「よっし! リオウ、お姉ちゃんに任せなさい!!」


それが今回の騒動の発端だった。





「要するに、リオウはシュウさんに休んでもらいたいんだよね」

「(こくん)」

ナナミが言葉少ななリオウから聞き出した内容はこうだ。

最近、シュウの様子がおかしい。
そういえば休んでいるところを見たことがないので、もしかしたら相当の疲れが溜まっているのかもしれない。
この前、様子を見るためにこっそり背後に近づいて肩に手を置いたら、まんまと悪戯に引っかかってシュウの頬にリオウの指が突き刺さった。
(「そ、そんなことしたの!? で、で、どうなったの!?」とは、それを聞いたナナミの反応である)
いつものシュウなら何かを察知して反対方向に振り返るはずだし、そもそもリオウが手の届く範囲に近づく前にリオウに気づく。
(軍師たる者、誰よりも早く主君の接近に気づく!……ものらしい)
徐々に同盟軍が大きくなってきたことでシュウの負担が激増したことが原因だと分かっているのだが。

「シュウが必要だから、無理は駄目。嫌」

同盟軍にとってシュウが必要だからこそ、無理をして大事なときに倒れられては困る。
そしてそれ以上に、シュウに無理をされるのが嫌だったのだ……リオウが。
「駄目」の後に「嫌」と駄目押ししているところに、その思いが現れている。

「うんうん、そうだよね。こうなったらシュウさんには今までの分も思いっきり休んでもらおうよ! 大丈夫、大丈夫。シュウさんがいなくてもみんなが助けてくれるし、私も出来ることは何でもするから。リオウが安心できるまで、シュウさんに元気になってもらおうね」

もちろん、ナナミはリオウの思いにしっかりばっちり気づいた。
リオウの手をギュッと握ってブンブンと力一杯上下した。

「よっし! リオウ、お姉ちゃんに任せなさい!!」

そう叫んだナナミは、リオウの手を引いて走り出した。





作戦1 まずは頭の良い仲間を引き込む


「あ、いたいた! アップルちゃーん」

リオウを引き連れたナナミは、空いた方の手をブンブンと振り回した。
それを見たアップルは足を止めた。

「ナナミさん、リオウくん」

「ねぇ、アップルちゃん。少し話があるんだけど、いいかな?」

「今は少し用が残っているので……お昼に私の部屋に来てもらえますか?」

そう言うアップルの手には、重量級の本が数冊積み重ねて持たれていた。
軍師がただの文系人間だと思ったら大間違い、という良い例である。

「うん、分かった。じゃあ、お昼にリオウと一緒に行くね。あ、お昼ご飯も一緒に食べようよ! 3人分用意して持って行くね」

「助かります。では、またお昼に」

アップルはスタスタと歩き出した。
足取りは軽やかで、後ろ姿からは重い荷物を持っているようには見えない。さすが。

「アップルちゃんも忙しいんだね……あ、そういえばリオウ、今日は仕事はいいの?」

「……悪戯の罰」

「あー……。さっき言ってた悪戯の罰で、今日は休むように言われたんだ」

「(こくん)」

「う〜ん。良い理由を見つけたシュウさんが喜んでる様子が目に浮かぶねぇ」

全くその通りで、シュウは嬉々としてリオウに休息を言い渡した。
休みをとっていないシュウに休みを言いつけられたリオウの不満は鰻登りだった。
今回の作戦はやったらやり返せの精神が無いとはいえない。

「それより、アップルちゃんと話が出来るのはお昼だから、それまでどうしよっか?」





作戦1(改) 効果的な休息を調べよう


「ホウアン先生! 一番良い休み方を教えて下さーい!!」

バッターン!という音が聞こえるよりも早く、ナナミは叫んだ。
治療所に入る時の作法としては大減点だが、室内にはホウアンしかいなかったので病人やけが人に迷惑をかけることはなかった。
しかし、治療所の外で出会ったトウタにそのことを聞いていたので、ナナミもこんな登場の仕方をしたのである。

