彼らは闇の中で出会った。

「お主、新たに我が君に降った者か」
「なんだよ、アンタ……ああ、アンタも一緒なワケ」
「これより後、我が君を守護する者として共に誠意を尽くそうぞ」
「フーン……ま、アンタならいっかな。よろしくね」
「……お主、少しは口調を改めてはどうだ。よもやそのまま我が君と対話するつもりか?」
「はぁ? べっつに言葉なんかどーでも……」
「……そうか。では少し我と対話しようかの、小童め」
「え、いきなりなに……うわ、ちょ、離せ!! 離せよー!!」

「これから特訓だ小僧! 我が君と畏れ多くも言葉を交わす際、正しい言葉遣いをせぬとどうなるか……まずはその身をもって知っておいてもらおう!!」

「え、いや、エンリョしとくって……おわ! まじカンベンしろってー!!」
「問答無用!!」

彼らは闇の中で出会った――そして、そのまま第一ラウンドに突入した。
(別名:第一次火維教育戦、勃発)





数日後。

「太郎、火維、出てきてもらえるか?」

「はい。お呼びですか、我が君」
「う……はい。我が君、なん……何用、ですか」

陽子の声が響くと同時に、スッと二つの影が現れた。
一般的な狼サイズの太郎と小鳥サイズに変化している火維だ。
ちなみに火維は太郎の背にちょこんと乗っている。
(陽子はその可愛らしさに目を細めた)

「……? ああ、たいした用じゃないんだ。少し話し相手になってもらおうかと思ったんだが……火維、どうかしたのか?」

「別に……あ、いや、いえ。えっと……何でもない……でございます?」
「……小僧」
「な、なんだよ! オレ、頑張ってるぞ!?」

ひっそりと低い声で脅す太郎に、火維は大声で言い返した。
ちなみにちょっと涙目で、憔悴した雰囲気を纏っている。
彼らのやり取りを見て、陽子は柔らかい笑みを浮かべた。

「ふふふ。火維、無理した言葉遣いをしなくてもいいよ。太郎、火維に無理をさせたら駄目じゃないか」

「は、いえ、しかし……我が君とお話をする際に、あのような言葉遣いでは……」

「いいんだよ。確かに火維の口調は良いとは言えないけど、言葉にこもる暖かさに変わりはない。私はその素直な声が聞きたいんだ」

陽子の優しい声を聞いた途端、今まで殊勝な態度を取っていた火維が勢いよく空に飛び上がった。
そして太郎に今までの鬱憤をぶつけるかのように威勢良く言い放った。
(飛び上がったのは、太郎の反撃を恐れる獣の本能せいだろう)

「ホラホラ! オレはこのままでいいって、陽子も言ってるじゃないか!!」

「小僧……貴様!! 我が君の御名をお呼びするには飽きたらず、あまつさえ呼び捨てにするとは何事だ! もう一度教育し直されたいらしいなァァ!!」

「ゲ!! い、イヤに決まってるだろ!? ウワーこっち来んなよー!!!」

「逃げられると思うてか!!!」

「ピィィィイイイ!!」

黒い小さな影と、黒い大きな影が室内をバタバタと暴れ回った。
このままでは聞きつけた人が慌ててやってきそうな騒動だが、しっかり陽子がこの辺りに結界を張っていた。
(さすが長生き陽子、芸が多才である)

「仲が良いな、2人とも」

ピーピーウォンウォン響く室内で、陽子はにこにこと暖かい笑みを浮かべ続けている。
視線の先には喧嘩?教育?説教?の最中の太郎と火維。
あまりにも陽子の大物ブリが伺える光景だった。










