※注意※
明らかに比嘉の方々の沖縄弁が可笑しいですが、ご了承下さい。
沖縄弁の変換にはこちらのサイト(もんじろう)でお世話になりました。
(上手く使いこなせていないような気もしますが……)
「……」
「……」
「……」
「……」
「大丈夫ですか!? 監督!」
「な、なんだ!?」
「今、ボールが監督のほうに……」
「でも当たらなかったな、なんでだ?」
「おい、どういうことだ」
相手校の選手たちは、真っ青な顔で監督の周囲に集まった。
比嘉のほうを射殺さんばかりに睨みつけている部員もいる。
ざわざわと騒ぎ出した周りの様子を尻目に、4人の周りの空気は触れれば凍りそうなほど冷たかった。
みな無表情の割に鋭い視線でコートを見つめている。
その恐ろしい雰囲気を恐れた他の観客は離れ、若干クレーターが出来ていた。
「どういうことさぁ」
「何がよあいびーたん?」(何があった?)
「ボールが直前で曲がったようですね」
比嘉の部員にも何があったのか分かっていないようで、困惑した雰囲気が流れている。
「どういうくとぅじゃー!! 貴様ー!!」
(どういうことだー!!)
「やーはぬーを見てたさぁ。わんはちゃんと狙ったやんやー」
(お前は何を見てたんだ。俺はちゃんと狙っただろう)
「狙った!? おい、どういう意味だ!」
「監督に、わざと当てようとしたのか!?」
たった一球のボールのせいで、試合会場は混沌の渦に巻き込まれていた。
未だに収まらない場を納めるために、審判は笛を吹き鳴らす。
「……はぁ。ごめん、みんな」
「……いや」
「……僕こそ、とっさに手が出ちゃって……」
「……」
騒然としたコートを背景に、項垂れた孔也は他の3人に謝った。
妖華と疾風は未だ憮然とした様子だが、恵菜は別のことで落ち込んでいるようだ。
こうした騒動が起こった原因を知るには、少し時間を遡る。
沖縄には何度か行ったことはあるが、孔也の兄を見るのが初めての3人。
彼らは意外と楽しそうな様子でコートに近づいた。
これまでの方針?で選手側には近づかないようにしていたので、少し遠巻きに試合を眺めていた。
(と、いいつつ目立つ集団なので、兄には普通にバレていたのだが)
「ゴーヤぁ食わすよ」
「えー……と」
「え、美味しいよね?ゴーヤって」
「いや、そうじゃないだろ」
「……ゴーヤ、好きなんだって」
でも、あの銀髪の人はゴーヤ嫌いみたいだから
ぼそぼそと孔也は続けた。
微妙に哀れんだ目線で見つめてくる妖華と疾風に、居心地の悪い思いをしつつも腹立だしい孔也だった。
どうせなら笑われるほうがマシだったかもしれない
恵菜は……
「ぬーが? わんわん??」
異国語にも思える沖縄弁の攻略に忙しいようだ。
「ちょっと。何言ってるのか分からないんだけど」
「んー。沖縄は琉球だったころの名残が強いと聞いたけど……ほんと分からないな」
「もうこれは外国語だよ」
「ねぇ、通訳してくれないの?」
「あ、そうだね。ラズには分かるんだろ?」
「え! 分かるの!?」
さっさと通訳しろ、通訳してくれるよね?、通訳してして!という三種の視線に孔也は負けた。
孔也は仕方なく比嘉の言葉を通訳しだした。
しかし。
さっきまでは試合のほうに集中していたから気づかなかったが、比嘉は随分と酷い言葉を使うことが多かった。
次第に4人の口数が少なくなり、周りの空気も冷えてきていた。
始めは涼しくなったな?としか思わなかった周囲の人間も、冷気の元を見たらギョッとした顔をしてそ〜っと側を離れていた。
つまり、それほど彼らの顔は怖かった。
あたりには、律儀に通訳をしている孔也の声しかしなくなった。
そして、その瞬間がきた。
軍を率いて全体を見ることに長けていた4人は気づいた。
比嘉の監督の不審な動作とまるで勝ち誇ったような笑みを。
それを見て、不快気に顔を歪めつつ諦めた眼差しをして、比嘉の選手が動作を微妙に変えたことを。
その選手の打ったボールの軌道上に、相手校の監督がいることに。
気づいていたが咄嗟に自制していた者。
気づいていても関係ないと諦観した者。
まさかという思いが強く一瞬固まった者。
そして、4人の中で一番素早さが優れていた者が、瞬時に近くの小石を掴み、弾いていた。
ピシッ
バシン!!