「一番良い休み方、ですか?」

「はい。もの凄ーく!疲れた人をスパッと元気にする方法ありませんか?」

力説するナナミの隣で、リオウも期待に満ちたまなざしを向けていた。
ナナミの登場方法に一言もの申すことも出来たはずのホウアンは、基本的に患者が関わらなければ優しい人間なので笑顔で返答した。

「寝ることですね。睡眠に勝る休息はありませんよ」

「寝ることかぁ……その、寝方にコツはありますか?」

「寝方にコツ? 寝方にもコツってあるんですか?」

トウタが不思議そうに呟いた。
実はリオウとナナミと一緒に治療所に来ていたのだが、入室の言葉はナナミの登場にかき消されていた。

「ありますよ。深く眠れば、少ない時間でも十分な休息がとれます。睡眠には二つの形があり、眠りながら二つの間を波のように揺れています」

ホウアンが空中に波線を描くと、ナナミ、リオウ、トウタの目がその動きに会わせて揺れた。
ホウアンはその様子に笑みを零した。

「私たちは浅い眠りの時に夢を見て、深い眠りの時には夢を見ません。だから、浅い眠りの時に目覚めた場合、夢の内容を覚えていることが多いんです」

「へぇ〜そうなんだ。知らなかったなぁ」

「僕も初めて聞きました」

「(こくこく)」

「でも浅い眠りの時は脳の疲れがとれにくいんです。なので、脳に十分な休息を与えるなら、深く眠ることが大切なんですよ」

「深く眠ることか……シュウさんにしっかり眠ってもらえば、元気になるかなぁ?」

ナナミは腕組みをして首をかしげた。
話しかけられたリオウも考えるような表情を浮かべている。
ナナミの言葉に返事を返したのは、ホウアンのほうだった。

「シュウ軍師ほどの方なら、短時間で休息をとる睡眠法を知っているはずですよ。特にシュウ軍師は時間を効率よく使うことを好まれるようですから」

「えっ!? そんな睡眠法?睡眠方法?があるんですか!?」

その方法を使えば一日の活動時間が増えるだろう。そうすれば鍛錬する時間も増えるし、調理に専念する時間も増える、女の子たちと話をする時間も増える、リオウと一緒にいることも増える……つまり良いことずくめだ!
そんな期待に満ち満ちた表情のナナミに、ホウアンが苦笑した。

「訓練して覚えることもありますが、自然と覚えることが多いでしょうね。睡眠時間を削って無理をしているうちに、身体が自然と短時間の睡眠で疲労を回復することを覚えるんです」

「無理をして……むりかも……」

ナナミなら三日で撃沈して、三日目には一日中寝てしまう羽目になるかもしれない。
リオウが思ったことはナナミ自身も考えた様子で、ナナミはショックを受けた顔をして呟いた。
その様子を見てトウタが「だからホウアン先生は少ししか寝ていないのにいつもお元気なんだ……」と呟いていた。彼は昔からの不思議であった『ホウアン先生は自分より少ししかねていないのに元気で、自分のほうが寝足りないと思ってしまうこと』が解決して満足していた。
ホウアンが笑みを浮かべて口を開いた。

「シュウ軍師なら自身の体の限界は分かっているでしょうから、考えて休息をとっているのではないですか?」

これまでの話でナナミの質問の意図に気づいたホウアンは、良識ある大人組の一員として暴走少女を止めることにした。
いつもはシュウに対して『ちゃんと休みはとっておられますか?まさか病人と慣れ果てるまで無理をして私の手を煩わせるつもりですか』といった内容を、真絹に包んだような懇切丁寧な口調で注意しているとは思えない言い分である。

しかしここで、彼の予想を上回る返答が返された。
(ホウアンにはナナミがどう言おうとも、上手く言い含める自信があったのだが)

「……寝てない……」

リオウは泣きそうな目でナナミを見つめた。

「朝、一緒にご飯を食べて、昼、仕事をして、夜、分からないことを聞いて、夜中、まだ電気が点いてた。朝早く、鍛錬の時も、電気が点いてた」

リオウが長く話すところを初めて見たホウアンは、驚いた表情を浮かべた。感情が瞳にとどまらず、表情にまで出ている様子も驚きに拍車をかけている。
おつかいを共にしたことのあるトウタもそれは同様で、大きな目をいっぱいに見開いてリオウを見つめていた。
そんな中、いつも通りのナナミだけが声を上げた。

