「――?」
そうして差し出された手は、望む大きくて頼りがいのありそうな手ではなく、それよりも少し小さくて華奢な手。
「ここがムクムクの故郷か〜!」
ナナミの明るい声が響く。
声と同じようにその足取りは軽く、魔物もいるというのにスキップ混じりだ。
リオウたち一行は、グリンヒル周辺の森の中を歩いていた。
名目は『ムクムクの里帰り』
戦時中にそんな理由の遠出が許されていいのかと不安にもなるが、息抜きをするためなら名目なんかどうでもいいらしい。
今現在、戦争が激化し、少しずつ最後の決戦に向けて軍にも深刻な空気が流れている。
適度な緊張感を保つのはいいが、逆に深刻な空気に飲まれて身体の調子を崩しては元も子もない。
と、いう訳でこうしてたまの息抜きをしているということだ。
最近では厳しい顔つきをすることが多くなったリオウも、ムクムクを腕に抱いて若干安らいだ顔をしている。
そして腕の中のムクムクは嬉しそうに周りをキョロキョロと見回しては、リオウに向かってムームー声をかけているのだった。
(ムクムクの定位置は軍主の腕の中です)
こうして『軍主の安らぎの旅路(誇張)』に選ばれた暇人たちは……
ナナミ(すでに固定メンバー?)、ムクムク(里帰りに本人が居なくては話しにならない)、
フリック(暇じゃないのに軍師に子守を押しつけられた苦労人)、ニナ(地元の道案内役をお願いした)、
シーナ(彼こそ暇人)、そしてリオウの6人だった。
暇ではなかったはずなのに暇にされて鬼に『死ぬ気で守ってこいよ』と釘を刺されたフリックの苦労が伺える。
今もフリックはすぐそばで色々と甲斐甲斐しくお世話(というなのスキンシップ)をしてくる少女の相手をしながら、若干疲れた表情をしていた。
(まるでリオウとフリックの表情が反比例しているようだ)
「おいナナミ、あまり騒ぐとと魔物に――」
「で、出たー!!」
「言ってるそばから……」
「フリックさん! 早くナナミちゃんの所に行きましょう!」
「おわっ」
魔物に遭遇して慌てふためくナナミを呆れて見ていたフリックの腕がいきなりグンッ!と引かれた。
戦いに行くというのに満面の笑みを浮かべて走るニナの仕業だった。
そうして2人はどたばたと走り出した。
「早いな〜」
一人遅れて走るシーナの声には感嘆が込められている。
走り方に真剣味が足りないような気がするのはいつものことだ。
ちなみにリオウ(と腕の中のムクムク)はナナミの第一声が聞こえた瞬間、誰よりも早くダッシュをはじめていたりする。
(その瞳には苛烈な光を宿して)
「――!!」
「ッムー!!!」
走りながらバッとリオウが手を振り上げると、それに合わせてムクムクが飛び出した。
そしていつもより勢いよくムクムクがナナミの目の前の魔物に飛びかかった。
「あ、リオウ!」
「……」
「う……ごめんごめん!」
「おい、説教は後にしろ! 次来るぞ!」
追いついたフリックが注意を促し、ナナミをじとーっと見つめていたリオウもトンファーを構えなおした。
戦闘が終わった後、ナナミはしっかりリオウの無言の注視攻撃を受けていた。
(危ないから一人で離れないで)
(危険な目に合うようなことはやめて)
そう目で訴えてくるリオウに、ナナミは弱い。
「ごめんってば〜リオウ〜。今度はちゃんと気をつけるよ」
両手を合わせて何度もごめん、と繰り返すナナミ。
そのナナミの様子を見てやっと溜飲が下がったらしいリオウが、コクンと頷いた。
そしてナナミはパァと嬉しげな笑顔を浮かべると、リオウの手を引いて意気揚々と歩き出した。
(腕の中のムクムクも嬉しそうだ)
「あの2人は相変わらずだね〜」
「はは、そうだな」
少し離れた場所で軽い揶揄を飛ばすシーナに答えるフリックの声は優しい。
その表情も声と同じく優しい微笑を浮かべている。
しかしそれを見て釈然としないのは、そばに居るニナだ。
「(もぉ〜フリックさんったら! そばにこんなに可愛い女の子がるのに、ずーっとあの2人を見ちゃって!)」
プンプン!とした様子であっても、さすがに会話に割り込むほど無粋ではない。