ポン、ポン、ポン
相手校の監督に目がけて向かっていたボールは、不規則な軌道を描き、地面に落ちていた。
未だに興奮の醒めやらない人々を背に、4人は次の場所に移動していた。
人を踏みにじることに慣れ、それに快感を得ているような比嘉の監督は、彼らに辛い過去を思い出させた。
それぞれが運命に翻弄され、過酷な道を歩んできた者たちである。
いくら自分の進む道は自分で決めたといっても、周囲には大人たちの作り出した醜悪な環境があったのだ。
運命を決めさせられたと言っても過言ではないほどの、現実があった。
それぞれが暗い面持ちで歩いていると、不意に歓声が聞こえてきた。
そこかのコートの試合が決したのだろうか。
「それにしても、ミオはとっさによく動けたね」
「あ、うん。森に住んでた時によくやってたから」
「ふぅん」
「へぇ。凄いね、身体が覚えてたのかな?」
中でも人生経験が最も豊富といえる孔也が、場の空気を変えるように話し出した。
その思いをくみ取って、明るい様子で話し出す。
ぽつぽつと話をしていたが、また少しずつ静かになっていった。
心地よい静寂であった。
「勝つために……か」
「まだ、彼らにはそんな思いをしてほしくないな」
「そうだね。この世界で、彼らはまだ庇護される年齢だ」
「……」
そしてやはり話題は先ほどの試合にうつる。
思い出したように呟く孔也に、国王だった時の面影を出しながら恵菜は物憂げに言った。
妖華も何かを思い出すように目を細めつつ頷いている。
疾風は黙したままだが、反対するような気配は出していなかった。
「それにしても、ふふ」
「どうしたの?」
「気持ち悪いよ」
「ちょっと! ルックひどい!!」
「まぁまぁ、ミオ。落ち着いて」
「いつものことじゃない」
「うるさいな、さっさと理由を言いなよ」
「うわールック横暴ー」
「あー亭主関白だー」
「ツンデレー」
「切り裂き魔ー」
「いい加減にしろよお前ら!!」
「え、ちょっと待って。落ち着いて、ね、ルック」
どうどう、と恵菜は疾風に両手を向けて落ち着くように声をかける。
疾風をからかっていた2人もニヤニヤ笑いを納めて、苦笑している。
疾風はふんっとそっぽを向いた。
「それで、どうして笑ってたの?」
「ああ、あのね。なんだかおかしくなっちゃって」
「……それは笑ってたんだから分かるよ」
「ああもう、ルック!」
そう言って話題を止める疾風の口を押さえた。
疾風は驚いた顔をしている。
「だって、僕たちのほうが幼く見えるのに、あの人たちの心配するなんて、て思うと」
「はは。それはもう今更だよ」
「そうだね」
「この世界に、私たちよりも年上の人はいないんじゃないかしら?」
茶目っ気たっぷりに妖華は言った。
言い方は“妖華”としてのものなのに内容は“ティル”としての物言いだ。
そのギャップが可笑しくて、恵菜と孔也は笑った。
「……ところで」
「ん?」
「いつになったらその手を離すのかな?」
背後に鬼神を背負いながら妖華は言った。
恵菜はまだ両手で疾風の口を抑えていたのだ。
妖華の背後の鬼神はなぜか疾風にしか見えないように巧妙に隠されている。
どうやったら出来るんだそんなこと!
疾風、心の叫び。
(あーあ……)
孔也はギャーギャーと騒ぎ出した3人を放って、苦笑した。
先ほどまでの暗い雰囲気は払拭されている。
恵菜が先ほどの試合会場で、手を出してしまったことに内心凄く後悔していることに3人とも分かっていた。
他の3人も動けたのに動かなかったのは、“動かさなかった”から。
あちらでの経験により、この世界で異常なほどの身体能力を有する4人は、無闇にその能力を使うことを互いに禁じた。
また、その能力を使って不必要に他者に干渉することも好ましくないと思っていた。
先ほどの状況で、相手校の監督を助けたことが必要か不必要かどうかは置いておくとして。
あの場の騒ぎを生み出したのは恵菜にも責任の一端があると言えた。
あの監督と選手たちの様子を見るに、こんなことは日常茶飯事だったのだろう。
本当だったらくだらないいい訳の一つでも言って収まる場だったのかもしれない。
恵菜のしたことは、騒ぎを大きくさせたことに他ならなかった。
しかし自分たちが表だって騒ぎを収めることは不可能で、ひっそりと立ち去るしかなかった。
弱者を優先して守ることは悪いことではない、でもだからといって騒ぎを大きくしたことに責任がないわけではない。
だって……
自分たちは逃げ去るしかできないのに。
そんな思いで暗い表情をしている恵菜を元気づけようと、3人は頑張ったワケだ。
「あはは、ルック、変な顔ー!!」
「……!!!!」
「……っぷ!」
「早くしないと、次の試合に遅れるぞー!!」
笑う3人に、孔也は駆け寄った。
おまけ↓
「……」
「ご、ごめん、ルック」
「……(プルプル)」
「……(ダメだ、笑ったらダメだ……!)」
顔に赤い筋を残した疾風が、超絶不機嫌な顔で佇んでいた。
「(ピーン!)ごめんねのちゅーでもすれば機嫌が治るんじゃない?」
「はぁぁああああ!? な、なにを」
「あははははは! それはいい! よかったね、ルッくん☆」
「ふ・ざ・け・る・な……!!」
「え、えっと……分かった!ごめんねのちゅーね、うん」
「え?」
「は?」
「……は?」
軽口をたたき合っていた3人は、ピシリと固まった。
「ちょ、なんでみんな逃げるんだよ! 冗談に決まってるだろ!?」
(あ、冗談ね、冗談)
(び、ビックリした……)
(……)
(……おい、てめぇちょっと残念とか思ってるんじゃねぇだろうなァ? アーン!?)
(ててててティル! 顔! 顔が崩れてるよ! しかもアーン?って!)
(な、そんなワケないだろ!?)
「ねぇ早く行かないとホントに試合終わっちゃうよ〜」
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