「えっ!? じゃあ全然寝て無いじゃない!」

「一番、眠り……」

「あ、そうか。一番の休み方を全然してないってことは、シュウさんはすっごく疲れてるってことじゃん。それはだめだよ。やっぱり、休んでもらわないと!!」

リオウは今気づいたことにショックを受けている様子だが、ナナミはこの計画を絶対成功させようと新たに気合いを入れていた。
そもそも、心配したリオウまで無理をするようになったら嫌なので、シュウには絶対絶対ぜーったい!元気になってもらうつもりだった。こうなったらもっと本気にならなくちゃ、よし、絶対元気にするぞぉ!

そして、ホウアンは盛り上がる二人を見ているうちに復活を遂げた。
続いてフツフツと腹の底からわき上がる何かを感じた。

「そうですね、眠らないことはいけないことです。ところで、深く眠るために良い方法があるのですが、聞いてくれますか?」

優しげな笑みを浮かべたホウアンの目は、あまり優しげではなかった。





作戦2 力仕事は熊さんにお願いすればいいよね


「ビクトールさん! いま暇? 暇だよね? てことでお願いしたいことがあるんだけど!」

ビクトールは、今日も今日とて昼間っから酒場にいた。
ついでにフリックが付き合わされているのも相変わらずだ。

「おいおい、いきなりなんだ?」

「お前はいつも元気だなー」

フリックの発言が爺臭いような気がするのは、彼がいろいろと人生経験豊富だから……ということにしておいてほしい。
ナナミは意気揚々とビクトールに話しかけた。

「ビクトールさん、この前力には自信あるって言ってたよね?」

「言ってたかぁ……?」

ビクトールは記憶にないのか首をかしげ、頭をボリボリとかいた。
その様子を見てナナミはリオウを見た。
ビクトールとフリックは意味が分からず不思議そうだ。
そして、会話の途中で視線をはずされると自然とそっちに目を向けてしまうものだ。
そこでまさかの珍事件?に遭遇するとは思わずに。

「『この俺様に運べねぇ荷物はないぜぇえ!! ガハハハハハハハハ!!!』」

「って、言ってたよ!」

「……」

「……」

リオウの口から飛び出したのは、微妙にビクトールに似た感じのリオウの声だった。
ビクトールの声を少し高く澄んだものにしたような、リオウの声を少し低く圧力のあるものにしたような、そんな中途半端なもの。しかし、その中途半端さが妙にしっくりくる。
後半に高笑いがあるとはいえ、声量は大きくなかったので、酒場にいる他の人間は気をとられなかった。
が、目の前で聞かされた熊と青雷はもちろんガブッと飲み込まれた。

「……」

「……」

「ん? あれ? ビクトールさん、フリックさん? どうしたの?」

「ぇえ!? あ、いや、その……な。ハハ……なんでもないぜ」

「ぁあー……うん、そうか、そうか。まさか、こんな裏技まで持っていたなんて、な……」

ビクトールが空笑いを浮かべる横で、フリックがしみじみと宙を見つめていた。

「あー、で、俺に力があるかってことだったな。まぁないこたぁないが、いったい何をさせる気だ?」

「あのね、人を運んでほしいの」

「人? なんだ、誰か足に怪我でもしたのか?」

「人だったらわざわざコイツに頼まなくても、ナナミとリオウで運べるんじゃないか?」

小柄で可愛いらしい二人だが、戦闘に関して頼りになることこの上ない実力をもっている。その鍛えられた肉体にかかれば、大の大人であっても運ぶことに支障はないだろう。
フリックはそれを指摘していた。
しかし、ナナミはブンブンと頭を振って、真剣な顔でフリックをのぞき込んだ。

