※08:たくさんの涙(10つの運命)の裏話のようなものです。どちらを先に読んでも構いませんが、互いに若干のネタバレを含みます。




「……これで報告は以上です」
「そうか、ご苦労だったな」

とある地域の偵察に行っていたフィッチャーの報告を聞いたシュウはすぐに手元の書類に目を落とした。
新同盟軍として旗揚げし、何度か王国軍を退けたとはいえ、いまだに戦力の差は計り知れない。
その差を埋めるため情報を集め、戦力を集めることは新同盟軍が生き残るためには必要なことだ。
そして様々な地域の状況や戦力を把握するのに、フィッチャーという男は中々に有能で、仲間になってさっそくシュウに扱き使われていた。

「報告書は今日中に提出してくれ。それが終わったらまた頼みたいことがある」
「……はぁ、かしこまりました」

軍師は鬼だった。
(その人材のギリギリを見極め扱き使い搾り取っている)
フィッチャーは哀愁を漂わせながら、すでに諦めて受け入れていた。

「ああ、そういえば……軍師さんの耳に入れておきたい噂があるんですが」
「なんだ」

すでにシュウは右手は高速でペンを動かし、左手は俊敏に書類をめくっている。
神憑り的な処理能力を見せながら、その耳はフィッチャーの言葉を待っているようだ。
(凄い、凄すぎるぞ鬼軍師シュウ!……すでに“鬼軍師”の浮名は兵士たちや文官たちに親しまれている)

「どうやら……出るらしいですよ、この城! 王国軍に殺された兵士の霊が、夜な夜な呪いの声を響かせて『恨みを晴らしてくれ〜』と囁くらしいんです!」

フィッチャーは熱のこもった声でシュウに報告した。
この手の話があまり好きではないようで、どうにかしてほしいと全身でシュウに訴えていた。
しかしシュウはフィッチャーを一瞥(一瞬)すると、心のこもらない声で言った。

「フィッチャー……お前、報告書を提出したら今日は休んでいいぞ」
「ちょ、そんな変な人見るみたいな目を向けないで下さい!!」

シュウは一瞬だけ哀れんだ目線をフィッチャーに向けると、そのまま執務に戻った。
その一瞬の視線攻撃をクリティカルヒットさせたフィッチャーは、シュウの言葉の裏側をしっかり受け止めていた。

お前(頭が)疲れているんだろ、少し休みをやるよ
(今日だけだけどな……でも報告書はちゃんと提出しろ)

鬼にもかすかな慈悲があったらしい。
しかし小さな地域の報告とはいえ、報告書を作成するのに本来なら2,3日かかるということは彼の慈悲には引っかからなかったようだ。
姿勢を正したフィッチャーは、コホンと咳払いをしてその場の空気を変えると、また話し出した。

「とにかく、そんな噂があるみたいなんですよ。今は数人の兵士や下働きの間だけの話なんですけどね」
「……そうか」
「リッチモンドさんに話を聞いてみたら、どうやらこの軍が出来てからその話はあったみたいです。その時は『戦いの後は墓場から声が聞こえる』というものだったらしいですが」

シュウは今度こそ手を止めてフィッチャーの話を聞いていた。
『今は』ということは、その噂がこれから広がる可能性があるということだろう。
それにリッチモンドから話を聞いたということは、以前に調査依頼をしておき、その結果多少の信憑性がありそうだとこの男(フィッチャー)が判断したからこそこうして軍師の耳にも入れたということだ。
実はシュウはこの噂をすでに知っていた。
(軍のことを知らずに何が軍師か)
しかし夜中に『悲しそうな声を聞いた』とか『うめき声のようなものが聞こえた』と言われても、『それは誰かのいびきや近くに住む魔物の遠吠えではないのか?』と考えるのが普通だろう。
だからいつか消えるだろうとこの噂を放置していたが、フィッチャーが何か感じたというなら少し真剣に考えなければならない。

「どうやら少し噂が一人歩きしているようですが、実際に聞いた者の話によると『夜中に歌声が聞こえた』らしいです。それが『呪いの声の囁き』や『うめき声』などに変化していったようですね」

