■■ ズッコケナイ3人組の執務風景 ■■



「……」


にこにこ


「…………」


にこにこにこにこ


「………………主上」


「なんだ、執務はしているぞ」


恐ろしいほどの満面の笑みを浮かべこちらを見てくる主に、景麒は困惑した眼差しを向けた。
もちろん、その石像のように凝り固まった無表情に変化はない。
しかし彼にしては珍しく、全身で『どうすればいいんだ』オーラが出ていた。


にこにこにやにこにこにやにやにや


景麒が困ったオーラを出していようが、主の嫌らしい笑みに変化はない。
(ちょ、嫌らしいって酷い!!)

手はいつもと変わらないペースで動いているのに、なぜコチラを凝視することが出来るのか。
主のアリエナーイ技の数々は、いまだ己が把握できないほど多くあるらしい。

景麒は困惑の中に数滴残された理性で、主の事を知ろうと必死だった。
これぞ悲しき?麒麟の性。


にやにやにやにや


もう陽子は隠すことなくニヤニヤしていた。
さっきまでは見た目(だけは)ニコニコさせていたのに、内心と見た目がすっかり逆転している。
そんな主従の応酬を見てため息混じりに声をかけたのは、彼らと共にいたもう一人だった。


「……主上、台補が困惑してらっしゃいます。ご自身がきちんと執務をしてらっしゃるのは大変結構なことですが、逆に台補の執務のお邪魔になるようでは意味がありませんよ」


「……はーーい」


「お返事は短く元気にはっきりと仰いますよう」


「はい!!」


陽子は右手をピシリと挙げながらその場にシュバッと立ち上がった。
浩瀚は満足そうな笑みを浮かべながらうんうんと頷いた。
(どこから見ても小学校低学年の教師と生徒の図である)

そんな2人を尻目に、景麒はさっさと執務に戻っていた。
やっと怪しい視線から解放された〜と思っていることは、その無表情加減からも明らかだ。
(ほんの少しだけ安心したように眉が下がっている。ほんの少しだけ)

陽子の奇っ怪な表情も収まり、浩瀚が書簡を手に口を開いた。


「さて、先日の金波宮での事件のことですが――」


「お待ち下さい。ここ最近、事件などありましたか」


「……」

「……」


「先日、祭典を無事終了させたばかりではありませんでしたか? この頃は主上も珍しく大人しくされていたと記憶しているのですが」


無言で己を凝視してくる二人に、景麒は不審そうな目を向けながらもいたって普通。
いつも通りである。


「……ナルホド」


「誰もお話にならなかったのですね……ああ、そういえばこうして我々が一つ所で執務を共にするのもアレ以来でしたか……」


うんうんと頷く陽子に、空中に視線を向けながら納得した雰囲気を醸し出す浩瀚。
今日は『執務にも潤いと変化を!!』と訴えた陽子により生み出された執務ローテーションの中でも、三人が揃って執務を行う日である。
ちなみに陽子の予定帳には【慶東国エンジェルズ☆集合日】と書かれている。
景麒はますます疑惑に満ちた目を彼らに向けた。


「主上、冢宰、何の話をしているのですか?」


「……景麒。世の中には知らない方が幸せなこともある。……そう、蓬莱ではこういうことを『知らぬが仏』と言うんだ。至言だな」


「しかし……」


「台補、主上の仰る通りでございます。台補のためを思うならば、このことは知らぬ方が良いでしょう。しかしどうしてもお知りになりたいのなら、まずは黄医に訪ねられては如何ですか? 彼が良いと判断するならばこのことについて話してもらえるはずです。台補のことを一番知っているのは黄医の稟医師でしょうから」


「……少し、休憩して参ります」


景麒はすぐさま立ち上がり、部屋を後にした。
もちろんその行き先は稟医師のいる場所だろう。


「浩瀚も人が悪いな。あんな言い方をすれば、誰しも知りたくなるに決まっているじゃないか」


「ふふ。そう言いつつ主上、なぜお立ちになられたのですか?」


「はは。それは冢宰にも言えることではないか? ……というわけで執務は一時中断だ! 癒し(と面白さ)を求めてさぁ行くぞ!!」


「はい。もちろんお供致します」


そして執務室に人はいなくなった。















■■ ガンバル2人組の会話風景 ■■



「そ、それは……」


「稟医師、教えては下さらぬのか」


「し、しかし……あの……主上や浩瀚殿はなんと仰ってましたか?」


「……知らぬ方が私にとっては良いだろう、どうしても知りたいなら稟医師に聞くように、と」


ああ、あの2人はなんということを……!!


