冷や汗がダラダラ滝のように流れている。
眼前で繰り広げられる妖怪大戦争の余波でも、背後から突き刺さるフラッシュの嵐のせいでもない。
それらも要因の一つではあるが、それよりも強烈な原因が目の前にあった。

輝く黄金の髪がサラリと揺れ、長身の青年が静かに跪いた。

「主上、お会いできたことを幸せに思います。私の想いは全て貴女のために存在します。これより心を一つにし、互いを思いやり、励まし合い、力を合わせて豊かな国を築いていきましょう」

艶やかな漆黒の髪がフワリと揺れ、痩身の青年が静かに跪いた。

「私の主上、私は生涯貴女の半身として幸せや喜びを共に分かち合い、悲しみや苦しみは共に乗り越え、永遠にお側に寄り添い続けることを誓います」

並んで跪いていた青年たちは同時に顔を上げ、同じくそっと右手を差し出した。

「「私をお選びください、我が主上」」

冷や汗の勢いが増した。

(このまま倒れたらダメだろうか……)

本当に心の底からそう考えたが、強靱な精神がそれを許さない。
こんな奇想天外な修羅場に巻き込まれたのはなぜか、とりあえず今日のことを静かに考えはじめた。





それいけ! たたかうきりんさん





陽子はよく夢を見る子だった。
眠る前に考えていたことが夢に出てきたり、心の奥底で望んでいる情景を夢に見たり、毎日夢を見ると言っても過言ではないほど夢を見る頻度が高かった。
だからといって内容を全て覚えているわけではなかったが、寝起きのぼやけた頭を楽しませることは出来た。
特に誇れることでもない。日常が少し楽しくなる程度の、たいしたことのない特技だった。

それが重要な意味を持つようになったのは、異世界で王になってから。
忙しい毎日を過ごすせいで夢を見ることは少なくなったが、その影響なのか夢が現実味を増すようになった。
中でも、数年に一度見る『運命の日』の夢のおかげで、その日だけはいつまでも鮮明に覚えていた。
そしていつしか、その夢を見ることが小さな楽しみになっていったのだ。



永久の眠りについた時に広がった情景は、最後の夢だろうと思った。
その夢がいつも楽しみにしていた『運命の日』のものだったのは、巡り合わせなのかもしれない。
命の終わりの瞬間に見る夢が、運命に巻き込まれた時の夢だったとは面白いと感じていた。

うきうきと見慣れた制服に着替えながら、夢の中で見た夢のことを思い出す。

「夢の中で夢を見るなんて私も器用だよなぁ。それにしても、今までは夢の中で夢を見ることはなかったと思うのだが……忘れているだけか? 最期の夢だから気合い入っているのかな」

キュッと胸元のリボンを結び、鏡の前に腰掛けた。鏡には見慣れない自分の姿が映っている。
赤茶の髪に白い肌、頼りない身体には全く筋肉がついていなくてとても心許なく感じる。
しかし、キリリとつり上がった眉は変わらず自分の意志の強さを表しているようだった。
この時の本来の自分なら、気弱そうに眉が下がっていただろう。

チラリと視線を下げる。あるものが視界に飛び込んだ。

「……最後だしな。最期だし……うん」

ニヤリ☆
ごそごそ動いて目的を達成すると、満足げに部屋を出た。





そこから学校に行くまでは特に変わったことは無かった。
あえて言うなら、陽子が本領を発揮したせいで両親が多少振り回されたくらいだ。
今までは『運命の日』を再び体験することを目的としていたが、今回は『最期だし存分に楽しんでみるか』という重要なスパイスが加わった。
そしてスパイスは今までの調理の課程を全て覆すほど強烈だった。
陽子に一つ言えることは「今日、お父さんはちゃんと会社に行けるかな?」くらいだ。
朝の挨拶から出発の挨拶まで、父はずーっと同じ体勢で固まったままだったから。

そして学校についてからも特に変わったことは無かった。
授業中は社会の先生を論破したり、数学の先生を失神させたり、英語の先生を愕然とさせたり、体育の先生を投げ飛ばしたり……うん、もの凄く普通だ。
休憩時間は学校中を走り回って探検してみた。お昼は屋上で食べて、鐘が鳴るまで昼寝した。
その後の国語の時間はクラス中を号泣させ、再び訪れた数学の時間は自習になった。なんでも先生は保健室で休んでいる最中らしい。風邪でも引いたのか?

