「じゃあ、ばとんたっち!」
「ああ」
「あ、もうてをはなしてもいいですよ」
そう言って女性から離れたルイナは、夜叉丸に声をかけた。
夜叉丸はぎこちない動きをさせながらも姉から手を離し、ベッドから離れた。
目の前の少女がコッチコッチと手を振って呼んでいるからだ。
バトンタッチされた迦陵は、先ほどのルイナと同じように母のお腹に手をあてている。
おそらく『君が何かしたらさっきの子に全部伝えるからね、覚悟しときな』と伝えているといったところか。
鎮めるわけではないので、今の迦陵にも大丈夫のようだ。
夜叉丸はルイナに近づいた。
「今のは一体……」
「あのね、いいことをおしえてあげる」
夜叉丸は先ほどの一場面のことを聞きたそうにしているが、ルイナは別のことが話したくて仕方がないようだ。
こそこそと話し出した。
またしても手をひらひらとさせて夜叉丸を促している。
仕方なく夜叉丸は少女の望み通り屈み込み、内緒話の話を聞く体勢になった。
そこでルイナは意味ありげにちらりとドアの外に視線を流してから、小さな声で言った。
「みとめたひとしか、なまえをよばないの」
夜叉丸は不思議そうな顔で少女を見つめた。
一体何の話をしているのだろうか?
しかし実はドアの外に居るある気配は思いっきり動揺していた。
ルイナはすっと目線を迦陵に向け、指さしてから、また夜叉丸に向き直る。
夜叉丸にも誰のことを言っているのか分かったようだ。
驚いた顔をしている。
「おにぃさん、さっきなまえをよばれてた」
そこでルイナは華やかに笑った。
「よかったね」
夜叉丸は不覚にも涙をこぼしそうだった。
いつもいつも毒舌三昧の幼い甥。
小さな身体のどこに隠しているのかというほどの舌鋒で大人たちを翻弄しながら、世界を拒絶しているのを知っていた。
風影の息子として生まれたので周りの者は何も言い返せないが、口惜しく思っているようだ。
可愛くない子どもだと影で言われているが、夜叉丸にはそれは違うと思った。
それがこの子どもの精一杯の自己防衛なのだ。
夜叉丸には、子どもが何かを恐れ、人を恐れて、酷い口調で己自身を守っているように見えた。
だから夜叉丸はこの子どもを精一杯愛そうと思った。
大好きな姉の子どもだから、というのもあるが、いつしかこの子どもの本当の笑顔を見たいと思うようになった。
子どもは、母と弟妹はそれなりに大切に思っているようで、母の弟である自分のことも少しは受け入れてくれていることは気づいていた。
それでも中々懐いてくれなくて、悲しい思いをしていた。
だが……
「なにしてるの。やしゃまる」
迦陵は不機嫌そうに夜叉丸を見ていた。
ルイナはすでに迦陵の隣に立って、にこにこと笑っている。
夜叉丸。そうあの子は言った。
それは己の名で、あの少女が言うにはそれは……
夜叉丸はぐっと堪えて、穏やかで暖かい微笑を浮かべた。
「いえ。迦陵様、ルイナ様、お茶をお飲みになりませんか? 珍しい花茶を頂いたのです」
「はなちゃ!? のみたいです!」
「まだなにかたべるの?」
「だって、つかれてのどがかわいちゃった」
「……」
そんな話し声を背後に聞きつつ、夜叉丸はお茶の用意をした。
嬉しすぎて、あのままでは本当に涙が出そうだった。
あの何もかもを拒絶しているように見える少年に、自分は認められているのだと。
そう思うと、少年の異端な能力も、先ほどの不思議な光景も何もかも受け入れられるような気がした。
本当に嬉しかった。
「ねぇ〜。なにかいうことがあるんじゃないの?」
「……」
「うん??」
「……たすかったよ」
「はい、よろしい!」
「……ねぇ。きょうはどこにとまるのかな?」
「あ」
「なにかいうことがあるんじゃないの」
「……おねがい、きょうはとめて?」
「ふん。しかたないな」
「ありがとう!」
「ちょ、な」
ばたーん
「あはは!」
「……まったく」
振り向いた夜叉丸が見たのは、抱き合って寝転がっている少年と少女。
少女は嬉しそうに満開の笑顔を浮かべている。
少年は呆れたように少女を見つめ――ふっと目元を和らげた。
その光景は幸福の象徴のように思えた。
そしてそれを見ていた夜叉丸&扉の外の気配たちは後に結成することになる。
『迦陵様の笑顔を見てみ隊!』
『迦陵様に名前をお呼ばれし隊!』
『迦陵様の恋を全力で応援し隊!』
『迦陵様の……
『……
(以下、その時の人々のノリによって増殖中)
おそらく発起人は背後で見ていた忍たちや、商店街で見ちゃった人たちだ。
こうしてルックの迦陵によるルイナ(ミオ)のための砂の里制圧の幕は上がった(まじでー?)
え、紋章についてはスルーしてるけどそれでいいの?
いや、よくないでしょう!……けど、見ないふりします。
もう砂の忍をどれだけ腑抜けにするつもりなんでしょうか。
しかも主人公と銘打っているルイナの故郷、木の葉の話が少ないですね。
最初の完全ギャグの数話だけで、その時はあまり頓着してなかったから周りの描写ほとんどしてないです。
このへんの話から周りの動きも気にするようになって、まるで呪いのように話が長くなっていく……
(と、メモに嘆きが残されていました)
迦陵(ルック)の名前うんぬんネタは完全に捏造なので、ご注意ください。
こうだったらいいな〜という妄想です☆
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