸命走っていました)
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「止まりなさい」
ビクッ!!
「さぁ行こう!」
「……、……え?」
ぜぇはぁと息を整えていたドラコは、驚きに声を失った。
元々声は出していなかったがうっかり息も止めてしまって、次の瞬間にはまた激しい息を繰り返したが。
立ち止まるドラコの腕を掴み、陽子は大人しくなった階段をゆっくり登っていった。
「あ、この階段止まってる!」
「本当だ……」
「ここの道を行けば、すぐ着くかもしれない」
「……おい、これって……」
「あ、ああ……たぶん」
「うわぁ……オレ、この階段が止まってるとこ初めて見た……」
「信じられねぇ……」
「う、うそ!?」
「なんで止まってるのかしら……」
「まぁいいわ! 早く今のうちに通りましょうよ」
「待って危ないわ。いつ動き出すか分からないのよ?」
背後から聞こえてくる会話に、ドラコは『まさか……』と思いながら隣の少女を見つめた。
おそらく隣にいたドラコにしか聞こえなかったであろう、静止の言葉を言っていたのを思い出したのだ。
「……よし、誰も登っていないか」
陽子は最後の一段から足を離す前に、背後を振り返った。
言葉の通り階段の前には数人の生徒たちが興味津々に集まっているが、誰も足をかけてはいない。
(おそらく彼らは上級生だ。新入生は何も考えずにすぐ渡ったから)
そして、陽子が足を離した。
「うをっ!!」
「キャっ」
「あわわわ」
見ていた生徒たちが、突然襲ってきた突風に驚きの声を上げた。
今まで陽子とドラコが登っていた階段が、ゴウゴウと風切り音を出しながら動き回っていた。
「…………」
「うわ! やっぱコイツ『デビル・コースター』じゃねぇか!」
「すごいわ。いつもより動きが激しいじゃない!」
「今まで止まってたのは何でだ!?」
「俺たちが渡ろうとするのを待ってたんじゃないのか?」
「まさか! 階段に意志があるというの?」
「決まった魔法がかかってるだけじゃないのかよ−−
上級生たちの会話を聞きながら廊下を歩き出したドラコは、遠い目をしていた。
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「ヨーコ。君はホグワーツのことに詳しいのか?」
本日何度目かの授業の前。
またしても教室に一番乗りをした陽子とドラコの2人は、前の方の席に着いていた。
そして座ってすぐにドラコが話しかけてきた。
「いや、私は詳しくはないと思う。ただ、知り合いに詳しい人がいるんだ」
「そうなのか」
おそらく上級生に知り合いがいるのだろうと考えたドラコは頷いた。
まさかそれが陽子の影の中にいる(苦労性の)お供たちとは微塵も思っていないだろう。
その後は互いに授業の教科書を読み始め、静かに時を待った。
基本的に優等生タイプの陽子は『待ち時間は予習に当てるべきだと思わないか』と主張し、一時間目の前にして自慢話を始めようとしたドラコの言葉を完全シャットアウトしていた。
(逆らう理由もなくドラコも渋々本を読み出したらしい)
背後からバタバタと慌てたようにやって来る生徒たちの気配を感じながら『あれ、なんかヨーコと一緒で良かったのかもしれない』とドラコは思い始めた。
他の生徒たちに生傷が増えてきているような気がしたからだ。
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入学1日目の授業の後の帰り道。
他の生徒たちがぐったりとして寮に帰る中、見た目も雰囲気も元気な2人がいた。
もちろん、緋色の少女と銀色の少年である。
「ホグワーツの授業は楽しいな! これからも楽しそうだ!」
「ヨーコはホグワーツ以外でも授業を受けたことがあるのかい? 僕にはこれまで父上の雇った数人の家庭教師しかいなかったからね。学校というのは初めてなんだ」
微妙に『うちは家庭教師がいるほど高貴な家柄だ』と言いつつ、ドラコは訪ねた。
