※03:黒い風(10つの運命)の続きのようなものです。先にそちらを読むことをお勧めします。




「シーナ、サスケ。二人はまだ見たことがなかったよね?」
「ん?」
「何をだよ」
「ああ、だからナナミは二人を連れたいと言ってたんだね」

ナナミがニヤニヤと笑いながら男二人に問いかけるが、二人には質問の意図が分かっていなかった。
しかし傍に居たアイリにはその意図が伝わったらしく、うんうんと納得した顔をしている。

今回の外出はリオウ、ナナミ、シーナ、クライブ、アイリ、サスケの6人だった。
出かけ前にシュウにはシブい顔をされたがそこはナナミがごり押しした。
(意外と知られていないが、シュウはナナミには意見を押し通されることが多かった)
たしかにクライブを除けば皆成人前の少年少女であれば心配もしようなものだった。
リオウはPTにあまり頓着していなかったが、ナナミがこのメンバーがいいと言い張ったのだ。
特にシーナとサスケは外せない!!と。

「いい、二人ともさりげなくリオウを見ててね」
「ん〜? 何かあるのかな?」
「はぁ? なんでそんなこと……」
「早く見ないと後悔するわよー?」
「うん。見ていればカスミさんにも自慢出来ることになるだろうね」
「カスミさんか……彼女は強くて可愛らしい女性だよな〜vv」
「な! 俺は別に……」
「そういえばカスミさんもサスケもロッカクの里出身じゃない? やっぱりよくグレッグミンスターには行ったの?」 
「へーそうなのかい?」

そろっとリオウの様子を窺うシーナと、渋々リオウを盗み見ているサスケ。
それを満足げに眺めながらナナミもリオウのほうを見た。
アイリもすでに視線はリオウのほうに向かっている。
しかし4人とも口は全然別の会話を楽しそうに行っている。
そして皆の視線を集めるリオウはおそらく視線を感じていても頓着はしないだろう。
(ここにいるのは彼にとって大切な仲間ばかりだから)
クライブに近寄っていったリオウは、一言二言会話をするとふわりと表情を変えた。

「「――!!!!」」

それを見て表情を変えたのは少年と青年の二人だった。
驚きに目を丸め、ポカンとした顔でリオウを見ている。
彼らの声が途絶えてしまったが、少女二人には予想済みのことだったらしく、会話に途切れはなかった。

「ははは、初めて見たヤツはみんなこんな反応だね」
「ふふ、アイリちゃんも驚いてたもんね」
「! そりゃ、誰だって驚くだろ!」
「そうだね〜」

少し恥ずかしげなアイリも楽しそうなナナミも男二人を完全に放置している。
初めてリオウの笑顔を見た者の反応としてはなんら珍しいものではなかったからだ。
しかしアイリは何か不思議なことでもあったのか、訝しげにナナミに尋ねた。

「ナナミちゃんには、リオウがクライブに笑顔を見せるって分かってたのかい?」
「ううん。さすがにそこまでは分からなかったな〜」
「じゃあなんで彼を……?」
「クライブさんってね、いつも無関心そうにしてるけど……リオウと居る時はいつもリオウのことを気にかけてるんだよ」

いくらナナミでも若い者だけで出かけることがどれほど危険か分かっていた。
解放された地域であるとはいえ、王国軍の残党が居ないとも限らない。
それに戦時中なのだからどこから刺客が現れるか分からない。
だからこそナナミはクライブをPTに入れたいとリオウに言ったのだ。
(今回の外出はナナミがPTを決めたようなものだ)
クライブは他人に無関心そうにしていたが、くり返し声をかけるリオウには段々と心を開いているように見えた。
いつも遠征で共に出かける時、クライブは直接戦闘に関わる位置に居ないが、いつもリオウに危険がないか気にかけ支援をしているように感じた。
クライブの自覚していなかった想いに、薄々ナナミは気づいていたのだ。
そしてクライブは気配に聡く(ガンという武器には威力があるのですぐに気配を感じて回避する必要がある。それは組織で養ったものだが)刺客にも魔物にもすぐに気づいてくれるだろう。
リオウを大切に想っているので全力で守ってくれる。
それにリオウ自身がクライブを気にかけているようであった。
(人に慣れていない様子を見て、懸命に話しかけているのを見ていたし共に話しかけたこともある)
だからこそ、クライブも共に行こうとリオウに薦めたのだが……

