「なんでここに……」
すっと日吉が指し示した方向には
「……恵菜」
ぽつりと日吉が呟いた。
その話題の少女―恵菜―が佇んでいた。
「あ」
「どうしたんやろな。なんかあったんか?」
鳳はビックリした様子で恵菜を見ている。
忍足は思案顔で呟きつつちらりと跡部を盗み見た。
ククク……あの跡部がなぁ
跡部は先ほどと同様に無表情を作って(今なら作っていると分かる)恵菜を刺すように見ている。
なにやらばたばたとした音が聞こえるが、おそらくジローが樺地から抜け出そうとしている音だろう。
しかし職務?に忠実な樺地は跡部の許しがない限り離しはしない。
残念やったな、ジロー
忍足はさてこの状況をどう楽しもうか面白そうに考えていた。
しかし忍足は知らなかった。
恵菜が抜群の才能を持つトラブルメーカーであることを!
ぱたぱたぱたぱた
恵菜は日頃ではありえない足音を立てながら、コートのほうに走り寄っていた。
いつもは足音どころか気配を消すことすら朝飯前である。
しかし可愛らしい音を立てていてもそのスピードはいつも通りだった。
男たちが何か行動を起こす前に、素早くレギュラー陣に近づいた。
ガバッ
「あいたかった……!」
「は」
「え?」
「!?」
「……は?」
跡部は無表情を忘れ目を丸めている。
鳳は目の前の光景が信じられない。
日吉は驚きすぎて声も出なかった。
そして恐らく一番の衝撃を受けただろう忍足は、余裕の笑みを消して唖然とした顔で自分の腹の辺りを見ている。
そう、腹の辺り。
ムガー!!ムゴー!?……。……?
ちなみに樺地と愉快な仲間たち(違)の反応はこうだ。
向日は叫んでいる(たぶん)。ジローは怒っている(たぶん)。
宍戸は許容範囲を超えたのか固まっている。樺地は……何を考えているのか分からない。
そして恵菜は無言だ。
いきなり忍足に抱きついて、その鍛えられた身体に身を寄せ、顔を埋めている。
そう、恵菜は脇目もふらずに忍足に駆け寄るとそのまま抱きついたのだった。
「え、ちょ、嬢ちゃん、どうしたんや?」
忍足はいきなり飛び込んできた少女にあたふたしていた。
先ほどまでの余裕な考えは初っぱなから頓挫した。
ぎゅーとしがみついてくるので引きはがすわけにもいかず、かといって抱きしめ返すわけにもいかず、両手がふらふらと動いている。
この手の動きが忍足の動揺を表していると言ってもよかった。
「忍足先輩! 会いたかったってどういう事ですか!? 知り合いだったんですかどうなんですか忍足先輩答えてください!」
「どういうことですか」
衝撃から立ち直った鳳は怒濤のようにまくし立てた。
おそらく恵菜が抱きついていなかったら胸ぐらを掴んでガクガクしていそうなほどの勢いだ。
日吉も髪の間から覗く目を危険に光らせながら、恐ろしく低い声で問いかけた。
二人の言葉はこの場にいる者たちの心を代弁していたので、皆一様に忍足に視線を突き刺した。
「――」
「あのね、さっきはごめんなさい。でも、サボろうとしたわけじゃないよ。ちゃんとするから!ただ、ちょっと散歩に行こうと思って。あの、せっかくだから一緒に行く?」
弁解をしようとした忍足の言葉を遮るかのように、いきなり恵菜はしゃべり出した。
忍足に必死な様子で話しかけている。
そして最後にはニコッと花咲くように笑った。
へぇ、結構かわええやん
恵菜が必死に話している間に多少余裕を取り戻した忍足。
話の内容はさっぱり分からないが、最後の笑顔を見てニヤリと笑っていた。
しかしその瞬間。
ゾク!!
「!!!!」
背後から漂ってくる冷気。
怒気を通り越してすでにそれは殺気ともいえる禍々しい気配。
そして背中にグサグサ突き刺さってくる視線。
忍足は固まった。
「あ、あとべぶちょう……」
「――」
忍足と少女のことも気になるが、恐ろしい気配を感じて視線を流した鳳は硬直した。
目を離したいのに離せない、視線が張り付いたように動かない!
