夜叉丸は冷や汗を浮かべながら目の前の少女を見つめた。
その両手はしっかりと大好きな姉の両耳を塞いでいる。
姉は泣き疲れたように眠っていた。
眠っているのなら耳を塞ぐ必要はなさそうだが、もしもの時のために、と迦陵に指示されていた。
はじめは不思議に思ったが、今ではこの両手を離す気には到底なれない。


「おい、貴様……砂の守鶴っていうらしいな」


不意に重低音が響いた。
目の前の少女は、少女らしからぬ輝かんばかりの美しい微笑を浮かべながら、どこから出しているのか分からないほどの恐ろしく低い声を出して言った。
どうやら加琉羅のお腹の中の胎児に宿る、砂の守鶴に語りかけているらしい。
しかしその声とは裏腹に、右手はそっと優しく加琉羅のお腹に添えられている。
ポウッと暖かい光がその右手から漏れている。
加琉羅のお腹の中からはざわざわと邪悪な気配がしているが、それもなんだかいつもより怯えているような印象を受ける。


「貴様、その赤子に取り憑いているようだが……なにか粗相をしてみろ?」


カッ!


「この世の塵にしてやるぞ」


途中、右手の光を凶悪に輝かせ少女は言った。
美しく可愛らしい修羅がこの部屋に居た。
夜叉丸は泣きそうになった。
しかし少女は先ほどとはがらりと表情を変え、泣きそうな顔で言った。
右手の光も慈愛を帯びた暖かい色になっている。


「お願い。このお母さんと、赤ちゃんを守って? 貴方にしか出来ないことなの」


砂の守鶴が砂の里最高の守り神と化した瞬間だった。
落として持ち上げるってしつけの基本。
飴とムチ、ちょっとやんちゃな子にはムチムチ飴くらいでちょうどいい。
そんなこんなで着々と尾獣のしつけをしていく少女ルイナ。
彼女が世界を手に入れる日は近い。





……という冗談はさておき(冗談に納まらないような気もするが)
扉を開けて部屋に入った迦陵とルイナを待ちかまえていたのは、女性の悲鳴と男性の宥める声だった。


「いやぁぁぁあああ!! こんな子ども、生みたくない!!」

「姉さん、落ち着いて!」

「う、ひっく。いや、いやよ」

「ほら、今日はもう休もう?」

「ふ、う。え、ええ」


「……これ、どういうこと?」

「……」


ルイナは不審そうに迦陵に問いかけるが、迦陵は厳しい顔つきで黙り込んだままだ。
半狂乱の女性を寝かせた青年は、ふと入り口を見た。
そして苦笑すると少年と少女に話しかけた。


「迦陵様、いらっしゃってたのですね」

「うん」

「おや? 今日は可愛らしいお友達も一緒ですね」

「はじめまして! るいなです」

「ご丁寧にどうも。夜叉丸と言います」


そう言って笑った青年―夜叉丸―は迦陵とルイナの目線に合わせるように屈んだ。
とても優しい青年のようだ。 


「今日も遊びに来られたのですか?」

「かあさんのぐあいはどうなの」

「……ご覧の通り。今日は夢見が悪いようで、姉さんも不安定になっています」

「……そう」


夜叉丸は悲しそうに顔を歪め、俯いた。
迦陵は思案するような顔つきでルイナの方を見た。
会話が終わるのを待っていたルイナは、気になっていたことを聞いてみた。


「ねぇ。あのひとのおなかのなかに、なにがいるの?」

「――ああ、赤ちゃんがいるんだよ」


一瞬、夜叉丸はドキリとしたが、その焦りを綺麗に隠してルイナの問いに答えた。
ああ、この子は妊娠した女性を見たことがないのかな?と思いつつ。
しかしそんな夜叉丸の華麗なかわし技をドブに捨てるように、迦陵がルイナの問いに『正しく』答えた。


「すなのしゅかく。すなのけしんの、ばけたぬきがうえつけられてるんだ」

「!! 迦陵様!? ご存じだったのですか!?」

「まぁね。あれだけさわいでいればきづくよ」 

「そうか。へんなけはいは、それだったんだ」


夜叉丸は幼子たちの言葉に驚愕を隠せなかった。
しかし、見た目は幼女のルイナが守鶴の気配を感じ、いまだ里でも一部の者しか知らない守鶴のことを幼子の迦陵が知っていたのだから仕方がないと言える。
騒いでいたと言っても(実はそれなりに可愛がられている)風影の子どもたちには知られないように注意されてきたはずだ。
それを知っていたとなれば、皆が驚くに違いなかった。


