一行は密やかに言葉を交わしながら静かに移動していた。
「あれ? みんなして何してるの??」
そこに爆弾娘ことナナミが現れた。
その手に謎の物体?を持って。
「よう、ナナミ。お前こそ何してるんだ?」
「私はね〜、じゃーん! リオウに夜食を作ってたの!」
それが……夜食?(ていうか食べ物??)
個性豊かなメンツの心は一つになった。
ナナミの手に握られているのは可愛らしい小さな鍋だった。
容器は鍋だったのだが……中身はなんとも形容しがたいマーブル色していた。
しかも蓋の隙間から怪しい色の煙と不可解な香りも漂っている(マジで危ない!?)
とにかく、食べ物の色ではなかった。
「そ、そうか。とにかく夜は危ないから早く部屋に戻れよ」
「そうですよ。ナナミさんに何かあったらリオウさんが悲しみます」
ナナミの手の中の物のことはとりあえず黙殺し、フリックはナナミに注意を促した。
今や噂を知らない者はいないだろうから、夜が危険なことはナナミも知っているだろう。
アップルもフリックを援護するように声をかけた。
しかしナナミは逆に訝しげな顔をしてみんなを見ていた。
「えー私だけ除け者にするの? みんなは何をしてるの?」
「……これから、噂の真相を探りに行くんですよ」
「フィッチャー!」
「それ、私も行く!!」
理由を話そうとしてフィッチャーを諌めようとするがすでに遅く、ナナミは元気良く手を上げて立候補してきた。
(土鍋はどこに消えた……?謎)
その言葉を聞いてシュウは声をかける。
ナナミが聞いたらこう言い出すだろう、と思っていたがやはり予想通りだったと思いながら。
「ナナミ殿、危険かもしれませんので貴女は部屋にお戻り下さい」
「そうだぞ。遊びじゃないんだ」
「危険でもいい。私だって、遊びじゃない」
ナナミはすでにいつものようににこにことした笑顔ではなかった。
自分を止めようとしたシュウとフリックに向けて、真剣な眼差しを向けた。
「噂のせいで、軍が危なくなることがあるんでしょ? そのせいでリオウが危険になるなら、私はそれを止めたいの」
「……分かりました。着いて来て下さい」
「やったぁ!」
ナナミは真剣だった顔をすぐに笑顔に変えて喜んだ。
シュウは目を細めてその表情を眺めると、すぐに歩き出してしまった。
それに合わせて他の者たちも後に続く。
「おい、シュウ! いいのか?」
「シュウ兄さん、危険ではないのですか?」
こそこそとシュウに話しかけているのはフリックとアップルだった。
すでにナナミはビクトールと元気に漫才のような会話をしており、こちらの話は聞こえていないだろう。
シュウは眉根を寄せながら小さな声で返答した。
「ナナミ殿が今夜出歩いていた目的は、おそらく我々と同じだろう」
「? 夜食を作っていたというのは……」
「それも理由の一つだろうが、本来の目的は噂の解消だ」
「まさか、考えすぎじゃないのか?」
シュウの言葉が信じられないアップルとフリックは言葉を返す。
しかし今にも盛大な溜息を着きそうな顔でシュウは言葉を続ける。
「最近ナナミ殿の様子がおかしいとリオウ殿に言われていた。どうやら夜にあまり寝ていないようだと。どうやらその理由は、夜に出歩いて幽霊の正体を突き止めようとしていたらしいな」
そして結局止め切れなかった溜息を吐いた。
「彼女は最後までリオウ殿が軍主になることを止めていた。軍主は危険だからな。しかし今度はリオウ殿の命を守るために、少しでも軍の不安要素を解消したいと思ったのではないか」
シュウの言葉に、アップルとフリックは驚いた。
「まさかナナミさんがそこまで……」
「そうだな……リオウは俺たちのリーダーである前に、ナナミにとってはたった一人の大切な弟なんだ」
「我々の気づかなかった危険に気づき、お一人でなんとかされようとしていたのですな」
傍で聞いていたリドリーも神妙に頷きながら、そっとナナミのほうを見た。
ナナミはビクトールと小突き合い、ルックの嫌みに噛み付いている。
そんな明るい姿に隠されているが、誰よりもリオウのことを心配して不安と戦っているのはナナミだろう。
だからこそ危険にいち早く気づきこっそりと行動を起こしていた。
