「ねぇねぇリオウ! この前綺麗な花畑を見つけたから、リオウにも見せてあげる!」

元気な声で僕に話しかけてくるのは、この前僕のお姉さんになったナナミだ。

……まぁ、この世界が本当に“そう”だとしたら、こうなるよね

ナナミは僕の返事を待つことなく、あれこれといろんなことを楽しそうに話している。

今日の朝ご飯、美味しかったね
そういえば道場の裏のお花、もう咲いてたよ
今日はお天気がいいから洗濯物もよく乾くだろうね
風が気持ちいいね
あ、あの雲なんだかリオウにそっくり!あっちはゲンカクじいちゃん!

ナナミの話はとても面白い。
僕がこれまで生活していた森は穏やかでとてもゆったりしていたけど、この家は明るくて毎日がきらきらしていた。 





僕がゲンカク……じいちゃん(さん、と呼ぼうか迷った)に連れてこられたのは、ある小さな街だった。

えーと、この街の名前はなんだったっけ?

僕が不思議そうに街を見渡しているのが分かったのか、ゲンカク…じいちゃんは小さな声で教えてくれた。


「ここはキャロの街だ」


ああ、そうだった。
そう言われると様々な記憶が蘇る。
そうして僕が色々思い出そうと頑張っていると、もう街の外れの道場についたらしい。


「ゲンカクじいちゃん!」

「こら。夜にそんなに大きな声を出しちゃいかん」

「大丈夫よ! 街からこーんなに離れてるんだから」


元気な声で道場から飛び出してきたのは、小さな少女だった。
小さいといっても、僕より大きいのだけれど。
その少女は手を引かれていた僕に気が付いたのか、大きな目をきょとりと丸めて僕を見てきた。


「この子、どうしたの?」

「新しい家族だよ」


ゲンカクじいちゃんは暖かい声を出して、言った。
それを聞いて少女は目を丸めて驚いている。
このままじゃ、目が落ちちゃうんじゃないかな?って心配になった。


「ホント!?」

「ああ。ナナミの弟だ」

「弟!」

「そうだよ。ナナミは今日からお姉ちゃんだ」


少女−ナナミちゃんは、驚いたような嬉しいようなでもちょっとだけ悲しいようなとても不思議な顔をした。
ゲンカクじいちゃんはそっと僕を前に押し出した。

そうだ!ナナミちゃんにも僕の名前を教えてあげよう!

僕は聖獣に付けてもらった名前が好きだったし(たとえあちらでは公式名だったとしても、関係ない)ナナミちゃんは僕のお姉ちゃんになったんだから、仲良くなりたいと思った。
僕はゲンカクじいちゃんに名乗った時のように、ナナミちゃんをじっと見つめた。


「リオウ……です」


あ、危ない……ずっと使ってなかったから敬語のこと忘れてた!
ああ!さっきゲンカクじいちゃんに名前を教えた時は敬語つけてなかった!

僕は名前を名乗った後、全然関係ないことで頭を悩ませてしまった。
でも、あの森に居る時は言葉は必要なかったんだから仕方ないよね?
逆に今でも言葉をちゃんと話せてよかった。
たまに鳥たちと会話していたおかげだろうな。

僕がそうやって脱線したことを考えていると、目の前のナナミちゃんはやっとまた元気になった。
僕の手を掴んで、ぶんぶん振りながら笑顔で言った。


「私はナナミ! よろしくね、リオウ!!」

「……うん。ナナミちゃん」

「もう! 姉弟なんだから、ナナミって呼んでよ!」

「……ナナミ」

「うん。よろしい!」


ナナミちゃん……ナナミの笑顔はとっても元気で明るくてキラキラしていた。
まるで顔から暖かい何かが伝わってくるみたいだった。
瞳にはさっきみたいな悲しそうな様子はもうない。
僕はそれが嬉しくなって、ナナミの真似をしてにっこり笑ってみた。

あ、僕になってから初めて笑ったかもしれない

そう思ったのは、目の前のナナミにだけではなく横で見ていたゲンカクじいちゃんももの凄く驚いた顔をしていたからだ。
僕の顔を見つめたまま、目を見開いて、ちょっぴり口も開いたまま固まってしまった。

なにそれ。ちょっとその反応酷くない? 





ゲンカクじいちゃんの子どもになってから(なんだか恥ずかしいな)僕の生活は激変した。
早起きして、朝稽古をして、朝食を一緒に作って……そうやって生活するのは僕は初めてだ。
感覚的には久しぶりの集団生活で、なんだかとても楽しかった。

あの森に住んでいた頃は、好きな時に起きて、食べて、遊んで、寝て、を繰り返してた。
たまに大切なコトをみんなで集まってする以外は、基本的に自由だった。
(集まってすることと言えば、新入生を迎えたり、夜空の星を見上げたり、死んでしまったこのお墓を作ったり、色々)
僕はいつも、物知りな亀にお話を聞いたり、足の速い狼と競争したり、木登りの上手な猿と遊んだり、歌声が綺麗な小鳥たちと歌ったりしていた。
僕はあの森にいるたった一人の人間だったから、みんな僕に興味があったみたい。
みんな得意なことを僕に教えてあげようとしてくれた。
毎日大変だったけど、すごく楽しかった。

話がそれてしまったけど、とにかく自由気ままに生きていた僕はこの生活に慣れるまで大変だった。
朝寝坊してしまうことも、ご飯の時間を忘れて森の中でぼーっとしてしまうことも、稽古の途中なのに小鳥たちと歌ってしまうこともあった。
だけど、朝寝坊を起こしてくれるのも僕を見つけ出してくれるのもナナミだし、ゲンカクじいちゃんは僕の歌を聴いて上手だなって言ってくれた。
少しずつ少しずつ僕はゲンカクじいちゃんとナナミとの生活に慣れ、少しずつ少しずつ二人と家族になっていった。
今ではすっかり二人のことが大好きで大切になってる。
でも、ナナミは結構お転婆だから、僕が守ってあげなきゃね。
大切なじいちゃんとナナミを、僕は守っていきたいって思ったんだ。 










物語の道筋であっても、道は人の心によって成されていく

リオウが二人を大切に想い

ナナミが二人を大切に想い

ゲンカクが二人を大切に想う

これが、そんな三人の新しい家族が生まれた時のお話。





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