カツッカツッカカカカッ

「全く、いい年をした若者が風邪に倒れるとはなんという軟弱さだ。んん〜? ここの詳細はどうなっていたかな……あ゛あー……ここを設計したのは、ああ、あの天才か……覚えにくいことこの上なかった記憶はあるんだけど……」

「あの……中嶋さん?」

背後から思考を遮る声がした。
振り返ると、こちらを伺うように見ている数人の生徒がいた。

「ん、なに?」

「それ……何書いてるの?」

指さされた黒板には、複雑奇怪な数式の羅列が白いチョークで書き込まれていた。
中央には日本人なら誰でも知っているだろう、青い猫型ロボットの絵が描かれている。

「え? ドラ●もんの設計図だよ。そう見えない?」

そう見えちゃうから問題だった。
ロボットの設計図なんて一般人が見てもよく分からないものだが、目の前のものは描かれた数式の複雑さと訳が分からない図形の数々がなぜか妙な説得力を持っていた。
これって本物の設計図じゃない? 
これあれば本当に作れちゃうんじゃねぇの!?
陽子の奇行を見ることしか出来なかった観衆の皆さん(クラスの方々)は、黒板が白く染まるたびにそんな思いに囚われた。

昨日までクラス一暗い少女と言っても過言ではなかった存在が、いきなり予想の斜め上を行く奇行を一日に何度も繰り返している。
はじめは不思議に思って話しかけようとしていたが、ターゲットは休憩時間のたびに姿を眩ませた。
学校中を走り回っているなんて聞いたときには、同級生の激変を恐ろしく感じてしまった。
そして極めつけに、見慣れた憧れの物体(青い狸のこと)の設計図の展開。え、どうすればいいの?
驚愕→興味→恐怖とくれば次はどう思えばいいのか、同級生たちは一瞬真剣に考えた。
ついにとうとう本人に直接聞き出すことにした一人の青年は、この日このクラスの勇者だった。
……結果は、予想通りの答え。
なんでこんな時だけ予想通りの奇行なんだ、今までは全て予想外だったくせにー。
勇者が心の中で嘆いても、標的の人物はいたって「いつも通り」だった。

「聞きたいことはそれだけ? 続き、書いてもいいかな」

「え、ど、どうぞどうぞ」

他にも色々聞きたそうな面々が多数いたが、彼らの望みが果たされることはなかった。
陽子が若干不機嫌そうにしていたからだ。じわじわ流れてくる不機嫌オーラは弱いくせに凶悪だった。

その後、ホームルームが始まる直前になって設計図は完成し、クラス中が歓声に包まれた。

「できたー!!」

「「「やったー!!」」」
「「「やっとかー!!」」」
「「「うおぉおぉおぉおお!!」」」
「「「いえーい!!」」」
「「「陽子様ー!!!」」」
「「「ひゃっほーい!」」」
「「「俺を踏んでくれー!!!」」」

歓声の中にはなんか変なモノも混じっていた。

えらくオドオドした担任が背後をチラチラ見ながら連絡事項を伝えている。
大役を果たし終えた陽子は、満足感いっぱいでぼんやりしながらそれを眺めていた。
自習になったせいで暇になった時間を有効活用できたのだ。その満足感は計り知れない。
黒板の設計図は未来の慶東国の技術の集大成だった。
ドラちゃんが来てくれることを諦めた陽子は、自分で作ることにしたのだ。そこに至るまでは気の遠くなるほど長かったが。
所詮は夢の中の出来事だが、こうして努力の結果を残せたのは気持ちがいい。必死に覚えた甲斐があった。
この世界の技術でちゃんと作れるかは謎だが……あとは頑張れ! 日本超頑張れ!

