「ママをいきなり眠らせるなんて酷いわ」

「う。まま、ごめんなさい」
 
「もう、こんな事はやめてちょうだい。目が覚めたらルゥちゃんがいなくて、とても心配したのよ」

「うん」

「ペットを飼うのはいいけど、ちゃんと面倒を見るのよ」

「うん!」


母と娘はぎゅうっとお互いの存在を確かめるように抱きしめ合った。




えー!? ペットって九尾なんですけどそれでいいんですかー!?
 
同じ病室にいた者たちは一様に思った。
しかしこの場に溢れるほのぼの空間をぶち壊す勇者はいなかった。
最愛の妻子の様子にニコニコと笑み崩れる四代目火影の姿があったからだ。
一度は妻も子も己の命さえも諦めたミナト。
しかし今も目の前には愛しい妻と可愛い娘が微笑み合いながら抱き合っている。
ミナトの家族愛は加速の一途を辿っている。
しかしそんな表面上はニコニコ内心はデレデレしている(まあ内心もモロバレしているが)ミナトに話しかける強者がいた。


「……ミナトよ。いつになったら話が聞けるのかのぅ」


若干疲れた様子の三代目だった。

「――ハッ! あ、はいすみませんでした」

「……先生、しっかりしてください」


いきなりこの世界に連れ戻された様子のミナトは、姿勢を正した。
そんなミナトに声をかける少年暗部−カカシ−も疲れた様子である。


「ルイナ」


ミナトはほのぼのとしていた母と娘の空間に、火影として威厳のある声を響かせた。
その様子に、クシナは抱き上げていたルイナをおろした。
そしてルイナはさっきまでの笑みを消すと、俯いてしまった。


「ルイナ、話してくれる? 一体何があったのか」

「……」


俯いたルイナの前に、ミナトは目線を合わせるように屈んだ。
そしてそっとその小さな両肩に手を置いた。


「ルイナ……」
 
「……」




















「母ってどういうこと!? いつのまに結婚したのルゥちゃぁぁん!! パパは許した覚えはありません!!!」

「「「何言ってるんだアンタはーーー!!!!」」」


側にいた暗部たちの絶叫が響き渡った!

違うだろ!?聞きたいことはそれじゃないだろー!!いや、そのことも気になるっちゃー気になるが、聞き方ってもんがあるだろう!!

暗部たちの中には目尻を光らす者までいる。
 
おれ、なんで暗部なんてしてんのかな……
暗部は火影直属だ、この人の直属の部下なんだ……

もうさっきまでのエセシリアスな雰囲気も木っ端微塵だ。
まぁエセだったから仕方がないのか……?
エセじゃなくても壊すけど。
三代目は疲れ切った様子でため息をこぼすし、ご意見番の二人も言葉も出ない様子だ。
老人は労れ!関係ないけどそう叫びたい思いでいっぱいの三人。
しかし変な方向に暴走している外野を放っておいて、中心人物たちも華麗に迷走していた。


「るぅだってこんなののままになったおぼえはないよ!!」


びしーっと寝こけているミニ九尾を指さした。
指さされた九尾は鼻から提灯を出している。
こんなのに壊滅させられかけたのか、木の葉の里よ。


「ちょっと、九尾くん! これは君も関わる大切な話なんだよ起きなさい!!」


ミナトはガクガクと九尾を揺さぶった。
まさかの九尾への暴挙に周りは息を飲んだ。
小さくなっているとはいえ、あそこまで里を破壊し蹂躙していたのは、正真正銘目の前のこの九尾である。
いつまたこの里に敵意を持って、あのようなことになるのか分からない。

それをこの男は……!
だから寝ているうちに九尾のことも話し合っておきたかったのに!

しかしミナトは九尾に殺されかけたことを忘れているのだろうか。
九尾くん、と呼んだり、ガクガク揺さぶったり随分親しげ(?)である。
そして周りの焦りを知ってか知らずか、九尾は目を覚ました。
しかしその目には危険な光がガンガン輝いていた。


『貴様……我の眠りを妨げるか……』


ごわぁっと九尾の凶悪なチャクラが広がった。
病室を埋め尽くし蠢くチャクラに人々は震え上がった。
九尾との戦闘の記憶はいまだ生々しい(さっきまでのことだし)
またしても木の葉は危機を迎えるのか!?人々が涙声でそう内心叫び声を上げた時。










「こら! たいきょうにわるいからやめなさい!!」(※胎教)


すっぱーん!!


ルイナが右手で九尾の頭を叩いた。いい音だ。
途端に部屋に満ちていたチャクラは消失した。


『おお、母よ。素晴らしい目覚めだな』


にこにこと笑って(たぶん)九尾はルイナに言った。
先ほどまでの邪悪な気配はすっきり消している。
九つの尻尾もゆらゆらと揺れている。
(ちょっと見てたら目が痛くなる光景ではある。純粋に動きが気持ち悪くて)
なるほど、とりあえずルイナがいれば九尾は機嫌が良くなるらしい。
人々は一つ学習した。
遅々とはしているが、いちおう知りたいことは知れている……のか?


