闇だ闇だ、次のヤツの闇が見える、見えるぞひひひひひひ。
少しずつ闇に落としてやる。
少しずつどん底に落としてやる。
二度と這い上がれぬ暗闇のさらに先へ、闇しか見えない漆黒の檻へ。
蒼猿は持ち主の闇を写し取る。
写し取ってさらに闇へ突き落とす。
それこそが蒼猿の喜びであり、存在意義であった。
今度の持ち主は異界の女だった。
女は情緒不安定で闇が見やすく、また落としやすい。
これまでも3人、深淵の闇へ引きずり込んだ。
異界の人間であろうと関係ない。
すでにその女の闇をしっかりと写し取り、行動を起こしていた。
また気弱な女だ、今の麒麟はよほど気弱な者が好みらしい。
先の女のようにすぐに闇に突き落とせるだろう、と蒼猿は高を括っていた。
しかし。
麒麟との誓約を終え真実蒼猿の獲物となった瞬間、女の空気が変わった。
激変と言える変化だった。
今までしっかりと見えていた闇が見えなくなった。
そんな馬鹿な……!!
蒼猿の焦りを余所に、女の闇は一向に見えなかった。
時間をかけて念入りに女を観察していると、少しずつだが見えてきた。
しかし見えてきたのは闇ではなく、二重になった記憶だった。
そしてそれは気の遠くなるようなほど長い長い記憶だった。
それを見て気づいたことは、女は闇がないのではなく、闇を受け入れて光に変えていたことだった。
その中に女の気づかぬ(気づかぬようにしている)暗い光が存在した。
面白い。
これまで多くの闇を見てきた。
これまで多くの闇を写してきた。
そして多くの者を様々な闇へ沈み込ませた。
しかしその中の誰も闇のように漆黒の光などもってなかった。
闇よりも心地よい仄暗い光など生み出していなかった。
面白い面白い面白い面白い
闇に突き落とせないのは面白くないが、この闇とも光ともとれないこの女の心は面白かった。
一度だけ女を闇に誘い込もうと声をかけた。
しかしそれを歯牙にもかけず、あまつさえ己に名を与えるとさえ言い出した。
面白い……!!
『水申』
それが己の名か。
今まで刀に名をつけることはあったが、鞘に名をつけることはなかった。
闇にも勝る深遠の光、未だ先の見えぬ漆黒の光を感じられるならこの女に付き合ってやるのもいいかもしれない。
それが蒼猿―いや、水申―が今を静観している理由である。
妄想ここに極まれり。
ちなみに水申はスイシンと読みます。水の猿ってまんまですね;
緋翔にはネーミングセンス無いのでこれが限界です。
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