常ー勝ぉー立海大!
常ー勝ぉー立海大!
常ー勝ぉー立海大!
「すごい応援だね」
「……うるさいだけだろ」
「へ〜応援の人数も半端ないね」
「……」
コートの周りをぐるりと囲むようにしているのは、ほとんど立海大の応援だった。
その人数に比例して、いやそれ以上に響き渡っている応援の声が、立海の凄さを物語っているようだ。
恵菜は素直に感嘆しているようだが、人混みが大嫌いな疾風はすごーく不快そうである。
孔也は面白そうに周りを見渡している。
そして、珍しく無口な妖華は、珍しく仏頂面をしていた。
美人が台無しである。
「……ティル」
「……うん、分かってるんだけど……」
恵菜はそっと妖華の手を取った。
右手で右手に触れているので、まるで握手をしているような格好になっている。
恵菜はまるで子を見守る母のように優しげに微笑み、妖華は泣きそうなほど儚く微笑み返した。
近くで孔也はその様子を暖かく見守り、疾風は不機嫌そうながらも心配げに視線を寄こしている。
まるで一枚の絵のような美しい男女の光景だった。
しかし自分たちが目立つことを自覚していてもあまり注意することのない4人組は、その光景が人目を引いていることに全く気づいていなかった。
「ティルのお兄さんは試合に出ないみたいだよ」
「え、どうして?」
「まさか、まだ病気が……」
「……それはないよ。そんな気配はしない」
「心配性だな、ティルは。今回は2年生も何人か出しているみたいだし、そのせいじゃない?」
近くの部員に聞いてきた孔也は、皆に報告した。
無邪気に聞き返す恵菜とは裏腹に、また物憂げな顔をしだした妖華。
疾風は目を細めて立海の部長を眺めた後、そっぽを向きつつ妖華に言い放った。
さすがツンデレ。
孔也は苦笑しながらも、聞いてきたことを伝えた。
4人は試合を見れる位置に移動し、ベンチに腰掛けていた。
選手たちのいるベンチの反対側に座っているので、選手たちの様子がよく見えた。
「ティルのお兄さんの試合が見れないなんて、本当に残念だね」
「ホント、どれだけ面白いのか笑ってやろうと思ってたのに」
自分の時の怨みも込めて疾風は言った。
その言葉を聞いた恵菜は、ピーン!と何か思いついたような顔をして話し出した。
「ねぇ、妖華のお兄さん、神の子って言われてるらしいよ!」
「そうなんだ。知らなかったな」
「ふぅん。それはまた大層な呼び名だね」
「神の子か」
「えーと、どこにどんな打球を打っても必ず返してしまう絶対的な強さの持ち主で、対戦した選手は例外なく五感を奪われたかのようなイップスの状態に陥ってしまう。だから神の子って呼ばれているみたい」
「へーよく知ってるね」
「……」
「……」
「どうしたの、妖華? 疾風?」
「恵菜、白鳥さんに立海のこと聞いてたの?」
「え、面白くないから事前の情報収集はやめよう! ってみんなで決めてたよね。そんなことしないよ」
「……じゃあそれはどこで聞いてきたの」
「あそこの人たちから……」
バッ
「あ」
「行っちゃったね〜」
恵菜は指を差したポーズのままポカンとしていたが、すぐに苦笑して孔也に向き直った。
孔也も恵菜のほうを見て笑っている。
「妖華、元気出してくれるかな」
「どうかな」
心配そうに微笑む恵菜に、孔也は暖かい笑顔を向け続けている。
孔也も妖華を心配していることには変わりないが、見守っていれば必ず解決すると信じていた。
特に、この少女(恵菜)が心を寄せているなら、いい方向に事態は動くだろう、と。
「何笑ってるの? 気持ち悪いよ」
「ただいま〜」
笑い合う恵菜と孔也の元に、妖華と疾風の2人が戻ってきた。
なにやら2人とも何かを成し遂げたかのような清々しい表情をしていた。
え、もう帰ってきたの? ていうか何しに行ったの??
