朝食会は始終穏やかな様子で進む。
メンバーそれぞれが笑顔で会話を交わしつつ、寝ぼけ眼の可愛らしい軍主を目に入れることに余念がない。
無表情のくせに眠そうな雰囲気を纏い、たまにコクリと頭が下がる軍主の姿にみんなメロメロだ☆
こんなに美味しい食事を頂きながら敬愛する軍主の可愛い姿を見ることが出来るなんて、本当に同盟軍入って良かったーと皆が実感しながら食事を進めている時。
(末期!幹部みんな末期!!)

珍事件というものは唐突に訪れるモノである。


「ねぇ、じっちゃん」


不意に響いた声に、全ての者が会話を止めてその音源のほうを向いた。
(無言で食べていた者ももちろん胡乱気に視線を寄こしている)
なにしろその声が我らの愛する軍主様の声だから当然の反応だ!

「これまで本当に大変だったんだよ。これからも大変だとは思うけど、今までだって凄く辛くて悲しくて嫌なことがいっぱいいっぱいあったんだ」

そして皆の注目を集めている軍主様と言えば、そのことに全く気づいていなかった。
リオウは食事の手をしばし止めて、右手の甲を悲しげに見つめていた。
しかしそれよりも。
この場に居る者は皆、いつもは無口無表情のリオウがスラスラと多くの言葉を発し、いつも以上に表情を変えていることにかなりの衝撃を受けた。
そしてその言葉の内容に大人たちは動きを止め、こうして軍のトップに立たせてしまっていることに対する罪悪感を再び思い起こさせた。
誰もがいきなりのリオウの変化に戸惑いを隠せない中。
隣に座るナナミだけが真剣な様子でじーっとリオウを見つめていた。





ああ、今日の朝ご飯も美味しいな。
今日は朝食会の日だから、特にそう思うのかもしれない。
みんなが美味しそうに食べているのを見ると、美味しく感じちゃうよね。
それに本当にハイ・ヨーの料理は美味しいから、なおさら美味しいよ。
ああ、美味しいな。
美味しいな〜
おいしい……
お、いしいぃぃ……

ハッ

危ない危ない、また寝ちゃうところだった。
……見てないよね?
今ちょっと頭がふらついたようだったけど、誰も……見てないかな。
リオウはキョロキョロと周りを見渡した。
あ、みんな話をしながら食べてるみたいだし、大丈夫かな。
ほっとしながらまた食べ始めると、ナナミがニコニコ満面の笑みでこっちを向いた。

「ね、今日も美味しいね、リオウ」

うん。そうだね、ナナミ。
僕が頷きながらナナミのほうを見ると、ナナミは嬉しそうに笑っていた。
ああ、それにしても。
こうしてみんなでご飯を食べれるようになるなんて、前の僕には思いもよらなかったな。

リオウは食事の手を止め、そっと右手に宿る祖父との絆を見つめた。



ねぇ、じっちゃん。
これまで本当に大変だったんだよ。
これからも大変だとは思うけど、今までだって凄く辛くて悲しくて嫌なことがいっぱいいっぱいあったんだ。
キャロでじっちゃんとナナミとムクムクとジョウイと暮らしてた時は、あんなに穏やかで暖かくて幸せだったのに。
街の外にはたくさんの争いがあって、たくさんの人の血が流れていた。
悲しいよ、どうして戦うの?
苦しいよ、こんなことしたくない。
でも、キャロでは感じなかった嬉しいことだっていっぱいあった。
あの時は僕たち4人(と一匹)だけの生活だったけど、今ではたくさんの家族がいるんだ。
軍主になるように言われた時は、怖くて不安で、全てが恐ろしくて仕方がなかった。
だって僕が軍主になったのは、コレのせいだもんね……誰も僕自身を必要としてなかったんだよ。
その時はナナミとムクムクだけが、僕の支えだった。
僕だって、ナナミとムクムクを支えてあげたけどね。

でも、今ではたくさんの仲間がいる……家族がいるんだ。


ビクトールはとても大きくて強くて、凄く頼りになる。最初に僕が外で出会った今の仲間なんだ。
熊みないだけど、僕は熊好きだからビクトールも結構好き。

フリックは強くて格好いいんだ。美青年って言うんだって。
いつも優しく見守ってくれて、困った時には助けてくれる頼れるお兄さんなんだよ。

アップルはシュウをとても尊敬していて、僕のことも助けてくれる可愛い軍師見習いさん。
しっかりしてて、心の強い素敵な女の子なんだ。

シュウはとても頭が良くて、格好良くて、凄く頼りになる僕の軍師なんだ。いつも助けてもらってる。
厳しいことを言われることもあるけど、本当は凄く優しいんだって僕は知ってるんだ。

ルックは綺麗な顔をしているのに、いつも仏頂面をしてる石版の守主なんだ。せっかく格好いいのに勿体ないよね。
実はね、旅の後にルックに出迎えてもらえるのが一番嬉しいんだ。だって、他の人は忙しくて会えないこともあるけど、ルックは必ず石版の前に居て「おかえり」って言ってくれる。

リドリーさんはコボルト族の兵士を纏める将軍なんだ。凛々しくて毅然としてて、仲間を守るために凄く必死な人。
僕はとても尊敬してる。たぶん、生き方が格好いいってこういう人のことを言うんだ。

キバ将軍は始めは敵だったけど、僕の説得を聞いてくれた心の広い人なんだ。
仲間になってからは暖かい言葉をくれたり、諭してくれることも多いよ。実はね、こっそり「父親が居たらこんな感じかな」って思ってるんだ。

