「おはようございます」
「おはようございます、お嬢様」
「おはようございます、今日も良い天気ですよ」
「おはようございます、朝食のご用意が出来ています」

休日といえど、跡部家の朝は早い。
朝の涼やかな空気にしっかりと目を覚ませた恵菜は、笑顔で廊下を歩いていた。
さすがというか、いつも通りピシリとした格好で仕事に励むメイドたちは恵菜の姿を見ると笑顔で声をかけてきた。

「おはよう」

恵菜は一人一人に挨拶を返すと、そのまま食堂のほうへ向かって行った。
挨拶を返されたメイドたちの驚きの表情を目にすることなく。





「よぉ、今日は早いな」

食堂に着くとすでに兄の姿があった。
最近まで食事は別々にとっていたのだが(そもそも邸自体が違った)、仲直り?をしてからは可能な限り食事は共にすることにしていた。

「おはようございます」
「ああ、おはよう」

兄といえど、礼儀は大切だ、ということでしっかり朝の挨拶をする。
跡部も笑みを浮かべながら恵菜に言葉を返す。
恵菜が座ったところで給仕の者たちが朝食を運んできた。
跡部の前に並ぶのは、朝食とは思えないほど豪華なフルコース。
恵菜の前には一般家庭に出ても可笑しくない普通の和食だった(もちろん食材は最高級のモノだが)
恵菜は「いただきます」と言うとさっそく食べ始めた。
すでに顔は幸せに緩みきっている。

「お前、それだけで足りんのか?」
「え、これでも多いくらいだよ?」

恵菜が笑顔で返事をすると、跡部は一瞬変な顔をした。
恵菜は跡部の反応を不思議に思ったが、そんなに少なく見えるのかな、と思うだけだった。
しかし跡部は食事をしながらそれとなく恵菜の様子を窺っているようだった。
(普通なら分からないかもしれないが、それくらい気づけなくて軍主なんか務まらなかったのだ)

「どうかしたの?」
「……いや、なんでもねぇ」

そんな視線を向けられてなんでもねぇことないと思うだけどな〜と思いつつ。
恵菜はとりあえず朝食攻略のほうが大切だったので、気にしないことにした。
そしてそんな恵菜の様子を、跡部はさらに注意深く窺っているのだった。





そして時は巡って昼近く。
恵菜は自室に戻って一人ソワソワしていた。

「今日は久しぶりにみんなに会えるんだもんね。楽しみだな〜」

過ごしやすいように部屋の模様替えをしてみたり、部屋に備え付けてある冷蔵庫に飲み物や食べ物を補充したり。
恵菜はウキウキしながらお客様の到来を待ちわびていた。
みんなが退屈しないように、色々準備しなくちゃ!と気合いを入れている時。
ふと、何かが引っかかった。

「……あれ、なんで『久しぶり』?」

ティルはうちに下宿してるし、学校に行けばラズロにも会えるから……別に久しぶりってことも無いはずだけど。
確かにルックに会うのは久しぶりなのかもしれないけど……

「なんか可笑しいな〜〜」

ひとたび覚えた疑問は、もやもやと恵菜の心に残った。
準備の手を止めていることにも気づかず、恵菜は考えに没頭する。

「あ、今日はまだティルに会ってない! ……変だな……」

下宿しているのだから、毎日顔を合わせるハズの妖華と会ってないなんておかしい。
帰省するという話は聞いていないし(そもそも妖華は帰省をあまりしたがらない)
それなのに、なぜ今この邸にティルは居ないのか??

考えてみれば考えるほどおかしな状況に、恵菜は頭を悩ませた。

ティルが事件に巻き込まれて今いないのか、いや、それなら『跡部』がどうにかしているはずだし……。
(下宿で預かっている令嬢が事件に巻き込まれるなど醜聞以外の何物でもない)
この『久しぶり』っていう感覚も変だ。
なんだか『仲間』に長く会えなかった幼少期の時と同じ感覚がする。
毎日妖華と孔也と会えるようになってから、こんな感覚を感じたことはなかったのに……


コンコン


「!!!」


悶々と悩んでいる時にいきなり聞こえた音に、恵菜はかなりの衝撃を受けた。
近づいてきた気配を察知できないほどの熟考だったのだからなおさらだ。
そして音に気を取られて恵菜は、自身の体が傾いていることに気づくのに遅れてしまった。


「っあ!!!」


バダーン!!

ドサドサドサドサ

ゴン! ガン! ドン!