恵菜は思いつつも、先ほど指さした方向に目を向けて……
そのまま視線を流した。
「迅きこと風のごとし!!」
「出たー!風林火山だ!!」
試合を見ていた4人の心の内には、徐々にある思いが浮かんできていた。
今日一日で色々な試合を見てきて感じたもやもやが、少しずつ形になってきているような気がする。
それはさておき。
「なんだか……この人、懐かしい気がする」
いきなりの爆弾発言に他の3人は驚いて恵菜を見つめた。
しかも恵菜の向ける眼差しは切なげで愛おしそうで、それを見たら男はみな愛されていると勘違いしそうな視線だった。
「どうしたの!? どこか具合でも悪いの?」
「何か変な物でも食べたんじゃないだろうね?」
「熱は……ないようだけど、大丈夫?」
結構酷い物言いだが、恵菜を心の底から心配しているようである。
しかし恵菜はいまだにコートの中の黄色い人を追っている。
その視線は熱い。
それに。
(見られてる……)
妖華はあまり嬉しくない視線を大量に感じた。
今までもちょこちょこと見られているのを感じていたが、今ではビシバシと突き刺さるようなものになっている。
恵菜は周りが見えなくなったかのようにコートを見つめ続けているし。
(しかも天魅星としてのカリスマ性を隠し切れておらず、むしろ大開放しているからたちが悪い)
孔也は娘が嫁に行ってしまうような気持ち(大間違い)であたふたしているし。
疾風は元々突発的事項に弱かったせいか、すでに役に立たない。
どうしたものか……
妖華は思案した。
すでに、立海に来ることに不満だったことは頭から吹き飛んでいた。
しかし、意外なところから事態は収束するものである。
「あ、分かった」
周りが唖然とするほどあっさりと瞳から熱を取り去った恵菜は、ぽつりと言った。
その変化に孔也と疾風は安堵のため息をついているが、きっとここからが重要なんだと妖華は身構えた。
ピシッとコートを動き回る帽子の人を指さし、恵菜は言った。
「あの人、じっちゃんにそっくり」
場の空気が凍ったことを利用して、4人はさっさとあの場所を立ち去っていた。
恐らく先ほどの恵菜の言葉は、こそこそと伝言ゲームでもって全体に伝わるのだろう。
まさか、あんな理由だったとはね
やっぱりみんなといると、楽しいな
妖華は透き通るような青空を清々しい気持ちで眺めた。
「あの、ティル」
不意に呼ばれた妖華は、振り返ってギョッとした。
恵菜が真っ青な顔をして目の前に立っていた。
「ごめん! ティルが嫌がってたのに、無理を言って連れて行ってもらったのに……それなのに、僕が、僕のせいで、あんなことになって」
恵菜は今にも泣き出しそうだが、決して涙を見せずに続けた。
「ごめんなさい!」
がばーっと盛大に頭を下げた恵菜に逆に妖華はポカンとしてしまった。
後ろでは孔也が心配そうに見ているし、疾風も不機嫌そうだ。
「顔を上げて、ミオ」
「でも……」
「嬉しかったんだ」
「え……?」
あまりにもあんまりな発言に唖然とした周囲。
思わず笑い出しそうになった人々を止めたのは、またも恵菜の瞳に宿る
暖かな熱だった。
「大好きだった、じっちゃん」
恵菜はゆっくりと微笑を形作った。
透き通るような、微笑み。
それは様々な想いを含みながらも、たったひとつの真実だけを告げている。
好き
大好き
大好きだった、おじいちゃん
恋と言うほど熱くない、愛と言うにはまだまだ未熟なその想いには、全身全霊の慕う心が閉じこめてあるようだった。
純粋で無垢で、ただ信じている相手を思うような……
そっと胸に手を当てた恵菜は、ぽつりと呟く。
「今も、大好きな、じっちゃん」
今度は、周囲と同じく唖然としている3人に顔を向けて。
「ぼく、みんなといれて、しあわせ」
唐突にそう言って、笑った。
今度は輝かんばかりの笑顔だった。
「あの時、ミオが“恵菜”の顔で“恵菜”の想いでゲンカクさんのことを語ったと思ったんだ」
自身が恵菜ほど転生というものにうまく馴染めていないのは知っていた。
けれど、どうしてもあちらの自分と今の自分を分けて考えることが出来なかった。
今の自分が家族にとても愛されているのを知っていた。
