闇夜に包まれた学舎の一室。
そこで暖かい光に包まれながら、少女と老人が相対していた。
「では、本年度の生徒たちと共に入学する……ということでいいんですな?」
「はい。それでお願いします」
「しかし、貴方様は……」
「いえ、目立つことはしたくありません。普通の有り触れた一般生徒として!生活したいんです」
少女は握り拳を片手に、力一杯訴えかけた。
いつも生気にキラキラ輝く新緑の瞳が、より一層輝きを増している。
向けられた老人は、苦笑いと共に吐息を溢した。
「そう仰られるなら仕方ありませんのぉ……」
「ありがとうございます!」
「いえいえ。そう言って頂けると、わしも嬉しいものです」
そうして互いにニコニコと笑みを交わす。
この瞬間、誰にも何も悟られることなく、物語に新たな運命の欠片が投入されたのだった。
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「ナカジマ・ヨーコ!」
周囲に立つ人間たちもまばらになってきた頃、ようやく自分の名前が呼ばれた。
これまでの子たちと変わらず、少し緊張した面持ちでスツールに腰掛ける。
すると、すぐにそっと頭に重みを感じた。
ついで聞こえてくるのは、少し嗄れた声。
『ああ、貴方様でしたか。どの寮にお行きになりたいですか?』
「ん? 君が組み分けをしてくれるんじゃないのか?」
『とんでもございません!! 私(わたくし)ごときが貴方様の組み分けなど……そもそも私は貴方様の内面を読み取ることなど出来ません。貴方様が私に聞かせようして下さっているからこそ、こうして会話が出来るのです。よもや他の子らにするように性質を読み取るなど以ての外でございます。しかしながらこうして貴方様の――』
「あー、つまり。私が寮を決めても良いのか?」
フリフリと身もだえしながら熱く語り出した帽子に、陽子はそっと言葉をかけた。
このまま放置していては、残った子どもたちの組み分けをする暇もなく夜が明けてしまいそうだった。
(他の生徒たちや教師陣も、常と異なる帽子の様子に興味津々にこちらを見ていた)
『はい! もちろんでございます!! 貴方様のお決めになった寮を、この私が!大広間中に響き渡る声で高らかに言い上げてご覧に入れましょう!!』
「(な、なんとも元気な帽子だな……)」
陽子は帽子のテンションに若干引きながらも、う〜んと頭を悩ませた。
実は陽子、他の子どもたちの組み分けを見て、自分はどこの寮になるのかもの凄くワクワクしていた。
それは『ああ、また半獣の子が生まれたのかどんな(可愛い)子なんだろうワクワク!』と宮城を抜け出す時や、『何々今度入った官吏に骨太なヤツがいるんだって!?ワクワク!』と官吏に変装している時、『ナニ!?まさかアイツに恋人が!見に行かなくちゃワクワク!』と変装&尾行をしている時と匹敵するほどのワクワクだったのだ。
なのに……自分で決めるのか……
ちょっぴり悲しい面持ちの陽子だったが、真剣に選ぶために顔を上げた。
久し振りの小さな体には帽子が重く、これまで顔を伏せていたのだ。
そして、真剣な目で各寮の席の様子を眺め始めた。
それに驚いたのは、すでに席に着いていた生徒たちだった。
これまで俯いていた少女が顔を上げた途端、目を離せない雰囲気を醸し出し始めたのだから。
真剣な表情の中にある光輝く宝玉のような瞳に、誰もが目を奪われた。
今まで何の変哲もない『新入生』だった。
それが、一瞬で捉え所のない『ナニカ』を見に纏う少女に変化して……。
その瞳に映りたいとさえ、願った者も多かった。
さて、真剣に寮選びを始めた陽子だったが。
『まずは右端、グリフィンドォォォオオオル!! 勇猛果敢な者が集いますがしかぁぁあし!お馬鹿も多いのが玉に瑕☆ 思い込んだら一直線! 己の正義に向かって突っ走りそのためには規則を破るのも厭いませんちょっと危険ですね! しかしこの寮は過去何人もの優秀で偉大な魔法使いを排出しましたー!! そして今年の一番人気です! みんな入りたがっています!!』
陽子はちらりと視線を動かした。
『そして二番手はハァァアアッフルパァァアアッッフッ!! 心優しく勤勉で真っ直ぐな者が集いますがしかぁぁあし!劣等生が多いとも言われていますね失礼な!! 正しいことを好み忠実であることを目指し、苦労を苦労を思わない、まさぁぁに!心根の美しィィ者が多いのがこの寮です!! でもみんなこの寮には入りたがりません何故だ!?君たちは真のイイヤツばかりではないかぁぁああ!!』