こんなところがドラコがドラコたる所以なのかもしれない。
無駄に偉そうに喋るドラコだったが、陽子がそんなことに頓着するはずはない。
至って普通に返答した。
「昔学校に行っていたことがあるんだ……その後は……、優しい先生と厳しい先生がセットで……ああ、思い出しただけでもアノ笑みが蘇ってくる……!!」
何かを思いだしたらしい陽子は顔色を変えてプルプルし出した。
陽子が顔色を変えるところを初めて見たドラコは興味津々な目線を向けた。
この少女が笑みを変えることはあっても、表情を変えるところは初めて見たからだ。
「へぇ、君の家にも家庭教師がいたのか。何を習っていたんだ? ちなみに僕は帝王学を中心に、様々な学問を一通り学んでいるよ」
「そうだな……アレも言いようによっては帝王学と言えるのかもしれない」
「君が帝王学を?」
「言うなれば『実践で学ぶ帝王学!試験の赤点は国の破滅★死ぬ気で学ぼう王の全て国の全て民の全てついでに官吏の人心掌握完全マニュアル♪』と言ったところか……」
「……(いきなりブツブツ呟きだしたかと思えば、何を言っているんだ? しかし、帝王学を学ぶほどの家柄だとすれば、それなりの家柄なのだろうか……しかしやっぱりナカジマ家なんて……)」
「フフ、ドラ。学校って素晴らしいな☆」
「え、あ、ああ。そうだな。低俗な人間が多いのが腹立たしいが」
「……ドラ、この世に『低い』人間なんていないんだ。もともと人に高低なんか存在しない」
「フン。それでも愚かな人間はいるものだ。そう、例えばアイツらみたいな」
ドラコが視線を流した先には、赤とオレンジの刻まれたネクタイを締めた生徒たちがいた。
ドラコの浮かべる表情は嘲笑の色が濃く、心の底から馬鹿にしきった雰囲気が出ている。
陽子はポム!と、握りしめた右手を左手に打ち付けた。
「……そうか。つまりドラはかの有名なツンデレキャラなんだな!?」
「どういう意味だ! なぜいきなりそうなるんだ!!」
喚くドラコを無視して陽子は顎に手をあててしきりに頷いた。
陽子の思考回路は相変わらず奇抜な自由行動が多かった。
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ドラコは結局、今日一日陽子の驚きの表情は見れなかった。
(恐れおののく表情は見たが)
というよりも今日も驚かされたのは自分ばかりで、よく考えたら一日中振り回されていたような……。
アレ、名家の人間であるこの僕が他人に振り回される?
ナイナイナイナイ、この僕が彼女に付き合ってやっただけさ。
紳士として話しかけてくる彼女を無下には出来ないしね、ハハハ
……お付きとして一緒にいるはずだったグラッブとゴイルは着いて来れなかったんだもんな
ヨーコ、君はどれだけ足が速いんだ……この僕でさえついて行くのに必死で……
いや必死なんて事はない!!
きっと昨日の旅の疲れが出ているだけだ!!
ドラコの思考は迷走しながらも、とりあえず陽子に対して悪感情は抱いていなかった。
実は本人はまだ気付いていないが、ドラコ自身は陽子と居ることを楽しく感じ始めていた。
これまで自身の家柄のせいで同世代の女の子には媚を売るような話し方をされたことしかなく、陽子のように対等な会話というものをしたことが少ない。
それに、陽子は機転が利いて会話が上手いので、ドラコとの会話でもそれを遺憾なく発揮していた。
国の上層部にいるクセモノ人間たち相手に鍛えた話術は、たとえ少年少女相手であっても素晴らしく活用されているのだ。
よくよく話しかけてくる相手は、百戦錬磨の話し上手。
ドラコ少年は本人が気付かぬうちに、泥沼に嵌り込むように陽子様の魅力に堕ちていったのでした。
2話にあった説明調の部分をお話にしてみたのですが……ブツ切り会話集みたいになってしまいました。
ま、まぁいいですよね?
ドラコ少年、君は最初に陽子に話しかけたのが運の尽きだよ。もう逃げられない〜♪笑