「無理無理! 私とリオウの二人がかりでも運べないよ!! だって、運んでほしい人はね……」

「人は……?」

ナナミの真剣な様子に引きずられたフリックは、ゴクリとつばを飲み込んだ。
どれほど重い人物なのか?
ナナミは小さな小さな、囁くような声で呟いた。

「シュウさんなの」

「シュウぅ〜!?――うぐっ」

「あ、ちょっと!! 声が大きいよ!」

あまりにナナミが深刻そうに言うので誰を運ばせる気かと思えば、その人物とは縦にでかい訳でもなく横にでかい訳でもない、中肉中背のシュウ。
色々と覚悟していたビクトールは驚きに声を張り上げてしまった。
(ナナミがやる気なので拒否は出来ないだろうし、珍しいリオウの頼みは聞いてやりたいと思っていたから、頼みを受けることは決まっていたようなものだったのだ)
しかし、今のビクトールはナナミに全力で入れられた両手打ちが顔半分を覆っている。

「シュウ、秘密」

ナナミの隣で、リオウが人差し指を口に当てていた。
その仕草が表すのはまさしく『お静かに』のポーズだが、今の言葉からすると『シュウには秘密にしたいから静かに』ということだろう。
それを見て必死に顔を上下したビクトールに「本当に静かにしてよね」と言葉をかけながらナナミは手を引いた。
ビクトールはコソコソと話し出した。

「引き受けてやっても良いけどよ、シュウだったらリオウとナナミだけでも大丈夫じゃないか? リオウ一人でも運べると思うが……」

「そうだな。シュウはそこまででかい訳じゃないし……そもそも、シュウを運ぶ必要があるのか?」

軍師であるシュウが怪我をすることは少ない。
彼自身は自分の重要性を十分に理解しているので、戦場に出たとしても前線に立つことはなく、護衛の数もそれなりに用意している。優秀な軍師一人は、数百、数千の兵に勝るのだから。
そんなシュウが動けないほどの怪我をすることはこれまでに皆無だったし、そもそも今日も元気にこっちに無理難題を吹っ掛けてきたほどである。
なんだかんだで優秀な将であるビクトールとフリックの二人は、さらっと難題をクリアして、しょれっと副官に押しつけて、ガッツリ兵士を酷使した上で酒場で途中休憩していた訳である。名目は『相談』らしいのだが。

さて、そうして今日もシュウの元気な姿を見ている二人には、シュウを運ぶ必要性が感じられなかった。
ナナミ、今度は何をたくらんでいるんだ?という思いもなきにしもあらず。

「シュウさんね、最近休んでないみたいなの。私も気づかなかったんだけどもの凄ーく疲れてるみたいで、リオウがとっても心配してるんだ。だからどうしても休んでもらいたくて、二人でなんとかして眠らせようって思って。その時、ビクトールさんにシュウさんをベッドまで運んでほしいの。お願い!」

「お願い」

両手を組んでビクトールを見上げるナナミの横で、リオウも同じポーズで上目遣い。
気の良いビクトールは大いに感銘を受けて、豪快に笑った。

「おお、いいぜ! そーゆーことなら俺にまかせろ」

「お前ってヤツは……」

フリックが呆れた顔で相棒を見つめた。さっきまで訝しげにナナミを見ていたとは思えない反応の良さだったからだ。
だがしかし、この二人にこんな感じでお願いされれば、自分だって(内容を聞かないうちから)快諾しそうなことには全く気づいていないだろう。

「よかった〜。シュウさんって私も想像できないくらい疲れていると思うから、どれくらい重くなるのか分からなくって……ビクトールさんにお願いできて良かった!」

「お、おい、ナナミ、それはどういうことだ?」

明るい笑顔で不穏なことを呟いたナナミに、フリックが驚いたように声をかけた。





作戦3 秘密の水を入手せよ


「運んでくれる人も見つけたし、安心して秘密の水をゲットできるね」

「(こくん)」

「それにしても凄い数……これ全部、ちゃんと食堂にあるのかなぁ?」

ナナミが広げた紙の中に、びっしりと食材の名前が羅列していた。
聞いたこともないようなものがほとんどで、知っている食材をあげても何が出来上がるのか全く予想が出来ない。
爆裂料理を作るナナミが持っているとさらに不気味さが増すような気がするが、それはどこからどう見ても何かの料理のレシピだった。
ナナミの持つ紙を横からリオウがのぞき込んだ。