陽子は握り拳を震わせながら目の前を睨み付けた。担任が泣きそうな顔をした。
無言の応援はクラス内を恐怖に満たすだけで終わった。
オーラ、漏れてますよ。





やっと放課後になった。
(余談だがここまで本当に長かった。思い出すだけで一苦労である)
今まで自由に行動しすぎたせいで忘れていたが、今日は『運命の日』だった。
ここから先が重要なのだ。
いつもは世界を越える瞬間に目が覚めるので今日もそうだと仮定して、それまでは最大限に楽しく時間を過ごそう。
まずは演劇部に行って何か衣装を借りてくるか。やっぱり運命の瞬間は劇的に演出したいよな。
……いや、待てよ……セーラー服以上に素晴らしい衣装はあるだろうか?

見慣れない服を着て跪く男、その前に悠然と立つセーラー服の少女。

格好いい! これ以上の絵は存在しない!
じゃあ衣装を変えることは保留しておいて、他の演出方法を考えなくては……。
クッ、今まで『繰り返す』ことを楽しみにしていたから『演出』について考えたことは無かった。
残された少ない時間でどれほどの演出が出来るか分からないが、出来る限りのことはしなくては……。

陽子はもの凄くどうでもいいことを威圧感たっぷりに考えていた。
そのおかげで、せっかく放課後になったから今度こそは何か聞き出そう!と気合いを入れていたクラスの生徒たちを見事に牽制していた。
何事かをブツブツ呟きながら凶悪な気配を立ち上らせる陽子は、明らかに変な人である。本日の奇行の連続ですでにそれがフツーになるつつあるが。

しかし、そこで陽子も予想外の事態が巻き起こった。

「み、見つけました!」

「私も! 見つけました!」

は? なにを??

陽子が声のほうを振り返ると、なんか見たことある人影が二つあった。

「は!? なんで!!?」

しまったー! 悩んでるうちに景麒が来ちゃった☆
と、思ったついさっきの自分をぶん殴りたい。
そこには人影が二つある。一つ多いじゃないか。なんでだ!
……見ればすぐに分かったが、それを信じられなかった。

混乱する陽子をよそに、現れた二人は互いにガンを飛ばし始めた。

「……すみませんが景台輔、彼女は私の王です。景台輔はお帰りください」

「……それはこちらの言葉です泰台輔。貴方が我が主に何のご用ですか」

その言葉を聞いて現実を認識せざるをえなかった。
やっぱり、一つ多い人影は泰麒なのだ。……え、本当になんでここにいるの?

やっぱり混乱する陽子をおいて、二人は口論を続けている。

「私の感じた王気はまさにこの御方のもの。ならばこの方こそ私の主上です」

「それは私も同じこと。国中を巡っても見つけられなかった王気が確かにこの方から感じられます」

「この御方は私の主上、新しい慶の女王です」

「いいえ。私の国、戴国の王です」

「……」

「……」

今度は無言の見つめ合いに発展した。
この時点で陽子は二人の会話が理解不能だった。
いや、景麒の言い分は分かる。確かに自分は景王のはずだ。
なのになぜここに泰麒まで現れるのか……しかも景麒と同じことを主張している。
冗談を言っている雰囲気もないし、泰麒の本気も伝わってくる。
……本当にコレはどうなっているんだ?