「一人でいるよりは我々と行動を共にした方が危険は少ない」
そう言ってシュウは無言で歩き出した。
それに着いて行く3人も静かだった。
後ろから、明るい話し声が聞こえていた。
「ここが、目的の場所なのか?」
「……ただ外に出ただけじゃないか」
「なぁ、酒場は目の前にあるんだし、酒でも飲もうぜ?」
「ビクトール、これから調査をするのだぞ。控えなさい」
「ホントお酒好きなんだね〜」
幽霊調査隊(仮名)の一行が着いた場所は、酒場の目の前の外だった。
夜も更けているので、外を歩く人間はいなかった。
「今は墓場には墓守がいますからね。おそらくそっちには行かずに外に出るでしょう」
「外で聞いたという報告もありますので」
ルックの不満の声にフィッチャーとアップルが揃って答えた。
それを聞いてもルックの渋面は直らなかったが。
「念のためだ、ルック。声が聞こえてきたら紋章でここに響かせることが出来るか」
「はぁ? なんで僕がそんなこと――」
「そうか、出来ないなら別にかまわない」
「出来ないとは言ってないだろ」
「では頼んだ」
「はぁ……やればいいんだろ」
ルックは諦めた顔でそっぽを向いた。
シュウはその瞬間にやりと笑う。
他の者たちもそのやり取りを聞いて苦笑いだ。
今回も、ルックの捻くれ根性を巧みに操るシュウに軍配が上がったようだ。
「……」
「…………」
「………………」
「……ぐぉー」
バシン
「イテ」
「寝るな」
あれから、しばらく後。
一行はその場に円陣を組んで座り込み、無言で酒盛りをしていた。
なぜなら来て5分も経たぬ内にビクトールの我慢が切れ、シュウに拝み倒して懇願して酒を持ってきたからだ。
なぜか人数分のグラスとレオナと共に。
大きな声を出さぬという条件で酒盛りを許可したが、次第に声が響くのを切々と待つようになり、無言の集団になってしまった。
(もちろん未成年組にはジュース)
「ふふふ、どうやら今日は噂の幽霊さんも寝ちまったんじゃないのかい?」
寝そうになってフリックに叩かれていたビクトールを見ながら、レオナはそう囁いた。
しかし軍師代表シュウは月を見上げ、静かにグラスを傾けながら返答した。
「いや、声が響くとしたらそろそろだろう」
「あーあ、早くリオウのところに戻りたいのに……」
「そういやリオウはどうしてるんだ?」
ナナミは飽きたような顔で手元の草をいじっている。
眠気を覚ますために話をすることにしたらしいビクトールはさっそくナナミに問いかけた。
それを聞いてリドリーもナナミに声をかけてきた。
「本日の戦闘でリオウ殿は怪我をされたと聞いていますが。大丈夫ですか?」
「あ、はい。ホウアン先生は大丈夫って言ってましたけど、今日はいちよう安静にしているようにって」
「そうか、それを聞いて少しは安心だな」
フリックは安心したように笑うが、傍で聞いていた鬼は目を光らせた。
「……お前たちのミスだぞ。しっかりリオウ殿を守れ」
「わ、悪かったよ」
「でもまさかリオウが敵に突っ込んでいくとは思わなくってな」
腐れ縁2人組が鬼に必死に弁解しているとかすかな空気の振動が伝わってきた。
〜〜 〜 〜
「! あ、声が聞こえてきた!!」
「何、本当か!?」
「やっとか!!」
ナナミの声に、不穏な空気を出していた者たちも一斉に耳に神経を集中させた。
「……て、何も聞こえねぇぞ!」
「お前の声のせいだろ、少し黙れ!」
「……あんたたち、どっちもどっちだよ」
「ルック!」
「はいはい」
騒ぐビクトールとフリックを、レオナは呆れた顔で見ていた。
シュウはこのままでは聞こえないと判断すると、ルックを呼んだ。
それに応えたルックはすでに紋章を輝かせていた。
風が舞った。
〜〜♪ 〜〜 〜 〜〜♪
aaa lala u si aa 〜 ♪ lalulu haaa la lulu 〜 ♪
その場を不思議な旋律が満たした。
音が空気にしみ込むように溶け、すーっと耳に入り込んでくる。
まるで何かの鳴き声のような音の羅列で、人の出している音とは思えなかった。
どの音楽とも似通っているようで全く異なっており、みなが初めて聞くと感じるような不思議な旋律だった。
