「しっかし人騒がせな嬢ちゃんやったなぁ」
「いやーあの時のゆーしの顔最高だったぜ!」
「ほ〜そんないなこと言うんはこの口かぁ?」
「! てほはなへぇ〜(手をはなせ〜)!!」

跡部邸の応接間の一つで団らんしているのは氷帝レギュラー陣だった。
ゆったりとしたソファに腰掛け、テーブルに置かれた紅茶とお菓子を頂きながら先ほどのことを話していた。

「あの時は生きた心地がしなかったな……」
「……下克上だ」

あの時の跡部の殺気を思い出して青い顔をしているのは鳳だ。
日吉は若干青ざめつつも、対抗意識がわいていているようである。

「でも、面白かったよね!」
「そうか? 大変だったじゃねぇか」

跡部から比較的離れていたことと、直接殺気を向けられなかったおかげで、ジローの中では面白い事件として記憶されているようだ。
宍戸にとっては理不尽に樺地に捕まり、酸欠になりかけたことのほうが大問題だった。

「にしても俺は何に間違われたんだ? みくみくってなに?」

やっと忍足の手から逃れた向日は不思議そうに言った。

「ああ、俺はなんだっけ……もくもく?」
「いや、めくめくでしょ?」
「まくまくじゃないですか?」
「むくむくじゃねぇの?」

すでに大混乱だ。

「でもさー、あとべーだけしっかり『お兄ちゃん!』って呼ばれてたよねー」
「ほんま、あれには吃驚したわ」
「跡部部長も驚いてましたね」
「なんか、すげーよな」
「兄妹愛っちゅーやつか?」
「あとべーの愛が報われたんだ!」

コンコン

「あ、はいどうぞ」

不意にドアがたたかれる音が聞こえた。
答えたのはすでに氷帝の気配り担当?の鳳だ。

「あ」
「あ、恵菜ちゃん!」

鳳の驚いた声とジローの嬉しそうな声に、みんなドアのほうを見た。
そこには偉そうな跡部が立ち、その背後に樺地が控えている。
そしてその二人の前に恵菜が申し訳なさそうに立っていた。

「もう大丈夫なのか?」
「無理したらあかんで」

すぐに心配そうに声をかけたのが日吉。
何を考えているのか分からない笑顔と共に声をかけたのが忍足だ。

「はい、もう大丈夫です。ありがとうございます」

笑顔で答えた恵菜はそのまま続けた。

「ご迷惑お掛けしてすみませんでした」

ぺこりと頭を下げたままで恵菜は言った。

「え、いいよいいよ! けっこー楽しかったしな!」
「そうですね、いい気晴らしになりました」
「まぁそうだな」
「気にするな」
「そうやで、気にすることあらへんよ」
「恵菜ちゃん、誰も怒ってないよ。もう顔を上げて、ね?」

レギュラー陣は口々に言いつのった。
まぁ冷や冷やしたのも本当だが、気晴らしにはなっただろう。
というよりあの時はすでに練習は無くなりかけていた状態だったのだ。

「ありがとうございます!」

恵菜は笑ってお礼を言った。
周りにほのぼのとした空気が広がった。

「なぁ――」
「おい、お前ら。今日はもう帰れ」

またしても言葉を遮ったのは跡部だ。

「クソクソ! なんでいっつも邪魔するんだよ跡部!」
「俺様に逆らう気か、アーン?」
「えー!? 今日もご飯食べさせてくれるんじゃないのーあとべー」

ぷんすか怒った向日に動じず、跡部は本気でみんなを帰らせる様子だ。
跡部邸の豪華な夕食を期待していたジローは不満たらたらで言った。

「ふん、悪いなジロー。今日の夕食はシェフに言ってキャンセルした」
「今日は外に食べに行くことになったんです」

偉そうな跡部は、その偉そうな表情に隠しきれない喜びがにじみ出ていた。
その隣でにこにこと微笑む恵菜は隠すことなく喜びでいっぱいだった。

あーなるほどー

それを見たレギュラー一同は納得した。
せっかく妹と寄りを戻した(違)から邪魔をするな、ということである。
いつもなら、俺たちの分は食べさせてくれ、とか、俺たちも外食連れて行け、などいろんな理由を付けて跡部にたかる者たちも今日は引き下がることにしたようだ。

「ああ、分かったよ」
「分かりました」

帰り支度を始めたメンバーに、跡部は満足気だ。
しかし素直に帰らないのがこの男である。

「なぁ跡部。嬢ちゃんが変になっとった理由はなんやったん?」
「あーそうだぜ! それ超気になる! な」
「そうですね」
「それくらい教えてくれてもいいんじゃないですか」
「ほんま気になって夜も眠れなさそうや」

邪気のなさそうな笑みを浮かべながら聞いてくる忍足に、跡部は内心舌打ちした。
他のやつらは純粋に気になっているようである。

「ああ。熱があるのに無理してやがったんだよ、こいつは」
「すみません」

跡部の言葉に、恥ずかしそうに恵菜は俯いた。

「え! もう大丈夫なの!?」
「はい、さっき即効性の薬を飲みました」
「そうやったんか。無理はしたらあかんよ」

驚いて聞いてくるジローに、恵菜は笑って答えた。
忍足は心配そうに注意している。

「ほら、表に車を用意したからさっさと乗れ」

くいっと顎を動かした跡部が、いまだに妹に群がる男どもに言った。
ぞろぞろと外に出て行くみんなに、恵菜は声をかけた。

「あの、また来てください。その時は美味しいケーキと紅茶を用意します」
「おう!」
「また来ます」
「またな」
「まったねー」
「じゃあな」
「ウス」

「おい跡部」

最後を歩いていた忍足が、跡部の肩を掴み耳元で囁いた。

「そん時まで待っとったるわ。楽しみにしとるで」
「はっ。なんのことだ」

ニヤリとお互い笑い合う。

「じゃあまたな、恵菜ちゃん」
「はい、お元気で」

忍足の言葉に、跡部がぴくりと眉を上げた。
しかしそのまま忍足も部屋を出て行った。 





「なにニヤニヤしてんだゆーし? 気持ち悪ぃぜ☆」
「はは、そんないなこと言うんはこの口かぁ?」
「!! まひゃはー(またかー)!!」

まったくひどいぜゆーしのやつーあ、すみませんそこの道は右です! おいジロー地面で寝るな! 先輩、そんなことしたらジロー先輩が……! うをーすごいせんしゅだーむにゃむにゃ。 すみませんすこし静かにしてもらえませんかうるさいです。

騒がしい背後を無視して、忍足はニヤリとしながら窓の外を見ていた。
熱のせいやて?そんなわけあらへんやろ
あんなに心配そうな顔で声をかけておきながら、しっかり跡部の嘘に気づいていた忍足だった。
一番最初に恵菜が飛び込んできた時、発熱症状は見られなかった。
むしろあんなに走ってきたのに汗一つかいていなかったのだ。
それに……
ますます面白い
そしてやっぱりニヤリと笑った忍足だった。










おまけ↓

おい、やっぱゆーし気持ち悪いよな
ああ……不気味だぜ
なんだかいつも以上に機嫌がよさそうですね
……気色悪い

「なぁ、聞こえてんで」





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