先ほどの騒動もなんとか収まり、再開した試合を眺めつつ2人は話し始めた。
しかしそんな空気を壊すように平古場は呻いた。
「あーまったく、勘弁しちくぃみそーれーな」
(あーまったく、勘弁して欲しいぜ)
「だーるなぁ。あぬひゃーが口出ししなかったら、くままで騒ぎや大きくならなかったぬんかい」
(そうだな。あいつが口出ししなかったら、ここまで騒ぎは大きくならなかったのに)
「いや、焦ってあんな返事をした、平古場君にも責任あるんじゃないの?」
「そうだやしが。まさか、あんねーるくとぅないん奴がいるとや思わなくて。しかんだんさぁ〜」
(そうだけど。まさか、あんなこと出来る奴がいるとは思わなくて。びっくりしたんだ)
先ほど試合を終えた平古場と知念はブツブツと文句を言っていた。
いや、文句を言っていたのは平古場だけだったが。
それに便乗して悪態をついたのは甲斐だ。
「ぬー? きっさ何がよ〜起こったぬか分かったぬか?」
(なに? さっき何が起こったのか分かったのか?)
「じゅんにか!? 教えろよ!! わんんかいや全然分からなかったさぁ!」
(本当か!? 教えろよ!! 俺には全然分からなかった!)
さっきまで沈黙を守っていた知念は、興味ある話題に食いついた。
彼は平古場の放った打球が相手校の監督に当たると微塵も疑いもせず、油断していたと言ってもいい。
決定的瞬間を見逃し、気づいたときにはボールは全くあらぬ方向に飛んでいたのだ。
それはベンチで気怠げに試合を見ていた甲斐や田仁志にとっても同様だ。
むしろコートとの距離が離れていたことで見えにくかったこともある。
「あのボールが相手校の監督に当たらなかったのは、途中で軌道を変えられたからよ」
「や? どうやってウングトールくとぅをするんだしよ」
(は? どうやってそんなことをするんだよ)
「監督んかい当たるみぃ〜んかい、たーかがボールんかい小石をぶつけてきたんさぁ〜」
(監督に当たる前に、誰かがボールに小石をぶつけてきたんだ)
「「「!?」」」
「やぁ!? ウングトールくとぅないん奴がいるぬかよ!?」
(はぁ!? そんなこと出来る奴がいるのかよ!?)
「信じられねーらん!」
(信じられない!)
「じゅんにか?」
(本当か?)
衝撃の事実を知った3人は信じられない様子で木手と平古場に詰め寄った。
「嘘言っても仕方ないでしょう」
「正直、みーぬみぃ〜で見てたわんも信じられなかったさぁ」
(正直、目の前で見てた俺も信じられなかった)
「でもよ……」
(でもよ……)
「じゃあ田仁志君、貴方はこれ以外の理由が分かりますか? あの不自然なボールの動きの原因が」
「いや……だーるなぁ」
(いや……そうだな)
それに……
おそらく自分だけだろう。
自分はボールの軌道に気づいた人間が、小石を放つ瞬間も見ていたのだ。
珍しく(むしろ初めてではないだろうか?)弟が試合を見に来たと思ったら大きな置き土産をしてくれたものだ。
表面上は試合を眺めながら、心の中でため息をついた。
後ろではまだ興奮気味に、先ほどのことをこそこそと話している。
一体誰が、どうやって、いやだから小石でだろ?と話題が尽きない様子である
しかし、まさかあんな少女がやってのけたとは思うまい 。
その瞬間を見ていた自分でさえ、自分の目が信じられなくなった。
しかもあの4人は全員こちらの思惑が分かっていたようである。
監督が手を動かした時にはすでに、凍らせたかのような無表情に一瞬驚きの色を浮かべていた。
騒ぎが起きた時に目を離した隙に、どこかに行ってしまったようだった。
それにしても……
木手の心の中は本人自覚なしに超ブルーだった。
今更格好いいところを見せたいとは思わないが、随分情けないところを見られたものである。
けっこー弟のことを気にかけている木手は今更ながらに落ち込んだ。
(でも表情は無表情)
「そういえば、やーちゅーおかしくなかったか?」
(そういえば、お前今日おかしくなかったか?)
「あ、だぁわんもうみたん!」
(あ、それ俺も思った!)