天高く舞うような高音と地底に轟くような低音が上手く混在し、聞く者に陶酔させるような甘さがある。
それがしっとりと空間を見たし、心地よく体全体に響いていた。
この音と旋律は、歌と呼べるものだった。
「な、に……これ」
「これ、は」
ギリギリの理性でしっかりと紋章を発動させ続けているルックは、いつもの不機嫌な顔を打ち消し唖然とした表情で天空を見つめている。
軍師として強靭な理性を持つシュウも、顔を驚愕の表情をしながらもなんとか言葉を呟いた。
「……っ!」
「……!?」
アップルは虚空を見つめ、静かに涙を流した。
しかし泣いていることに気づかないほど耳に神経を集中させ、必死に歌を捕えようとしている。
フィッチャーは突然流れた涙に一瞬驚いたが、拭うことを忘れ目を閉じて歌を聞いている。
ビクトールもフリックもレオナもリドリーも惚けた顔をして空中を見つめながら、音を聞こうと必死だった。
「悲しい……?」
ポツリとレオナが言葉をこぼした。
その言葉を聞いて、他の者たちもこの歌に秘められた胸を締め付けるものの正体が分かった。
まるでその心が音になったかのように、歌に込められた悲しみの思い。
それがダイレクトに胸に響き、自分たちの感情を揺さぶっていた。
〜〜 〜
唐突に歌声は小さくなった。
紋章の発動が止まってしまい、音を拾っていないからだ。
(ルックがついに紋章を発動できないほど悦に入ってしまった訳ではなく、発動期間を限定していたからだ……とルックを弁護してみる)
しかしその場の者たちはいまだに体内で歌声が木霊しているように聞こえ、その音に酔っていた。
目を閉じ音の余韻に酔いしれる者や、ぼうっと虚空を見つめたままの者たちの中で、小さな声が響いた。
「…れ、……うの……だ」
歌声以外の音が聞こえたことに驚いた面々は、声の源を見てさらにギョッとした。
うっかり歌声の余韻も消え去った。
そこにはぼろぼろと惜しげもなく涙の大洪水を起こしているナナミがいた。
「ど、どうしたんだい、ナナミ」
「あの、そこまで泣くほどでしたか?」
近くにいた女性2人が話しかけるが、一向に涙が止まる気配がない。
むしろ涙の勢いが増したような気がする。
それに慌てたのは女性陣含め男性陣もだが、シュウは冷静な光を灯した目でナナミを見た。
「ナナミ殿? 先ほどの歌声に心当たりでもあるのですか?」
「本当か!?」
「……ていうか俺たちは真相解明に来たのに、ここで聞きほれていただけか?」
「あ……」
「……そうですな」
シュウはナナミの尋常でない反応に好機を見出した。
しかしフリックは今の行動が間違っていたことに気づき、遠い目をして呟いた。
それを聞いて『そういえばそうだった!』という表情をした者多数。
歌声の威力は半端なかった。
「この、ひっく、歌……っく。聞い、た、こと、ひっく……あ、る」
とりあえず大泣きレベルまで落ち着いたナナミが、そうみんなに言った。
(それでも涙が大量に流れていることには変わりないが)
「では、誰かが歌っていたということですか?」
「(こくん)」
聞き取りにくい言葉だったが、正確に理解したシュウが再度ナナミに尋ねた。
ナナミは頷いて肯定を表した。
そして少しずつ自分を落ち着けていき、涙も徐々に少なくなっていった。
皆は次のナナミの言葉を真剣な表情で待った。
(ついに、噂の幽霊の正体が)
(歌声の主とは、一体誰なんだ)
ナナミは大きな息を吐き一拍間を空けると、顔を上げて真剣な顔で皆を見ながら言った。
「これ、リオウの歌だよ」
「――!!?」
驚きに息を呑む音が誰ともなく聞こえた。
歌声を聴いた直後の時のように、驚愕に目を見開いている者ばかりだ。
「リオウが泣いてる。私、リオウのところに行かなくちゃ」
ナナミはぼうっとした目でそう言うと、すぐに走り出してしまった。
その場の者たちは目を合わせると無言で頷き、ナナミの後を追った。
噂の真相がこの先にある。
リオウの歌は捏造(という名の適当)
皆様が自由に不思議な歌っぽいものを想像していただけるといいかと思います。
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