ドラコが身支度を調えて談話室に降りていくと、そこにはすでに数人の生徒たちが居た。
数人で固まっていたり一人で本を読んでいたり様々だが、誰もが互いの邪魔にならないように静かにしている。
(おそらくグリフィンドールとは対照的。そしてこれがこの寮の特徴だろう)
ドラコがキョロキョロとお付きの2人を探していると、そばから明るい声がかけられた。

「おはよう、ドラ!! 一緒に広間に行かないか?」

「……おはよう、ヨーコ。構わないよ」

ドラコは一瞬思案する表情を浮かべたが、すぐに薄い笑みとともに言葉を返した。
(待たなくてもあの2人は、食事のためとあれば勝手に起き出して勝手に広間に来るだろうとあたりを付けたようだ)
しかしこの会話を聞いて、すぐに反応した人物がいた。
2人の間に割り込むように少女が突進してきて、キーキーと甲高い声を出した。

「あら!! 私だってドラコと一緒に行きたかったのよ!? 貴方、いきなり何様なのかしら!? もし私の邪魔を――」

「ああ、おはよう! ミス・パーキンソン! 落ち着いて。せっかく綺麗な声をしているのに、そんなに声を荒げてはダメだよ」

「……はぁ?」

少女は苛立った様子で怒鳴り散らしていたが、明るい笑みを浮かべた陽子に見事に言葉を遮られた。
そっと目を細め、小さな悪戯をしかる母のように慈愛に満ちた声をかけられたのだ。
少女はまさかそんな返事が返ってくるとは思っていなかったので、呆気に取られた表情をしていた。
そして言葉を失っている少女に、これ幸いとばかりに陽子は続けて優しい声をかける。

「怒声は声の美しさを半減させる。貴方の綺麗な声が聞き苦しくなってしまうのは悲しいよ。だから、落ち着いてゆっくり声を出すんだ」

「……あ、あんた……何言ってるの!?」

少女はいまだに声を荒げているが、すでにその表情は真っ赤に染まっていた。
陽子は制服こそ女性のものを身につけているが、彼女を彩るものは全て中性的な魅力に溢れている。
顔立ちは整っており、声は男女の区別がつかない音程の美声であり、その言葉遣いはしっかりとしていて男らしく、さらに声には無意識に頼ってしまいそうになるほど力強さが隠れているのだ。
(実は、陽子の見せる女性らしさはたまに見せる妖艶な瞳の光くらいだ)
つまり、首から上は絶世の美少年と言えるのが陽子だった。
そんな人物から朝っぱらから愛の囁き混じりの言葉を聞いた少女の反応は、至極真っ当だった。

そんな目の前の少女の変化に気付いているのかいないのか、陽子は優しい笑みを消して年相応の明るい笑みを浮かべた。
(その時、少女の動悸が少し収まった!)

「あ、自己紹介がまだだったな。私はヨーコ・ナカジマだ。貴方は同じ一年生のパンジー・パーキンソン嬢であっているよね?」

「ええ、そうよ」

「そうか。良かったら貴方も一緒に朝食に行かないか?」

「……まぁ、いいわよ」

少女−パンジー・パーキンソン−はフンっと顔を背けながら返答した。
しかしその声は殊更にゆっくりと出されているように聞こえ、陽子の忠告に従っていることがありありと伝わってきた。

「ドラも構わないよね?」

「ああ」

陽子がチラリとドラコに視線を向けると、彼に反対する意志は無いようだった。
いつもと同じような笑みを浮かべている。

「じゃあ、行こうか! ああ、どんな朝食が出るんだろう? お腹空いたな〜」

ニコニコと笑みを浮かべたまま話し出す陽子に、パンジーとドラコは揃って呆れた表情をした。
上流階級の女性が明け透けに『お腹が空いた』などと言うことは無い。
そんな訳で陽子のことを『たいした家柄の人間ではないのか』と思っているようだ。

「ねぇ、楽しみだね」

陽子はふわりと音が着いたように緩やかに振り返った。
その動きは何の変哲もない一動作でしかないが、見る者をハッとさせるほど品に満ちていた。
高い位置で結ばれた緋色の髪が揺れ、さらりと頬にかかり陽子の浮かべる微笑をさらに美しく彩っている。
指の先まで計算して動いているかのように全ての動作が連動して、たった一瞬の動作を数十秒の長さに感じさせるほど人の目に焼き付く動きだった。
最後に見えた翡翠の宝玉の中には、宝玉には有り得ぬほどの強き意志の輝きと、包み込む慈愛の煌めきが見える。

鮮やかに放たれる、 美しいヒカリ。

人から放たれるはずのない美麗な輝きが、間違いなく己の目を焼いた(気がした)


「「――!!」」

「? 2人ともどうしたんだ。急に立ち止まって」

固まり立ち止まるドラコとパンジーの前で、陽子はコトリと首を傾げた。
その無邪気な仕草からは、すでに先ほどの抗いがたい大きな気配は消えている。

「あ、い、いえ。な、なんでもないわ!!」

「……、そうだ。早く行こう」

パンジーは焦ったように弁解したが、ドラコは一呼吸置いてしっかりと口調を整えてから返事を返した。
それでも少し声が震えているような気がするが。

「そうか? じゃあ行こうか」

そして彼らは並んで歩き出した。
しかし後方には、うっかり陽子の王気放出(わざとじゃないぞ!)を目撃してしまったらしい数人のスリザリン生が固まっていた。
彼らは驚愕に目を丸め、男女限らず皆がちょっぴり頬も染めているようにみえる。

陽子は翌日からかなり絶好調だった。










   


ドラコに相手をさせるなら、絶対出てくるだろう人物。
入学翌日は早すぎたかもしれないと思いましたが、さっさと陥落していただきます★
我らが陽子様に不可能はナーシ!!笑