「俺様の美技に酔いな!!」
「……」
「……」
「……」
「……えーと、決め台詞なんじゃ、ないかな?」
アクもクセもそれぞれに違った方向に強いはずの妖華、疾風、孔也の3人は思わずポカンとコートを見つめた。
歴代の英雄(1名は悪い方で)たちのこんな姿、あちらではとうてい見せられない。
というか今までに見たことない。
そして恵菜といえば、唖然としている3人の様子に居たたまれなくなり、思わず兄の弁解をしていた。
疎遠になってしまう前は、恵菜も兄のこうした一面を見たことがあった。
そのおかげで大体の予想はついており衝撃から免れたのだ。
あはは、まぁ、しょうがないか。
それでも変わりのない3人の様子に、恵菜はからりととって付けたように笑った。
笑うしかないとも言う。
しかし残念ながらコート上の試合は白熱してきたようだ。
破滅への輪舞曲だ!覚えておきな。やら、俺様に楯突くとこうなるんだぜ、アーン?などの声が聞こえてくる。
4人の周りには野太い応援や黄色い声援がむなしく響いている。
「これは……すごいね」
生徒会で多少跡部と面識があったおかげで免疫があり、最初の復活を遂げた孔也は呟いた。
しかし何がどう凄いのかさっぱり分からない上に、目はまだコートに釘付けだ。
氷帝に通う孔也はテニス部の人気ぶりをよく知っていたが、まさかここまでとは思っていなかったようだ。
「まさかこんな人だったとは……(薔薇の胸飾り……)」
どうやら妖華は思考が別の方向へ行きだしているようである。
妖華が会った跡部は、いつも不機嫌な顔をしており、高貴なオーラを醸し出していた。
それは妹の友だちへの理不尽な嫉妬が原因なのだが、そうとは知らない妖華は跡部をあちらの上流階級の者たちと似たような人間かと思っていたのだ。
まさかの大どんでん返し、あちらの上流階級でも薔薇の胸飾り組だったとは。
そう自身の認識を改めた。
しかも自分の考えに大変満足した。
そして妖華は未だに沈黙している疾風をちらりと見た。
「……」
すでに唖然とした表情は納められていたが、逆に今度は不快そうな表情丸出しだった。
隣では恵菜が申し訳なさそうに微笑みながら佇んでいる。
「どうしたの、ルック。まさか本当に彼の美技に酔ってるの?」
「っふざけるなー!!」
満足気な妖華はそのままのいきおいで疾風をからかうことに決めたらいい。
今にも紋章を暴走させそうな疾風にかまうことなく、ニヤニヤ笑いを止める様子はない。
激しい口論を始めた二人を尻目に恵菜と孔也はすでにほのぼのとしていた。
こんなこと日常茶飯事だからだ。
「それにしてもミオの家族は面白い人が多いね」
「? そうかな?」
しかし他に孔也の知っている恵菜の家族とは、あちらのナナミしかいない。
つまり、ナナミも面白かったと言いたいのだろうか?
「ナナミちゃんの料理もすごかった」
「あー……」
「……」
孔也の言葉に、妖華と疾風は沈黙した。
先ほどまで脱線しまくった口論−−激高していたのは疾風だけだが−−をしていたとは思えない急激な変化である。
しかし久しぶりに自分たち以外のあちらの人間の名前を聞いたと思ったら、話題はナナミ料理だ。
そりゃ沈黙したくもなる。
妖華は走馬燈のようにナナミ料理の数々が浮かび、味も思い出しそうになって咄嗟に口を押さえた。
隣では疾風が顔を歪めてお腹を押さえている。
比較的被害の少ない孔也は苦笑い。
さすがだ。
以心伝心、考えることは皆同じ。
「ナナミの料理かぁ……懐かしいな……」
いや、唯一の例外、彼女の弟だった恵菜は懐かしそうに呟いた。
鋼の胃袋をもつ彼のみがナナミ料理を苦もなく食べていたことを3人は思い出した。
でも羨ましいとは思えない。
なぜならそこに至るまでにどれほどナナミ料理を食べなければいけないのか、考えるのも恐ろしいからだ。
しかし弟だった恵菜の料理の腕は、料理対決でハイ・ヨーの助手を務めるほどだというから不思議である。
話が脱線した。
「さて、目的はクリアしたわけだし、次の場所に行こうか」
「え? まだ試合は始まったばかりだけど、もういいの?」
「もう十分だ」
「そうだね」
これ以上ここにいたら、何か、うつる。
そうつぶやいた妖華の言葉に疾風と孔也は無言で頷いた。
恵菜は不思議そうにしている。
実は先ほどの妖華と疾風の口論はいつも以上に異様に白熱していた。
そしてナナミ料理の話題が出たのも周りのおかしな熱気のせいに違いなかった。
「じゃあ次は誰の兄を見に行く?」
「はい! ルックのお兄さん、見たことないから見てみたい!」
「試合を見に来たんじゃなかったの」
「国光さんか、彼はどんな試合をするのかな」
こうして実は周りの視線を集めていた美形4人組は次の場所へと移動したのだった。
移動する彼らを見て、周りのお兄さん、お姉さん方は残念そうだ。
移動中もにこにこと楽しそうな恵菜を尻目に、3人は先ほどの跡部の姿を思い返していた。
あちらでは恵菜の姉の料理に相当苦労したものだが……
(((言葉も出ないほどの衝撃を受けたのは久しぶりだったな……)))
思わず3人の心の声が一致した。
おまけ↓
「さあ、貴方たち! 早く行くわよ! アーン?」
「わたくしの美技に酔いなさい!!」
「……なに、これ」
「なんだか、楽しそうだね」
なぜかWリーダーの間で空前の跡部ブームが到来していた。
せっかくだから跡部さんの前ですれば喜ぶんじゃないかな?
一人跡部の内心を読み取っている孔也は思った。
しかし、それはそれで面白くないので、黙っている孔也なのだった。
「ち、ちょっと! 僕はやらないって言ってるだろ!?」
「えー結構面白いのに」
「のにー」
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