「クククッ」

いきなり笑い出した仁王に、周りの者の視線が集まった。

「いきなりどうしたんですか、仁王君」
「そうだぜぃ。いきなり笑うなんて気持ち悪ぃよ〜」
「おい、それは言い過ぎだろ!」

ダブルダブルスコンビの会話は唐突に始まった。
しかし相変わらず苦労性なジャッカルの注意も軽くスルーした丸井は、仁王の視線の先を追った。

「あーなるほどねぃ」

しかも納得したように同じく笑っている。

「? 何かあるんですか?」
「なんだなんだ?」
「ほれ、あっちを見てみんしゃい」
「ははは、面白れぇヤツら」

いまだによく分かっていない様子の柳生とジャッカルに、仁王が指し示した。
そこには見目麗しい4人の少年少女がいた。
まるで周りにとけ込んでいるかのような4人なのに、一度目に入れると何か引きつけられるような感じがする。
とても不思議な雰囲気を持つ4人組だった。
丸井は楽しそうに4人を見ている。

「不思議な方たちですね」
「そうか? フツーのやつらじゃね?」
「……はぁ、これだからジャッカルは」
「……はぁ、これだからジャッカルは」
「ちょ、お前ら、そんな目で見んじゃねえよ!」

ジャッカルにはあの4人が普通の集団に見えたようである。
丸井と仁王は同じ言葉、同じ表情、同じ視線でジャッカルを見つめている。
まぁ可哀想な人を見る眼差しというやつだ。
これにはジャッカルも大ダメージを受けたのか、焦った様子で反論してくる。

「ジャッカルに観察眼がない確率99%」

そこにいきなり登場したのが、ノート片手になにやらメモをとっている柳だった。

「そんなにあいつらに気になるとこでもあるのか?」
「ちなみに柳君、残りの1%は何なのですか?」
「ああ、この短時間でジャッカルの視力そのものが低下し、物事を映し出せなくなっている確率だ」
「あージャッカルもついに引退か〜残念だぜぃ」
「ピヨ……しっかり成仏しんしゃい」
「俺の発言はスルーの上になんだその扱いはー!!!!」

ジャッカル男泣きを始めそうな勢いである。
不安げに言った言葉が見事にスルーされればこうなるだろう。

「しかし、彼らの不思議な雰囲気は……未知なるものですね」
「そーだろぃ?さっきからたまに見てるんだけど、これが面白いんだって!」
「なになに!? 先輩たち何の話をしてるんすか!?」
「楽しそうだね。僕も混ぜて欲しいな」
「試合中に与太話とは……たるんどる!!」

またしても賑やかな一団が近づいてきた。
切原は興味津々に顔を輝かせているし、幸村は楽しそうな表情だ。
真田は……そう言うのだったら近くに来なければいいのだが。
試合は見なくていいのだろうか?

「ああ、精市。……お前は知っておいたほうがいいのかもしれんな」
「どうしたんだい? 蓮二、いつもの君らしくないね」
「え、何が――」

ちょ、丸井先輩、離してくださいよ!はいはーい、お前はこっち。赤也、お前空気読むってこと少しは学んだ方がいいぞ。な!いつも空気になりかけてるジャッカル先輩には言われたくないっす!……。お、おい、ジャッカル?……プリ。ジャッカル君……。

後方は後方で騒がしいようだが、こちらはこちらで景気よく話が盛り下がっていた。

「アレを見ろ」
「――!!」
「あの者たちは……」
「なぜ、ここに……」
「試合が始まってしばらく経ってから訪れた。だから気づかなかったのだろう」

いつにない様子で驚愕を表した幸村。
それを痛ましげに見つめる柳。
回想するかのように瞳を細める真田。
王者立海のトップ3の異常な様子に、今まで騒いでいたその他のレギュラー陣も側に寄ってきた。

「大丈夫ですか、幸村君? 顔色がよろしくないようですが……」
「そうだぞぃ。無理はすんなよ」
「……ピヨ」
「あ、ああ。ありがとう、みんな」

ほら、いい加減落ち込むの止めてくださいよ、ジャッカル先輩!幸村部長が心配じゃないんすか!?……あ、ああ。
自分の一言で落ち込ませたくせに、なんとも頼もしい2年生エースである。

