「なんだよオマエ! かーさまから離れろよな!!」
『……そうは言われましても』
ピーピー騒ぎながら冗祐の周りを飛び回り、火維は何度も何度も突いている。
しかし冗祐の身体を突けるはずもなく、ビュンビュン通り抜けるだけになっていた。
凄い勢いで己の身体を行ったり来たりする火維に、冗祐は困惑気な眼差しを向けた。
突然奇行に走る火維にいきなり怒り出さないのは冗祐の優しさだろう。
しかしながら火維の同僚兼先輩兼教育係(!?)の太郎はそうはいかなかった。
冗祐と火維の間に己の身体を割り込ませ、頭上の小鳥に怒声を上げた。
「コラ小僧!! 貴様、冗祐殿になんて事を申すのだ!!」
「だって、だって、コイツかーさまの身体の中にいるんだろ!? 兄貴はソレでいーのかよ!?」
空中に浮かぶ火維は、この場所なら太郎の反撃は来ない!と遠慮無く反論した。
最近の火維は身体で学習しているので、反論は回避行動と同時に行うようになっていた。
「ぬ……そう、言われてみれば……」
『た、太郎殿?』
太郎はじーっと冗祐を見つめた。
その瞳に危険な光がチラチラ見えた(気がした)冗祐は、そっと一歩下がった。
(移動音はズルリ、だったが)
妙に緊迫した空気を纏ったまま視線の応酬を始めた太郎と冗祐だったが、そんなこと知ったこっちゃねぇとばかりに火維は続けて不満をぶちまける。
「オレたちはいーっつも影の中にいんのに、コイツはいーっつもかーさまと一緒なんダロ!? それってチョーずりぃじゃん!!」
「…………」
そろそろ本気で太郎の目にもヤバイ輝きが見え始めた冗祐は、必死に口を動かした。
『い、いえ、私は台補の命に従い、このようにして主上の御身をお守り――』
「なんだよー! かーさま強いから、オマエいらないじゃん!!」
『!!!』
「コラ小僧、そのような……!!」
冗祐は、ピシャーン!!と雷鳴に打たれた直後のようにビシーっと固まった。
それを見て正気の戻ったらしい太郎が一足遅い静止の言葉を上げたが、それは本当に遅かった。
『……いえ、分かっていました。主上にお付申し上げる事を命じられた際は、非常に光栄な任を拝命出来たこと心底喜ばしく思いました。同時にこれ以上もない名誉なこの任に、誠心誠意お仕え申し上げようと決意致しました。しかし主上は――』
すでに冗祐はすっげー沈んでいた。
冗祐はどんよりとした空気を纏いつつ、ブツブツと呟き続けている。
目はうつろな眼差しで地面を見て……いないかもしれない、もう完全に死んだ目だ。
透き通った空色の身体は冗祐の感情に引きずられているのか、どろどろとしたマーブル灰褐色に変化してしまっている。
一目見ただけで10人が10人『うわーこの人落ち込んでる』と断言できる薄暗い雰囲気が辺りには漂っていた。
そして冗祐を発生源に、渦を巻くようにしてじめじめとした暗鬱としたオーラが広がっている。
火維と太郎は即座にその場を離れ、冗祐のいる方を見つめていた。
太郎は『アチャー!』という表情をしているが、火維は意味が分からず呆然とした顔をしていた。
己の発言がこんな事態を引き起こしたことに、全く気付いていない火維だった。
「な、なんだコイツ……」
「火維よ、お前は少し口調に気を遣いなさい。世の中には言っても良いことと悪いことがある」
「オレはホントーのこと、言っただけじゃん!」
「この馬鹿者が! 少し口を噤め!」
またしても大声で本音を垂れ流す火維に、太郎は前足でボゴン!強烈な一撃をお見舞いした。
火維はプシュ〜と煙を上げて地面にへばり付いている。
(太郎、容赦ねぇな……)
そんな火維に向かって、太郎は諭すような声で静かに語りかけた。
「いいか、火維よ。例え真実であろうとも、言わぬ方が良いこともある。見えぬフリ、知らぬフリをすることで互いの関係を良好に保つ事が出来ることもあるのだ」
「んー? ってことはヨー、兄貴もコイツのこと役立たずだって思ってるんじゃねーか!」
『役立たず……!!』
遠方で涙に濡れる掠れた声が上がり、さらに辺りの闇の深みが増した。
「こ、の……」
ブルブルと全身を震わせながら、必死に声を押し殺す太郎。
それを地面にベターと寝転がりながら聞いていた火維は、即座に身を起こしてパタパタと羽を動かした。
これは、これは、来る……!!
「ゲぇ、ヤベ……!!!」
「大馬鹿者がー!!!!!!」
「ピィィィイイイイ!!!」
努力虚しく、火維は空へと舞う前にしっかり太郎の怒りの一撃を食らった。
グベチャッと生物的にヤバそうな鈍い音がしたのは錯覚だと思いたい。
無邪気な凶器乱舞
「何を言うんだ、冗祐。私が一人この世界に投げ出されていたら、どれほど寂しい思いをしていたと思う? 冗祐がいてくれたおかげで、私は寂しい思いをすることなくここまでやってこれたんだ。冗祐がいなかった時のことなんて考えられないよ。一緒にいてくれて本当に助かった」
いつも、ありがとう
『主上……!!!』
やはり彼らの暴走を止めるのは、この方をおいて他にはいない。
こうして世界をマイナス方向に浸食していた鬱々とした闇は綺麗に取り払われた。
離れた場所では、ホッとした様子の太郎と憮然とした様子の火維が見守っていた。
わざわざ主にお願いし、冗祐を引きはがして行われた第一回お供会議はこうして幕を閉じた。
幕引きに主の手を煩わせて申し訳ないと思うが、冗祐の鬱加減はもうどうしようもなかった。
これ以後、嫉妬まみれの視線を突き刺しつつも、火維が冗祐に不満をぶちまけることはなくなった。
さすがに火維も『言って良いことと悪いこと』を学んだようである。
(太郎の熱い指導による身体攻撃と、あまりにも落ち込みまくった冗祐の精神攻撃のダブルパンチのおかげだろう)
こうして一応、互いにとって良好な関係を築け……られてるかは甚だ疑問である。
着々と火維の教育計画が進行中のようです。笑
冗祐は大人なので火維の幼い言動に怒りを露わにすることはありませんが、ちゃんと受け止めているのでショックは受けます。
太郎は冗祐のことは『先に我が君をお守りしていた先輩』と認識しているので、元々悪感情は抱いていませんでした(が、火維の言葉に我が君至上主義が暴走しそうになっていました)
火維は子どもなので、真っ直ぐストレートに己の感情をぶちまけます。子どもの無邪気さは時に凶器ですよね……。
次こそは景麒を……!!
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