「俺様の美技に、酔いなァ!!!」





「なんや今日の跡部はいつもより気合い入ってるんちゃう?」
「あ、やっぱゆーしもそう思う?」
「なんだよ、そうなのか?」
「あ、はい。俺もそう思います」
「zzz……」
「ウス」
「下克上だ……」

忍足、向日、鳳(樺地も?)には今日の跡部はいつもより気合いが入って見えるようだ。
日吉はいつもよりやる気のある様子の跡部を見て、さらに下克上への情熱を燃やしていた。
しかしどうやら宍戸には分からなかったらしい。
寝息を立てている人は論外。

「ふふ……いつもより決め台詞の回数が多いし、声に力がこもっているよね」
「!」
「!!」
「あ、滝先輩」
「滝、背後から出てくるのやめぇってゆーとるやろ?」
「……」

気配を消して現れた滝は笑み深めながら跡部を見ている。
その微笑みが怖い……
あ、すみません、なんでもありません。
日吉はすでに会話に興味を無くした様子で、打倒跡部の脳内シュミレートに移行している。

「しっかし滝もそう思とるってことは確定やな」
「あ、ああ。こんな跡部見たことないよな!」

忍足はニヤリと笑いつつ眼鏡を押し上げた。
向日は衝撃から立ち直り、相づちをうつ。
相方の相づちをうつための衝撃から立ち直るなんて、素晴らしいダブルス愛だね。
脱線。

「お、たしかに今日は試合展開が早いな」
「なんだかいつもより楽しそうですね、跡部部長」

こちらのダブルスコンビはほのぼのと試合を眺めている。
宍戸はやっと跡部の様子の変化が分かったようである。

「何か原因があるのかな?」

ねえ、何か知らない?
滝に聞かれて、それぞれ思案顔になった。

「朝見たときはいつもどおりだったよな?」
「そうですね、むしろなんだか不機嫌そうに見えました」
「そういえば俺はいきなり怒鳴られたな。八つ当たりかよ、激ダサだぜ」
「そうやな。人にあたるんはホントやめてほしいわ」
「あ、俺も俺も!昨日はほんとに補習があったのに『サボってるんじゃねーよ!』ってすっげー怒られたんだぜ!?」
「昨日は第三コートが使えなくて、練習が制限されてましたからね」
「チッ。練習できなかったのは俺たち準レギュラーじゃねぇか」

段々と話題が跡部の愚痴へと変わり始めている。

「ねぇ」

真剣に考えてくれないかな?

「そ、そういえば試合前には嬉しそうな顔してたよな!?」
「そ、そうやな。ごっつ気合い入っとると思ったわ」
「え、えーと……でも試合会場に着いた時には、まだ不機嫌そうな様子でしたよ」
「わ、わりぃ……俺はさっき気づいたからよ」
「俺も試合が始まってから気づきました……下克上だ(ボソ)」

天使の微笑みを浮かべながら言った滝の一言に、他のメンバーは焦りつつも答えた。
滝の笑顔は目が全く笑っておらず、むしろ鋭い視線でみんなを射抜いていたからだ。
周りの者は突如冷えた空気に、こそこそとこの場所から離れていった。
みんな、薄情。

「じゃあ会場に着いてから試合前までに何かがあったのかな?」
「まぁ、ふつーに考えたらそうなるわなぁ」
「クソクソ、何があったんだよ!」
「何があったんでしょうか……」

望んだ回答を得て笑顔の滝は呟いた。
思案顔で忍足も同意している。
さっきの滝への恐怖を当たり散らすかのように向日は喚いた。
鳳は跡部を喜ばすほどの出来事に興味が沸いてきたようだ。

「あ……」
「なになに!何か分かったのか!?」

宍戸の呟きを聞いた向日が真っ先に食いついた。

「いや、何かってほどのことじゃないけどよ」
「気づいたことがあったら言ってみなよ、宍戸」
「そうやで〜ここまできたら理由が知りたいわ」
「あそこにいるヤツ、なんか見たことあるなと思っただけだ」

「……はぁ?」
「……」
「宍戸さん……」
「なんだよ、それ!全然かんけーねーじゃん!!」
「だから、最初に言ったじゃねーか!」

呆れた顔でため息を吐く忍足に、異様に輝いた笑顔の滝。
微妙な表情の鳳に、憤慨した様子の向日。
顔を真っ赤にした宍戸は怒鳴り返した。
しかし、捨てる神あれば拾う神も存在する。

