「カミュー? こんな時間にどうしたんだ?」
「マイクロトフこそ、珍しいな」
人々の寝静まった深夜。
いつもは人の絶えない広間も、今は物音一つ無いひんやりとした空間になっている。
そこで偶然にも鉢合わせたのは、新同盟軍に入って間もない赤と青の騎士だった。
こんな時間になってもお互い騎士姿であり、芯の通ったようなしっかりとした雰囲気を纏っている。
いつもなら翌日の朝稽古のため早くに就寝するマイクロトフ。
(何事にも全力で真面目な彼らしい)
意外にも夜はゆっくりとプライベートの時間を楽しむカミュー。
(女性のところの上がり込みそうなイメージが……ごにょごにょ)
そんな2人が、約束もなくこんな時間に巡り合わせることはかなり珍しいことだった。
「考えることは同じ、か」
「そのようだな」
互いに苦笑しながら、同じ方向に足を進めた。
その先には外に繋がってもいるが、途中に酒場がある。
それが2人の目的だった。
今日は彼らが新同盟軍に来て初めての戦いがあった。
国境付近の小競り合いであり大規模なものではなかったが、油断できる戦いではない。
彼らも元騎士団員を率いて出陣した。
軍師の策のおかげで即座に鎮圧できたが、だからといって死傷者が出ないわけではない。
むしろ短期決戦に持ち込めたのは、強烈な抵抗に合った所を抑えることが出来たからだ。
彼らの隊にも……若干名の死者が出た。
「お、珍しい客だな」
「ああ、こっちにこいよ」
酒場には常連であろう、フリックとビクトールがいた。
彼らはこんな時間まで飲んでいるだろうに、一向に顔色に変化がない。
さすがいつも飲んだくれているわけではないということか。
(俺は付き合わされてるだけだ!!と叫ぶ青い人はスルー)
「失礼します」
「はは、そう堅くなるなよ」
「こいつには何を言っても無駄ですよ」
「おーい、レオナ! 新しい酒をくれ!」
腰を曲げ一礼をしてから席に着くマイクロトフに、酒を渡しながら笑うフリック。
カミューはそれを見て苦笑しながら席に着いた。
ビクトールは新入りのために酒の注文に余念がない。
「もう。歩けるなら自分で取りに来ておくれよ。手伝いの娘たちはみんな帰ったんだから」
そう言って悪態を付きながらも、レオナは嫌がった様子もなく笑顔を浮かべている。
手には一本の酒瓶と数個のグラスを持っている。
「サンキューな」
「せっかくだからレオナも一緒に飲まないか?」
「そうですね。このような素敵なレディーと一緒に飲めるのなら光栄です」
「私にも異存はありません」
「じゃ、お言葉に甘えて」
そう言って妖艶に笑ったレオナは男たちのテーブルの席に着いた。
レオナが店を開けている時に席に着くことは珍しい。
いつもは側に立って少し酒を飲む程度で、注文がきたらすぐにカウンターに戻ってしまうからだ。
「レオナもそのつもりだったんだろ?」
「ははは! 今日はもう客も来ないだろうしな」
「まぁね」
確信的な笑顔を浮かべているのは、席を勧めたフリックだ。
その正面にいるビクトールも同じように笑っている。
その2人を見てレオナは片目をつぶって楽しそうに笑っている。 美女のウィンクだー☆
「今日は人が少ないですね。何かあったのですか?」
「そうだな。こんな時間とはいえ、いつもはもっと人も多いと思うのですが」
3人の会話が一段落してのを見計らって声をかけたのはカミューだ。
それに同意したマイクロトフも不思議そうな顔をしている。
2人が酒場に入った時に不審に思ったことの理由を、この3人は知っているようである。
「まぁ、そのうち理由は分かるさ」
「とりあえず飲めよ! な!」
「今日は初戦だったんだろ? お疲れ様」
そう言って酒を勧めてくる3人の先輩(目の前の人たちは新同盟軍の中でも古参だ)に、青赤騎士はとりあえず疑問は置いておいて酒を楽しむことにした。
それに自分たちがここに来た理由は酒を飲むためだ。
酒に逃げるつもりはないが、ほろ酔い気分になりたいという気持ちに嘘はつけない。
死者が、出た。
共に騎士として行動していた仲間。
共にマチルダを裏切ってでも、自分たちについてきてくれた仲間。
その死に何も感じないわけがない。
「おう! もうここには慣れたか?」
「はい。この城は居心地のいい雰囲気ですね」
「ふふふ。荒くれ者も多くて大変だろ?」
「そうそう。コイツみたいな、な」
「おい! どういう意味だぁそりゃ!!」
「いえ、こちらの荒くれ者さんには大変お世話になっています」
「おいおいお前まで……」
「おいカミュー! ビクトール殿にそんなこと……」
「ははは! あんたたち、おかしなコンビだねぇ」
目の前の3人は騎士2人の暗い様子を薄々感じながらも、何も聞いてこずにたわいない話を振ってくる。
楽しそうな古参3人組に、騎士2人もつられて楽しそうな様子だ。
――3人の配慮が、2人には嬉しかった。
さて、話が盛り上がってきた頃。
「お? もう酒がなくなっちまったか」
「お前がガバガバ飲むからだろ! ちょっとは遠慮というものを覚えろ!」
「すまないね。アレが今日の最後の酒なんだ」
「いえ、十分です」
「お気になさらず。楽しい時間を過ごせました」
カラカラと笑うビクトールにフリックは怒鳴りつけるが、まるで効果はないようだ。
レオナが申し訳なさそうにカミューとマイクロトフに謝った。
しかし赤青騎士は気にした風もなく、1人は真面目に1人は楽しそうに返答した。
その間も、腐れ縁コンビの押し問答が続いている。
「悪かったって! もうそろそろだし外に出ようぜ! な!?」
「そう言ってまたお前は逃げるつもりかー!」
「はいはい。フリック、もう落ち着きな。そろそろなのは本当なんだから」
「ほらレオナもそう言ってるしな! 外行くぞ外!」
「ビクトぉール!!」
外に逃げ出すように出て行ったビクトールと、それを鬼の形相で追いかけるフリック。
レオナは呆れたようにそれを見ている。
実は隠れてしっかり酔っぱらっているフリックなのであった。
(たまに変なスイッチが入って、言動が青雷のころに逆戻りするのである)
「? これから何かあるのですか?」
「ああ。もしかして今日人が少ないのもそのせいなのでしょうか」
プチ騒動を眺めていた騎士2人には、話の内容が分からない。
目の前の知っていそうな女性に問いかけた。
「ふふ。とりあえず外に出よう。答えはその後に」
しかしレオナは楽しそうに笑うと、そう言って外に向かって行ってしまった。
またもお預けを食らった騎士コンビは、互いに不思議そうに目を合わす。
「一体何なんだ?」
「さあ? 答えは外にあるようだね。」
■
→