「おい、本当に大丈夫か?」
「そうっすよ。俺たちじゃそんなに頼りないっすか!?」

切原の意外な発言に、幸村はしばし驚いたが、すぐに微笑を浮かべた。
まったく、少し見ない間に大きな変化をした後輩である。

「ありがとう、みんな。でも、本当にこれは体調のせいじゃないんだ」
「んじゃ、一体なにがあったんじゃ?」
「それは――」

「真田副部長」

幸村の声を遮るようにして、声が響いた。

「どうした」
「次は副部長の試合が始まります。審判の方が早めに準備をするように呼んでいます」
「そうか、分かった」
「お話中、失礼しました」

ぺこり、と頭を下げて去っていった。

「幸村、あまり無理はするな」
「ああ」
「では」

さっそうと去っていく真田の力強い背中を見つつ、幸村はひっそりと決意した。
いつまでも流したままではいけない、か……
テニスのことでは強気でいられる自分でも、この事に関してはすっかり臆病になってるようだ

「……幸村部長?」

不思議そうにこちらをのぞき込んでくる赤也。
勝ち気で強気な彼にも驚くほど意外な一面があると自分は知っている。
そんなあの娘の一面を、自分は知っているだろうか?
またも弱気になっている自分に笑いながら、言った。

「あそこにね、僕の妹がいるんだ」

それは、先ほどまで話題になっていた4人のいる方向だった。





「迅きこと風のごとし!!」

「出たー!風林火山だ!!」


真田の試合を尻目に、立海メンバーはちらちらとあの4人のほうを見ていた。
幸村の衝撃の発言の後、どうにも沈痛な面持ちの幸村に、それ以上のことを聞けなかった他のメンバー。
切原はそれまでのことを他の先輩に聞き、なにやら敵対心丸出しで4人のほうを睨み付けている。
他のメンバーもあの集団を気にしつつも、幸村の様子のほうが気がかりだった。

「ごめんね、みんな。」

申し訳なさそうに謝る幸村に、どう返すべきなのか分からない。

「妹とちょっと仲違いをしていてね。いまだにどうやって仲直りをしていいのか分からないんだ」

寂しそうに呟く幸村に、そうなのか、と納得している面々。
内情を深く知る柳はそっと目を伏せた。
ふっと幸村はまた妹のほうに視線を向けていた。

そして、そのまま、驚愕した表情で固まった。

その様子に異変を感じた他の者たちもその方向を見て……
そのまま固まった。

いつも穏やかな幸村、柳生の驚愕に固まる姿なんて滅多に見れない。
冷静沈着な柳はメモも忘れてポカンとしている。
仁王は思いっきり素の表情を曝して唖然としているし、ジャッカルと切原は真っ赤だった。

幸いにも真田は試合中だったことにより、よそ見なんてたるんどる!
とその方向を見ることはなかった。 





その場には、まるで光が満ちているようだった。
 
少女が笑っていた。
真っ白で透明で、とても清らかな笑みだった。
そこにこもった想いが聞こえてきた、伝わってきた、響いてきた。
好き、大好き、大好きなの
とても同じ人間とは思えなかった。
まるで神の慈愛の微笑みを垣間見ているようだった。 


そして最も幸村にとって衝撃だったのは、

その少女が一転して浮かべた光弾けるような笑顔を見て、

側にいた少女が、泣きそうな顔で甘く優しく微笑んだことだった。 


その笑顔こそ幸村が望んでいたものだった、のかもしれない。
泣きそうに歪んでいたけれど、まるで世界の全てを受け入れたような笑み。
やっと、こっちにきてくれた
意味も分からず、幸村はそう思った。
頬には一筋の涙がこぼれていた。





ほどなくして、ぼんやりとしていた幸村は覚醒した。
周りにはいまだにぼんやりとしている者や、意識の無い者まで存在した。

「目覚めたか、精市」
「蓮二……」

レギュラー陣の中でも、自分は早いほうに覚醒できたようだ。
意識のしっかりしている者は柳しかいなかった。
いまだ試合中の二人とその審判を除いて、いまだに意識がしっかりしている者は少なかった。