クラウスも最初は敵だったけど、最初から僕のことを認めてくれてた。
仲間になってからは彼の優しいところをたくさん知った。僕はクラウスの笑顔を見ると安心しちゃうんだ。

テレーズさんは、たくさんの人に慕われてる。
責任感が強くて、自分に厳しいけど他の人には凄く優しくて……凄く綺麗だから、僕は憧れてるんだ。


ここに居る人だけでも、こんなに素敵な人ばかりなんだよ。
ねぇ、僕って幸せ者でしょう。
辛いことも悲しいことも苦しいことも多いけど、こうしてたくさんの人たちと一緒にいられることは凄く嬉しいよ。
僕は……みんなのことが好きなんだ。



じっちゃんへに語りかけながら、少し恥ずかしくなったリオウは右手から視線を外すと再び食事を続けようとした。

「?」

あれ、どうしてこんなに静かなの??
先ほどまでは回想に耽っていて気づかなかったが、周りがとても静かなことを疑問に思ったリオウはふと顔を上げた。
さっきまでみんな話しながら食べてたのに、どうしたのかな?と思いながら。

「??」

え、みんなどうしたの? 顔が真っ赤だよ。
顔を上げたリオウの目に映ったのは、顔を赤く染めた他のメンバーだった。
唖然とした表情で顔全体を真っ赤っかにしながらこちらを見つめる者
呻き声を押し殺すようにしながら口に手を当てて俯く者(もちろん顔は真っ赤)
何かを耐えるように震えながら赤く染まった顔を両手で隠す者
顔を赤く染めながらも視線をうろうろと彷徨わせる者
とにかくみんなが顔を赤くしている。
大丈夫かな、もしかして、みんな風邪引いたのかな?
みんなが風邪なんて嫌だな、悲しいよ。みんないつも頑張ってくれてるのに、なんで?

「り、リオウ殿……?」

いつもは冷静で表情に変化が無いシュウの顔でさえも真っ赤に染まり、戸惑いがちにこちらを見ている。
どうしたのかな? シュウもまさか、風邪??

「い、いや……風邪ではないが……。リオウ殿、今日はどうかしましたか?」

え、今日はどうかしたって……どうもしないけど……

「もしや、リオウ殿が風邪を引いておられるのでは」

そんなことないよ。だって僕、今まで風邪引いたことないんだよね!
……て、あれ? シュウは僕の心の声が聞こえるの?
なんで口べたの僕にこんなに上手く返事が出来るの??

「…………」

シュウは突然、驚いたように固まってしまった。
その合間に、赤い顔を若干納めた(それでも血色の良すぎる顔ではある)クラウスが、躊躇いがちにリオウに言葉をかけた。

「あの……リオウ殿。先ほどから全て声に出しておられますが……」

「……え?」

吃驚して固まったリオウに、追い打ちのようにクラウスは言葉を続けた。

「『ねぇ、じっちゃん』と話し始めてからずっと……ですが」
「う、嘘……え、全部? な、ナナミ、僕、声に出してた??」
「うん。今もしっかり声に出てるよ?」

いつもならコクン?と首を傾げるだけで問いかけるリオウは、言葉と共にナナミに問いかけていた。
ナナミだけがいつもと変わらず、にこにこと笑顔でリオウのほうを見つめている。

「な、なんで、声に出ちゃうの? いつもは思うだけで終わってるのに、って、あ! 今も勝手に声が……じゃ、じゃあみんな僕の言葉、聞いちゃったの? みんなのこと、じっちゃんに話してて、みんなのこと好きだよって……あ……」

リオウはあたふたと焦ったようにうろうろと視線を漂わせながら、零れるように言葉を発していた。
その見慣れない姿に驚きながらも、この場の者たちは珍しい光景をしっかり目に焼き付けていた。
そして再びの愛しの軍主からの可愛い告白に、皆がまたしても頬を染めた。
それを見たリオウは、またしても自分が恥ずかしいコトを暴露してしまったことに気づき、真っ赤になって両手で口を押さえた。
そして、その姿を見た他の者たちはさらに顔を赤く染めた(ウチの軍主、超可愛いんですけどー!!←内心の声)
そしてそして、それを見たリオウはさらに顔を赤くして、涙目になった。
そしてそしてそして……(悪循環)

「恥ずかしい、なんで、どうして、勝手に……」

今もリオウの混乱の様子が両手の間から零れてきていた。
すでに見ているこちらが可哀想になるほど顔を赤く染めて、瞳はいまにも涙が零れそうなほど潤んでいる。
(そしてそれに合わせて他の者たちも頭部に血が集まってきている……つまり赤面)
もうどうしようもない悪循環の果て、ついに耐えきれなくなった者がその場に立ち上がった。



ガッターン!


バタバタバタ


ドガン!! バゴン!!


パタパタパタパタ



リオウは逃げ出した。
両手で口を押さえて、真っ赤な顔で涙目になりながら。
(その姿を見て、扉の前に立っていた兵士もすでに赤面状態で固まったている)

こうして嬉し恥ずかし軍主の大変貌、軍の大混乱の一日は始まったのだった。






書き分けようと努力はしているのですが、どう頑張っても転生2主と被ります。
リオウは『幼い』『純粋』『素直』な子を目指しています(実はそれにも隠れた理由があるのですが…)
何が大変って、一人一人に賛辞を考えるのが大変でした。たぶんこれからも苦しみそうです。
気をつけないと、みんな似たような褒め言葉になります……語彙が少ない証拠ですね。
頑張ります。楽しんで頂けると嬉しいです。






←  ■  →