「へぇ〜やっぱ跡部んちってスッゲーなー!!」
「さすがやな」
「綺麗ですね」
「ああ」
「もーはやく寝ようよ〜」
「……テニスの練習をしに来たんじゃないんですか」
煌びやかな跡部(ッキンガム宮殿?)邸の広間に賑やかな声が響いた。
美しい調度品の数々が上品に配置され、高貴さと気品を醸し出している。
氷帝学園テニス部のレギュラー陣が興味深げにキョロキョロとしている。
「でもよ、災難だったよな」
「まぁ、仕方なかったんちゃう?」
「クソクソ! まさかコートが使えなくなるなんてな」
「でも跡部部長のおかげで練習はできるじゃないですか」
「zzz……」
「……下克上だ」
どうやら何か理由があって学園のコートが使えなくなったようだ。
そこで自宅にコートも完備している跡部邸でレギュラー陣だけ練習することになったようである。
向日は憤慨してぴょんぴょんしているが、他のメンバーは特に気にしていない。
ジローはすでに夢の中に旅立っているし、日吉は違うことを考えている。
それでいいのか氷帝学園。
「それにしても、跡部の奴はどこ行ったんだ?」
「ここで待ちぼうけってのはイヤだ!」
「すぐ来ると言ってましたし、もうすぐ来られるんじゃないでしょうか」
宍戸はこのいかにもセレブな空間に耐えかねたように言った。
早くここを離れてテニスがしたい!跡部早く来い!
という思いでいっぱいなのだろう。
その思いは向日も一緒だったようで、うがーっと喚いた。
鳳は穏やかに2人を宥めている。
後輩なのに鳳のほうが大人な対応だった。
「……ん?」
「……あいつ」
そこで会話を諦観していた忍足と日吉が、何かに気づいたようにある一方を見つめた。
「なになに!? 跡部来た?」
「いやぁそれより面白そうやで」
輝く笑顔の向日にニヤッと笑いながら忍足は返答した。
まさしく純粋な笑顔と邪な笑顔。
「あ……」
忍足と日吉が見ていた方向にいたのは小さな少女だった。
ぽかん、と広間に集まった連中を見つめている。
「皆さん、こんにちは」
瞬時に我に返ったらしい少女は、にこっと笑顔を浮かべると美しい動作でお辞儀した。
不思議とその声が広間に響き渡り、気づいてなかった者もその少女のほうを向いた。
「あー! 恵菜ちゃん!!」
さっきまで寝ていたはずのジローはいつの間にか起きあがり、素早い動作で少女のもとに駆けていった。
テニスをしている時と負けず劣らずと言えるほどのスピードだった。
「あ、じろちゃん」
「ひっさしぶりだね!」
「うん!」
「元気だった?」
にこにことお互いに笑顔を炸裂させながら話し始めたジローと少女。
他のメンバーは待っているのにも退屈したのか、ぞろぞろと近づいていった。
そして最初に2人に話しかけたのは意外な人物だった。
「おい」
「あ、若さん。こんにちは」
「ああ、久しぶりだな」
「「「「ぇえーーーー!!?」」」」
ここで残っていた向日、忍足、宍戸、鳳も騒ぎ出した。
みな一様に顔に驚愕の表情を貼り付けている。
「ありえねー! 日吉に女の知り合いがいたのか!」
「ここは違う、違うやろ! ここはジローに聞いてみんなで自己紹介するシーンやないの!?」
「ジローならアリだと思ったがまさか日吉まで……激ダサだぜ」
「日吉! 酷いよ!!」
一人一人驚愕の意味は違ったようだが、日吉と少女が知り合いだったということに驚いているようだ。
向日は素直に酷いことを言っているし、忍足はなにやら計算が狂ったようだ。
宍戸は自分の予想の甘さに落ち込んでいるし、鳳はなぜか日吉を批難している。
それを見てまたぽかんとした少女だが、すぐにくすくすと笑い出した。
「ぶふー! ぴよし、言われてやんのー!」
ジローは一言余計。
「あんたら……(怒)」
先輩もいるということを忘れて、日吉は言葉をこぼした。
顔が完全に怒気で染まっている。
「はじめまして。跡部恵菜といいます」
日吉の怒気を感じた恵菜は、さっと日吉とジローの前に立つ。
そしていまだに驚き冷めやらぬ人たちの前でまたお辞儀した。
こうして場の空気を変えられてしまっては、日吉も怒りを静めるしかなかった。
「あ、俺、向日岳人!」
「宍戸亮だ」
「忍足侑士や。よろしゅうしたってな」
「鳳長太郎です!」
「はい、ありがとうございます」
つられるように自己紹介を始めた初対面の者たち。
にこにこと恵菜は笑い返す。
「おい、跡部ってことはもしかして」
「え、あ、そうか!」
「へぇ」
「え?」
「そうだよー! 恵菜ちゃんはあとべーの妹なんだー!」
「名前を聞いたらすぐに分かりませんかね」
これがあの跡部のシスコンの妹……!!