クラスに残っていた大半の生徒たちは、微妙に距離をあけて変な3人組を眺めていた。
彼らは今日一日をかけて陽子に調教されていた。そんなつもりなくてもされていた。
おかしな事態が目の前で繰り広げられているというのに、みんな面白そうに見ているのはどういうことだ?
その中で数人が「なぁあいつどっかで見たことないか?」と言って泰麒を指さしていた。
そりゃそうでしょうね。本当ならまだこっちにいるはずなんですけど。

そろそろ限界に近づいてきた陽子が口を開こうとすると、その前に新たな人影が窓から飛び込んできた。

「はいはーい、そこまで! ここから先は俺が取り仕切るから☆」

金色の髪の一部は炎のように立ち揺らぎ、悪戯っ子のような快活な笑みを浮かべた少年。
小さな身体に長い時の経験を内包する彼は、陽子にとっては懐かしい存在だった。

「「……延台輔」」

二人が声を揃えて呟いた。
そう、新しく現れた人影はこの時500年の栄華を誇る大国雁の麒麟だった。
いよいよ場がカオスになってきた……この先どうなるんだ?
陽子は遠い目をして麒麟3人組を見ていた。なんかもうすでに第三者の気分である。

「お前らダメだろ〜いきなりそんなこと言ったら。ほら、この娘だって驚いてるじゃないか」

驚いているのは別の理由ですけどね。
陽子は思っても口には出さなかった。

「それに、こんな時にはやらなきゃいけない大事な儀式があるだろう?」

これ以上何があるっていうんだ。
これまで色々好き勝手してきたが、最後にこんな大どんでん返しがくるとは思っていなかった。
にこにこと心底楽しそうに笑う延麒がさらに笑みを深めながら口を開いた。


「決闘だ!!」


……は?






常世にはとある言い伝えがあった。
虚海の果てには蓬莱と呼ばれる夢の国がある、ということもその一つ。
その言い伝えは『王』に関する言い伝えだった。
曰く、

蓬莱より生まれる王は絶大な王気を有する。その王気は国を超えて麒麟を捕らえ天を魅了する。

「つい最近までただの言い伝えだと思われてたんだよ。知っているヤツも少なかったしさ。でも、それが本当に起こっちまったんだ」

時は今より500年前。
王を探す二匹の麒麟が、同じ人物を己の王と判じた。

「ま、それがうちの王様だったわけだけどさ〜。そん時は焦ったよ。なんせ王の取り合いなんて聞いたことなかったからなぁ」

その時、どこからともなく女仙が現れ、困惑する二匹の麒麟に言った。

「『王を取り合って決闘しろ!』ってね」

「……延台輔、その言い方では語弊がありましょう。女仙は『選択権は王にあり。そなたらの力を見せるために使令による演武をなさい。言を費やし国を勧め、自らを王に選ばせるように』と言ったはずです」

「私もそのように聞いております。まさか私がその言葉を実現することになるとは、思ってもいませんでしたが」

穏やかに語って聞かせてくれる3人には悪いが、内容は全く穏やかではなかった。
場所は(なぜか)運動場のど真ん中。広い布の上に4人で座っている。
周囲には巨大な正方形の膜が広がり、運動場全体をすっぽりと覆っていた。
膜の向こう側からガヤガヤと人の話し声がするのは、野次馬がどんどん集まってきているせいだった。

「あの……王はその国の人間にしかなれないって言ってませんでした? どうしてそんなことが起こるんですか?」

「それは……まぁ色々と理由があるんだ。そこは話すと長くなるから、この二人のどっちかから聞いてくれ。国に帰ったら腐るほど時間はあるんだからさ」

そこで景麒と泰麒の雰囲気が変わった。
たぶん、自分が説明しているところを想像してウフフな気分になっているに違いない。

陽子は疑問に返された無情な言葉にグッと眉を寄せた。
そこが知りたかったのに、重要な部分は分からない。
そもそも、自分はそんな話聞いたことないはずだ。ていうかアレ、もしかしてこれ夢じゃない?
冷や汗がタラリと頬を伝う。