なのでフリックと会話するためにも、ニナも会話に加わることにした。
「リオウくんとナナミちゃんは前からこんな感じなんですか?」
リオウはいつも無言で、その代わりのようにナナミがよく喋る。
なんだかナナミがいつもリオウの代弁をしているように感じられて、大変そうにも見える。
「あ、それ俺も気になるなー。俺もニナちゃんと一緒で最近こっちに来たし。なぁニナちゃんvv」
「私の方が早かったわよ!!」
「つれないな、でもそんな所も素敵だよvv」
シーナの言葉にニナは小揺るぎもしない(だって想い人はすでにいる)
むしろフリックとの会話を邪魔されないように必死だ。
「ああ、そうだな。リオウもナナミも出会った時からこんな感じだったな」
遠い目をしながら語るフリックの表情は、やはり暖かい。
その目に写るのは、おそらくリオウの姿(2人を見ていても、中心にいるのはリオウだ)
それを見てやっぱりむ〜っとするのはニナだ。
「リオウくんっていっつも無口じゃないですか」
なのにどうして貴方はそんな優しく彼を見るの?
(なのにどうしてみんなしてこうも暖かい目をして彼を見るの?)
そんな思いを乗せた愚痴を吐いてしまうのも無理はない。
ニナが表情を隠しきれずにふて腐れたような顔をすると、そばで見ていたシーナは苦笑いした。
「はは、お前にもすぐ分かるよ」
フリックは笑いながらニナの頭に手を置いた。
やっぱりその表情は暖かくて優しくて、ニナが向けられたことのない柔らかな笑みだった。
「『すぐ分かるよ』ってどういう意味なのよ〜!!」
ニナはどすどすと足音を立てながら街の中を闊歩していた。
少し周辺の森を散策した後、リオウたちはグリンヒルに来ていた。
そしてその場でかけられた言葉は『自由行動』
目的の里帰りが滞りなく終わったがすぐ帰るのも勿体ない、ということで少し休憩することになったのだ。
しかしリオウたちとフリック、シーナには行きたい所があるらしく、それぞれみんなで行っていたら帰りに間に合わない。
(遅くなると皆平等に鬼軍師の説教が待っている)
「それに、せっかくフリックさんと一緒に街を歩けると思ったのに……」
自由行動と聞いて目を輝かせたニナは、さっそくフリックに声をかけようと振り向いたのだが……
気づいたらその場にフリックの影はなくなっていた。
そしてそれに唖然とするニナを置いて、リオウたちとシーナも声をかけながらどこかに去って行ってしまった。
その場に残されたのはニナのみ。
仕方なくニナは『久しぶりだしまぁいっか』ということで学院に足を運んでいた。
そしてそれまでの道すがら今日フリックと話した内容を思い返して笑み崩れていたニナは、不意に怒声を上げたのだ。
(それが先ほどの一声である)
あの後、何が分かるのか聞いてみても『まぁ、自分で気がつかないとな』とフリックは笑うだけだった。
何か知っていそうなシーナを振り返ってみたら、すでに前方を歩くリオウとナナミのそばにいた。
(勘の良いやつめ……! とニナは歯がみした)
女好きのシーナなら、女の自分が問いかければ何か答えてくれると思っていたのに。
リオウにちょっかいをかけてナナミに怒られているシーナを見ながら、ニナはため息をついたのだった。
「あ、ニナ、久しぶり!」
「ようお前、同盟軍にいるんだろ?」
「ねぇ、テレーズさんは元気?」
「あなた今まで元気だったの? たまには手紙くらい書きなさいよ」
「足手まといになってんじゃねぇのー??」
「もう! 心配してたんだからね!」
学院を歩いていると、そこかしこから知り合いが声をかけてきた。
「あら、久しぶりね!」
「そうよ。 私も宿星なんだからね!」
「元気にしてらっしゃるわよ」
「ごめんごめん、今度書くわ!」
「何よ! 私だって少しは戦えるのよ!」
「心配性なんだから。私は平気よ!」
その一つ一つに返事をして歩いていると、ついこの前まではここにいたことを思い出す。
争いから遠ざけられ、ただ毎日を友と笑い合いながら過ごした。
宿題に終われ、遊びに行き、授業に取り組み、全ては暖かな日常の繰り返しだった。