「ん……たぶん、ある」

「そっか〜」

なぜそのことがリオウに分かるのかナナミは聞かない。
不思議少年リオウとの付き合いの長いナナミならではだった。

二人がハイ・ヨー自慢の食堂に着くと、そこに人はまばらしかいなかった。
もう少しすれば昼時になるので、椅子が足りないほど人が来るだろう。ちょうど良い時間帯だった。

「ハイ・ヨーさん、こんにちは!」

「ハーイ! ナナミさん、リオウくん、よく来てくれたアル!」

中華鍋を豪快に振り、食材を豪快に宙に舞わせ、ついでに特徴的な前髪も豪快に振り乱しながらハイ・ヨーは言葉を返した。

「今ね、新しいレシピを試していたところアルよ! 試食してみるネ?」

「わぁ食べる食べる! ね」

「うん!」

リオウが元気よく声を出して返事をするなんて希なことだが、実はハイ・ヨーはよく耳にしていた。
リオウはハイ・ヨーの料理へかなり期待を寄せているので、新しいレシピと聞くと気分が高揚してこうした返事を返すことが多いのだ。
リオウとナナミは調理場に設けられた小さな机と椅子に腰掛けた。これはよく試食に来るこの姉弟のために用意された物である。

ハイ・ヨーが料理を盛りつけ、二人が感想を言いながら食べて、少し後。

「あ、そういえば、今日はハイ・ヨーさんにお願いがあったんだった」

「んん? なんアルか?」

ナナミは机の上に例の紙を置いた。

「これ、作れますか?」

「んー? こ、これは……!!」

レシピを見たハイ・ヨーは目玉が飛び出そうなほど驚いた。

「これ、どこで手に入れたアルか!?」

「え? これはホウアン先生にもらったんです」

「あの先生アルか……なるほど、薬として生き残っていたノね……まさかこんなに近くにあるとは……あの先生なら幻と言われたこのレシピを持っていてもおかしくないアル……うーん、もっと早く気づいていれば」

ナナミの答えを聞いたハイ・ヨーはブツブツと呟いた。
それはリオウがハイ・ヨーのコック服の裾を引っ張るまで続いた。

「あ、ごめんネ。このレシピは珍しいものだったから、凄く驚いてしまったアルよ。それで、ナナミさんのお願いはこれを作ってほしいってことアルね?」

「うん! これってもの凄い力を秘めた秘密の水なんでしょう? すっごく元気になる変わりに死んだように眠っちゃうってホウアン先生が言ってたよ」

「そうアルか!? ほ、他に何か言ってなかったアルか?」

「え、他に? うーん、これはもの凄く疲れた人のための薬だから、他の人は飲まない方がいいって言ってたかなぁ……それに、すっごーく不味いんだって。でも、良薬口に苦しって言うから、良い薬の証だって言われたよ」

ナナミの言葉をキラッキラした目で聞いていたハイ・ヨーは、だんだん身体がうずうずしていた。
ああ!早く作ってみたい!!

「よし、私に任せるアルよ! 少し複雑な行程があるみたいだから、すぐには出来ないアルが……明日には必ず完成させてみせるヨ!」

「ほんと!? ありがとう、ハイ・ヨーさん!」

「ありがとう」

二人は揃ってペコンと頭を下げた。
その様子を見てますますやる気になったハイ・ヨーは、レシピを片手にギュッと拳を握りしめた。

「オウ! 任せるアル!! ……で、今日の昼食はどうするカ?」

食のことなら彼に聞け。
姉弟の食事に限らず城内全員の料理を用意するハイ・ヨーは、そろそろお昼時だということに気づいていた。





作戦4 綿密な策を立てよう


「それで、お話とは何でしょう?」

食べながら口を開いたアップルだったが、租借中だというのに発音によどみはなかった。

お昼にアップルの部屋に訪れたナナミ・リオウ姉弟は、その手に大きなバスケットを持っていた。
バスケットの中には、テンションが上々↑になったハイ・ヨーが全力で作ったお料理たちが詰め込まれていた。
3人分には多すぎる量だったが、この場には人間が4人いたので十分な量だった。

