今や教室中に漂うのは薄い殺気の渦。
これは少年少女が放っているものであり、もし彼らが成人していたならその場の殺気はさらに色濃く重厚になっていたことだろう。
しかし、幸か不幸か彼らはいまだ10を超したばかりの少年少女であり、さらには向けられた男性は盲目なまでに向けられた空気に鈍感だった。

「く……こんなヤツが教師だなんて……」

苛々を煮詰めて出しました★と言われてもナルホドと頷きそうなほどドロドロと重い声音を吐き出したのは、白磁の美貌を凶悪に歪めさせたドラコ少年だった。
彼は近年まれに見るマジ最悪な表情をしている。
とりあえずホグワーツでは浮かべることの少ない顔だ。
(だって隣にはいつも母がいるんだもんそんな顔浮かべる隙がない)

「なんでこんなモノ……ヨーコ!?」

「なんだ。今は忙しい」

「な、な……なんで……いや、そうか……でも……、……よし」

何かを勝手に納得したドラコは、そう言って手元の紙に視線を落とした。
最高にスッゲー嫌そうな顔をしているが、それでもペンをインクに浸し何かを書き始める。

実はドラコの小さな叫び声にスリザリン生一同が注目していた。
(ドラコはちゃんと押し殺していたが、叫ぶ内容がアレだったのでみんな振り向くコレ当たり前☆)
そして陽子の姿を見て何事かに頷くとドラコと同じ行動をとっていた。

教室中に満たされた生まれたての殺気たちは霧散し、もの凄く真剣な空気が流れ出した。
そして、どうでもいいことにかけては気付くのが早い男性はそのことに気づき、とてもイイ笑顔を浮かべた。

「おや? スリザリンの皆さんはとても真面目ですね! そんなにこのテストの素晴らしさが分かりますか!」

何も分かっていないこの場の唯一の成人男性は嬉しそうな声を上げた。
彼こそ幼きスリザリン生一同に殺気を纏わせるという偉業を成し遂げた男、新しい『闇の魔術に対する防衛術』の教師であるギルデロイ・ロックハートだった。





■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■





「何が『おや、皆さん答えが全くあっていませんね……でも皆が全ての答えを埋めたのは初めてです! その頑張りに対して、スリザリンに10点あげましょう!!』だ!!」

「そうだそうだ!! クイーンのために頑張ったのに!! お前のためじゃねー!!」

「でも、さすがよね……ローズ様は全問正解だったわ……」

「あの後、ナイトとの会話を聞いたんだが『暇つぶしに読んでおいて助かった。まさか全部あっているとは思わなかったが』と仰っていたぞ。さすがだよな……」

「それなのに加点はたったの10点!? アイツの目は節穴じゃないか!?」

「そうね……私、ロックハート様のことは好きだけど……」

「私も。好きだったけど……」

「「ローズ様ほどではないし」」

「あ、やっぱり!? 実はちょっと言い出しにくかったの。貴女ったら随分あの男のことを好いているみたいだったから……」

「何よ、それは貴女も一緒でしょ? あんなに熱く語っていたから、私も言いにくくて……」

「バカじゃねーの? あんな男が俺たちのクイーンに敵うハズないだろ」

「そうそう。コレだから女って……」

「ちょっと貴方! 前から言っているでしょう!? クイーンじゃなくて、キングよ!」

「そうよそうよ! 私たちのローズ様はキングでしょ!? クイーンだったら伴侶にキングが……まさかアンタたち……!!」

「な、べ、別にそんな意味じゃない! ローズは女性なんだから、クイーンって呼んで何が悪いんだよ!!」

「そ、そうだぞ! お前たちこそ女性に向かって【キング】は失礼だろ!!」

「なんですって!? ちゃんとローズ様は『いいよ』って言ってくれたわよ!」

「そうよ! 『じゃあ私は君たちを全力守ろう。可愛い子どもたち』って言ってくれたもの!!」

「そ、そう言うなら俺たちにだって『女王?なんだか久し振りに聞く言葉だが……まぁ好きに呼んでくれ』って言った!!」

「それに『じゃあお前たちは私を守るジャック(騎士)か?』って笑ってくれた!!」





「あそこの席は随分白熱しているな……」

「……(アレは……親衛隊の幹部か)」

「ヨーコは気にしなくていいわよ」

大広間で夕食をとっていた陽子は己より少し離れた席を見つめていた。
そこでは4人の男女が激しい口論を交わしており、周りに座る人間たちもなぜか熱い眼差しでそれを見ている。

「そうか?」

「ああ、そうだな」

そうか、そうなのか。と思いながら陽子は改めて食事に向かい合った。
実はこういった光景はよく見られるので、止めなくても大丈夫なことを知っている。
もちろんその内実を知るのは共にいるドラコとパンジーのみだが。

「それよりヨーコ! 君はなんであの男に笑みを向けられるんだ!? 僕には分からないよ」

「そうよ! (陽子にあんなに無駄な時間をとらせたのに!) なんでなの!?」

ドラコとパンジーに聞かれ、陽子は少し思案する表情を浮かべた。
おそらくあの男とは、今もキラキラした笑みを(無駄に)浮かべながら夕食を食べている新任教師のことだろう。

(そう言われても……別にいつも通りなだけなんだが……見た目と変わらない年齢をしているということはまだまだ彼も幼いということだし、何をしても子どもの悪戯にしか……ああ、そうか)

