木の葉の会議室で光と共に消えたクシナとルイナ(と九尾)は風影の執務室に現れた。

「あら、ここは?」

「しまきさんのおへや」


不思議そうに辺りを見回すクシナに、ルイナはそう答えた。 

まぁそれも間違ってないけどさ…… 

執務室の影に佇むバキはそう思った。
まさか天下の風影の執務室を『〜〜さんの部屋』と称するとは、剛胆な娘だ。
風影の執務室には、部屋の主の風影を筆頭に選りすぐられた暗部数名と息子の迦陵がいた。
迦陵はルイナが木の葉に行ってしまう前と違って若干不機嫌面が治っている。
実はルイナがいない間に呼び出された暗部の者たちのお手柄だ。
彼らから迦陵に甘いお菓子が進呈されていた。
これがなかったら今頃迦陵は紋章を暴走させていたかもしれない。 

ルイナが居なくなった途端、シマキはあれこれと迦陵に質問していたのだ。
もう尋問といってよかった。
風影を怒らせる訳にはいかなかった迦陵は、のらりくらりと返答しつつイライラを溜めていった。
元々短気だった迦陵はかなり頑張っていたが、もうダメだこの里ごとこの男を滅ぼしちゃおうっかな☆、と思った瞬間暗部たちが両手に溢れるほどのお菓子を差し出した。
ここにも迦陵の甘い物好きを密かに知っている人がいるのか。
どれだけ情報が音速で飛び交ったのか恐ろしい。
とにかく、砂の里は人々が知らぬ間に壊滅の危機を迎え、なんとかそれを乗り切った(なんだそりゃ)
話しを戻す。 

とにかく執務室にあらわれた二人と一匹に、微妙に緩んでいた執務室の空気は引き締まった。
暗部たちはもしもの時のために呼ばれている。
もしも九尾が暴走してしまった時のために。 


「歓迎いたします、クシナ殿」 

「貴方がお友だちのお父上のシマキさんですか? はじめまして、ルイナの母のクシナと申します」 


シマキは机の前に立ち、笑顔でクシナに言った。
対するクシナも穏やかな笑顔を浮かべている。 

なるほど、さすが火影夫人といったところか…… 

シマキは内心感嘆していた。
火影夫人が砂の里に訪れるとなれば、通常ならば様々な手続きや準備が必要である。
また、お互いに何かの思惑がないと実現しないようなことだ。
しかしこの訪問は互いの里に非公式のものであるし、突発的に起こってしまった事態とも言える。
それならば火影夫人と風影として相対するより、互いの子どもの親として相対するほうが都合が良かった。 


「ああ、ご挨拶が遅れてすみません。この子――迦陵の父のシマキと申します」 

「まぁ。貴方がこの子のお友だちなのね」 


シマキは迦陵の背に手を当て−この子の父親として−己も名乗った。
それを見てクシナは嬉しそうに迦陵を見、その前にそっと膝をついた。 


「はじめまして、迦陵くん。ルイナは迷惑をかけなかったかしら?」 

「……あれはめいわくのかたまりだろ」 

「! なにそれひどい!!」 


こらー!!わ、やめろ!! 

そう言って大人たちを尻目に子どもたちは喧嘩を始めてしまった。
むしろ仔猫同士がじゃれているようにしか見えないが。
それをみてこっそり頬を染めて笑み崩れている暗部の者もいる。
……砂の忍、末期! 


「ふふ、仲がいいのね」 

「ははは、子どもたちは元気だな」 


そう言って両者の親は楽しそうに見ている。
しかしシマキは内心すっげー驚いていた。目玉飛び出そうだ。
まさか、この息子のこんな姿を見るとは思わなかった。
生まれたときからなぜか邪険にされていたシマキ。
いやむしろシマキに限らず人々は皆平等にこの子に拒絶され、毒舌の餌食になっていた。
(そんな平等ってどうなんだ)
しかしそんなこの子が誰かを、何かを大切に思った時、最強の盾と矛になるのではないかと思った。
この里を大切に思うようになってくれれば、この里最強の忍になるのではないかと期待した。
そしてこの子の今の姿が……大切に思う者にだけ向ける、素直な姿なのだ。
だがそれは自分に向けられたものではなく、それを垣間見れているだけにすぎない。
あの、見るだけで幸せになりそうな二人の幼子の様子。
自身の子も不思議な雰囲気を持っているが、相手の少女も劣らぬ空気を纏っている。
お互いを信頼し合い、大切に想い合っているのが伝わってくる。
そしてその想いを自分にも向けて欲しい、となぜか心の奥底から叫び声が聞こえてきそうだった。