「あの、何か大切なお話をなさるのでしたら、私は席を外しましょうか?」

「ううん、むしろクラウスさんにもいてもらったほうがいいな! 一緒に話を聞いてもらえますか?」

ナナミがじっとクラウスを見つめた。隣でリオウもじーっと見つめた。
遠慮していたクラウスも、二人の熱い視線にすぐに折れた。

「では、ご一緒させていただきます」

そして、ようやくクラウスも食事に手をつけた。
(さっきまで遠慮しまくっていた)

「ナナミさん、お話とは?」

これまでのやりとりを静かに見ていたアップルの前にあった食事は、綺麗さっぱり消えていた。
この短時間で食べたらしい(早っ!)

「うん、あのね、二人に策を考えてほしいんだ」

アップルとクラウスは、不思議そうな表情を浮かべた。
戦場でもないのに策とはなんぞや?という心境である。近々、戦に赴く予定も無いのでさらに疑問は増す。
(吹っ掛けられた戦いに予定も何も無いが、うちの優秀すぎる軍師さんの手にかかればそれさえ予想の範囲内らしい)
二人の視線を受けたナナミは、意気揚々と語り出した。

「その名も『シュウさん極楽大策戦!』だよ! 疲れ切ったシュウさんを元気満々にするために、私たちでゴスッと眠らせたいんだ。秘密の水を使えば半分死ぬ変わりにパワーがもりもり湧いてくるんだって! 秘密の水はハイ・ヨーさんにお願いしたし、シュウさんを運ぶのはビクトールさんにお願いしたから、あとは確実にシュウさんを眠らせるだけなんだ」

「なるほど……シュウ兄さんを眠らせるための策、ですか」

アップルは面白そうに目を細めた。
すでにその頭の中にはいくつかの策が浮かんでいるのかもしれない。

「それは良い案ですね。ここ最近のシュウ殿の仕事量を考えますと、かなりの疲労が溜まっていることが予想されます」

クラウスの柔らかい笑みが少し陰っていた。
シュウの疲労の度合いを思うと、自然と頭が下がる思いがする。という心境だった。
クラウスの言葉を聞いて一つ頷いたアップルは、席を立つとこの地でトップを張る姉弟のそばに来て、二人の手をギュッと握りしめた。

「ナナミさん、リオウくん」

「ん、なに?」

「……?」

アップルは熱いまなざしで二人を見つめ、艶やかな笑みを浮かべた。

「その策戦、全力で協力します。シュウ兄さんを眠らせる策なら任せて下さい。兄さんが必ず嵌る最高の策を用意します」

シュウ兄さん私が何度言っても休みをとってくれなくていつも心配していたんです。今まで今まで何回言っても何度言っても毎回毎度煙に巻かれて終わってしまっていたんで本当、この作戦は渡りに船ですありがとうございます。ここで一発、あの男を永眠級に眠らせてやりましょうええ私はやります。確かにシュウ兄さんがいないとこの軍が立ちゆかないというのも分かります、分かりますが一人無理をされるなんて妹弟子として悲しいです不甲斐ないんですちょっとムカっとくるんです。私たちの力、見せてやりましょう!!

「わぁ、アップルちゃんが協力してくれるなら百人力だよ! ありがとう」

「いいえ、一緒に頑張りましょうね」

アップルの背後に蠢く言葉の渦を関知しなかった(見えてても軽くスルーしてた?)ナナミが、嬉しそうに笑みを浮かべた。

「及ばずながら私も協力させていただきます。よろしくお願いしますね」

「ありがとう」

隣でしれーっとリオウの手をとったクラウスも、決意に満ちた目をしていた。
彼も彼で、上司をたいそう心配していたらしい。

副軍師の反乱、ここに発動。
ていうか、軍主が仕掛け人というまさかの反乱が始まっていた。






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