「「!!!!」」
「な……!!」
「ふ〜ん」

今度は楽しそうにシーナとサスケの様子を見ていたアイリも顔を赤らめてリオウを見つめた。
(リオウの笑顔で固まる様子は先に仲間になっていた者にみんな笑い話にされる)
それはリオウが嬉しそうに満面の笑みを浮かべていたからだ。

「ふふふ、リオウ、助けてもらって本当に嬉しかったんだね」

ナナミは眩しそうに目を細めながら呟いた。
人の心に敏感なリオウは、クライブがあまりこちらのことに関心がないことに気づいていた。
どこか乾いた様子のクライブの心を心配していた。
そのクライブが己のみを省みず自分を助けてくれたことはかなり嬉しいことだっただろう。
(いつもリオウの近くで見ていたナナミにはそれが分かった)
それを表すかのように、あの笑顔はナナミでもあまり見たことがないなかなか珍しい笑顔だった。
『嬉しい嬉しいありがとうありがとう!』雰囲気がそう言っているような純粋な笑顔だ。
遠目に見ていたシーナもサスケもアイリも軽く赤面しているので、近くで直視したクライブは推して知るべし。
バッと音がつきそうなほど高速に顔を伏せたクライブの様子を見ていたナナミは面白そうな表情だ。

ふふ、あーあ。クライブさんはもう陥落かな?

面白そうな表情をパッと隠し、いつもどおりの笑顔を浮かべるとリオウに声をかけようと息を吸った。
クライブを助けるように……これ以上はダメだと伝えるように。
(だってまだ私だけの弟でいてほしいもん)

「リオウー?」





ダンジョンを進む仲間の様子は、休憩前と若干変わっていた。
休憩前は――無言で歩くリオウ、リオウにしきりに話しかけるナナミとアイリ、アイリに話しかけ続けるシーナ、不貞腐れて周りに気を配るサスケ、無言で皆を援護するクライブ――と何やらチームワークがとれているのかいないのかよく分からない雰囲気だった。
しかし今は。
リオウを囲んで皆が会話を交わし、シーナもサスケもちらちらとリオウを気にしているようだった。
おそらく先ほどの笑顔を見て思ったに違いない。

また笑ったところが見てみたい

それはリオウの笑顔を見たことがある者なら、誰でも一度は思うことだった。
そうしてアイリに話しかけてばかりだったシーナも、話に入りたがらなかったサスケも積極的に会話に参加し、リオウの様子を見ているのだ。
ナナミはその様子を見てにんまりと笑った。
ナナミだってリオウの笑顔が大好きなのだから、その笑顔を独り占めしたいと思うことがなかった訳ではない。
(おそらくそう思えば実行することは難しくないかもしれない。だってナナミがリオウを想う様にリオウもナナミを大切に想っている)
でも!
『アイツちょっと取っ付き難いよな〜まぁオレは女の子さえいればいいんだけどvv』とか『別にどうでもいいよ、ちゃんと命は聞くぜ。俺は優秀な忍だからな』とか言われると『ちょっと! 私の弟の可愛いところも知らないくせにィ〜!!』とイラっとくるのも姉心だ。
ちなみに近くで聞いていた他の古参メンバーは無言でニヤニヤしてただけだった。
その笑顔を向けられた二人が気味悪がって理由を聞いても、無言を貫き通すか思わせぶりなことを言うだけだった。

「……な、リオウ」
「なぁ、リオウ……」
「……だよね、リオウ」
「……リオウ……」

会話の中から聞こえてくるリオウの名。
それはリオウの笑顔に惹かれ、さらに人柄に惹かれ、その心に魅せられた者たちのリオウへの想いの形だ。
こうしてリオウは多くの人を惹きつけ、多くの人に守られることになるのだ。










護りたいものはたったひとつ、私の大切な弟
(今はもうひとつだけになってしまった大切な大切な家族の絆)



人がリオウの笑顔を見ると、また見たいとリオウを気にするようになる。
そしてただ無表情だった表情から想いを汲み取るようになる。
いつしかリオウの人柄に惹かれるようになり、その純粋な心を感じるようになる。
気づいたら、その心ごとリオウを守りたいと思うようになる。

そうして、リオウには多くの守護者がつくようになるだろう。

それだけが戦争に身を任せ、先頭を走り続けるリオウを守るための方法だとナナミは気づいていた。
たくさんの人にリオウを知ってもらって好きになってもらって守ってもらえるように……






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