なるほど、あの少女の素性を探ろうとしないわけだ

シマキは忍たちの思惑を把握した。
おそらく、皆の者もこの二人の様子を見て、二人でいる時の姿を見ていたいと思ったに違いない。
そして出来れば、その信頼の目を己にも、と思ったのだ。
少女がどんな素性であっても、この子がこれ程の愛情を傾ける相手だ、警戒なんて出来ないし思いつかなかったのだ。
自分だってすでに、あの子どもたちに引き込まれているのだから。
(ちなみにシマキの中で忍たちの処分が少し思いとどまられた瞬間だ) 





「あ」
「あら?」
「お」
「……あ」 


迦陵の足がうっかり九尾の尻尾をぎゅむっと踏んでいた。
その場の空気が固まった。
九尾は顔を俯かせてふるふると震えている。



『小僧……よい度胸じゃなぁぁああ!!』



ぶっふぉぉおおおぉぅわぁあああ
九尾は今までの嫉妬も上乗せして邪悪で凶悪で劣悪で……とにかく凄くおどろおどろしいチャクラを大放出した。

この小童めが……我は……我は母にだいきら(途中で悲しみに襲われて言えなかった)と言われてしまったというのに、貴様は……貴様は、さっきから……!!

そんな恨み辛み八つ当たりにまみれた九尾の思考は悲しくも誰にも読み取られなかったので、ただ九尾が怒りに暴走していると思われた。
(まぁ怒りというのも間違いではないが) 


「あらまぁ」 

「クシナ殿、お逃げください!」 


なんでこの状況で笑えるんだこの人は!? 

シマキは内心絶叫したが、瞬時に戦闘態勢に入った。
他の暗部もそれぞれ臨戦態勢に入っているが、九尾の凶悪さに冷や汗を流している。 

クソッこのままでは砂の里が壊滅する……! 

少女が大丈夫と言うから、木の葉の者を安心させるために九尾も来いとは言ったが、この状況は最悪だ。
……まぁ書かなくても連れてくるからどっちでも一緒だよ、と言われてしまったのだけれど。
ていうか身重の人にお逃げくださいって酷すぎる。
シマキは自覚無しに結構混乱していた。
でもクシナを避難させるための人員を割けるとは思えなかったのも事実だ。
九尾、強すぎ。
その間にも赤黒いチャクラは室内を満たしている。
その場の忍たちがそれぞれの武器を持ち、足に力を込めて飛び出そうとした。 










「たいきょうにわるいからやめなさいっていったでしょ!」(※胎教)


スッパコーン!!





『だ、だって……母は我のこと、だ、だいきら、って』

「もう、そのことはおこってないよ。ごめんね」

よしよし



「「……」」
「「「……」」」
「……なにこれ」

「ふふ、九尾さんとルゥちゃんは本当に仲良しね」


え、これ、仲良しのレベルなんですか……? 

シマキと暗部たちは臨戦態勢のまま固まっている。
この手に持ったクナイや手裏剣やその他の武器を一体どうすればいいのか分からない。
たぶん迦陵の一言が一番彼らの心境を忠実に語っていた。
なにこれ……?
これがさっきまでのなんかすげー恐ろしかった、九尾……?
ああなんかせっかく武器取り出したのにそのままなおすのってもったいな……じゃなくて! 


「えー……今のは?」 

「九尾さんはルゥちゃんの言うことをよく聞く、とってもよい子なんですよ」 

「……はぁ」 

「ルゥちゃんがペットが欲しいって言った時には、ちゃんと面倒が見れるか不安だったのですけれど。九尾さんはルゥちゃんに凄く懐いているみたいで安心していますわ」 


ふ、ふーん。九尾がペット……ペットね。 

とりあえずしつけ?はしっかりしているようなので、まぁ大丈夫かとシマキは己に言い聞かせた。
……本当に大丈夫か?
うっすら聞こえてくる心の声には蓋をした。
先ほどのドス暗いチャクラはさっぱり消え、良好な視界が取り戻されていた。
まさかこんなに青空を眩しくて美しいものだと心から実感する日がくるとは思わなかった(しかも執務室で)
図らずも執務室に居た砂の人間は、皆一様に窓の外を見ていた。 


「へぇ……いまの」 

「あ、うん」 


子どもたちはなにやら会話しているようだ。
とにかくせっかく平穏を取り戻したので、話を進めることにした。 


「この邸の一室に部屋を用意しました。ご案内しましょう」 

「はい。ありがとうございます」 

「いくよ」 

「うん!」 


そう言って風影親子と火影親子は歩き出した(火影本人はいないけどね)
ルイナは右手を迦陵と、左手をクシナと繋いで嬉しそうだ。
迦陵の右側にいたシマキはその様子を見て若干羨ましそうだが、迦陵は絶対にシマキに視線を向けなかった。
父の愛?一方通行。
傍目には親子に見える四人は(実は)ひっそりと部屋へ向かったのだった。 








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