その日もいつもと変わりなく遅刻魔の担当上忍をイライラしながら待ち。
来たかと思えば明らかに嘘と思われるいい訳に絶叫し。
渡された任務に不平不満をためつつも憮然と受け取ったある日の午後。
下忍第7班の面々は、いつもと変わりない日常を過ごしていた。


「あー!! 抜いても抜いても全っ然無くならないってばよー!! なーんでこんなことばっかり毎日毎日しなきゃいけないんだってばー!!」

「さっきからうるさいわね! 静かにしなさいよ!」


手に持った草をまき散らしながら、うがー!!とナルトは吠えた。
泥まみれにもかかわらずその手で頭を掻きむしっている。
それに怒声を上げたのはサクラで、同じく手に草を握りしめている。


「だって今日もこんな雑用だってばよ? 俺ってば、俺ってば、もっとすっげー任務がしたいんだってばよ!!」

「そんなこと今言ってもしょうがないでしょ!? いいからさっさとその手を動かしなさい」

「……フン」


駄々をこねるナルトに、サクラは諭すように声をかける。
少し離れた場所で黙々と手を動かすサスケは、馬鹿にしたようにナルトを見つめ鼻で笑った。


「サスケェェ! その笑いはなんだってばよ! 言いたいことがあるなら……」

「サスケくんに突っかからないの!! ほら、手を動かしなさい!!」

「う、わ、分かったってば」


すっかり第7班のまとめ役兼宥め役になってしまっているサクラが声を荒げると、ナルトもその剣幕に負けたのか大人しくなって作業を再開した。
不満そうな顔をしながら、ブチブチと手元の雑草を抜き散らかしている。


「ナルト! 抜いた草はちゃんと一纏めにしておかないと、後で大変でしょ!?」

「えー後から拾えば……」

「いいから、ちゃんと纏めて置いておきなさいよ!?」

「は〜い」


ナルトはそそくさと周囲に散らばる草を集め、一つに纏めた。
それを見てやっとサクラも作業に戻り、根本から丁寧に草を抜きはじめる。

やっと静かになった草原から少し離れた木の上。
のんきに枝に寝転がりながら本を読む青年が、眠たそうな瞳でそれを見守っていた。


「今日もみんな元気だね〜」


先ほどのやり取りをこれまで数回繰り返し、おそらく少し経てばまたナルトが騒ぎ出す。
それを穏やかな眼差しで眺めているカカシは、暢気そうにしつつも周囲の警戒を解いている訳ではない。
この辺りは里の中心部からも離れ、人の気配は少ない。
子どもたちの話し声を聞きながら、カカシは本のページをゆっくりめくる。

第7班の任務風景は呆れるほど平和だった。
この時まで。





ドッガーン!!!





「おぉぉおおおおわぁぁああああぁぁあああ!!!!?」


「!! ナルト!?」

「っ、な!?」


「――っ!!!!」


突然鳴り響いた轟音と、聞こえてきた悲鳴に、カカシは俊敏に身体を起こした。
一瞬後には子どもたちのそばに立ち、煙に満ちた空間を睨み据える。


「サクラ、サスケ、無事か?」

「は、はい。でもナルトが……!!」

「……っち!」


サクラは心配そうな表情で煙の中を見つめている。
警戒に身を強ばらせながらも、煙の奥にナルトを探そうと必死だ。
サスケは敵の気配を探ろうと神経を尖らせ、ここまで近寄るまで気付けなかった己に怒りを感じている。
それぞれ瞬時に体勢を整えたことを目に入れ、カカシも同じく警戒したまま煙の奥に視線を飛ばしている。


「殺気も敵意も感じられねぇ……だが、人の気配がする」

「ああ、そうだな。それもかなりの使い手だ」


冷や汗と共にサスケが唸ると、カカシも真剣な声で答えた。


「い、いったい何なんだってばよ〜!!」

「……とりあえずナルトは無事みたいだね」


遅まきに聞こえてきたナルトの悲鳴に、カカシが呆れながら言った。
3人は敵襲かと体勢を整えているのに、ナルトの声はいつもと変わりない。
心配そうだったサクラも微妙な顔をし、サスケは思いっきり馬鹿にしたような表情で煙を見ている。
(それでも警戒していることには変わりないが)
とにかく煙が晴れない限り迂闊に出だしは出来ないので、煙の外の3人はそれぞれ武器を構えながら気配を探っていた。

