○悪魔と小悪魔コンビのその後○
「なぁなぁおっチビ〜!」
「……なんですか」
呼ばれ方が気にくわない越前が不遜な態度で返事をする。
しかし全く気にしていない菊丸に効きようもなかった。
「おチビはどうやって手塚の弟のことを知ったわけ?」
「はぁ? いきなり何なんですか」
「だってさ〜」
「実は今日、英二と一緒に会いに行ってみたんだ」
「……」
さらりと自然に会話に入ってきた不二に、越前は胡乱気な眼差しを向ける。
この人は、いつもいつも気配無く近寄ってきて会話に入ってくるよな。
この2人に会いに来られるなんて……疾風先輩も可哀想に。
入り交じる思いに、越前は若干複雑そうな表情をしている。
「え、会いに行ったんすか!? で、どうだったんすか?」
傍にいた桃城が期待に満ちた表情で先輩ズに問いかける。
「うーん、それがね。逃げられちゃったんだ」
「え、逃げられた……?」
「そうなんだよ〜気づいたら居なくなっちゃってたんだよにゃ〜」
「へー先輩たちから逃げられる人が……あ、いえ、なんでもありません」
「ふふ、どうしたの、桃」
困ったように(内心は困ってないんだろうと思われる)答える不二と、あっけらかんと答える菊丸。
それを聞いて桃城が本音をポロリしているが、言い切る前にしっかりお口にチャック。
偉いぞ、魔王は傍で聞いている。
「で、どうなの? おチビ〜」
「ただの委員会の先輩ってだけっすよ」
「ふーん、そうにゃんだ〜」
不二と桃城の不穏な雰囲気をマル無視して菊丸は越前に再度問いかける。
興味感心に突っ走るのはいつものことだ。
越前もここで答えを溜めてもいいことなんて一つもない(それに不穏な雰囲気に巻き込まれたくない)のでさっさと答えた。
そこで会話に(当たり前のように)加わるのは、もちろん不二だ。
「越前と同じ委員会だとすると、図書委員なんだね」
「……(なんでこの人は俺の委員会を悩むことなくすぐに答えることができるんだ)」
「ん? どうかしたかい、越前」
「……いえ」
「おい、あまり話をしていると手塚に見つかるぞ」
実はコソコソと話していた4人に、大石が焦った様子で話しかけた。
ストレッチの最中なので『一言も喋るな!』とは言われないが、あまり話ばかりに集中しているようならもちろん怒られる。
テニス部名物のアレが……
「あ、ヤベ! 手塚がこっち見たにゃ!」
「あれ、英二。今日は硬いね……寝相が悪かったの?」
「桃先輩、もう少し強く押しても大丈夫っすよ」
「お? 悪ぃ悪ぃ。じゃあ……よっと」
まるで今までの会話が無かったかのように見事にストレッチを続ける4人。
(今までも会話しながらしっかりしてたけど)
「…………」
じーっと手塚が見つめてくるが、そしらぬ顔でストレッチ。
今回は誤魔化しが上手くいったようである。
こうして青学テニス部では、日々部長と部員の仁義なき戦いが繰り広げられているのだ(嘘)
ストレッチを続けながら、面白そうに瞳をキラリと輝かせていた者がいたことに、誰も気づいていなかった。
○被害者とその兄、被害者とその友のその後○
手塚家の夕食にて。
「……」
「どうした、疾風」
「……いや……今日の部活はどうだったの」
「! ああ。いつも通り、みな練習に励んでいたな」
「そう」
無言で見つめてくる弟に、手塚が不思議に思って問いかけると珍しい答えが返ってきた。
今まで部活のことを聞かれるのは希で、こうして日々の部活動について聞かれるなんて本当に久しぶりのような気がする。
(それも、何の理由もなく聞かれたのは初めてなのかもしれない)
一瞬驚きはしたものの、しっかりと答えたにもかかわらず疾風の反応は芳しくない。
それを不思議に思いつつも、疾風の微妙な表情を読み取った手塚は深入りすることなくそのまま食事を続けた。
そばで見ていた孔也は面白そうだと思いながらも、この場での言及は止め、疾風に眼差しを向けるに止めていた。
「ふふ。おかわりはたくさんあるからね」
息子たちのあっさりすぎる会話を聞いても微笑ましさしか感じていない母親は、ふんわり笑いながら子どもたちを見つめていた。
「さっきはいきなりどうしたの?」
夕食が終わり、部屋に戻ってすぐ孔也は疾風に問いかけた。
「ああ。今日の昼に変な2人組が話しかけてきてね」
「なるほど、それで」
疾風の一言で分かったらしい孔也は頷いた。
そして穏やかだが底知れない笑みを浮かべながら、疾風を見つめた。
「でも『これから』だろう?」
「……そうだけどね。やっぱり僕は……」
「ルック」
「……はぁ……分かってるよ」
ため息と共に溢す声に偽りはない。
それでも立ち止まりたいという思いにだって嘘はない。
←
■
→