「ドラ、パンジー、よく考えてみてくれ。」

真剣な表情を浮かべた陽子に、2人も真剣になった。
ついでにそばで聞いていた数人の生徒たちも、食事の手を止めて真剣に陽子を見つめた。

「例えば小さな子どもがいたとしよう。その子は悪戯盛りの少年で、ちょっぴりワガママな性格をしている。でもそれも小さな子どもには良くあることだ。小さい子というのは、他人の気持ちを考慮して行動することは少ないし、自分の行動の結果何が起こるのかをよく考えないことが多い」

ドラコとパンジーは必死に脳裏に『小さな少年』を思い浮かべた。
2人とも根っからのスリザリン気質なので、子どもがすでに冷笑を浮かべて品のある仕草をしているのだが、頑張って陽子の言うような子どもを思い浮かべる。
かなり難しい。
まわりのスリザリン生も揃って難しい顔をしている。

「つまりは考え無しなのだが、それは成長と共に学ぶことだから仕方がないな」

考え無し……なるほど、とりあえずグリフィンドール生を子どもにして考えてみよう。

なんだか想像が上手くいったドラコとパンジーはちょっと笑みを溢した。
そしてその子どもが大変小憎たらしいので、少しイラっとしてしまった。
やっぱり周りのスリザリン生たちも、それぞれ眉間にしわを作っていた。

「その子どもをロックハート先生に当てはめるんだ」


ブフッ!


ドラコとパンジーは気合いで押しとどめたが、数人が噴き出した。

「ほら。何をしても『可愛いな〜これからもっと大きくなるんだぞ』という気持ちにならないか?」


ならない ならない ならない ならない!!


ドラコとパンジーは揃って微妙な表情を浮かべた。
本当なら全力で首を振りたかったが、優しい笑顔を向けてくる陽子にそんなこと出来ない。

これから大きくって……すでに彼は成人超した大きな人間なのだが、これ以上どう大きくなれというのだろう?

陽子の偉大さを改めて感じながら、その日の夕食は終わった。





■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■





その授業では、みんなして微妙な表情を浮かべる。
半分死んだ目、生暖かい視線、なり損ないの薄笑い。
それは少年少女たちが生まれて初めて浮かべた表情であり、これから先この授業では浮かべ続けることになる表情である。

スリザリン生たちに第二の偉業を成し遂げた男、ギルデロイ・ロックハートはそんな視線を向けられていようが気付かない。
今日も(無駄に)全開の笑みを浮かべながら意気揚々と語り出す。

「さぁ! 今日はこの本について詳しく説明しましょう!!」

「先生、私が朗読するので、先生にも聞いていて頂けませんか?」

「おや、ミスナカジマ! いつもながらありがとうございます!! では、この栄誉ある役目は貴女に譲りましょう」

「はい」

スタスタと前に行き、壇上に上がった陽子は本を手に生徒たちを見つめた。

「みんな、大切な部分の説明も入れるからしっかり聞くように。先生も、私に間違ったところがあれば注意して下さいね」

「任せて下さい!」

「では、最初のページを開いて――」

すでにスリザリンにおける『闇の魔術に対する防衛術』で教師は陽子となっていた。
陽子自身はロックハート先生を立てることを忘れないので、彼は全く不満に思っていないが。
時折陽子が入れる注釈や解説は重要なことばかりなので、実は良い内容だった本の質をさらに高めている。
(本自体は悪くない、ということに生徒たちは初めて気付いた)

スリザリン生たちは最初に浮かべていた微妙な表情をしっかり仕舞い込み、真剣な顔をして本を眺めだした。










 


ブログから移動しました。
以下、ブログのあとがきよりコピー↓

まだ出していない設定を使ったので分かりにくかったかもしれませんが。
陽子の名称【俺たちの薔薇の女王(クイーン・ローズ)】or【私たちの薔薇の王様(キング・ローズ)】
ついでにドラコは【薔薇の騎士(ナイト)】or【銀の騎士(シルバーナイト)】とか呼ばれてるとイイナ〜と思っています。
それだったらパンジーは?ってなるんですけど(^_^;)
いっそのことドラコとセットで【レディ・ナイト】とかでいいですかね?

ていうか「陽子の赤い髪=薔薇」っていう安直な決め方ですけどこれでいいかな……

ついでに親衛隊幹部は少年2名、少女2名の計4名。
たぶん第二話で出てきた『喧嘩しそうな連中』と『何か思い悩んでいる女生徒』だと思います。ていうかそうします(笑)
そしてもちろん親衛隊の隊長=ドラコ、副隊長=パンジーです。
別にドラコは隊長になりたかったわけではないのですが(さすがにそこまで性格壊したくない)、気付けばパンジーが勝手に親衛隊作って勝手に隊長にしてました(爆笑)

恋する乙女は盲目で暴走気味です。

まさか自分が好きな男の子の上に立つのは無いし、かといって他人に上を任せるワケにもいきませんから!!
ドラコは『ま、まぁ僕にしか出来ないことだろうし仕方がないから任されてあげてもいいだろう』とか言って引き受けます。
でも内心では『フフ、僕が陽子の一番の友だちだからな! 僕にしか出来ないことだ!!』とか思って超嬉しがってるハズ。