実は棚の上の物を取ろうとしている最中に考えに没頭していた恵菜は、見事に棚の上の物と共に転倒した。
(軽く目を回している……それでも戦時を生き抜いた軍主かぃ)

「!? ミオ、入るよ!!」
「!! 大丈夫!?」

入ってきた者たちが見たのは、棚のそばで本に埋もれている恵菜の姿だった。
その声に軽く飛ばしていた意識を取り戻した恵菜は思わず呟いた。
(涙声なのはご愛敬だ)

「……いたい……」

「大丈夫かい?」
「相変わらずドジだね」

言葉と共に、目の前に手が差しのべられた。
心配そうにかけられた言葉と、呆れたように呟かれた声を聞いて、一瞬不思議な感覚を覚えながらも恵菜は手をとった。
その手を支えてもらい、ひょいっと持ち上げられた。

「わぁ!」
「怪我はない? 女の子なんだから、注意しないと駄目じゃないか」

その手の持ち主はそのままパタパタと埃を払いながら、怪我がないか注意深く眺めた。

あれ、この声って……

不思議に思った恵菜はその姿を確認しようとしたが、その前に鼻がむずむずしてしまい、その機会を逃した。
しかも、痛みと痒みでじんわりと涙も浮かんできた。

「っくしゅん、っくしゅん」
「ああ、埃が舞っちゃったね。ルック、窓を開けて」
「まったく、手のかかる……」

ブツブツと文句を言いながらも、しっかり言葉通り窓を開ける疾風。
さりげなく紋章を使って部屋の中の空気も入れ換えているようだ。

あ、うん。この声はルック(疾風)の声だ。
でも、こっちの声って……

恵菜は目に溜まっていた涙を急いでぬぐい取り、目の前の人物を見ようと目を見開いた。

「あ、そんなに擦ったら赤くなるのに……」
「……」
「まだ少し目が赤いね。大丈夫?」
「…………て、ティル……?」
「? どうしたの、ミオ」

目の前に立っているのは、どうみてもティル(妖華)じゃなかった。
でも感じる紋章の気配はソウルイーターのものだし、なによりその姿が問題だった。
闇を切り取ったかのような漆黒の髪は艶やかに光を反射し、中央で二つに分けられた前髪がそのまま頬をかたどっている。
サラサラと小さな風に靡く髪は、柔和な笑顔の美しさを彩り、さらに魅力をアップさせているように見える。
頭の後ろの部分はバンダナで隠されていて、首の後ろから見える布の先がふわふわと揺れてしっぽのように可愛らしい。
まるで『前』の世界での格好そのままだ。
そして何より。
目の前の人物はどうみても……『男』だった。

「え、え? えっと、ティル……だよね?」
「ん? そうだよ。どうしたの、ミオ?」
「さっき頭でも打ったんじゃないの?」

恵菜は驚きでポカンとした表情のまま固まった。
窓辺から2人のほうに近寄ってきた疾風は、辛らつな言葉と共に恵菜の頭にポンと手を置いた。
ニヤニヤと笑い嫌み全開の言葉だが、その手は優しい。
(頭を撫でる手が、とても気持ちが良かった)

「あ、ココたんこぶ出来てるよ」
「なんだって!?」

疾風の言葉に、妖華?(男だけど)は焦ったように恵菜の頭をそっと触った。
痛みを与えないようにという配慮だろうが、恵菜はその手の動きがくすぐったくて仕方がなかった。
ティル?が男??になってるのは不思議だけど、その優しさは変わらなくて笑顔が零れた。

「あはは、大丈夫だよ。痛くないから」
「でも――」



「今の物音は何だ!?」


声と共に開け放たれたままだった扉から現れたのは、朝に会ったっきりの兄だった。
急いで来たのだろう、うっすらと汗をかき、呼吸も少し乱れていた。
跡部は部屋の中にいる男2人を目にすると、焦った様子の表情を不快気に歪ませた。

「てめぇらは……」
「お邪魔してます」
「……お邪魔してます」

普通の人が見たら気後れしそうなほど美麗な顔を歪ませた跡部を気にも止めず、男2人は挨拶をした。
一人はすぐに穏やかな笑顔を浮かべて、あっさりと。
一人は一瞬嫌な顔をしつつもすぐにその顔を引っ込め、うっすらと笑みを浮かべてゆっくりと。
その2人の反応を見て一瞬跡部の表情が凶悪に変化したが、その2人に隠れていた妹の存在を目にしてすぐに表情を変えた。
跡部も部屋に入り、恵菜の側に来て覗き込んだ。

