聖獣との生活はとても穏やかなものだった。
彼(いや、彼女?)は本当に聖獣なのかもしれない。
だって森の奥深くに済み、他の動物たちに慕われ、自然に愛されていた。
僕がこの森で一番最初に教えられた事は、食べ物のことだった。
僕が食べるものは、周りの植物に必要最低限だけお願いして貰うように言われた。
僕はいつもその言葉を守った。
なんだかそう言われると、本当に植物たちの気持ちが伝わってくる気がして不思議だった。

ねぇ、ちょっとだけもらっていい?

そう思いながら植物を撫でると、さわさわと柔らかい風が吹いてくる。
時にはタイミング良くぽつりと木の実が落ちてくることもあった。
いびつな形をした木の実、とっても苦い果物、変な色をした花の蜜、それらが僕の口に消えていった。
さて、木の実や果物だけでよく生きていけたな、と誰もが思うかもしれない。
しかしこの時の僕は、それらしか口に出来なかったとも言える。

なんで、こんなに小さいんだろう

何をするにも余計に時間と力がいる。
僕が聖獣に連れられていなかったら、おそらくすぐに森の外の動物にぱくりと食べられていただろう。
推定年齢2〜3歳。
小さい。本当に小さい。身体の全てが小さい。
こんな年齢に、ちゃんと調理出来ているのか分からない野戦料理を口にするわけにはいかなかった。
それに、せっかく仲良くなった動物たちを食べるなんて、今の僕には無理だ。
まぁ木の実や果物には凄く栄養価の高い物があったので、むしろ栄養の取りすぎだったかもしれない。
僕は森の中ですくすくと成長していたからね。

さて、聖獣と動物たちと暮らし初めていくらか経った時(正確な年数は分からない。数えていなかったから)僕は小さな魔物と出会った。
不思議なことにこの森には魔物はいなかったので、森の外からやってきたのだろう。
その魔物は虫の息で、絶望的とも言える傷を負っていた。
ふさふさだっただろう茶色い毛には血がこびりつき、ごわごわとしていて抱き心地が気持ち悪かった。

抱き心地が気持ち悪い?

どうしてそう思ったのだろう、と思ったが理由はすぐ分かった。
気づかないうちに僕は森の外れを後にして走り出していたからだ。
聖獣の居る森の奥へ、この小さな魔物を抱いて。

僕は、何をしているんだろう?

疑問に思った。
小さい魔物と言っても、僕自身が小さいので、それは重労働だった。
すぐに息が切れ、喉から血の味が登ってきた。
それでも、足は止まらなかった。 





無表情で何も言わずに立ちつくす僕に、聖獣は何も言わなかった。
何も言わずに、僕の腕の中の小さな魔物にその口を寄せた。

ふぅ

その口から出てくる吐息は、僕にも降りかかり、身体がぽかぽか温かくなるのが分かった。
そして少しずつ手の中の小さな魔物も、ぽかぽかと温かくなっていった。
僕が聖獣に目を向けると、聖獣はとても暖かくてくすぐったい眼差しで僕を見ていた。


『なは、つけたのか』


僕は嬉しくなった。
この森にいる動物は、みな名前を持っていた。
名前を持たない動物がこの森にはいないのだ。
(森の外の動物や魔物も持つような種族名ではなく、本当に、その動物だけの名前)
ある日いきなりやってくる動物(僕は心の中で新入生と呼んでいた)にもすでに名前があった。
新入生はみな、はじめに聖獣の前にきて名を名乗らなければならない。
名乗れない動物は今までにいなかった。
だからおそらく、名前を持たない動物はこの森には入れない。
だけど、名前さえあればこの森に居ることが出来る。

この森は天国なのかな

そう何度も思ってしまうほど、この森は穏やかで争いがない。
だから聖獣が名前を聞いたと言うことは、この小さな魔物が森に住む許可が与えられたということだった。
僕は新入生がいつもするように、しっかりと聖獣の瞳を見つめた。
その腕は大切そうに小さな魔物を抱きしめて。


『そうか。むくむくか』


聖獣は、常にない様子で面白そうに瞳を輝かせながらそう呟いた。
聖獣が暖かで慈愛に溢れた瞳以外の表情を表すことは珍しい。
さわさわと周りの植物たちもさざめいている。

そ、そんなに変な名前かな?

いつも無表情で感情が希薄な僕も、少し動揺した。
だってこの小さな魔物を見た時、思ったんだ。

この血が付いていなければ、むくむくしてて暖かそうだな

今はまだ乾いた血が付いていてごわごわしてるけど、洗い流して乾かしたらきっとそうなるに違いない!
僕がそう思っていたのが伝わったのか、聖獣はまたいつものように穏やかな瞳で言った。


『あらって、あげなさい』


僕はまた、駆け出した。
でもさっきとは違って、その足はスキップ混じりで軽やかなものだったのだろう。
すれ違う動物たちが驚いた顔をしながら、でも嬉しそうな顔をしながら、僕を見つめていた。

もう、この腕の中の小さな生き物は、とても暖かかった。 





これが、この先もずっと一緒にいる小さな友だちとの出会いのお話。

ねえ、ムクムクって名前、そんなに可笑しいかな? 






※公式サイトによると、原作時にムクムクは6歳らしいです。
この時の2主が推定年齢3歳、原作時の2主が推定年齢15歳、とするとこの設定のムクムクは原作時12歳となります。 原作と大幅に違いますが、設定と思ってご了承下さい






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