鳳は泣きそうな声で呻いた。
声も出ない様子の日吉は、まるで心臓を鷲づかみにされたような気分に陥っていた。
なまじ武術の心得があるせいで殺気には敏感だ。
これは、少しでも動いたらヤられる気配だった。
樺地もその様子にビシーと固まった。
こんな跡部さん見たことない
しかも樺地が固まったせいで微妙に三人の拘束が緩み、三人は地に伏した。
たぶんこれはただの酸欠。
「? どうしたの?」
一人平気な恵菜は様子のおかしい忍足の様子に目を瞬かせている。
そして周りをキョロキョロと見渡して。
「あ!」
パッと忍足を離した。
硬直している忍足はそのままの姿勢で微動だにしない。
しかし恵菜が忍足から離れたことで、周囲に広がっていた闇はいくらか薄れたようだ。
何人か安堵の息をもらした。
しかしそれもつかの間のことだった。
「ねぇ、今日は釣りをしないの? 一緒にやろうよ!」
「――!?」
こ、今度は俺ぇ!?
鳳は内心絶叫した。
恵菜は鳳の腕を掴み、ゆらゆら揺らしている。
薄まったはずの闇が段々とまた濃くなり始めていた。
「あ、え、と。きょ、うは、しない、よ」
しかし鳳は賢かった。
声が出せなくなる前に、とりあえず聞かれたことに答えたのだ。
意味はよく分からなかったし、声も途切れ途切れで掠れていたが。
「そっかー。じゃあ今度一緒にしようね?」
そう言って恵菜は離れた。
よ、よかった……!神よ……!!
胸に下げていたクロスを握りしめ、鳳は安堵した。
そのクロスが正しい使い方をされるのは珍しいだろう。
「あれ、もう修行はいいの?」
「……」
そう言って今度は隣にいた日吉に話しかける。
しかし日吉は言葉が出ない。
先ほどの殺気の後遺症は根深いようだ。
「あ、そうだ。今度、里の話をきかせてよ!いっつも聞いてるのにはぐらかしてばかりじゃないか。秘密にしなきゃいけないのは分かるけどさ。少しだけでも、だめ?」
こくこくと日吉は頷いた。
恵菜の後ろで鳳が自分もこくこくと首を動かしながら、必死に頷くように伝えていたからだ。
素晴らしき友情である。
「じゃあ、楽しみにしてるね!」
恵菜は嬉しそうに笑った。
そしてすぐにまた誰かを見つけたようだ。
「あ、ミクミク!」
みくみくってなんだ?
すでに恵菜の独壇場となっているこの場の観客たちは同時に呟いた。
「え、おれ?」
「あ、マクマクとモクモクも一緒なんだね。ムクムクとメクメクはどうしたの?」
「は?」
「?」
座り込んでいる向日に近づいた恵菜は、今度は同じく座り込んでいる宍戸とジローを見てそう言った。
すでに周りの者はちんぷんかんぷんになっている。
恵菜は一人にこにこと話し続けている。
「ね、今度出かける時はみんなで出かけようね。みんながいた森に遊びに行こうよ。僕がとっても美味しいお弁当を作るから!」
「うん!」
「あ、ああ」
「おう」
恵菜はとびっきりの笑顔でむささびたち(思いこみ)に言った。
その笑顔を受けて嬉しそうにジローは返事をした。
宍戸と向日もとりあえずつられる形で返した。
それを見て恵菜は満足そうに頷いた。
「あ、こんにちは」
「ウ、ウス」
「いい、天気ですね」
「ウス」
「どこへ行くんですか?」
「?」
「どうして、ハルモニアに?」
「??」
「見つかると、いいですね」
「???」
なぜか樺地とは一方的な会話?をして恵菜は離れていった。
樺地も不思議そうな顔をしている。
そしてとうとう、恵菜は跡部の方を向いた。
「あ……」
「……」
【勘違いメモ】
忍足…シュウ (なんとなく。むしろ抱きつかせるために?
鳳 …ヤム・クー (髪の色
日吉…サスケ (年齢、髪の色、口が悪い、武術
向日…メクメク (髪の色
宍戸…マクマク (帽子の色
ジロ…モクモク (髪の色 ←三人が座っててむささびと目線が一緒だったから勘違い
樺地…ハンフリー (雰囲気。これしかないと思った!笑
これのために攻略本のキャラ紹介ページをパラ見しまくって探した(笑)
ていうか、このシーンを書くためだけにこの氷帝編は存在した!!(前後がごちゃごちゃ付いてしまったが!!)
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