「おい、大丈夫か?」
「あ、うん」

恵菜の無事な様子を見て安心した笑みを浮かべつつ、やはり恵菜の返事を聞いて不思議な表情をする跡部。
恵菜は『もう、何がなんだか分からない』と諦めつつ、とにかくこの場の流れに任せることにした。

ティルはなぜか男になってるし。
ルックはそのままなのになんだかいつも以上に優しいし。
そもそもラズロは登場すらしてこないし。
兄(跡部)はいちいち不思議そうな表情を向けてくるし。

でも今はともかく……
なぜか対立したように立つ仲間と兄をどうにかする方が先だと思いながら。

「恵菜、こいつらが今日来るっつってた『お友だち』か?」
「え、うん? そうだよ?」

あれ、今日来るって言ってたっけ?
そう思いつつも、否定するのもなんだか状況がおかしくなりそうだと思って恵菜は頷いた。
(こっそり疑問符がついているが)
不審そうに見つめてくる跡部の視線もなんのその、妖華?(やっぱり男だけど)はニコリと笑顔を浮かべた。

「初めまして、お兄さん。真田煌一郎です」

内心『え゛!?』と思いつつ懸命にも恵菜はその言葉を飲み込んだ。
そのせいでかなり変な顔をしてしまったが。
(男たちが互いに睨み合っていたおかげで、見られることはなかった)

「手塚疾風です」

笑顔は浮かべていないが、比較的人当たりのよさそうな雰囲気で疾風も自己紹介を済ませた。
しかし滅多に見ない笑顔のせいか、逆に喧嘩を売られているような気分になるのは自分だけだろうか(おそらく跡部も気づいているだろうが)
その2人の様子を見て、まるで敵を睨むように鋭い視線を向けながら跡部も言葉を返す。

「跡部景吾だ」
「(うわぁ〜何この雰囲気……)」

初対面らしいが『よろしく』の一言が全くない所に彼らの心情が伺える。
恵菜は男たちの発するおどろおどろしいオーラに包まれつつ、そっと妖……いや、煌一郎?に目を向けた。
にこにこと邪気の無さそうな笑みを浮かべつつ、纏うオーラは『前』の世界でもよく見たカリスマリーダーのものだ。

やっぱり、ティルなんだよね……
ていうか真田煌一郎って何なんだ……?

不思議に思いながら見つめていると、その視線に気づいたのか煌一郎?はこちらを向いて笑顔を浮かべた。
先ほどまで浮かべていたのとは大違いの、慈愛に満ちた暖かい笑みを。

「どうしたの?」
「……ううん。なんでもないよ」

やっぱりティルだ。
なぜか妖華じゃなくて煌一郎になってても、ティルだ。

嬉しくなった恵菜は、幸せそうな満面の笑みで煌一郎に答えた。
そして、そのまま疾風を見つめた。

「……何?」
「なんでもないよ」

不機嫌そうに、でも瞳は心配そうに疾風が問いかけてくる。
(恵菜の様子が少しおかしかったことに、薄々気づいているのかもしれない)
そのことが嬉しくて、また恵菜はとろけるよな笑みを浮かべながら答えた。
まるで光に満ちているかのように、3人を包む空気は穏やかだった。

驚いたのは、傍で見ていた(見せつけられていた?)跡部だ。
見たこともないような輝く笑顔を浮かべる恵菜に、イライラと嫉妬めいた気持ちが浮かんでくる。
しかし3人を包む暖かい雰囲気は、土足で踏み上がるのを躊躇うほど美しく神聖なものに感じられる。
一つ呼気を溢すと、スッと気持ちを入れ替えて恵菜に話しかけた。

「……恵菜、ここの掃除は他の者に任せて、お前たちは客間を使え」
「え、掃除くらい自分で……」
「久しぶりに、会ったんじゃねぇのか?」
「あ……」
「準備してたんだろ?」