「幸村、唐突だが、覚えているか?」
「……? どういうことだい?」
「あそこにいた4人のことを覚えているか?」
「! 当たり前じゃないか、いったい何を――」
「他の方に聞いたんだが、覚えていなかったんだ」
「……え?」
「なんだか、よく分からないことは言っていたのだが……」

目覚めた柳は自身とレギュラー陣に目立った負傷がないことを知ると、とりあえず現状把握のために動き出した。
意識はなくても負傷さえなければ、まぁ大丈夫だろう、というわけである。
案外大雑把。
そこで意識を取り戻した人たちに話を聞いてみたのだが。 


そんな人たち、いたか?
それよりこの試合は白熱していていいわね、がんばってね。
え、見ませんでしたよ。
そんな人たち、見たら忘れないと思うんだけど……。
すまんねぇわからんわぃ。
あ、でもそういえば…… 


「真田さんは、大好きなおじいさんにそっくりなんですって」
「……はぁ?」

幸村らしからぬ声が漏れた。
しかし、これまでの話を聞いて真剣になっていた分、拍子抜けした。
SFか、果てはファンタジーか、と変に気を回していたのがいけなかったのか。

「それは、どういう意味なんだ?」
「俺にもさっぱり分からん」

「大好きだった、じっちゃん。
 今も、大好きな、じっちゃん。
 僕、みんなといれて、幸せ……そういったんじゃ」

「! 仁王」
「起きたか」
「なんなんじゃ、あの女は……」

いまだに若干意識が朦朧としている様子の仁王は弱々しく呟いた。
日頃の仁王にあるまじき姿である。

「それにしても、仁王には記憶があるのか」
「そうだな。一体どういった基準なのか……」
「……何の話じゃ?」 





それからすぐに一斉に人々は目を覚ました。
まるでさっきの異様な光景は夢であったかのようであった。
その中でもしっかり記憶を残している者が、幸村、柳、仁王の3人だけだった。
その他のレギュラー陣は朧気に覚えてはいるようだが、あまりそのことに重要視していない様子であった。
真田も覚えてはいたが、問題の場面中は試合中だったこともあり知らなかったようだ。

記憶が残った原因は元々彼らを知っていたから(幸村、真田、柳)と彼らについて多くの認識があったから(仁王)ではないかと予測された。
実は仁王は彼らが試合会場に現れたときからそれとなく観察し続けており、幸村に妹と聞いた際にはそれなりの存在として自身の中で確定させていた。
そして問題の場面でも読唇術でしっかりと会話を把握していたらしい。
さすが多才な男である。
その他のメンバーは幸村に妹と聞いた直後であったことから、記憶が若干残っていたものと思われる。
その証拠に、仁王に劣らず気にしていた丸井とあまり気にならなかったジャッカルでは、覚えている事に多少差があった。


最後の学校で最も大きな珍事件を起こした4人組。
そんな彼らに興味を持った者がいることなど知るよしもなかった。

幸村は安堵を。

柳は疑問を。

仁王は……自身にも名付けようもない複雑な想いを。

それぞれが胸に刻みつけていた。










おまけ

「ラズロ、立ち止まってどうしたの」
「あ、うん。ごめん」
「……どうしたの」
「いや、なんでもないよ。心配かけてごめん」
「気落ち悪いな。さっさと帰るよ」
「(相変わらずだよなールック)」

しかし、こっそり紋章使ったけど大丈夫かな?

今はもう見えない試合会場のほうを見て、孔也は思った。
実は慌てているように見せかけてしっかり冷静だった孔也である。
恵菜の様子に危機感を感じつつも、このまま止めない方がいい結果になるだろうと勘が告げていた。
その通り、妖華にとって最高の結果を残せたと思う。

でも……なーんかイヤな予感がするんだよな……
ごめん、恵菜。

跡部邸がどの方角にあるか分からないが、孔也はひっそりと謝った。
たぶん火の粉が降りかかるなら、あの笑顔を表に出してしまった恵菜だろうと思いながら。










おまけのおまけ?

バタンッ

「え」

「ちょ、ルック! ドア閉めるって酷くない!?」

「ルックー!!!!」


「うるさい大声で呼ぶな!!」






最後は暴走しすぎて紋章で強引に締めました。
こんな使い方出来るのか謎ですが…出来るということにしておいて下さい↓





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