それが徐々に崩れていったのは、王国軍がこの地を取り囲んでから。
少しずつ街の人間たちがおかしくなっていくのを見ながら、自分にも何かできないかと必死だった。
(結局は何も出来ずに終わったけれど)
少しでも助けになりたいと思って、隠れているテレーズ様のお世話をした。
街が兵士に蹂躙されているのを見て強い怒りを覚えたが、たった一人の持つ力は小さくて何度も憤りに涙した。
そんな時に現れたのが、同盟軍の助け(フリックさんとの出会い)
グリンヒルが開放されてからも、もう何もせずにはいられないと思って自ら同盟軍に飛び込んだ。
少し前には想像もつかない今の自分。
毎日フリックを追いかけていて気づかなかったが、グリンヒルを離れてかなりの月日が経っていることに気づいた。
「(そう思うと、学院も懐かしいな)」
見渡すと、どの場所にも思い出がある。
どれもこれも今思い返すと楽しい思い出しかない。
ふと胸に湧き上がる思いに身を任せてニナはその場に立ち止まった。
しばらく無人の教室に佇んでいたニナは、差し込む夕日の影を見つけて慌てて時計を見た。
「いっけなーい!! もうこんな時間!!!」
すでに待ち合わせの時間を大幅に過ぎているのを見て、慌てて教室を飛び出した。
待ち合わせ場所である街の入り口に向かっていると、すでにその場には人影があった。
「(あーやっぱりみんなもう来てるー!)」
どうも顔が合わせづらいと思ったニナは、すぐに方向転換した。
そして宿屋の影からこっそりとみなの様子を窺った。
「(どうしよう、フリックさん怒ってるかな……?)」
恋する乙女にとって、些細なことで嫌われてしまうのは大きな痛手だ。
ニナはこそこそと耳を澄ませて盗み見た。
そこには、疲れた様子のリオウ、ナナミ、シーナ、フリックがいた。
(ムクムクも少し疲れたように見えるのが面白い)
ナナミは辺りをキョロキョロ見渡すと、安心したように声を上げた。
「あー、良かった! ニナちゃんまだ来てないね」
「もう来てたらどうしようかと焦ったぜー」
「助かったな」
シーナもフリックもそれに同意し、大きく息を吐いている。
リオウも周りを見て安心したようにナナミの言葉に頷いた。
今この場に来たような会話をするナナミ、シーナ、フリックの様子に、ニナは少し安堵した。
「(良かったー。みんな遅刻して来たんだ。だったら私も今から行って大丈夫かな)」
「やっぱ森の村まで往復するってのは無謀だったんじゃないのか?」
「(え!?)」
その場に立ち上がりかけていたニナは、再び身体を丸めてこっそりとみんなを見つめた。
さっきの言葉はどういうことだろう?
慕うフリックの言葉だったというのに、すぐに理解できなかった。
「えーだって最初は交易するだけで終わると思ってたんだもん」
「まさかあんな野性的で素敵な女性に出会えるとはね」
「お前はいっつもそれだな」
フリックは呆れたようにシーナを見た。
しかしめげないシーナはリオウの肩を組んで笑顔で顔を覗き込む。
「な、リオウもそう思うだろ?」
「……」
「ほら、リオウも呆れてるじゃない!」
バッとシーナからリオウを取り戻したナナミが噛みつくように言った。
(リオウに何するのよ!とその表情は言っている)
「いやいや、今のは『そうだよね、シーナさんvv』って思ってた顔だろ!」
「……(ふるふる)」
リオウはナナミの腕の中で首を振った。
その意味は(誰が見ても)否定。
「はは、残念だったな、シーナ」
ニナは4人の会話を聞いてショックを受けた。
彼らはニナ一人を置いて森の村まで行っていたらしい。
「(何よ何よ、どういうこと!? みんな用事があるから解散って言ってたのに!)」
自分に嘘をついてまで、彼らだけで出かけていたのだ。
沸々と怒りと悲しみの入り交じった思いが沸き上がってくるのを感じた。
じんわりのその目に熱いものが浮かび上がってくるのを、止められない。
もう聞きたくない、とばかりにニナは顔を下げた。
(私は嘘をついて置いて行かれるくらい、彼らに―フリックさんに―嫌われているの?)