「かーさま、オハヨー! 朝だぜー!!」

「我が君、刻限にございます」

陽子はパチリと目を開けた。
目の前では小鳥サイズの火維と子犬サイズの太郎がこちらを覗き込んでいた。

「ああ、おはよう」

「かーさま、眠たそーだゾ? もうちょっと寝ちまってもいいんじゃねーの?」

「そう言うわけにもいかないさ」

「小僧、自分勝手を申すでない」

陽子は身を起こしてそばにいる2匹をそれぞれ撫でた。
太郎も火維も気持ちよさそうに目を細めている。
不意に太郎は陽子の手を逃れ、そっと遠方に視線をやった。

「ああ、人が来ます……我が君、御前失礼致します。ホレ、行くぞ小僧」

「えー……じゃあまたな! かーさま!!」

そう言って2匹は陽子の影に溶けていった。
これはたまに見られる、陽子の朝の日常である。





火維が言葉遣いを直すのは絶望的に無理だった。
太郎が全力を出したがただ火維の傷が増えるのみで、ついに陽子に止められてしまった。
そこで互いに妥協した。

火維の口調はそのままでもいいので、とにかく呼び名を改めること。

火維も言葉遣い全部を変えるより、呼び名を変えるくらいならなんとかなるということで受け入れた。
そこで呼び名を何にするか、またしても口論になった。

そもそも口調を妥協してやったのだから、真心込めて『我が君』とお呼びしろ!!というのが太郎の言い分。
でもオレは陽子とは仲良くしたいから、そんな呼び方イヤだ!!というのが火維の言い分。

そこで太郎の鋭い眼光に晒された火維はごにょごにょと本音を溢していく。

だ、だってオレ……陽子のこと、その……ホントは、ご主人様だって、分かってるけど……でも、あの、ホントは……オレ、オレ、妖魔だけど……その……人間みたいに、母さんっていう……母親?てのが、欲しくて……それで、陽子のこと……ホントは、オレの母さんになってくれないかな……って……

そこまで聞けば聡明な太郎には火維が何を言いたいのか分かった。
つまり、火維は我が君に母親になってもらいたくて、『我が君』と呼ぶのを躊躇っているのだと。
また、火維自身は我が君のことを深層では主人だと認識していることも分かり、太郎はひとまず安心した。
それでも感情的な部分で、『母親』だと思いたいらしい。

太郎はう〜んと頭を悩ませた。

火維が一生懸命言ったことなので同胞として助けてやりたいが、しかし我が君をいつもの火維の口調で『かーちゃん!』などと呼ばせる訳にはいかないし。
とりあえず『母親』っぽくて敬意を込めた呼び名にすれば良いだろう、ということで……

「では小僧。我が君を『母上』もしくは『母様』とお呼びしてはどうだ。それくらいならば我も五月蠅くは言わぬ。(というかそろそろ妥協しないと、小僧の頭では無理だと悟った)」

「え、いーのか!?」

「一度我が君にもご相談の上、了承を得てからということになるがな」

「じゃあ、じゃあ、オレ『かーさま』って呼ぶ!! 今から言ってくる!!」

「コラ小僧!! しっかり『母様』と発音せぬか!!」

結局火維の口調はそのままに、呼び名は『かーさま』というのが定着していくのであった。
そしてこの騒動を通して、火維はなるべく太郎には逆らわないようにすることを覚えたらしい。
さすがに繰り返し説教を受けていれば学習したようだ。





陽子と愉快なお友(供)たち?



太郎は心の底から我が君のことを敬愛しきっている。
我が君の障害になる者、我が君を愚弄する者への怒りは計り知れず。

火維はかーさまが大好きで大好きで、とにかくそれ以外はどうでもいい。
でも太郎の兄貴の言うことには耳を傾けないとコワイと学習した。

陽子は2人のやり取りをそれこそ母のように暖かく見守っている。
まるで兄弟のようだな……と。






こんな彼らの日常はどうでしょうか。
時間軸がぐちゃぐちゃで分かりにくいかもしれませんが、壱ノ巻内〜弐ノ巻前くらいだと思います。
これから陽子のお供と景麒の初対面や、景麒の使令とのやり取りを書きたいな〜と妄想中です☆





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