延麒が全員の思考を呼び戻すようにパチンと両手を叩いた。

「ま、そんなわけで陽子はこの二人に見初められたんだよ。二人の話をよく聞いて、どちらか好きな方を選んでほしい」

「え、そんな……ん、好きなほう?」

「そうそう。あまり例が無いことだから良い助言は出来ないけど、こういうことは直感で選ぶもんさ。だから陽子が好きな方を選べばいいんじゃないか?」

わりと無責任な延麒の言葉を聞いて、陽子はどんよりしたが青年二人のほうはなぜかやる気になっていた。
延麒はそのまま立ち上がると勢いよく両腕を広げた。

「景麒、泰麒、この中で存分に使令を暴れさせてくれ! 陽子に強い男だと見せるために頑張れよ! その間に陽子を口説くのもありだ。自分の魅力を伝えるも良し、国の美点を伝えるも良し、逆に現状を伝えて助けを請うも良し! 国の未来は全てお前たちにかかっている! 頑張れよ!」

「「はい」」

立ち上がった景麒と泰麒が互いに別の方向に歩いていく。
延麒の口上を聞いて軽く呆然としていた陽子はそれを見ているしか出来なかった。
二人は立ち止まり、距離を開けて対峙した。

二人の間をひゅる〜りと風が駆け抜ける。

ニヤリと笑った延麒が手をパチンと鳴らした瞬間、二人の影から何かが飛び出してきた。

「泰麒は饕餮を下しています。数と素早さで翻弄して攻撃を加えなさい!」

「傲濫! 生態変化を行って大多数を相手に出来るようにして! 暁倫はその補助を」

声を上げて指示を出す景麒と泰麒。
それがどうも某アニメ「小さい怪物」に出てくるトレーナーに見えてしまったのは陽子だけだろうか?
怪物玉からではなく影から出てきているが、怪物(妖魔)を操っているという点では似たようなものだ。……たぶん。
それより、いくら使令同士の演武という名目があるとはいえ、麒麟同士が戦っていいのか?
麒麟は『その性、仁にして争いを厭い、血や怨みに弱い』のはずだが、彼らは闘争心をむき出しにしているように見える。

陽子が軽くを通り越して普通に呆然としている間に、延麒に手を引かれて結界の端のほうに移動していた。
あのまま結界の中央にいたら、戦争の余波に巻き込まれていただろう。
ほら、今もグランドが抉れて土が舞い上がり、サッカーゴールが無惨に潰れている。うわぁ〜すごい★

「沃飛ー、持ってきた物出してくれ」

『御意』

大戦争の壮絶さと段々美しさを消していくグランドの様子を見ていたら、いつの間にか自分の回りには机と椅子にお茶とお茶菓子が用意されていた。
延麒はすでに椅子に座ってお菓子を食べている。

「ほら、陽子も座れよ。ここは小さい結界張ってあるから大丈夫だ。俺の使令もいるし」

「あ、ありがとうございます」

「そういや言ってなかったと思うけど、今回の『新王争奪戦』は俺が監督するように女仙に言われてるんだ。だから陽子には傷一つつけないし、それなりに満足出来る選択になるように手伝うつもりだよ。何か聞きたいことがあったらなんでも聞いてくれよな」

やっと疑問を解消する時間が訪れた!
とりあえず、まず一番に聞かなければいけないことを聞いてみた。
(今までは空気を読んで質問を控えていた重要なことを!)

「これは夢ですよね?」

「あー……そう言いたい気持ちも分かるけど、残念なことに現実なんだよ。俺が陽子の夢の住人だっていうなら話は別だけど、陽子は500年前から夢を見てるのか?」

延麒は笑っているが、胸の内はその逆だろう。
自分が生きてきた500年をお前は夢と言うのか、という隠れた気迫が見えてくる。
普通の少女だったら気づかずに冗談だと思って終わりの言葉でも、陽子には隠れたものが見える経験があった。
ここは素直に謝っておく。

「気分を悪くしてしまってすみません。延麒の生きた500年が夢幻ではないなら、今の私も現を生きているということですね」

「おお? へー……。まぁ、そういうことだ。夢だなんて思わず、しっかり考えて選んでくれよな」

延麒の興味津々の視線が突き刺さる。
おそらく今の返答が気になったのだろう。でもその視線は止めて欲しい。痛い痛い刺さる!
延麒が続けて口を開こうとした瞬間、目の前に二匹の使令が現れた。
両麒麟の女怪である芥瑚と汕子だった。