そして、一陣の風と共に煙が晴れた。


「ごめんね、ごめんね」

「全くなんなんだよあの男は!!」

「まぁ落ち着くなよ。こうしてとりあえず目的地にも着いたみたいだし……」

「その方法がかなり問題有りだと思うけどねー」


煙の中から現れたのは、サスケやサクラより少し年長くらいの少年少女だった。


「ごめんね、ナルくん。突然で驚いたでしょう? 怪我はない?」


ナルトを抱きしめている少女が、心底済まなさそうに謝りながらナルトを見つめている。
ナルトの身体を優しく起こし、立ち上がらせていた。


「な、な、な」


突然目の前に現れ、いきなり抱きしめられた相手が妙齢の美少女だったことにナルトは驚き言葉を失っている。
顔を真っ赤に染め、口をパクパクしながら少女を凝視していた。
ナルトのそんな様子を見ても笑みを絶やさない少女は、優しくナルトを見つめ続けている。


「君たちは何者なのかな?」


不意に聞こえてきた声に、その場の少年少女とナルトは声の方向を振り向いた。


「あ、カカシせ――」

「ちょっとそこの銀髪! 君の師匠は一体どういう頭の構造をしているわけ!?」


ナルトの言葉に重ねるように、煙の中から現れた少年の一人が声を荒げた。
錆びた鉄のような赤い髪を振り乱し、薄茶の瞳に金の光を宿して怒りの表情を曝している。


「いきなり人を呼びつけたかと思えば延々と息子自慢挙げ句の果てに『心配だから見てきて欲しい』だと!? 巫山戯るのはその存在だけにして僕たちに迷惑をかけるなと君のアホ師匠に言っておけ!!」

「ほらほら落ち着いて。みんなルックの剣幕に驚いているよ」


荒れ狂う少年に穏やかに声をかけたのは、そばにいた少年2人の内の一人。
若木の葉のような新緑の髪を揺らし、夕日を閉じこめた朱色の瞳を笑みの形に変えている。


「アレ? 君たちが護衛対象?」


不思議そうに警戒一色のサクラとサスケを見て首を傾げているのが少年の内の最後の一人。
背後の青空に溶けるような水色の髪をバンダナで纏め、妖しい魅力を内包した紫電の瞳を持っている。


「ん〜人違いじゃない? 君とは初対面のはずだけど」


カカシは常と変わらぬのんびりとした口調で答えたが、まとう空気はいつも以上に張りつめひんやりとした冷気を感じさせる。
死した師匠のことを口にされ怒りを覚えたことと、話のおかしさが警戒を強めたせいだった。


「? 何を言って……」

「俺の師匠は随分前に亡くなったんだよ。それで、君たちは……敵かな?」


言葉と共にじんわりと殺気混じりの重い空気が漂ってきた。
カカシの空気に飲まれ、そばにいたサクラとサスケには声を発することが出来なかった。
こんな風に怒ったカカシを見たことが無く、その変化に戸惑っている。


「なんだって……?」


その時、少年たちの影に隠れて見えなかった少女が身を起こしてカカシたちの前に立った。
その姿を見て、カカシは絶句した。


「――!!」

「それは本当ですか、カカシさん」


日の光に輝く金の髪がキラキラと舞い踊り、見つめる瞳は切り取った青空のように澄んだ碧眼。
その顔立ちは敬愛する師の妻の面影を色濃く残し、美しく整っている。
聡明で思慮深そうな雰囲気は彼の師に酷似しており、その色合いのせいでまるで彼がその場所に立っている幻影すら見えそうだ。
まるで、彼らの娘だと説明されれば否定の言葉もなく納得してしまいそうな、彼らを合わせたような少女。


「君は……」

「私たちはあなた方に敵対する者ではありません。どうか話を聞いて頂けませんか」


そっと差し出した少女の手に、見慣れた木の葉の額宛が乗っていた。






「私は波風ルイナです」

「清蓮翠雨です」

「俺はなるかみトール」

「沙々迦陵」


ひとまず自己紹介から始めよう、というわけであの草原で彼らは話をしていた。
第7班のメンバーの警戒が解けた訳ではないが、『敵対する者ではない』という言葉通り彼らに敵意の欠片もない。
それに見せられた木の葉の額宛は本物で、使い古された印象を与えるものだった。
少年たちが見せた木簡は木の葉で使用されている身分証明であり、偽造不可能な火影の印が付いていた。
そこでひとまず彼らの言葉を信用してみることにしたらしい。