跡部の優しい言葉に、恵菜はハッとしたように兄の姿を見上げた。
そしてまた笑みを浮かべると嬉しそうに頷いた。

「うん。ありがとう」
「礼はいらねぇよ」

跡部にくしゃりと頭を撫でられ、恵菜はすぐに行動を開始した。

「あ、これとこれを持ってくれる?」
「うん」
「あ、こっちとあれも」
「はいはい」

恵菜が男たちに荷物を持たせている様子を横目に、跡部はメイドに指示を出していた。
そして部屋を出る時に、ちょうどこちらを見てきた2人に、強烈な眼光を喰らわせた。

「……」
「……」

「『今回は譲ってやるが次はないぞ、ガキ共』ってところかな?」
「『俺様の前で良い度胸だな、覚えておけ』じゃない?」

煌一郎と疾風は、扉のほうを眺めながら互いを横目で見つつ言葉を交わした。
お互い先ほどの跡部の視線の宣戦布告をしっかり受け取っていることを確認している。
しかしそれに怯む様子もなく、むしろ楽しげな雰囲気なのは彼らが一枚上手だからなのか(年の功か)
……でも、両手が荷物で塞がってて、微妙に格好がついていない。

「あれ、2人ともどうしたの?」

いきなり立ち止まった2人に、自身も両手にたくさんの荷物を抱えながら恵菜が問いかける。
(この娘は何をどれだけ準備しているのか、謎)

「いや、なんでもないよ。ミオ」
「ミオが気にすることじゃないさ」


「「君は俺(僕)たちが守ってあげるからね」」


だからずっと一緒だ。
(他の野郎なんかに渡すわけない)















 ……っていう夢を見たんだー!」

にこにこと笑みを浮かべながら言う恵菜に、他の3人はそれぞれ複雑そうな表情を浮かべている。

「へ〜俺が男に、ねぇ〜」

そっちがよかったかもな〜。
いまだに自身が女の子であることに慣れていない(慣れたくないという気持ちもある)妖華が羨ましそうに呟いた。
女の武器を乱用することに躊躇いは無いが、女であることにはまだ納得できない。
(悪女か!?)

「…………」

疾風は気味が悪そうに恵菜を見つめている。
恵菜の夢の中の自分が、そんな発言をしているなんて許容範囲外だ。
でも、夢は願望の表れと言うし……もしかして恵菜はもっと優しくされたいのだろうか? だったら今度からもう少し……でもそれは……
と、一人己と格闘しているようだ。

しかし、2人よりもさらにびみょ〜な顔つきをしているのが孔也だった。
悲し気な雰囲気を纏いながら、暗ぁい声で恵菜の問いかけた。

「……ねぇ、ミオ。俺は出てこなかったの?」
「……あ……う、うん。実は……2人ともラズのこと、知らなかったし……」

夢の中で2人に聞いてみて『は? 誰それ』とユニゾンで言われた時はさすがに恵菜もガガーンとショックを受けた。

恵菜は申し訳なさそうにこちらを窺っている。
それを聞いて孔也はさらに暗鬱とした空気を醸し出しながら、体操座りをして部屋の隅に行ってしまった。

「あ、えっと、その……」

いつになく暗く落ち込んでしまった孔也に、恵菜は焦った。
自分の夢のせいだし、なんとかしなければ……!と思いつつ、謝るのもなにか違うような気がするし……と頭を悩ませた。
その時、フと目に入った自分の寝台にあるものを見つけた。

「あ!!」
「どうしたの、いきなり」

比較的ダメージの小さかった妖華が問いかけるが、恵菜は勢いよくベッドに近づいていった。
そして、ガバッと枕を持ち上げると、手に何かを握り大きく振った。

「あったー!! ね、ラズ、これのせいだよ! これが枕の下にあったんだ!」
「? あー、なるほどね」
「ナニソレ……また懐かしいもの持ってるね」

妖華と疾風は恵菜の手元を覗き込み、納得したようだった。
孔也も不思議に思い見てみると……

「写真?」
「この前アルバムを整理した時、一枚だけ見つからなかったんだよね〜。たぶん、これのせいじゃないかな?」

そこに写っているのは、2人の女の子と1人の男の子。
嫌がる男の子を女の子たちが引っ張って楽しそうにピースしている写真だった。

「これ、ラズが撮ったから写ってなかったんだよね」
「へぇ〜懐かしいね」
「うわ、ルックめちゃくちゃ嫌そうな顔してる!!」
「うるさいな!」

懐かしそうに写真を見つめる恵菜と孔也は穏やかな様子だ。
爆笑している妖華と、それに噛みつくように反論した疾風は、そのままいつもの口論になってしまっている。

ちろりと写真から目を離した恵菜は、すっかりいつも通りに戻った3人をこっそりと見た。


ああ、やっぱり僕の仲間は、この3人だ。
守られるのは心地良いかもしれないけど、僕は互いに支え合いたい。
あの2人も優しくて素敵だったけど、こうしてケンカしてる所を見ているほうが楽しいや。
それに、ラズがいないのは嫌だしね。