『台輔がお戻りになるまで、私が台輔の素晴らしい所をお教えいたします』

『私も。私の知る限りの台輔の可愛らしさをお教えいたしましょう』

美しい微笑を浮かべる彼女たちの頬には、互いにうっすらと殴られたような後がある。
それを見て陽子は悟った。

(影の中で一戦終えた後に私の所に来た訳か……)

母親たちは別の場所で別の争いを始めていた。
そして結局は肉体言語による争いではなく、言葉による争いにチェンジしたらしい。
ここから先、競うように我が子(景麒&泰麒のこと)自慢を繰り広げるに違いない。
付き合わされる陽子にとっては拷問のようなものだ。
もういっそ、楽しむしかない。……そうだ、楽しめばいいんだ!!
いつかきっとこれが笑い話に出来るときが来る! これは笑いのネタが苦労せずに手に入る絶好の機会だと思えば……!
ああ、なんだか楽しくなってきた!!

「そうか。私も二人のことが気になっていたんだ。教えてくれるかな?」

『はい!』

『お任せください!』

隣では延麒がニヤニヤ笑いながらこちらを見ていた。
おそらく彼が考えていることは自分と同じだろうなぁと陽子は思った。





母親同士の自慢大会が一段落ついた頃、妖魔大戦争にも一つの流れが出来ていた。
互いの使令の奮闘により膠着状態に陥っていたが、司令塔である麒麟二人が抜け出せる状況でもあった。
後は各自の判断に従って戦い続けなさい、と言って戦場を抜け出した彼らは、急いで未来の主のもとに向かった。
早く主と言葉を交わしたいと思う気持ちに以上に、恥ずかしいことまで語っちゃってる女怪を止めるために二人とも超必死だった。
妖魔大戦争が膠着状態になった原因は、互いに『早くこの場を離れなければ!』という強迫観念にかられて無言の連携を見せたからに違いない。
王を取り合う敵同士であったが、確かにこの時彼らの心は繋がった。

そして素知らぬ顔をして王のそばに訪れ、熱の籠もった瞳で凝視した。
いつの間にか求める少女は豪奢な椅子に腰掛け、そばにある小さな机に置かれた菓子を食べていた。

そして状況は冒頭に戻る。

冷や汗がダラダラ滝のように流れている。
眼前で繰り広げられる妖魔大戦争の余波でも、背後から突き刺さるフラッシュの嵐のせいでもない。
それらも要因の一つではあるが、それよりも強烈な原因が目の前にあった。

輝く黄金の髪がサラリと揺れ、長身の青年が静かに跪いた。

「主上、お会いできたことを幸せに思います。私の想いは全て貴女のために存在します。これより心を一つにし、互いを思いやり、励まし合い、力を合わせて豊かな国を築いていきましょう」

艶やかな漆黒の髪がフワリと揺れ、痩身の青年が静かに跪いた。

「私の主上、私は生涯貴女の半身として幸せや喜びを共に分かち合い、悲しみや苦しみは共に乗り越え、永遠にお側に寄り添い続けることを誓います」

並んで跪いていた青年たちは同時に顔を上げ、同じくそっと右手を差し出した。

「「私をお選びください、我が主上」」

冷や汗の勢いが増した。

(このまま倒れたらダメだろうか……)

本当に心の底からそう考えたが、強靱な精神がそれを許さない。
いつの間にか戦争を終えた使令一同が真摯な目で見守っているし、背後の野次馬たちも固唾をのんで見守っている。
延麒に視線を動かしても「さあ、好きな方を選びなさい」と聖母のように微笑まれた。

……ああ、もう選ぶしかないのか!!













続きを書く予定はありませんが、興味本位でアンケートつけてみました。
答えが追加できるようになってますので追加したい方はどうぞ。

色々とねつ造設定満載のお話でしたがこれにて閉幕です。