「ニナちゃん、元気になってるといいね、リオウ」
「(……え?)」
不意に聞こえてきた声に、ニナは驚いて顔を上げた。
「……うん。最近、元気無かったから」
聞こえてきたのは、珍しい声。
まだ数回しか聞いたことのないリオウの声だった。
そのことにもその言葉の内容にも驚いたニナは、せり上がってきていた熱いものをからりと乾かせてリオウを凝視した。
「(どういう……)」
「寂しそうに、してたから……」
リオウは悲しげに瞳を揺らすと、そっと俯いた。
はらりと揺れる髪がそっと顔にかかり、その影を色濃くする。
夕日に照らされた顔には、紛うことのない憂いの表情が浮かんでいた。
「リオウ……大丈夫、大丈夫だよ!」
「そうさ、リオウ。久しぶりに故郷に帰ってこれて、ニナも元気になってるはずだ」
「そうそう。それより、リオウがそんな顔してたらニナちゃんがビックリするぜ?」
3人の言葉を聞いて、リオウは顔を上げるとそっと目元だけで微笑んだ。
それは無言の感謝の声であり、それをちゃんと受け取ることが出来る3人も安心したように笑った。
そこまで聞いて、鈍くない(むしろ聡い)ニナはすぐに気づいた。
これは『ムクムクの里帰り』ではなく、『ニナの里帰り』だったのだと。
ニナに気を使ってそのことは言わなかったが、最初から目的はそれだったのだ。
「(そうか、私……寂しかったんだ……)」
最近、どうも夜に寝付けなくて、寝不足だった。
それも日中に運動すれば治るかと思って、いつも以上にフリックを追いかけて話しかけていた。
休む間もなく女の子たちとお喋りをしたり、一緒に運動したり、エミリアにお願いして勉強を教えてもらったり、毎日を忙しく過ごしていた。
それは寂しさを感じないようにするための、精一杯の自己防衛だった。
でも、そんなこと自分でも今言われるまで気づけなかった。
どうしてそれがリオウに分かったんだろう?
「それにしてもよく分かったな、ニナが寂しそうにしてるなんて」
ニナの心を代弁するように、感心した様子のフリックがリオウに言った。
いつも追いかけ回されているフリックにすれば、彼女が『悲しそう』だと言われても驚きしか浮かんでこなかったのだが。
(でもよく考えたらすぐ分かることだったかもしれない。だって彼女はまだ少女なのだ、故郷を離れて寂しく思うのも無理はない)
「えっへん! リオウはみんなのことよく見てるから、分かっちゃうんだよ!」
「なんでそこでナナミが胸を張るんだ」
「リオウ、凄いなー」
「……大切な仲間だから」
リオウは小さな声でそう言った。
照れているのか少し顔が赤い(夕日に紛れて分かりにくいが、そんなの関係ないとばかりに気づく者しかいない)
俯くリオウの頭に、フリックは穏やかな笑みを浮かべながら手を置いた。
ナナミとシーナも笑みを浮かべその光景を見ると、今度は別の話をし始めた。
グリンヒルからの帰り道。
少し森を歩いてから帰ることになり、一行は再び森の中を歩いていた。
あの後ニナはすぐに立ち上がり宿屋の裏手から大通りに出ると、走ってみんなの所に行った。
「ごめーん!! ちょっと友だちと話が盛り上がっちゃってー!」そう言って笑った自分を見て、他の4人が安心した笑顔を浮かべたことは見ないフリをした。
そして歩き出した一行は「せっかくだからもうちょっと歩こうよ!」と言うナナミの言葉通り散歩を兼ねて夕日に照らされる森の中を歩いていた。
(本当は森の村まで行って帰ってきて、たくさん歩いて疲れているはずなのに)
(少しでも長くグリンヒルの近くにいるために、元気なふりをして)
ニナはほっこりと心が温かくなるのを感じながら、やっぱり行きと同じくフリックを質問攻めにしていた。
しかしそんな穏やかな雰囲気が漂っていようとも現れるのが魔物というヤツである。
「あ、フリックさん危ない!!」