恵菜は心の中で呟くと、また手元の写真に目を戻した。
ひっそりと幸せそうな笑みを浮かべて。











おまけ↓



「それにしても」

手元の写真から目を離した孔也は、感心した風に恵菜を見つめた。

「枕の下に写真を入れるだけでそんな夢が見れるなんて、ミオは器用だね」
「うーん、そうかな?」

褒められたことは素直に嬉しい(ハズな)のだが、どうもあまり嬉しさを感じない恵菜だった。

「ねぇ、他にも何か試してみなよ」

面白そうな話題に、妖華が食いついた。
すでに枕の下に何を入れるか考えているようで、視線が部屋の中をうろうろしている。

「あ、じゃあ今度は俺と2人の夢を見てよ。ティルとルックはもう出てきたんだし」
「な! ラズ!!」
「いいじゃないか。君たちはもう出てきたんだろ?」

意外と根に持っていたらしい孔也がにこりと笑みを浮かべながら、恵菜に写真を手渡した。
いつの間に取り出したのか、その写真には幼い恵菜と孔也が2人で写っていた。
(最初からそのつもりだったのか!?)

「うん? いい――」


パシン


「そんな簡単に頷いたらダメだよミオ!」
「むぐ」
「ティル。今ミオは『いいよ』って言おうとしてたじゃないか」
「いや、ダメだ! なんで2人っきりの夢なんか――」

「こっちのほうがいいんじゃない?」

珍しく妖華と孔也が口論になりかけた時、疾風がさっと一枚の写真を手渡した。
そこには隠し撮りとも言える(むしろそうとしか見えない)孔也の自然な様子が写されている。
ちなみに、被写体は孔也1人だけ。

「僕ら3人はもう夢に出てきたんだろ? だったら次は孔也1人だけ出てくればいいんじゃないの?」
「……」
「(グッジョブ、ルック!!)」

孔也は憮然とした様子で疾風を睨んだ。
その影から妖華が両手で親指を立ててルックにビシッと決めていた。


「ねぇ、僕はこれがいいと思うな」


1人ごそごそしていた恵菜は、一枚の写真を取り出した。
そしていきなり3人の手を掴むと、ずるずると引っ張っていった。

「え?」
「ミオ?」
「な、」

「シロー! 今日は3人ともお泊りするって連絡入れといてー!!」
「はーい、分かりましたー☆」

いきなり大声を出した恵菜に、どこからともなく返事が返ってきた。
そして恵菜は大きな枕の下に写真を入れると、まだ不思議そうにこちらを見ている3人にタックルした。
3人とも恵菜の為すがままに盛大にベッドに倒れこんだ。
(打ち所が悪かった者はうめき声を上げている)

「うわ!」
「いで!!」
「っつ……」

「今からみんなで見よう! 4人分だから凄く面白い夢になるよ!」

満面の笑みでそう言った恵菜は、足元に畳んであった大きくて肌触りの良いタオルケットをガバッと広げた。
そしてそれで皆を包み込むと、寝転ぶ疾風、妖華、孔也の隙間に入って、寝転んだ。
恵菜はすでに幸せそうに目を閉じていて、おやすみまで秒読みといったところだ。

「まぁミオがそういうなら」
「それでいっか」
「……まぁ、いいか」

心地よい人肌と、傍に居るという安堵感でそれぞれが暖かさを感じていた。
数分後には、寝息だけが聞こえてくるだろう。




枕の下に眠るのは、幼い4人が笑う風景。






もしものお話です。
古いメモを眺めていたら、以前考えた幻テニの設定が出てきました。
1主ティル→真田煌一郎(これが一番ウケた。まさか真田の弟設定にしていたとは!!笑)
2主ミオ →跡部景菜 (漢字が違うだけですね。ちなみに敬語キャラだったみたいです)
  ルック→手塚疾風 (なんにも変わらないのはこの人だけ。何気にウケます)
可哀想なことに、この時は4主を出すつもりなんてこれっぽちもなかったんですよね。
そして跡部(とメイドたち)が感じていた違和感は、いつも敬語のハズの妹が、いきなり普通に喋っていたからでした(話の中に盛り込めなかった…↓)

迂曲左折の末、今の4人の設定が生まれました。
もうちょっと早く執筆を手がけていたら、この3人のお話が出来ていたかもしれません。
なんだか面白そうだと思ってIFとして書いてみました。
(そして最後はありがち〜な夢オチです☆笑)





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