フィッチャーはそう言って報告を締めくくった。
さすが飄々としていながらもミューズで扱き使われていただけある。
(彼は扱き使われる人生なんだな……)
はじめはただ噂に恐怖しているような反応を見せながら、こうしてすでに裏を取り、『噂』としてではなく『事実』を報告してみせる手際の良さは相変わらずだった。
シュウは内心ニタリと笑う。
(こうしてフィッチャーは“使える人間”として日々シュウに扱き使われるようになるのである)
しかし話の内容は決して笑えるものではないだろう。

コンコン

「シュウ兄さん、アップルです」
「入れ」

その時、軽快なノック音と共に声が響いた。
アップルは数冊の本と紙束を抱えて軍師の執務室に入ってきた。
(今はまだ軍師の部屋は一つだ。さすがに寝室は別だが)

「失礼します。あら、フィッチャーさん。報告ですか? お疲れ様です」
「はい。お邪魔しています」

アップルはシュウの机の前に立つ男の姿を見て、驚くこともなく挨拶を交わす。
2人のこうした姿はよく見られるからだ。
アップルはすぐにシュウの机の傍に行くと、本や報告書で溢れている机の周りの僅かな空間を見つけて、手に持っていた本や紙束を置いた。

「兄さん、これが先ほど言っていた資料です」
「ああ、助かる――アップル、この城に出る幽霊の噂を知っているな?」

シュウはアップルに質問ではなく確認をしてきた。
それはアップルの軍師としての才を知っているからであり、軍師とは軍のことであれば何事でも把握していなければいけないからである。
特に噂話は軍の志気にも関係することがあるので、十分に注意しなければいけないことだ。

「はい。夜中に、殺された兵士の霊が出て呪いの声を響かせるそうですね。兵士の夫を亡くした女性が自殺し、霊になってすすり泣きしているという話も聞きましたが」

アップルはごく当たり前に返答した。
その声には『でも、ただの噂でしょう』という思いが込められている。
アップルがなぜそのような話を聞いてきたのかと不思議そうな眼差しをシュウに向けた。

「フィッチャー」
「アップルさん、実はですね――」

シュウが一声かけると、それを汲み取ったフィッチャーがアップルに今分かっている噂の事実を話し出した。 










「おいおい、俺たちを集めてどうしたんだ?」
「そうだな。今日は軍としての戦闘もあったし早く休みたいんだが……」
「軍師殿が我々を集めたということは、余程のことではありませんかな?」
「ちょっと、なんで僕まで呼んだんだ」

集められた面々は口々に不満を洩らすが、そんなことお構いなしのシュウは皆を一睨みして黙らせた。
(もともと恭順だったリドリーだけが将の鏡と言えるだろう)
ちなみにその場に居るのはビクトール、フリック、リドリー、ルック、シュウ、アップル、フィッチャーである。

「幽霊が出るという噂を知っているか?」
「幽霊の噂ぁ〜? いきなりどうしたんだ、シュウ」
「まさかそんなものいるわけないだろう」
「私は兵士たちがそのような話をしているのを聞いたことがありますな。ただの噂と思い聞き流したのですが」
「は? まさかそれを聞くためじゃないだろうね」

シュウの端的な質問に、それぞれ性格に合った回答が返された。
正しい返答が出来ているのはまたしてもリドリーだけではないだろうか。
シュウがアップルに目線を向けると、彼女は頷き一歩前に出た。

「実は現在この軍では『夜中に殺された兵士の幽霊が出る』という噂が大きくなり、そのせいで若干の被害が出ている状況なんです」
「ああ、夜間警備の兵士が腰を抜かしたって話を聞いたな」

アップルの言葉に思い当たる節があったフリックが声を出す。
他の者も何か気づくことがあったのか、考えた風で聞いた後言葉を発した。

「今じゃこの噂で持ちきりなんじゃないか? この城は。酒場でもその話ばっかりだぜ」
「……僕も何度か魔法で死人帰りが出来るか聞かれたよ。出来るわけないだろって答えたけどね」

ビクトールは苦笑いしながら、ルックは眉根を寄せ顔を歪めながら話した。
やはり各々この噂について聞いたことがあるようだった。
シュウは厳しい顔つきでこの場の者たちを見渡す。