謎の小石男(彼らの中では男で意見が一致していた)の話題に飽き、甲斐は木手に聞いてきた。
どうやらみんな同意見らしくうんうん、と頷いている(者もいる)。
「はぁ、いきなりなんです?」
「なんだってぇ?ちゅーぬやー、『ゴーヤぁ食わすよ』ってあびん回数多くなかったかぁ?」
(だって今日のお前、『ゴーヤぁ食わすよ』って言う回数多くなかったか?)
「そうだ! 試合中んかい言われるわんぬ身んかいもなれ!」
(そうだ! 試合中に言われる俺の身にもなれ!)
「だぁんかい、試合を見ねーらんで別ぬ方向を見ちょるくとぅもあいびーたんよな? なままでやウングトールくとぅなかったぬんかい」
(それに、試合を見ないで別の方向を見てることもあったよな? 今まではそんなことなかったのに)
「な、そんなわけないでしょう。いい加減なこと言うのやめなさいよ」
「あ、だぁわん分かるぜ。永四郎やずっと……アマ〜ぬほうんかいいる4人組を見てたさぁ」
(あ、それ俺分かるぜ。永四郎はずっと……あっちのほうにいる4人組を見てたんだ)
平古場が指す方向を思わずみんなで見た。
木手はというと衝撃で固まっていた。
まさか見られていたとは……!!
そして平古場の言葉に同意する者が現れた。
「……わんもんちゃん。いきが2人んかいいなぐ2人やたん」
(……俺も見た。男2人に女2人だった)
「ぬぅぬぅ!? どーゆーくとぅ!?」
(何々!? どーゆーこと!?)
「永四郎〜吐いてすっきりしちゃんほうがいいんやんに?」
(永四郎〜吐いてすっきりしたほうがいいんじゃねぇ?)
「まさか……イナグでもいたぬか?」
(まさか……彼女でもいたのか?)
「「「イナグぅ!?」」」
(((彼女ぉ!?)))
止めない木手をいいことに、周りはどんどんヒートアップしてきたようだ。
甲斐は興味津々に聞いてくるし、平古場はたぶん今日の怨みも込めているのだろう。
田仁志はさっきから状況を最悪な方向にしかもっていかない。
いつもならこんな状況になるまえに強制的に場を沈めるのだが。
先ほどの事件のせいで他の部員は異様に興奮しているし、木手は微妙に疲れていた。
だんだん面倒になってきた木手は、諦めたように言った。
「……そんなわけないでしょう。弟がいたんですよ」
「は?」
「……え?」
「お、とうと?」
「……」
「「「「やー、うっといたぬかー!?」」」」
((((お前、弟いたのかー!?))))
また騒ぎ出した面々を見渡して。
木手は自分の頭部からプッツンと小気味のいい音が聞こえてきたような気がした。
「いい加減、うるさいですよ。
てめぇら、ゴーヤ……食わすよ?」
背後に青空が見えなかった。
応援の声が聞こえなくなった。
眼鏡が異様に光ってた。
口元が妖しげに歪んでた。
ていうか最後のほうの口調がいつもと違ってた。
こくこくと無言で頷く部員たちに満足した木手はコートを振り返った。
試合はコチラの優勢で進んでいるようだ。
しかし、相手校の部員の刺すような視線は相変わらずだった。
ふん、勝つためにはどんなことでもするだけですよ
誰も聞いていないのに、心の中で呟く。
この試合は大丈夫だろうと安堵した木手は、ちらりと4人がいた方向を見た。
そして、そっと目を伏せた。
おまけ↓
「えー、永四郎ぬくし中んかい哀愁が漂っちょるぞ!」
(おい、永四郎の背中に哀愁が漂ってるぞ!)
「やっぱうっとあらんくて、イナグがいたんあんにか?」
(やっぱ弟じゃなくて、彼女がいたんじゃないか?)
「でもいきがいなぐ2:2やたんってくとぅや……」
(でも男女2:2だったってことは……)
「……失恋か」
「……どうやら、てめぇらまじでゴーヤぁ食いてぇよぉだなァ?」
「永四郎!?」
「……げ」
「じゃ後や任せた慧くん
!」(じゃ後は任せた慧くん!)
「ぅをををおおおい!!!」
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