陽子はまた、ちらりと視線を動かした。
『さらに続いてレェェェイブンクロォォ――』
「すまない。少し静かにしてもらえるか」
『……はい』
帽子はへにょりと折れ曲がった。
(彼は彼なりに、陽子の選択の手助けがしたかったようです)
頭の中が静かになり、陽子は続けてじーっと寮を眺めていく。
うーん。
どこがいいのかな……そろそろ決めないと、これまでの最長記録を更新してしまうな。
最長記録とは、今日見た組み分けの中で帽子が悩んでいた時間が最も長かった時のことだ。
さすがに組み分けに時間がかかったせいで目立つのはこの一瞬だけだろうが、注目される要員は少ない方が良い。
早く決めなければいけなかった。
(すでに微妙に注目されていることは陽子様のあずかり知らぬ所です)
……が、本当にどこの寮が良いのかサーッパリ分からない。
【 よくよく己の性格を考えてみよう!陽子の脳内会議☆ 】
陽子「さて、みなさん。本日もお集まり頂いてありがとうございます。本日の議題は『私の性格はなんぞや』であります。いつものように悪戯面白会議ではないのが残念ですが、今後の生活に重要な寮選びの材料となりますので真剣に考えて下さい」
陽子「はい!」
陽子「はい、そこの陽子さん」
陽子「どうせならこの場にいる全員に『私はどこの寮に入るべきですか!?突発アンケーーーーット☆』をすればいいと思います!!」
陽子「却下です。それでは明らかに目立ちすぎですもう少し真剣に考えて下さい」
陽子「はい」
陽子「はい、そちらの陽子さん」
陽子「面倒なので右端でいいと思います」
陽子「却下です。そもそも現在の議題は『私の性格』です。一足飛びに別の議題の答えを出さない下さい」
陽子「はいはーい!」
陽子「なにやらすでに真面目な答えではない雰囲気がありますが。はい、そこの陽子さん」
陽子「やはり私の性格を考える上で最も重要なのは『いつの時代の私か』だと思われます。私はちょっぴり長い時を生きすぎてしまったので、その時代に合わせた性格……つまり【トレンディ☆陽子スタイル】を会得してしまいました。今の姿は10代のものですが、心は《ピー》歳です。どちらに合わせた性格で考えますか?」
陽子「……真面目な意見に驚きと共に感動を感じています……皆さんもこの陽子さんを見習って下さい次ふざけたらぶっ飛ばしますよ。そうですね……やはり『今』の性格で行きましょう」
まとめ
「正直な話、この世に私に敵う人間はいないだろう性格でも能力でも腕力でも。気性に至っては心の奥深くに冷静な一部を残しつつ、色々な感情が様々な方向に暴走気味で、一概に私の性格を言い表すのは困難。とにかくとにかく面白いことを実現させるため日々邁進中。そのためになら労を惜しまず全力で自分ルールを爆走し続ける自身がある!!」
陽子「……つまり、己の性格に頓着することなく【より面白い方】を選べば良いかと思われます。以上、本会議を終了します!!」
陽子の目がキュッピーン☆と輝いた。
(うっかり目にした者は驚いてブフッと息を噴き出した)
そして人差し指をピーンと立てた右手を振りかぶり、言葉と共に勢いよく振り下ろした。
「スリザリン!! 君に決めた!!」
「……」
「……」
「……」
席に着いていた生徒たちは、突然響いた声にポカーンと口を開けて壇上を眺めている。
それは教師陣も同じ事で、呆気に取られたような表情をしている者が大多数だ。
(一人お髭の長いおじいさんだけはにこにこと変わらぬ笑みを浮かべている)
だって先ほど広間に響いた声は、帽子の声ではなくて年若い少女の声だったのだから。
『分っかりましたー!! うー、ん、ごほん』
スッリィィィイイイイイザリィィィィイイイイイイイイイン!!!
しばらく、大広間には目を回した人間が溢れていた。
長編のかほり漂う第一話。すでに謎満載ですね。
明らかに陽子様ならグリフィンドールでしょうが、スリザリンに入れるのはそっちの方が面白そうだからです☆
今後は『原作のあの場面に陽子がいたら?』シリーズにしていきます。
しかし……フフ、実は今原作が手元にないんですよね……どうしましょう……↓↓
コレを書いておきながらしばらく放置かも知れません↓↓
まだハリポキャラは謎老人と帽子しか出ていません(誰かはすぐに分かるでしょう)
そして陽子様は『目立ちたくない』という初っぱなの意志を自分で吹っ飛ばしましたね、さすがです☆