「いつもはこれで、すこしはしずめられたんだけどね」


そう言って迦陵はひらひらと右手を振った。
その意味は分からないまでも『鎮めた』という言葉に夜叉丸は驚いた。
いつも迦陵が来る時は、姉が腹の中の守鶴の気配に怯えている時で、帰る頃には随分落ち着いた様子だった。
ただ愛息子に会えたことで落ち着きを取り戻していたのかと思っていたが、この少年が言うには守鶴自体を鎮めていたらしい。
だがこれはある意味恐ろしいことだ。 


「迦陵、様……それは、本当ですか……?」

「うそいってどうするの」


迦陵はふんっと馬鹿にしたような目で夜叉丸を見上げる。
夜叉丸は目眩がしそうだった。
砂の化け狸、砂の化身、砂の最強の妖獣、と言われる守鶴は誰にも抑えられないので茶釜に封印されていた。
それをいまだ幼子と言える年齢で、鎮めていたと言うのか……!?
驚愕に目を見開き夜叉丸は目の前の子どもを恐ろしい者を見るような目で見つめてしまった。
迦陵はそれに気がついたのか、すっと夜叉丸から目を離すとルイナを見た。


「だけど、きょうはもうむり。たのめる?」

「あ、そうか」


ルイナは得心したように頷いた。
転移で木の葉を往復し、先ほどは手紙も送っていた。
それほど使えば、もうあまり魔力は残っていないだろう。
自身も同じくらい魔力を使ってはいるが(はじまりの最終奥義と砂への転移)実は彼女は途中で魔力を回復させていた。
みなさん覚えているだろうか。
ルイナが木の葉の病室で問いつめられている時、九尾が巨大なチャクラを放出し、なぜか消失させたことを。
消失の原因は実はルイナにあった。
ちゃっかりルイナはその場に満ちたチャクラを頂き、魔力に変換させていたのだ!
(この世界に生まれてからこのワザを必死で習得したらしい)
最強のチャクラを持つと言われる妖魔のチャクラを頂いたのだ、今ルイナはツルツルのピカピカのツヤツヤだった。
とことことルイナはベッドに眠る女性のもとに向かった。


「やしゃまる、かあさんのみみをふさいでいて」

「な、一体なにを……」

「きずつけるわけじゃないので、あんしんしてください」

「うしろのやつらも。てをだすなよ」


ルイナは安心させるように夜叉丸に微笑んだ。
迦陵は部屋の外に溢れる気配に向かって釘を刺した。
気配たちはビクッとした。
しかし驚いてもいた。
いくら気配を消しつつ感情を駄々漏れにさせていたと言っても、そこは忍。
幼子に気づかれないようなギリギリのラインはしっかり守っていた。

それなのに、バレていたというのか?

それに今までの迦陵になら気づかれなかったハズ。
先ほどの守鶴を鎮めていたことを暴露したといい(今までは隠していたはずだ)迦陵は何かがいつもとは違っていた。


「じゃあ、はじめるか」


そう言ってルイナは女性のふくらんだお腹の上にそっと右手を置いた。
その右手から暖かな光が溢れてきた。

そして冒頭の一場面に戻る。
ルイナ、暴走しすぎ。









本気を出したルイナは子ども口調をかなぐり捨てて守鶴に脅しにかかっています。
やっぱり脅しの場面でひらがなはちょっと様にならないよな…と思ってこうなりました;


【勝手に夜叉丸設定】
夜叉丸はこの時21歳(公式)
おそらく特別上忍(16歳で中忍になったらしいから)
そこまで強くなさそうに見えたので、上忍じゃなくて特別上忍にしてみました。
任務で加流羅の護衛兼世話役になってそう。特別上忍なら融通ききそうですし。

【さらに勝手に守鶴設定】
守鶴がいつ我愛羅に憑依したのか調べられなかった……
ので、お腹の中に我愛羅が宿った時から、ということにしました

【さらに�A勝手に加流羅設定】
加流羅は我愛羅を恨んでいたらしい(原作夜叉丸談)ので、生む前から生むのを嫌がっていたんじゃないかと思います。
たぶん一般人だったと思うので『里のため』と割り切ることができない。
でも自身の命を絶つことも、腹の子どもを殺すこともできない。
そんな感じで絶望していったんだろうな〜と予想しました!
もしかしたら守鶴を憑依させる前はそれでも子どもを愛そうと思っていたかもしれません。
でも、いざ憑依させてみると守鶴の気配が恐ろしいくて、10ヶ月も耐えきれないと思うのです。
だって相手は一尾と呼ばれる最凶の一角ですから。

ぶっちゃけ加流羅を捏造するには情報少ないし気力も無かったからさっさと寝てもらいマシタ☆酷









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