「そうそれだ! 九尾くん、『母』ってどういうことなの!?」


ようやっとミナトは本題の一部に到達したようだ。
問いかける相手を大幅に間違えてはいるが。
ていうか九尾くんって名称を改める気にはならないのか?


『ふん。人の子らには分からぬか』


九尾は大変人を馬鹿にしくさったように言った。
なんか優越感に浸っている感じだ。


『そうだな、母も気になっていたようであるし。答えるのもやぶさかではない』

「あ、あの、いまはいいからあとで」

『母とは、世界を生み出せしもののこと。世界のはじまりは盾と矛だが、それを宿せし者もまた母となる』


九尾は今までのふざけた様子をがらりと変えて、神聖な雰囲気を帯びて言った。
愛おしそうな眼差しでルイナを見ている。


『この地で力を持ちしもの、この地を支えるものらはみな母を知ることが出来よう。なぜなら我らは長き時の間、遠き地にある母に焦がれていたのだから』


そう言って九尾はルイナに身を寄せた。
すりすりとすり寄る様子は、とてもじゃないがあの凶悪劣悪最悪の九尾とは思えない。
美しい色合いの緋色の毛並み、瞳に宿る溢れる慈愛、まるで伝説の神獣のように見えた。
語られた真実は壮大で、人々はその美しい光景に思わず陶然と見入ってしまった。










「……つまり、ルゥちゃんが結婚しちゃってるワケじゃないんだね?」

「「「アンタいい加減にしてください!!!」」」


バシ! ビシ!! スパコーン!!!

ついに耐えきれなくなった暗部たちは外した仮面でミナトを叩いた。
しかし次の瞬間にはしっかり仮面を装着している。
暗部は顔を見られたら終わり。
なんて命がけのつっこみなんだ感動。
もうぐっだぐだだった。
さっきまでの神聖な空気は霧散して、白けた空気が漂っている。
しかし人々はまさかまだ暴投が投げられるとは思ってもいなかった。





「きゅうびのばか! きいたときはこたえないのに、なんでとめたらこたえちゃうの!? ばかばかばかばか! きゅうびなんかだいっきらい!!」





ピカッ!!





「……」
「……」
「……」

その場には静寂が流れていた。
予想外の連続で、すでに人々の許容範囲を超えていた。
ただ目の前には九尾がズドーンと暗黒の闇を背負って項垂れている。
先ほどの大嫌い発言が相当重かったようである。
たしかに、いつもは凶悪な面を微笑ませてまで愛の告白?をしたのに、答えが大嫌いでは居たたまれない。


「!? ルイナちゃんはどこ!?」

「あ」
「あ!」
「ああー!!」


三連仮面アタック(仮称)で倒れていた(これでも)四代目火影のミナトは、起きあがると瞬時に可愛い娘がいないことに気がついた。
それを聞いて、九尾に微妙な視線を向けていた他の者たちもそのことに気がついたようである。
場がいきなり騒然となり出し、今にも大事件に発展するかに思えたが。





ピカー





またもその場に満ちた光に、もしかして!と思って皆はその場を見つめる。
しかし、光が収まっても誰もいなかった。


「ああああああ! ルイナちゃーん!!」

『……』


ミナトは身もだえながら絶叫している。
九尾は暗雲を背負って沈んでいる。
他の者はもうこの場をどうしていいのか分からない。


「あら?」


そこにクシナ夫人の穏やかな声が聞こえてきた。
実はこの夫人、何が起ころうと夫と娘をにこにこと愛おしそうに見つめていた強者である。
彼女が本気を出しさえすれば物事はもっとスムーズに進んだに違いない。


「あら。ルゥちゃんは少しお出かけするらしいわよ、あなた」


クシナは手元の紙を見ながら何でもないかのように言った。
 

「ええ! ちょ、ちょっとどういうこと!?」
 

そして慌ててクシナのもとに飛んでいき、手元の紙を見た。
それはどうやら手紙のようだった。





ぱぱとままへ

るぅはちょっといえでします。
おともだちのいえにいるのでさがさないでください。

おとうとがうまれるころにはかえります。
まま、ちょっとだけがまんしてね。

るぅより



たいせつにするからあんしんしなよ

るっく





るっくって誰なんだー!!!!

ミナトの叫びは里中を木霊した。
九尾はまだ鬱々としている。

もうつっこむのもつかれた面々はとりあえず引き上げることにした。
九尾の襲来があってから色々ありすぎた、疲れた。
一眠りしてから考えよう。

クシナだけはニコニコしていた。
やっぱ最強はこのお方。








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