けれど“ティル”の両親は一人はあちらに残し、一人はこの手の中にあり、愛した家族もすでにこの手の中にいる。
一番仲の良かった親友も、最も信頼した軍師も、敬愛する前リーダーも、みんな、この手の中の紋章に取り込まれていた。
そんなものを右手に宿す自分が、新たな家族を得るのは恐ろしかった。
みんなを裏切るようで、自分すらも裏切るようで。
しかしあの時、恵菜がゲンカクへの想いを語るとき。
あちらでは見たこともないような表情をしていた。
ただ、見たことがなかっただけかもしれない。
しかし自分にとって、こちらで新たに生まれた“恵菜”という存在が、あちらのゲンカクを愛しく思っているという風に見えたのだ。
そして、ミオとも恵菜ともとれる笑顔で、また笑った。
それは一種の許しを得たような、涙が出そうなほど幸福な瞬間だった。
たとえ自分が“ティル”であったとしても、今の家族を愛することはできる。
また“妖華”となってしまったとしても、あちらの家族を愛することもできるのだ。
どちらであろうと、どちらであっても、“自分”は“愛”は変わらずに有り続けるのだと、唐突に理解した。
分けて考える必要など、なかったのだ。
ありがとう、ミオ。いや、恵菜
ティルは、妖華は、心の中で呟いた。
「……?そうかな?」
「ふふ、とにかく怒ってなんかいないから」
「ごめ」
「あーもういいから。もう謝らないで」
「……うん!」
「なんとかおさまったか」
「はた迷惑なやつら」
そばで見ていた男性陣は安心した。
こんなことで2人が喧嘩をするとは思えないが、思った以上に妖華は兄のことを気にしていたし、それ以上に恵菜は妖華を気にしていた。
変な方向に話が暴走しないかと冷や冷やした。
すっかり元通りになった4人組は、他愛もない話で盛り上がる。
「それにしても、見た? あの会場の人たち!」
「え、僕はよく覚えてないから。分かんない。どうだった?疾風?」
「……まぁみんな笑える顔をしていたね」
「あはは、凄かったよね。恵菜の笑顔の威力」
もう暴発させた核爆弾としか思えないほどの、盛大な威力をもって恵菜の笑顔は投擲された。
それまで邪な思いで見ていた者も、興味本位で眺めていた者も、(うっかり)チラッと目に入れた者も例外なく口を開けて呆然としていた。
全盛期の軍主並の吸引力を持ったカリスマオーラも大放出だった。
さすが多くの人に命を預けられ、一国を築いた者だけはある。
そして周りが固まったいる間に、復活した3人は混乱する恵菜を連れて会場を後にしたのである。
さすが、自身も軍主(1名悪の首謀者だが)をしていただけある。
もう試合が中断しようがどうなろうが知ったこっちゃなかった。
「にしても、長い一日だったね」
「もうさっさと帰るよ」
「結構、楽しかったかな」
「またみんなで来よう、ね?」
「うん」
「そうだね」
「……ああ」
幾多の試合会場を混乱に陥れようとも、結局彼らはほのぼのと一日を締めくくるのであった。
「あ、ちょっと待って!」
「なに」
「どうしたの?」
「忘れ物?」
「実は僕、今日一日で思ったことがあるんだ……どうしてもみんなにも聞いてみたくて」
「あ、それ、俺もある」
「……僕も」
「あ、じゃあみんなで言ってみる?」
「楽しそうだね!」
「せーっの!」
「「「「あの人たち(あいつら)絶対中学生じゃない(よね)」」」」
おまけ
「13,14,15歳だって〜信じられないよ」
「何を食べたらあんなに大きくなるのかな?」
「でも中身は結局ガキなんじゃないの」
「なるほど」
「俺様の美技に酔いな!とかゴーヤぁ食わすよって言ったり、自称神の子だなんて大人になったら到底無理だよ」
「「「……」」」
「ルックゾーン!」
「ルックゾーンルックゾーン!!」
「ルックゾーンルックゾーンルックゾぉぉおおン!!!」
いつまで経っても大人げない
中身が子どもなのはお互い様では無かろうか
まずは真田ファンの方すみません↓
真田のことを侮辱しているわけではないのですが、あの奥深そうな雰囲気がゲンカクに似てる…といいなぁと思いこうなりました。
ティルの内面についても全くの妄想ですのでご注意。
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