朝食の間(専用室かよ!)から飛び出したリオウは、両手でしっかりと口を押さえたまま爆走していた。
とにかく思ったことが全て口からぽろぽろこぼれ落ちてしまうのだ。
それは両手で押さえようが変わらず、必死に手で遮っているというのに口がむずむずと気持ち悪い。

どうしてこんなことに……!!

と、どんなに嘆こうが今の状況が良くなるはずもない。
先ほどのメンバーに本音を聞かれてしまっただけでも脳が沸騰するように恥ずかしかった。
これ以上痴態を曝す前に、どこか人の居ない場所へ行こうと、リオウは走る足に力を込めた。
走る先、目の前でエレベーターが止まった。

よし、これに乗ってそのまま僕の部屋まで行って閉じこもろう!!

リオウはそう決めるとエレベーターに向かって突進していった。
警備の兵士に命を出せば、部屋に入れる者は少ない。
それこそ姉のナナミや、非常事態に限り軍師のシュウや幹部の数名くらいだ。
姉のナナミに本音を聞かれることは恥ずかしくないし(少しは躊躇うけど他の人ほどではない)
幹部の者でも絶対に入れるな、と涙ながらに兵士に訴えれば、きっと入れないでいてくれるだろう。
(リオウは兵士に直接命を下すことが少ないので、命を下した時には兵士たちが全力で叶えてくれる)

開くエレベーターを見て安心しきったリオウは、そのままほっと息をつきながら中に滑り込んだ。

よかった、これでもう大丈夫だ……!



ポスン



「――え?」


「おや、リオウ殿。そんなに急いでどうされたのです?」

柔らかな衝撃と共に、リオウは何かに身を預けていた。
すでに安心しきっていたリオウは呆然としながら目を瞬かせた。
その時溢れていた雫の一つが零れ、スーッと滑り落ちていたことにも気づかずに。
目の前が真っ赤に染まり、リオウには何がなんだか分からない。
そして驚きに思考を固めたまま、リオウは(無防備にも)視線をそっと持ち上げた。

「「!!」」

「リオウ殿、どうかなさったのですか!?」
「どこかお怪我でも……体の具合でも悪いのですか!?」

驚いたのは、エレベーターに乗っていた2人だった。
そろそろ朝食会も終わるかと思い、意気揚々と愛しの軍主殿に朝の挨拶をしようと思っていた。
そしてさぁ行くぞ!と気合いを入れた所に、その軍主本人が飛び込んできたのだ。
(しかもいつもはそばにわらわらといる取り巻き(という名のライバル)は一人もいない)

これは日頃の行いが良い我々への神のプレゼントか!?(誇大妄想)

と喜んでいたところ、その軍主殿ときたら頬を真っ赤に染めて涙を流しているのだ。
喜びが一瞬で心配一色に変わってしまった。

「こんなに顔を赤らめて……一体何事ですか?」

リオウを抱き留めた(そしてこれ幸いとそのままの)カミューは、リオウの頬をそっと撫でた。
美麗な顔に心配そうな表情を浮かべ、声に多分の甘さを含み囁くようにしっとりと問いかけた。
さらりと頬にかかる髪と、臥せられた瞳がその美貌を際立て、色気のある憂いの表情を作り出している。
(本気モードだ!)

「リオウ殿……我らのことももっとお頼り下さい」

マイクロトフはすぐさま片膝を付き、リオウの視線に合わせて心配気に懇願した。
そっとリオウの片手を持ち上げ、両手で握りしめている。
大切な軍主殿が何か無理をしてこういった状態になってしまったのではないか、と彼は危惧しているのだ。
真摯な眼差しで熱く見つめるマイクロトフの視線は、向けられれば身を焦がすほどの敬愛が込められている。


ああ、こんなにも僕は思われているんだ。
カミューさんも、マイクロトフさんも、僕には比べがつかないほど素敵な人たちなのに。
カミューさんは男の人なのにこんなに綺麗で、その仕草もとても気品に満ちている。
剣を持ち騎士として立つ姿は流麗で、その背に守られると安堵しか抱かない。
マイクロトフさんはとても真っ直ぐで何事にも一生懸命な人だ。いつも背筋を伸ばして歩く姿は凄く格好良い。
守られていると不安なんて感じることがない、大きな人。

やっぱり、好きだなぁこの軍が。
僕は……この人たちのことが好きだな。


2人の心配そうな眼差しを受け、リオウは状況を忘れて思考に耽った。
いつも無言のリオウは、こうしていつも思考に囚われるせいで無言なのだ。
(人の話を聞いていないわけではないが)

しかし今回は状況が悪すぎた。
リオウの思考はそのまま遠慮無く声となってその場に響いているのだ。
面と向かって明け透けな賛辞を受けた2人の衝撃は計り知れなかった。
(しかも賛辞する時は気づかずに本人の目を覗き込んでいたのだから破壊力は抜群だ)

「リ、オウ殿……」
「……」

いつも柔和な笑顔のポーカーフェイスを崩さないカミューは、うっすら顔を赤らめ唖然とした表情で掠れた声を出した。
いつもキリリとした真面目な表情を貫き通すマイクロトフは、盛大に顔を真っ赤に染めて口を開いたまま固まっていた。

「……あ!!」

また僕は思ったことを全部口から……!!

すぐに両手で口を押さえたリオウの表情も、2人に負けず劣らず紅色に染まった。
(せっかく少し赤みが治まっていたのに逆戻り)
同時にバッと2人から離れたが、背にはすでに閉まったエレベーターのドアがあった。
異常に顔に熱を登らせた3人が見つめ合うエレベーターの小さな個室内。
先ほどよりもさらに悪くなった状況に、リオウは目を回しそうになった。

どうしようどうしようどうしようどうしよう

ぐるぐると一つの単語が回る思考は、口から微かに漏れ出て青赤コンビにも届いている。
(しかしそれを認識できるほど2人は冷静ではない)
またしてもじんわりと涙を浮かばせたリオウに、やっと微量の理性を取り戻した大人2人が声をかけようと口を開いた。
もしかしなくても自分たちのせいで軍主殿を泣かせるなんてそんなこと出来ない!という信念が巨大な衝撃の余波に勝ったのだが。

「「リオウ殿――」」



カシャー



「おや、人が――ごふっ!」

「ご、ごめんなさい!!」

運悪く(運良く?)エレベーターのボタンを押したフィッチャーは、リオウの突撃を絶好のポイントで受け止めた。
ちょうど良く胸部でリオウの頭突きを喰らったのだ、その壮絶な痛みは想像に難くない。
しかしそんなこと気にしちゃいられないリオウは一言謝るとまた走り出した。

もう嫌だどうなってるのコレ!!

リオウの小さな嘆きの言葉と共に、砂埃が舞っていく。
その顔を朱色に染め上げ、うっすらと目に水の膜を張りながら、両手で口を押さえてリオウは走る。


結局、リオウはまた振り出しに戻ったのだった。






次の被害者(むしろ幸運者)は騎士コンビです。
好きなんです、騎士コンビ。好きなんです、美青年(本音)

次はどうしましょうか……仲間が108人って多すぎですよ……(そこが魅力なんですが)






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