「アイツは……」
「知ってるのか、日吉!!」

助かった!とばかりに宍戸は聞いた。

「べつに。ただのクラスメートですよ」
「あ、そういえば……日吉のクラスで見たことあります」
「へぇ〜」
「ただのクラスメートってことはテニス部関係じゃねーのか?」
「それにしては随分熱心に試合見てるんとちゃう?」
「そうだね。跡部の知り合いなのかな?」

ちなみに話題になっているのは孔也のことなのだが、本人が聞いていたら断固反対していただろう。
熱心に見ているんじゃなくて、ただ目が離せない(ほどあなた達の部長の試合に衝撃を受けている)のだと。

「樺地は何か知ってる?彼のこと」

ここでトーテムポールになりかけていた樺地に滝は話題をふった。
とりあえずあの男子に興味が移ったので、彼のことから知ることにしたようである。

「……あの人は……」
「ふぁぁぁあああああ、みんなうるさいなぁもぅ」

何か知っている様子の樺地の次の言葉を期待していた面々は、言葉が遮られたことに落胆した。
ここでまさかジローの妨害が入るとは。

「おい、ジロー! 今いいとこなんだから黙って――」
「うをー!! すっげぇ! 今日の跡部すげぇじゃん!! なんで起こしてくれなかったんだよー!!」

人の話を聞かずに試合に熱中しだしたジローに、他の者たちは思わずため息。
こうなったら止まらないことは皆知っているからだ。

「あー!! 分かった! 跡部、イイトコ見せようとしてるんだ!」

しかし思わぬジローの発言にみんな振り返った。
こいつ、何か知ってるのか……!?
みんなの期待の視線がジローに突き刺さる。

「ジロー、お前なんか知っとるんか」
「なんだよ! 知ってたんなら早く言えよな!!」

さっそく聞き出しにかかったダブルスコンビに、他のメンバーの応援の眼差しが向けられる。
やっと跡部(部長)の好調の原因が分かるのか!
みんな聞き耳をたててジローの返事を待っている。

「えーだってあそこにいるじゃん!」

そうして指さしたのは、先ほど話題にのぼった男子のいる方向である。

「え」
「まじで」
「マジかよ」
「へぇ」
「宍戸さんの言ってたこと、当たってたんじゃないですか!?」

なぜか鳳が嬉しそうだ。

「な、かばじ!」
「ウス」

しかし2人だけで分かった空気を出されても困る。

「樺地、何か知っていたら教えてくれないかな?」

ジローに聞いても答えまでに時間がかかりそうだと思った滝は標的を変えることにした。
ていうかさっきまで聞いてたのに邪魔したのはジローだよね……
滝の冷たい視線がジローに注がれている。
それを感じた忍足が焦って続きを促した。

「で、なんや知っとるんやろ?教えてくれるか、樺地」
「……今日は、跡部さんの妹が試合を見に来ています」
「妹!?」
「跡部、妹がいたのか」
「妹が来てたからなのか? 激ダサだぜ」
「ん? ほやったらなんで朝は不機嫌やったんや?」
「はいはーい! 俺知ってる! 朝はあの4人で出かけるって知って不機嫌だったんだ!」

「「「「「「……は?」」」」」」

話を聞いていた忍足、向日、宍戸、鳳、滝も話を聞き流していた日吉も思わず一言。
ほんとに一言。

「だからー、妹が友だちと出かけるから不機嫌だったけど、試合を見に来たって知って機嫌が良くなったんだって!!」

まさか……
まさかあの跡部が……

いやな事実の発覚を予期して、知らず冷たい汗が背筋を通った。
しかし寝起きのくせにいつもよりテンションの高いジロー。
その勢いはとどまることを知らなかった。

「あとべー隠してるけど、ほんとはシスコンなんだぜ!」

恵菜ちゃん可愛いもんなー。な、かばじ!
ウ、ウス

本人が隠してることをそんなに軽々しく口にしてもいいのか?

跡部がシスコンというまさかの事実を知ってしまった一同は、軽く現実逃避に逃げ込んだ。





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