稟医師は内心で涙混じりの絶叫を上げた。
彼にしては珍しく非難の混ざった言いようだったが、それもすぐに覆された。


「……私のことを一番知っているのは、稟医師だと……」


景麒はそっと瞳を伏せた。
黄医である稟医師は、気むずかしい(とこれまで散々言われてきた)己とも上手く接してくれる。
無表情がデフォルトで、生真面目と口べたのコンボによって生まれた冷徹な物言いにも、笑みを絶やさぬままでいてくれる。
稟医師は、自覚しても諦め気味だった己の人付き合いの苦手さを踏み越えて来てくれた初めての黄医だ。
確かに己のことを一番知っていると言われても可笑しくはない。
しかし、自分が口にしてみると妙に恥ずかしい気がするのは何故だろうか。
景麒はうーっすらと恥ずかしげな表情をしていた。


そんな景麒の様子を見て、稟医師は驚きと喜びの表情を浮かべた。
無情無口無表情と言われる(言い出したのは陽子☆)景麒が、うっすらとではあるが表情を出すことは本当に珍しい。
言葉の内容も己にとっては誇らしいことだし、稟医師は純粋に嬉しいと思った。

ああ、景台補の黄医としてお仕えすることが出来て本当に良かった。

と、改めて己の幸運に感謝していたのだが。


「それで、その事件とは私が知っても良いものなのですか」


「う……それは、ですね……」


アノ事件のことを軽々しく口に出来かと言えば、そうではなかった。
稟医師はうろうろと視線を彷徨わせながら、どう答えれば万事上手く収まるかを必死に考えていた。

『教えられません』と言えば、おそらく景麒は落ち込むだろう。
己が不甲斐ないから、とか、まだ己(黄医)に信頼されていないのか、とか、色々イロイロ考え込んだあげく、少しずつ毛並みを悪くしていくに違いない。
それは黄医として、また、近々『全国黄医連合定例会〜今回は久々♪ウチの子(麒麟)自慢大会ダヨ☆〜』を控える身として避けたい。
(ドンナ大会だ!!)

しかし『教えましょう』と言って本当に真実を語ってしまえば、おそらくその瞬間に彼は失道間際の病魔に襲われることは必須だ。
日頃堅物として通っている己が、まさか幼児も真っ青の甘えっぷりを主上に爆発させていたとは思うまい。
一目見た瞬間ぶっ倒れて記憶を完全抹消した目撃者たちにも負けない面白……いやいや、予想外な事態に発展してしまうに違いない。
それは黄医として、また、近々『全国……(以下略)


稟医師、久々の絶体絶命のピンチ☆だった。















■■ ダメダメ2人組の仲良し風景 ■■



「ああ、稟医師はいつまでも変わらないな。初めて会った時から、ずーっと反応が可愛いままだ」


「彼も金波宮に上がって長いはずですが。医師団の中でも古株です」


「そうだな。あんなに初々しいままなのに、何故かいつの間にか禽医師の補佐も勤めているもんな。人は見かけによらないと言うが、全くその通りだ……天は二物を与えぬなんて嘘だな」


陽子は視線を動かして、じーっと隣にいる男を凝視した。
まさしく天に二物以上を与えられていると思われている男、浩瀚は陽子の言葉に笑みを返した。


「それは蓬莱の言葉ですか? 主上の使われる言葉にまだ私の知らぬものがあったのですね。『天は二物を与えぬ』ですか……面白い言葉ですね」


「そうか? 金波宮にいる人間たちは腹に一物抱えた者ばかりだよなァ……まったく。天に二物以上与えられながら、さらに一物拾ってくるなんて面倒な事をする人間ばっかりだ!」


「おや? 腹に一物抱えた人間だなんて、誰の事を仰っているんですか。私はいつも主上の事ばかりを考えていますので……なるほど、一物とはつまり主上への想いのことでございますか?」


にこにこと爽やかに笑みを浮かべる浩瀚に、陽子は嫌そうな表情を返した。


「そう言うところが……(腹黒い……)」


「なんです? 私の肌はどこも健康的な小麦色ですが? 何ならご覧になりますか?」


「結構だ!!」


ナチュラルなセクハラ発言だが、浩瀚が言うとなぜか赤面するより青ざめてしまいそうになる。
陽子はすぐに浩瀚から視線を外すと、手元に視線を下ろした。
その手には水禺刀が抜き身で持たれており、刀身には2人の青年が映っている。


慶のトップと三番目は、中庭の木陰に隠れてのぞき見をしていた。


そして二番目は医師を尋問中である。
ソレで良いのか、慶の朝よ!!






遊び半分で書かれてしまった拍手お礼小話でした☆笑
私の中で一番目=陽子、二番目=景麒&浩瀚という感じになっているようです。
景麒と浩瀚の優劣が付けられない!! 正しく二番目は景麒かもしれないけど、浩瀚様の偉大さも捨てがたいんだー!!笑
ちなみに、タイトルは完全なる悪ノリです。





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