戦闘中に珍しく膝をついたフリックの前に、後方からニナが飛び出した。
ニナは魔物の一撃を受けて軽く吹っ飛ぶと、元居た場所の近くに転がった。
「――、ニナ!!」
「……」
リオウは豪速でトンファーを振りかぶると、目の前の魔物を瞬殺した。
チラリと視線を向けると、シーナとナナミが『こっちは任せろ!』と力強い視線を投げ返してきた。
(ムクムクも気合いを入れて飛び上がっていった)
フリックは申し訳なさそうな表情をして、ナナミからおくすりを受け取っている。
彼の目の前の敵にはシーナが対峙しているので安心だろう。
「い、たたたたた……いったーい」
ニナは腰に手を当てながら、座り込んで頭を振った。
落ちた衝撃で腰は打ったし、宙を舞ったせいで少し目眩がする。
しかし戦闘中だから早く体勢を立て直さないといけない。
必死に体に力を入れていると、フッと目の前に影が出来た。
「?」
「――?」
そうして差し出された手は、望む大きくて頼りがいのありそうな手ではなく、それよりも少し小さくて華奢な手。
動かぬ表情の中でも瞳を心配そうに輝かせてニナを覗き込んでいるのはリオウだった。
(ああ。今のはきっと『大丈夫?』って言っていたんだ)
ニナは初めてリオウの目を見た気分になりながら、そこから聞こえてくる『声』を感じた。
「ありがとう、リオウくん」
笑ってその手を取ると、リオウも目が笑ったような気がした。
リオウはその華奢に見える手に力を込め、ひょいっとニナを立ち上がらせてしまった。
(その手がしっかりしていて、ああやっぱり男の子なんだって気づいた)
「ニナちゃん! 大丈夫!?」
「大丈夫だった、ニナちゃん?」
戦闘を終わらせたナナミとシーナが心配そうにこちらに向かって来て声をかけた。
(そしてそれに合わせるようにリオウがそっと後方に下がった)
「ニナ、さっきはすまなかったな。ありがとう」
後から来たフリックも心配そうにニナを覗き込み、感謝と共に笑った。
その大きな手にはおくすりが乗っている。
「ほら、使ってくれ」
「あ、はい。ありがとう、フリックさん」
珍しく戸惑ったようにお礼をいっておくすりを受け取ったニナは、フリックの手を眺めていた。
この手に支えて欲しいと思った。
この手が私をあの時救ってくれた。
この手が私をあの場所から引き上げてくれた。
そして離れていったリオウの手を見つめた。
先ほど差し出された手は、望む大きくて頼りがいのありそうな手ではなく、それよりも少し小さくて華奢な手。
それでも……
彼の差し伸べた手を受け取った瞬間、世界は開けた
(見ようとしなかったものに気づかされ見えなくてもそれは確かに在るのだと)
『大切な仲間』
その言葉を聞いて、ニナは胸が熱くなるのを感じた。
大きくなった同盟軍の中で、自分の出来ることなんて些細なことだ。
周りには凄い人がたくさんいて、何か手伝いたいと思っている自分の思いはたいした意味がないのではないかと思った。
何もしないのは嫌で、何か役に立ちたくてこうして同盟軍にいるのに。
(なのに出来ることは少なくて)
それはグリンヒルが占領された時と同じくらい(いや、それ以上に)大きな焦燥となってニナの心にのし掛かっていた。
(寂しいなんて感じないように、焦りに押しつぶされないように、毎日を必死に過ごして)
でも、彼は……リオウはそんな自分でも『大切な仲間』だと言ってくれた。
自分自身気づきもしなかった故郷への想いすら見つけて、叶えてくれた。
やっぱり私はここにいてよかった。
小さな努力でも、少しでも彼の力になれるなら、それでもいいと思った。
(それが人に気づかれぬものでも、私の精一杯の努力を大事にしたい)
だって、私たちは『大切な仲間』だから。
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