「波風……?」

「はい。カカシさん考えてらっしゃることで正しいと思いますよ」


驚いたようにルイナを見たカカシに、穏やかに答えた。


「まさか! あの人に子どもは一人しか……」


一瞬ナルトに視線を流したカカシに、ルイナは笑顔で答えた。


「おそらく平行世界ですね」

「たぶん、この世界は僕たちのいた世界じゃない」

「え、どういうことだってば?」

「私たちは違う世界から来たってことだよ」


不思議そうなナルトに、ルイナが優しい笑みを浮かべて答えを返した。
ナルトはその笑顔にドギマギしてしまう。
さっきからこの女の子はナルトに対してだけ優しい優しい笑みを浮かべるのだ。
しかしそんな穏やか(内容は穏やかではないが)な空間に、怒声が響いた。


「ふざけるな!! そんな言葉信じられるか!!!」


サスケが憤慨した表情でルイナを睨むと、そばにいた少年の一人が不思議そうな顔で問いかけてきた。


「……お前、うちはの次男坊だよな?」

「だから何だ」

「へぇ〜こっちの君は随分可愛い性格してんだな……」


しみじみと呟くトールに、サスケの怒りのボルテージが上がっていく。


「なんだとっ!?」

「いやぁ、俺たちの世界の君……ああ、サスケだっけ? サスケは兄貴に負けらず劣らずイイ性格してたからな」

「っ!? イタチを知っているのか!?」


憎しみに染まった顔でこちらを睨み付けてくるサスケに、トールも負けじと睨み返した。


「知ってるかだと!? 知っているに決まっているだろアイツは俺たちの敵だ!!!!」

「いや、敵対してるのは君だけだよ」

「だってアイツはいつも木の葉にいてミ、ルイナのそばにいるんだぞ!? 羨まし……じゃなくて、……とにかく、ムカツクんだァァアア!!!」


穏やかに口を挟む翠雨に、トールは熱く言い返した。
それを聞いて驚いているのがカカシとサスケで、不思議そうに見ていたのがナルトとサクラだ。


「ちょっと、話が進まないから!」

「っ」

「それで……今ので分かったと思うけど、私たちは貴方たちのことを知ってるかもしれない。それでも名前を聞いていいかな」


片手でトールの口を押さえつつ、ルイナは笑顔で問いかける。
心の底から敵対の意志など皆無な、優しい笑みだ。


「あ、俺ってば、うずまきナルト!」

「私は春野サクラです」

「……うちはサスケだ」

「畑カカシだよ」


第7班の面々は、それぞれ様々な感情を乗せながら名前を言った。
それぞれの顔を見ながら名を聞く少年少女に、カカシが声をかけた。


「とにかく、君たちが敵対する意志がないってのは分かった。それでも火影様には報告しないといけない。君たちには火影様にも会ってもらいたいんだけど、いいかな?」


カカシの声にルイナたちは視線を合わせ、そっと頷いた。
それを見て立ち上がったカカシが一同に声をかける。


「それじゃ、行こうか」

「あ、センセー! 任務はどうするんだってば?」

「あー……」

「任務って何なの?」


悩むように声を出して宙を見上げたカカシを見て、ルイナがナルトに問いかけた。


「この草原の草むしりだってばよ!」

「草むしり……」

「何、君そんな任務してるわけ?」


元気に答えたナルトとは反対に、ルイナは唖然と呟いた。
迦陵は呆れたような声で問いかけるが、その声に多分に馬鹿にしたような響きが含まれているような気がするのは錯覚じゃない。


「な! 俺だってこんな任務嫌だってばよ! それなのに火影のじっちゃんが……」

「あー分かった分かった」

「じゃあ、ちょっと待ってもらえますか?」

「ん? 別にいいけど」


迦陵は面倒臭そうにナルトの言葉を遮った。
ルイナがカカシを見上げてお願いをし、了承されるとサッと翠雨に視線を流した。
それを受けて翠雨は微笑し、そっと彼らから少し離れた位置に立った。
彼の周りに不可思議な力の奔流が渦巻き、前髪で見えぬ額がうっすらと赤く輝いた。



「おどる火炎」



翠雨が優しい声で唱えると、彼を中心にして炎の海が広がった。
爆発的なほど大きくはなく、足下を這うようにして進む火炎が蔓延っていた雑草たちを一掃していく。
彼らの足下に来た火炎は器用に人の足を避け、素早く草花を焼き払った。

「うわ〜! なんだってば!?」

「す、すごい……」

「っな!!」

「今のは……」

「これで任務終了ですね。火影様のところに行きましょうか」


驚き固まる子どもたちと、何かを思案しているカカシにルイナは明るく声をかけた。






突発小話。
むしろ原作介入のほうが面白そうだな〜と思い始めている今日この頃です。
あまりにも本編の続きが思いつかないので、リハビリみたいな感覚で書いてみました。 でも続く予定はありません。満足しましたァ!早
使いこなせば烈火の紋章は雑草対策に万全☆……のハズ






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