四人の心の声は一致した。
しかし驚きすぎて言葉がおかしいし、日吉の嫌みも気にならなかったようだ。
四人はまたもビックリした顔で恵菜を見つめている。
それにも動じずに恵菜は相変わらずにこにこしている。
「なぁ――」
「おい、そんなとこで何してんだ? アーン?」
興味津々で恵菜に話しかけようとしていた向日の声を遮ったのは、聞き慣れた帝王の声だった。
人を待たせていたくせに結構な態度だ。
集まっていた者たちは声の方を振り返った。
「あ、跡部」
「ああ、あの跡部」
「あ〜跡部」
「あー跡部部長」
「……チッ」
先ほどから驚いてばかりの四人は、振り返って見た跡部を胡乱気に見ている。
実は全ての発言に(シスコン)と隠れている。
日吉は舌打ちした。
「なんだお前ら」
怪訝そうな不快そうな顔つきで跡部は近づいてきた。
もちろん背後に樺地を従えて(樺地の事、忘れてたわけじゃないぜ!)
そして長身の男たちに隠れて立っていた少女の存在に気がついた。
「お前、なんでここにいるんだ」
「すみません、お兄様。本邸で所用がありましたので」
跡部は表情を消し鋭い目つきで恵菜に話しかけた。
恵菜も今まで浮かべていた笑みをさっと消して、申し訳なさそうに話している。
そんな跡部の様子に驚いたのは周りのメンバーだった。
(一人忍足はニヤリと笑い眼鏡に手をかけた)
シスコンと聞いたからさぞ笑み崩れた跡部(想像できない)が見れると期待していたのだが。
実際は冷え冷えとした空気を出している。
「……」
「すぐに別室に向かいます」
「……」
「失礼しました」
目を細め、何かを見定めるように恵菜を見つめる跡部。
そんな跡部の様子に気づいていながら、気にしない素振りで淡々と話す恵菜。
そしてぺこりと兄に向かって礼をした恵菜は、固まっている人たちに語りかけた。
「それでは、私はこれで失礼いたします」
「あ、うん」
「あ、ああ」
「お話楽しかったです。練習頑張ってくださいね」
「ああ、ありがとな」
「はい」
「じろちゃん、若さんも、またね」
「うん! まったねー!」
「ああ」
恵菜は跡部と対峙していた時とうってかわり、また穏やかな笑みを浮かべている。
驚いていた者もそのおかげでなんとか返事を返すことが出来た。
そして最後に恵菜はジローと日吉にまた一段と輝いた笑みを向けると、手を振ってその場を離れていった。
その後ろ姿を眺めているとおい、という重低音が聞こえてきた。
「日吉、アイツと知り合いなのか」
その眼差しは日吉を貫き、さらに後ろの壁すら射抜くように鋭い。
「あ、そーだそーだ! それ俺も知りたい! 日吉友だちなのか!?」
「そうだよ、いつから知り合いだったの?」
「なんや随分親しげやったしなぁ?」
そしてその場の空気を全く読んでいない向日も同意してきた。
せっかくだから、と意外と図太い鳳もここぞとばかりに質問している。
忍足は何もかも分かっていながらにやにやと笑っている。
懸命にも沈黙しているのは宍戸だけだ。
すでにジローは興味なさ気〜にうつらうつらしている。
「別に、そんなことどうだっていいでしょう」
日吉は不快そうにみなを見渡し、言い捨てた。
そして挑むように跡部を見据えた。
「えー? いいじゃん、教えろよー!」
「そうだよ、日吉、ね」
「おい、練習しなくていいのかよ」
まだまだ聞きたそうな2人の様子に、宍戸は呆れて言った。
跡部と日吉の睨み合いは続いている。
「はいはい、二人ともそのくらいにしとき」
「チッ」
「ふん」
忍足は二人の間で手を振った。
跡部と日吉はお互い同時に目をそらすと悪態をついた。
「樺地、ジローを連れてこい」
「ウス」
そして踵を返して歩き出した跡部に、他の面々はぞろぞろとついて行ったのだった。
意外なところで出会った恵菜と氷帝レギュラー陣。
ジローと恵菜の関係は?
日吉と恵菜は出会いはいつ?
冷えた会話を交わした跡部兄妹の真実とは?
恵菜は本邸にどんな用事があったのか?
さまざまな謎を残し、第一幕は幕を閉じる。
しかし氷帝レギュラー陣を巻き込んだ珍事件の幕は上がったばかりなのであった!(誇大広告)
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