「今は夜間勤務の実務に障害が出ているだけですんでいるが、これからどうなるかは分からん。これを好機と夜盗や暗殺者が来る可能性もある」

シュウの言葉に、今まで顔を緩めていた者は顔を引き締めた。
ただの噂と思っていたが、そう言われると確かにこの状況は危ないのではないかと気づいた。
今この場所には新同盟軍の本拠地として、同盟国の詳しい情報や重要人物が集まっている。
情報を盗まれるだけならともかく(それも大きな被害に繋がるが)万が一、リーダーであるリオウを暗殺でもされたら、生まれたてである新同盟軍も共に命を散らすことになるだろう。

「私たちのほうで何度か調査をしましたが、全く正体がつかめませんでした。しかもそのせいで文官たちも本当に幽霊ではないかと言い出す始末なんです」
「私も一緒に夜間警備をしたんですよ。それなのに聞こえてくるのは誰かさんのいびきに酒場から聞こえてくる謎の叫び声、それに……」
「フィッチャー」
「あ、すみません。とにかく、私たちでは真相解明に至らなかったというわけです。ただ『夜中に声が響くのは戦の後』ということは突き止めました」

シュウは愚痴になりだしたフィッチャーを一声で諌めた。
(人使いに慣れた男と使われ慣れた男の一幕である)
実はこの3人、フィッチャーの報告があってから事態を重く受け止め、調査に乗り出していた。
夜中に人を配置したり噂の出所を探したり城内に不審な者がいないか調べたり……しかし噂の幽霊の真相にはたどり着けなかった。
しかもその間に噂は拡大し、今や軍に止まらず少ない街の人間にまで知れ渡るようになった。
今はまだ噂の段階で済んでいるが、何かあったときに『この軍は呪われている』と言われるとこれからの軍の行動に大きな支障が出る。
それに先ほどシュウが言った夜盗や暗殺者のことも気にかかる。
噂のせいで警備が若干増している今を狙う者は、相当己の力に自信がある者だけだろうが、それすら噂を逆手にとって責められたら今の兵士たちの様子で止められるかどうか疑問である。
すでに噂は噂として以上の問題になっていた。

「私は一度、その声らしきものを聞いたことがありますが、近付いたと思ったらすぐに声が消えてしまいました」
「それがこの前の戦の時でしたので、声が聞こえるのは戦の後と予想したわけです。それにもしかしたら人の気配を察することが出来るのではないかと思いまして」
「そこで、君たちを呼んだんだ」

アップル、フィッチャーの言葉を受けて、ようやっと話の本題だという雰囲気を滲ませながらシュウは話し出す。
その顔は真剣そのものだ。

「他の人間では逃げられるかもしれない。気配を消して近付き、真相を暴いてくれ」

失敗は許されない
そう言外に伝えながらシュウは将たちを見つめた。
もはやこの噂の真相究明には早急に取り掛かる必要があった。
だからこそ凄腕の傭兵に熟練の将、能力が高い魔法士(危険な際は転移で逃げることも可能)の4人を呼んだのである。 

「分かりました。必ずやその幽霊の正体とやらを突き止めて参りましょう」
「おう。俺たちに任せときな」
「そうだな。一肌脱ぐか」
「……はぁ」

ルックだけは嫌そうに溜息をついているが、みなはシュウの言葉に頷いた。
今、波に乗り出した新同盟軍の問題は解決しておかなければならないという意識があった。
そして、それが大人たちの争いに担ぎ上げられたリーダーのためにもなる、と。

「では、まずは声の聞こやすい場所までご案内します」
「お、そんな所まで分かってんのか?」
「はい、まぁそれくらいなら調べがつきまして」
「それくらいしか分からなかったんだろ」
「はは、ルック。そうカリカリすんなよ」
「シュウ殿は噂の声を聞いたことがおありですか?」
「いえ、私は聞いたことがありません。今日聞けるといいのですが」

こうして一行は新同盟軍を騒がす噂の真相解明に乗り出した。 






時期的にはトゥーリバー防衛戦の後からグリンヒル潜入後くらい?を想定しています。
ゲームでは防衛戦すぐに潜入、という感じでしたがそこらへんは微妙に無視。
現実的に考えてそんな異常に早い展開ありえるのか…?という疑問もありますし。

ていうかみんなの口調分かりません…もう本当に妄想の産物。
そしてなんとなくシュウはリドリーには敬語かな〜と思いました。






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